むしろ)” の例文
下谷したや團子坂だんござか出店でみせなり。なつ屋根やねうへはしらて、むしろきてきやくせうず。時々とき/″\夕立ゆふだち蕎麥そばさらはる、とおまけをはねば不思議ふしぎにならず。
神楽坂七不思議 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
九日ここぬかはいつよりもはや起出おきいでて、草の屋の五八むしろをはらひ、黄菊しら菊二枝三枝小瓶こがめし、五九ふくろをかたぶけて酒飯しゆはんまうけをす。老母云ふ。
われはさきの夜のむしろにて、おん身の舟人の不幸を歌ひ給ふを聞き、おん身の聲を聞き知りて、直ちにおん身の脚下に跪きぬ。
本邦ほんぱう石器時代遺跡せききじだいいせきより出づる石輪中せきりんちうにも或は同種だうしゆのもの有らんかなわかごむしろの存在は土器どき押紋おしもん及び形状けいじやう裝飾そうしよく等に由つて充分に證明しやうめいするを得べし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
汝もし信ぜずば今夜新しい葉をむしろの下にいて、別々に臥して見よ、明朝に至り汝の榻下とうかの葉は実するも、鬼の臥所ふしどの葉はむなしかるべしと言うて別れ出た。
貴顕富豪宴游えんゆうむしろを開くそのためには。この東京に二とは下らぬ。普請の好み料理の手ぎわは一きわなるに。今日は祝いのむしろとて。四時過ぎころより入り来る馬車人力車は。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
秦の士に古物こぶつを好むものがあつた。魯の哀公のむしろを買はむがために田を売り、太王ふんを去る時のさくを買はむがために家資を傾け、舜の作る所の椀を買はむがために宅を売つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
皆之を押臥わうぐわし其上に木葉或はむしろきて臥床となす、炉をかんとするに枯木かれきほとんどなし、立木を伐倒きりたをして之をくすふ、火容易やうゐうつらず、寒気かんき空腹くうふくしのぶの困難亦甚しと云ふべし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
十七年のあいだかつてお脇をむしろにおつけ遊ばした事がなかったと申します。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
やれ/\うしてこのおそくにたおうちではみなかはりもなしかといつかはらずもてはやさるれば、はりむしろにのるやうにておくさまあつかひなさけなくじつとなみだ呑込のみこんで、はいれも時候じかうさわりも御座ござりませぬ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれその隼人の飮む時に、大鋺、面を覆ひたり。ここにむしろの下に置けるたちを取り出でて、その隼人が首を斬りたまひき。すなはち明日くるつひ、上り幸でましき。かれ其地そこに名づけてちか飛鳥あすか一八といふ。
むしろとし、日光を敷石としたるへや
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
水底みなそこへ深く入った鯉とともにその毛布けっとむしろを去って、あいに土間一ツ隔てたそれなる母屋の中二階に引越したのであった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
入り口と周壁しうへきの或る部分ぶぶんにはむしろを下げ置きしなるべく、地上ちじやうには木材をならべ、其上に席、もの獸皮じうひ木皮抔もくひなどつらねて座臥の塲所とせしなるべし。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
左内きようじてむしろをすすみ、さてしもかたらせ給ふに、富貴の道のたかき事、おのがつねにおもふ所露たがはずぞ侍る。ここにおろかなるとひ事の侍るが、ねがふはつばらにしめさせ給へ。
「五日卯時発す。三里諫早いさはや。四里矢上やかみ駅。一商家に宿す。海浜の駅にして蟹尤多し。家に入りむしろに上る。此辺より婦人老にいたるまで眉あり。此日暑甚し。晩雨あり。行程七里許。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
十七年のあひだかつてお脇をむしろにおつけ遊ばした事がなかつたと申します。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
やれ/\何うして此遲くに出て來たおうちでは皆お變りもなしかといつに替らずもてはやさるれば、針のむしろにのる樣にて奧さま扱かひ情なくじつと涕を呑込んで、はい誰れも時候の障りも御座りませぬ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
沈紋の中に又押紋をうもん畫紋ぐわもんの別有り。ぬのむしろ、編み物、紐細き棒の小口、貝殼かひがら等をけて印したる紋を押紋と云ひ、細き棒或はへらを以てゑがきたる摸樣を畫紋と云ふ。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
其のまゝき移すやうにむしろ彼方あなたへ、小さく遠くなつたやうな思ひがして、其の娘もにえの仔細も、媼の素性すじょうも、野のさまも、我が身のことさへ、夢を見たら夢に一切知れようと
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひとたすけさへなく六八世にくだりしものの田畑たばたをも、あたひやすくして六九あながちにおのがものとし、今おのれは村長むらをさとうやまはれても、むかしかりたる人のものをかへさず、礼ある人のむしろを譲れば
やれやれどうしてこの遅くに出て来たおうちでは皆お変りもなしかといつに替らずもてはやさるれば、針のむしろにのる様にて奥さま扱かひ情なくじつとなみだ呑込のみこんで、はい誰れも時候のさわりも御座りませぬ
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)