指図さしず)” の例文
旧字:指圖
そら綿貫のいうたことかて一から十まで信用出来でけしませんし、あの着物取られた晩でもたしかに綿貫が指図さしずしたのんと違うかしらん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なんでも、あのあたりだよ。」と、あに政二まさじくんは指図さしずをしておいて、自分じぶんは、またおともだちとほかのたま野球やきゅうをつづけていました。
草を分けて (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まいりましょう——あなたのお指図さしずなら、どこへでも」どこ、華厳けごんの滝までもという歌を——思わず——口もとまで思い浮べた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
夫人の法事についても順序立てて人へお命じになることは悲しみに疲れておできにならない院に代わって大将がすべて指図さしずをしていた。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ところが昌仙さま、あまり思うつぼでもありませんぜ。というなあ、秀吉ひでよし指図さしずで、瀬田せたまで迎えにでやがった軍勢があるんで」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の衣類のがらの見立てなども父がしたようであったし、肩揚かたあげや腰揚こしあげのことまでも父が自分で指図さしずして母にはりを採らせたようであった。
「それでもやはり、あなたのような老練兵が、初めて戦いに臨んだばかりの新兵どもに指図さしずされるのは、いやなことだとは思いませんか。」
あとのことは、泰軒先生のお指図さしずを受けて、よしなにするがよい。コレ、チョビ安よ。お美夜坊の母親は、この人でなしだったのじゃよ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何ひとつ指図さしずをせず、また、塾生たちから何かたずねられても、「ご随意ずいいに」とか、「適当に考えてやってくれたまえ」とか
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
答『人間界にんげんかい儀式ぎしきとはちがうが、矢張やは夫婦めおとになるときにはまった礼儀れいぎがあり、そしてうえ竜神様りゅうじんさまからのお指図さしずける……。』
けれども、ひとの好ききらいは格別のものであるから、私は、はっきり具体的には指図さしずできなかった。私は予言者ではない。
律子と貞子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人夫の監督が何か指図さしずするとすぐ二人の男が駆けてくれた、そして私は助けられて、宿である処の江戸三の座敷へ運ばれた
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
消防隊員は総出そうででもって、穴の中にしきりにセメントの溶かしたものをぎいれている。もちろんそれは蟹寺博士の指図さしずによるものであった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
孝「へい手前は谷中新幡随院の良石和尚よりのお指図さしずで参りましたものでございますが、先生に身の上の判断をしていたゞきとうございます」
この男が、いろいろ指図さしずをしているが、他はまるで従者のように、素直に云うことをきいている。分配が終ると、みなそれぞれの方角に歩き出した。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのうち爺やが二三人の見なれない男たちに指図さしずしながら、そこらの植木を引っこ抜かせているのが見えて来ました。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
持ち返って手入れせよと、素人の豊後守から指図さしずをされ融川はさっと顔色を変えた。き立つ心を抑えようともせず
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また手伝ったり指図さしずをしたりして、どこの家でも正月がくるまでに、二つか三つかの新らしい手毬ができていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「それはおれに任せて置けばいいのだ。君達は、黙って俺の指図さしずに従っていればいいのだ。二三日の内に、俺のすばらしい目論見もくろみが、君達にも分るだろう」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やしろをお作りになって、今度のご征伐せいばつについていちいちお指図さしずをしてくださった、底筒男命そこつつおのみこと以下三人の神さまを、この国の氏神うじがみさまにおまつりになった後
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
私は一個の手間取りでありますから、高村家の後事こうじについて一家の内事にまで指図さしずをするというわけには参らず、甚だ工合の悪い立場に立ったのであった。
老人があご指図さしずをすると、女は黙ってうなずきながら丹治の前へその茶碗を持って来た。丹治はちょと俯向うつむいてから急いでその茶碗をりあげて一息に飲んだ。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
せわしく指図さしずをしている母堂の声や、それに答える女中たちの声、あわただしく走り廻る足音や、何か重いものをドスンと落す音、にぎやかな笑い声やシュウ
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
中庭のすみでは、二つの窓のあいだに一本の綱が張られ、洗濯物がもう干してあった。一人の男がその下に立ち、一言二言声をかけては仕事を指図さしずしていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
今まで茫然ぼうぜんと自失していた私に、ここに立って、この道からこう行かなければならないと指図さしずをしてくれたものは実にこの自我本位の四字なのであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
庸三はドクトルの指図さしずで、葉子の脇腹わきばらひざでしかと押えつける一方、両手に力をこめて、ももを締めつけるようにしていたが、メスが腫物をえぐりはじめると
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もしや本当に富田氏の指図さしずで来たかもしれぬと思って、一応富田氏へ電話をかけて訪ねることに致しました。
塵埃は語る (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ソレカラ又家に客を招く時に、大根や牛蒡ごぼうを煮てくわせると云うことについて、必要があるから母の指図さしずに従て働て居た。所で私は客などがウヂャ/\酒をむのは大嫌い。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
主人が指図さしずして雇人が抱き起して見ると凄い、咽喉笛のどぶえを掻き切ったのは堺出来さかいできのよく切れる剃刀かみそりで、それをせこけた右の手先でしっかり握って、左の手を持ち添えて
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あかく充血した眼で客の方を見て、「娘の親というものが気に入りません……これは、まあ、私の邪推かもしれませんが、どうも親が背後うしろに居て、娘の指図さしずをするらしい……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もう家康は駿府すんぷ隠居いんきょしていたので、京都きょうとに着いた使は、最初に江戸えどへ往けという指図さしずを受けた。使はうるう四月二十四日に江戸の本誓寺ほんせいじに着いた。五月六日に将軍に謁見えっけんした。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
なぜというて、おまえは、臨終の長老のお指図さしずで、世間へ乗り出して行かねばならんからだ。
そして摂津には構わず、与力の席や白洲の人配りなど、こまかいことに詳しい指図さしずをした。
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれは小女に指図さしずして、煙草盆と茶とを運ばせると、半七は表を見かえって声をかけた。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大勢がどやどや駈寄って、口々に荒い言葉で指図さしずし合って、燃えついている障子を屋根から外へほうりだしたり、バケツや手桶ておけ水甕みずがめの水をすくってきたりした。父の目も血走った。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
ひとつ、ぼくが指図さしずをすることにします。そうすれば、すこしはよくなるでしょう
潜水夫もぐりは私達の立っている近くの岸壁まで来て、暫く何か喬介から指図さしずを受けていたが、やがて二人の職工を呼び寄せると、気管ホースやポンプの仕度したくを手伝わせ、間もなく岸壁に梯子を下げて
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
さうしては貴様の体に一生のきずが附く事だから、思反おもひかへして主人の指図さしずに従へと、中に人まで入れて、だ未だ申してくれましたのを、何処どこまでも私は剛情を張通して了つたので御座います
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
坑内に知らせに行くもの、指図さしずするもの、衛兵も、もう手がつけられなかった。孫軍曹の噂を知っている坑夫達は、彼の保護に安心して、続々坑内から出て来ると、新しい工事に加わった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
世の中に神秘の力があるものならその前にひれ伏そう。もし偶然であるとしても、自分はその偶然を信頼しよう。どうか、これらの書物のなかで、自分の師とするに足りる書物を指図さしずして欲しい。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
求むべきを求めてのちの処刑ならば、よし、後日あの菅笠が、信祝殿の御指図さしずによって、造られたものと判りましたにせよ、越前が、うまく一杯かかっただけにて、その不明な点に責任はあろうとも
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「伯母さんはなにもしなくてもいいからただ指図さしずだけしてください」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
誰かが下から指図さしずしようとした時、岸本監督は低い声で押さえた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
籌子夫人は幾度か上京し、仕度万端、みな籌子夫人の指図さしずだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もともと、友田からの話で、指図さしずどおりにしたんじゃけ、友田がすっかり勘定してくれるもんと思うとったら——仲裁をしてやっただけでも、ありがとう思え。飲み食いの跡始末まで、知ったことか。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
三人の助手じょしゅらしい人たちに夢中むちゅうでいろいろ指図さしずをしていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「お前から、指図さしずなんかされなくったっていいよ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
大声で指図さしずをして、私の屍体をみんな細かに刻み
アイヌ神謡集 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
無常の人生が悲しまれて、心細くなった源氏は参内もせずに引きこもっていて、御息所の葬儀についての指図さしずを下しなどしていた。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ふん、そらそうに違いないねけど、昨日の電話も男の声やったし、きっとあの綿貫いう人なあ、あの人が蔭で指図さしずしたのんにきまってるわ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)