かたじ)” の例文
かたじけのうござる、それでこそ本望……つきましてはもう一つ、お願いいたしたきは拙者に代わり、不運の百姓の一揆の指揮を……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ああ、かたじけのうございます。匿まって下さるのだったら、なんで庵主さまのおいいつけに背きましょうか、どうも有難うございます」
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かくれば重四郎はイヤ來たなとは思へども何喰なにくはぬ顏にて是は/\めづらしく御揃ひでよくこそ御入來かたじけなしと挨拶あいさつなすにやがて掃部は聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
驚きながらもさてはまた投身の者と間違えられしならんと思えば「御深切かたじけなし。されど我輩は自死など企つる者にあらず、放したまえ」
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
この新穀の香は忘れ難いというのは、すなわち辛苦がようやく実を結んだ、うれしさかたじけなさを語るものだったらしい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「……そこまで案じて頂いたことはかたじけないと思います然し、あなたが老職の御息女とわかった以上は、このまま此処ここにいて頂くわけにはまいらない」
山だち問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わたくしはかたじけなさと心づよさに、お手をじっと握りしめたまま、しばしは物も申せなかったことでございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
心のうちでは有難いとも、かたじけない可愛いとも思ったが、一旦「勘当した」と明言したことに対して、彼は自分の方から一本の手紙も出すことは出来ない。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
修「うか……おゝ能く出て来たなア、堅いから時々訪ずれてくれて誠にかたじけない……さア此方こっちへお出で」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『心にかけてかたじけない。だが、軍費は当方において都合ができた。本日のところは、持ち帰って貰おう』
増上寺物語 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
さりながら徃日いつぞや御詞おんことばいつはりなりしか、そちさへに見捨みすてずば生涯しやうがい幸福かうふくぞと、かたじけなきおほうけたまはりてよりいとゞくるこゝろとめがたく、くちにするは今日けふはじめてなれど
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ようございます、そういうことになりゃア、骨が舎利しゃりになってもやっつけます。いっそ、かたじけねえ」
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
やれ有難やかたじけなや。此の上はどんなつらい奉公も、苦しい勤めも辛抱いたします。〽忘れまいぞやあのことを。〽忘れまいぞやあのことを。〽忘れまいぞやあのことを
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「わははは、人足を狩り出して御見送り下さるとはかたじけない。それもまた近頃ずんと面白かろうぞ」
かたじけない、もったいないという心持のあるものは、物を扱うても粗末にせず、人に対しては丁寧であり、自分自身も満足であるゆえ、神にも人にも愛されることとなる。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
「ほ。……いやかたじけない。早速の快諾に、申しては失礼だが、利にさとい商人たるお身らが、どうしてそう一言のもとに、多くの馬匹ばひつを無料でそれがしへ引渡すといわれたか」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あながちにおのが見証をもつて世に吹聴ふいちやうせんとにはあらず、唯だ吾が鈍根劣機を以てして、ほ且つこの稀有けうの心証にあづかることを得たるうれしさ、かたじけなさのおさへあへざると、且つは世の
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
これはこれはようこそ、まことにはや、御親切さまの至りでございやすで、はあ、未熟なわしらが芸事を、それほどに聴いておくんなさる御親切、何ともはや、かたじけねえでございます。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
面白うもない歌留多かるたをうつてゐてかし、今からはなれまい、旦那殿だんなどの大津祭おほつまつりかれて留守るすぢやほどに、泊つてなりと行きやと、兄弟のかたじけなさはなんの遠慮もなく一所に寝るを
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これほど労力を節減できる時代に生れてもそのかたじけなさが頭にこたえなかったり
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ご好意はかたじけない、ありがたくお受け致す、さりながら——」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「身に沁みてのお言葉、かたじけのうござる」
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かたじけない、んだ御造作にあずかる」
かたじけのう御座りまする」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「先生、かたじけのう存じます。先生のお出でがございませんでしたなら、私は危くこの場において生命いのちを落とすところでございました」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
致す事なかれ無禮ぶれいは許すそばちかく參るべし我はかたじけなくも當將軍家吉宗公よしむねこう御落胤ごらくいんなり當山中に赤川大膳といふ器量きりやうすぐれの浪人の有るよしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたくしはかたじけなさと心づよさに、お手をじつと握りしめたまま、しばしは物も申せなかつたことでございました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
あなとうとや観世音菩薩ぼさつかたじけなや勢至菩薩。筏のへさきに立って、早や招いていらるるぞ。やっしっし、やっしっし、それ筏は着くぞ。あのたえなる響は極楽鳥の鳴き声じゃな。
或る秋の紫式部 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「ほほう、おいでじゃな。何かは知らぬが退屈払いして下さるとはかたじけない。しかしじゃ。十箭とうやのうち五本も射はずすナマリ武士が、人がましゅう鯉口切るとは片腹痛かろうぞ」
……御令息より拙者むすめ御所望のお話しかたじけなく面目至極には御座候え共、むすめ儀はかねて御家中村松銀之丞殿と縁組み仕るべき約束にて、にわかに御意には添い兼ね申し候。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
わしは心配して居ったが、まさか手前に、はアッはア………斯様な荒々しい事をなさろうとは思わなかった………しかしそれ程までに妹を思召おぼしめして下さる御心底ごしんていはアッはア……誠にかたじけない
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とし両番りょうばんを経て相謁あいえっしてわず、空しくかえっては惆悵ちゅうちょう怏々おうおうとして云うべからざるものあり。切におもう、備や漢室の苗裔びょうえいに生れかたじけなくも皇叔に居、みだりに典郡の階に当り、職将軍の列にかかわる。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これは、かたじけのう存ずるにて候」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かたじけない」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「司馬氏、千万かたじけのうござる! そこまでお運びくだされたか、まことにご任侠、幾重にもお礼! ……妹よいざ! さあ行こうぞ!」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其時そのとき越前守は平石次右衞門吉田三五郎池田大助の三人を膝元ひざもとへ進ませ申されけるは其方共そのはうども家の爲め思ひくれだんかたじけなく存るなりよつて越前が心底しんてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
枝を縫って学園の庭を蝶や鳥のように遊びほうけられたものだと、先ずそのことが先に胸を突き、有難くかたじけなく、しかし、このむつびももうこの先そう永いこともあるまい。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貴方はなんたるお方かなア、大金を人に恵むに板の間へ手を突いて、失礼の段は詫ると云う、誠に千万かたじけのうござる、只今の身の上では一両の金でも貸人かしてのない尾羽おは打枯うちからした庄左衞門に
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「身に余るお言葉、かたじけのう存じまする」老人は平伏しながら泣いた。「おすこやかに御成人あそばされめでたく——御世継ぎとして御帰館あらせられ、わたくしども一同、祝着に存じ奉りまする」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
歩く浪人やからにろくな腕の者はござりませぬ。殊に多寡たかが小藩の家中を怖れたかにもなって出石藩の聞こえも如何と存じますゆえ、まず今日の試合は拙者めに万事お任せ下さればかたじけのう存じまする
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「左様か、かたじけない」
「ご芳志かたじけのう存じます。ではお言葉に従いまして、立ち返ることにいたしましょう。つきましてはきっとお紅殿を……」
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほほう、そりゃかたじけない。しばらく酒も飲まんな。折角の酒を何もさかながのうては。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたくしは貴方を斬る役でもなければ縛って連れてく役でも無い、唯山三郎の云う事を聞いて改心して下さればわたくしに於ても此の上なくかたじけないことで、ともに喜ばしい訳で、何うか改心して下さい
いや、格太郎のことならば、御同情はかたじけないが、もう何事も、仰言ゃってくださるな。むしろ、草雲は欣んでおる。——これで一人の朝敵が減った! この絵を描き上げたら、一杯飲みましょう。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何んとお礼を申してよいやら、まこと今回は伊豆守殿には、分外のご厚情にあずかりまして、かたじけない儀にござります」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小「はい新年で誠に目出度い、旧臘きゅうろうはまた相変らず歳暮を自宅やどしもの者までへ心附けくれられて、誠に有難い、また相かわらず重三郎を其の方の代としての年頭で、年玉ねんぎょくの品々をかたじけのうござる」
「これは思いがけないご助勢下され、かたじけのう存じまする」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……それにこのようにご親切に、お屋敷へさえお連れ下され、手厚い介抱を受けまして、いよいよかたじけなく存じます
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丈助誠にかたじけない、旧来居った家来共も皆いとまを取って別れ/\になれば、わしが此処にることを知って居るものも有ろうけれども、一人も訪ねてくれる者も無いに引替え、手前は新参でありながら