つら)” の例文
代助は此細君をつらまへて、かつて奥さんと云つた事がない。何時いつでも三千代みちよさん/\と、結婚しない前の通りに、本名ほんみようんでゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
仙「えお侍、訳は知りませんがこれは仲の幇間で、一人は通り掛りの者だ、よええ町人をつらめえて御詫ごたくを云わなくッても宜かろう、エお侍」
もうつらまったが、総身にべっとり返り血を浴びてな、金もちゃんと持っていたそうだよ。
わたくしやうなものには到底たうていさとりひらかれさうにりません」とおもめたやう宜道ぎだうつらまへてつた。それはかへ二三日にさんちまへことであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
番新「花魁見なましよ、長次はんがまた正孝はんをつらまえてコソ/\話をしてえるよ、横着ものだよ」
「甘木さんですか、甘木さんもあんな病人につらまっちゃ災難ですな」「へえ」と細君は挨拶のしようもないと見えて簡単な答えをする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の結婚が家中うちじゅうの問題になったのもつまりはそのためであった。お重はこの問題についてよくお貞さんをつらまえて離さなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四つ角まで出ると交番の所に人が大勢立っていた。御作さんは旦那の廻套まわし羽根はねつらまえて、伸び上がりながら、群集ぐんじゅの中をのぞき込んだ。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
町さえはずれれば、どこで追いついても構わないが、なるべくなら、人家のない、杉並木でつらまえてやろうと、見えがくれについて来た。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何でも彼がその次に有楽座へ行った時、案内者をつらまえて、何とかかんとかした上に、だいぶ込み入った手数てかずをかけたんだそうだ
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時には相手が笑つてゐて、何時いつ迄も要領を得ない事がある。与次郎はこれひとあらずと号してゐる。或時あるとき便所からた教授をつらまへた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助はこの細君をつらまえて、かつて奥さんと云った事がない。何時でも三千代さん三千代さんと、結婚しない前の通りに、本名を呼んでいる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただこの前すすめられた時には、何らの目的物がなかったのに、今度はちゃんと肝心かんじんの当人をつらまえていたので、私はなお困らせられたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は誠太郎をつらまえて、いつもの様に調戯からかい出した。誠太郎はこの間代助が歌舞伎座でした欠伸あくびの数を知っていた。そうして
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「私のようなものにはとうていさとりは開かれそうに有りません」と思いつめたように宜道をつらまえて云った。それは帰る二三日にさんち前の事であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで男と女が洋食屋へ入ってから以後の事だけをごく淡泊あっさり話して見ると、うちを出る時自分が心配していた通り、少しもつらまえどころのない
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助は誠太郎をつらまえて、いつもの様に調戯からかした。誠太郎は此間このあひだ代助が歌舞伎でした欠伸あくびかずを知つてゐた。さうして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分は三沢が便所へ行った留守に、看護婦をつらまえて、「三沢はああ云ってるが、僕のいないとき、あの女の室へ行って話でもするんじゃないか」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
常でさえ宗近君につらまると何となく不安である。宗近君と藤尾ふじおの関係を知るような知らぬようなに、自分と藤尾との関係は成り立ってしまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
首を出して、浮世だなと気がつけばすぐ奥の院へ引き返す。引き返す前に、つらまえた人が勝ちである。捕まえそこなえば生涯しょうがい甲野さんを知る事は出来ぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爺さんなんて物覚えのわるいものだ。一人が博物をつらまえて近頃ちかごろこないなのが、でけましたぜ、弾いてみまほうか。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけには父母ふぼ未生みしやう以前いぜんといふ意味いみがよくわからなかつたが、なにしろ自分じぶんふものは必竟ひつきやう何物なにものだか、その本體ほんたいつらまへてろと意味いみだらうと判斷はんだんした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助には父母未生以前という意味がよく分らなかったが、何しろ自分と云うものは必竟ひっきょう何物だか、その本体をつらまえて見ろと云う意味だろうと判断した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「事実とは何だ。おれの頭の中にある事実が、お前のような教養に乏しい女につらまえられると思うのか。馬鹿め」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで廊下で熊本出の同級生をつらまへて、昇之助とは何だと聞いたら、寄席へ出る娘義太夫だと教へて呉れた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
支那の小僧が跣足はだしいて来た。番頭をつらまえてしきりにこそこそ何か云っている。番頭に聞くと、ええなにと曖昧あいまいな答をする。また聞き返したらこう云った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで仕方がないから、こっちも向うの筆法を用いてつらまえられないで、手の付けようのない返報をしなくてはならなくなる。そうなっては江戸えどっ子も駄目だめだ。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
股野はその間をまわって、おい誰さんはいないかねと、しきりに技師を探していた。技師は股野につらまるほどひまでなかったと見えて、とうとう見当らなかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玄関で、取次の婆さんをつらまえて、宿へ蟇口がまぐちを忘れて来たから、一寸ちょっと二十銭貸してくれと云った所などは、どうしても学校時代の平岡を思い出さずにはいられない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
玄関で、取次とりつぎの婆さんをつらまへて、宿やど蟇口がまぐちを忘れてたから、一寸ちよつと二十銭借してくれと云つた所などは、どうしても学校時代の平岡を思ひ出さずにはゐられない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つぼんだ薔薇を一面に開かせればそれがおのずからなる彼の未来である。未来の節穴を得意のくだからながめると、薔薇はもう開いている。手を出せばつらまえられそうである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余の質問を受けるや否やどこかへ消えて無くなったが、やがて帰って来て、高麗城子こまじょうしと云うんだそうですと教えてくれた。土人をつらまえて聞いて来たのだそうである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中折の男は困ったなと云いながら、外套がいとうえりを立てて洋袴ズボンすそを返した。敬太郎は洋杖を突きながら立ち上った。男は雨の中へ出ると、すぐ寄って来る俥引くるまひきつらまえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
来年になればもうシキを出たって構わない、七年目だからな。しかし出ない、また出られない。制裁の手にはつらまらないが、出ない。こうなりゃ出たって仕方がない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし二日っても三日経っても、私はそれをつらまえる事ができません。私はKのいない時、またお嬢さんの留守な折を待って、奥さんに談判を開こうと考えたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御肴おんさかなうちから飛び出した若い男をつらまえて、第二世の自分であるごとく、全く同じ調子と、同じ態度と、同じ言語と、もっと立ち入って云えば、同じ熱心の程度をもって
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そればかりでなく、松本は田口をつらまえて、役には立つが頭のなっていない男だとののしった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かうなると、つむぎの羽織では何だかやすつぽい受附の気がする。制服をればかつたと思つた。其うち会員が段々る。与次郎はひとつらまへて屹度きつと何とかはなしをする。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僕は先刻あすこにいる女達をつらまえて、ありゃ芸者かって君に聴いてしかられたね。君は貴婦人に対する礼義を心得ない野人として僕を叱ったんだろう。よろしい僕は野人だ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神田川では、満洲へ旅行した話やら、露西亜人につらまってろうへぶち込まれた話をしていた。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本来ならあの女をつらまえて日記中の女と同人か別物かをあきらかにした上で遺伝の研究を初めるのが順当であるが、本人の居所さえたしかならぬただいまでは、この順序を逆にして
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし愛という不可思議なものに両端りょうはじがあって、その高いはじには神聖な感じが働いて、低い端には性欲せいよくが動いているとすれば、私の愛はたしかにその高い極点をつらまえたものです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども考える方向も、考える問題の実質も、ほとんどつらまえようのない空漠くうばくなものであった。彼は考えながら、自分は非常に迂濶うかつ真似まねをしているのではなかろうかとうたがった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼には澄ましてそこを通り抜けるだけの腹がなかった。それでいて当らずさわらず話をわきへ流すくらいの技巧は心得ていた。彼は小林につらまらなければならなかった。彼は云った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれかんがへた。けれどもかんがへる方向はうかうも、かんがへる問題もんだい實質じつしつも、ほとんどつらまえやうのない空漠くうばくなものであつた。かれかんがへながら、自分じぶん非常ひじやう迂濶うくわつ眞似まねをしてゐるのではなからうかとうたがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
心配するから迷信婆々ばばあさ、あなたが御移りにならんと御嬢様の御病気がはやく御全快になりませんから是非この月じゅうに方角のいい所へ御転宅遊ばせと云う訳さ。飛んだ預言者よげんしゃつらまって、大迷惑だ
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうなると自然派は浪漫派の出店みたようなものになってしまいます。イブセンをつらまえて自然派だと云う人があります。どうもイブセンとモーパサンとはいっしょにならないように思われます。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし朝になって授業が面白く出来ないのは昨日と変る事はなかった。三日目に教員の一人をつらまえて君白山方面に美人がいるかなと尋ねて見たら、うむ沢山いる、あっちへ引越したまえと云った。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある時自分は、船の男をつらまえて聞いて見た。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)