ゆる)” の例文
新字:
それがかへつて未だ曾て耳にしたためしのない美しい樂音を響かせて、その音調のあやは春の野に立つ遊絲かげろふの微かな影を心の空にゆるがすのである。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
天女てんによ御空みそらふがごと美音びおんは、こゝろなき壇上だんじやうはなさへさへゆるぐばかりで、滿塲まんじやうはあつとつたまゝみづつたやうしづまりかへつた。
わたしあがつて、をりからはこばれて金盥かなだらひのあたゝな湯氣ゆげなかに、くさからゆるちたやうななみだしづかにおとしたのであつた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
すぎ大木たいぼく西にしたふしたのでづしんとそこらをおそろしくゆるがしておしなにはよこたはつた。えだくぢけてそのさきにはつちをさくつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
されど汝若し知らば我等に告げよ、山今かの如くゆるげるは何故ぞや、またそのるゝ据に至るまで衆ひとしく叫ぶと見えしは何故ぞや。 三四—三六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たゞことわつてくが、そのゆる篝火かゞりびごとき、大紅玉だいこうぎよくいだいたのをんなは、四時しじともに殺生禁斷せつしやうきんだんのはずである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言ひつゝ瀧口が顏、ぬすむが如く見上ぐれば、默然として眼を閉ぢしまゝ、衣の袖のゆるぎも見せず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その小さな木造の建物をゆるがす深い唸りは、オルガンの音ではなくて、製粉機の響きであつた。
水車のある教会 (旧字旧仮名) / オー・ヘンリー(著)
凾嶺全山をゆるがすほどの聲がして、ガラツ八の八五郎、疾風しつぷうの如く飛んで來たのです。
荒野あれのの吐息まじり、夕されば風そよ高木かうぼくゆるぎも加はるそのこゑよりも繁きは
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
あいちやんはそれが自分じぶんうさぎだとつて、おくをもゆるがさんばかりにガタ/\ふるあがりました、自分じぶんうさぎよりもほとんど千倍せんばいいまおほきくなつてるのだからなにおそれる理由わけはないのですが
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
是に於てか淑女等は輪のほとりに歸り、グリフォネはその羽の一をもゆるがさずしてたふとき荷をうごかし 二五—二七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
二階にかい體裁ていさいよき三個みつつへやその一室ひとままどに、しろ窓掛まどかけかぜゆるいでところは、たしか大佐たいさ居間ゐまおもはるゝ。
今まで眼を閉ぢて默然もくねんたりし瀧口は、やうやくかうべもたげて父が顏を見上げしが、兩眼はうるほひて無限の情をたゝへ、滿面に顯せる悲哀のうちゆるがぬ決心を示し、おもむろに兩手をつきて
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その林右衞門が死んで、後には何萬兩といふ身上が殘つたが、番頭の七兵衞といふのがしたゝか者で、世間から惡七兵衞とか何んとか言はれながら、貧乏ゆるぎもさせずに商賣を續けてゐる——
ふといたまど横向よこむきにつて、ほつれ白々しろ/″\としたゆびくと、あのはなつよかをつた、とおもふとみどり黒髮くろかみに、おなしろはな小枝こえだきたるうてな湧立わきたしべゆるがして、びんづらしてたのである。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
是に於て魂足をこと/″\くゆるがせ、さて歎きつゝ聲憂はしく我にいふ、さらば我に何を求むるや 六四—六六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今宵こよひもおなじやうに、しろ窓掛まどかけゆるぐほとりに倚子ゐすならべたとき櫻木大佐さくらぎたいさ眞面目まじめわたくしむかつて。
我につきて來れ、斯民このたみをその言ふにまかせよ、風吹くともいただきゆるがざるつよきやぐらの如く立つべし 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)