むべ)” の例文
さればわが昨日きのふ遙かに御嶽おんたけの秀絶なる姿を群山挺立ていりつうちに認めて、雀躍して路人ろじんにあやしまるゝの狂態を演じたるもまたむべならずや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
世の伝うるところの賽児の事既にはなはだ奇、修飾をらずして、一部稗史はいしたり。女仙外史の作者のりてもって筆墨をするもまたむべなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されどこの王國が民を得たるはまことの信仰によるがゆゑに、これに榮光あらしめんため、これの事を語るをりの彼に來るをむべとす。 四三—四五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
螻蟻ろうぎの一念は天へもつうずとの俚諺りげんむべなるかな大岡殿此度このたび幸手宿三五郎つまふみの申立をきかれ武州こう鎌倉屋金兵衞方へ差紙さしがみ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
始めより諷刺せんとの念を以て諷刺する者は、自ら卑野の形あり、むべなるかな、諷刺大王(スウィフト)を除くの外に、絶大の諷刺を出す者なきや。
むべなり、当時の新らしき文学を理解し、信奉する、主として若き、新進気鋭の徒は、ことごとくその方に走ったのであった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
むべなるかな、一八一五年六月十八日の騒乱の時に当たってテナルディエは、あの酒保兼盗人の仲間にはいっていた。
やがてラッパの圓太郎と謳われて一世を風靡し、昭和の今日まで圓太郎馬車の名を遺すにいたったもむべなるかな。
円太郎馬車 (新字新仮名) / 正岡容(著)
夫れ造化既に沒理想なり、作者と詩と皆沒理想になりたれば、逍遙子が沒理想の時文評論を作れるもむべなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
フエデリゴは今故郷に在り、トオルワルトゼンは猶羅馬に留れりと聞く。に後者が技術上の命脈は斯土このどに在れば、その久しくこゝに居るもまたむべなるかな。
王いまだかつて見ず、いまだかつてきかず、またいまだかつてこれを察せず。王のこれを殺す、またむべなり。ゆえにみずかかえりみて知らずんば、何によりて自ら信ぜん。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
むべなるかな、この頃明治座にての興行に、またかともいはず人波うちての大景気を見ること。今左に菊五郎が権太の科白せりふを細叙して、世の好劇家に示さんとす。
たう秦韜玉しんたうぎよく村女そんぢよに、もつともうらむは年々ねん/\金線きんせんつくらふ他人たにんためよめいり衣装いしやうつくるといひしはむべなる哉々々かな/\/\
むべなるかな、人は「君が代」よりも「梅の春」を聴んと急ぐや。嘗て英国の国歌を誦するを聴く、声昂り調高し鼓舞作興の妙言ふべからず、誠に大国のおんなるが如し。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
むべなるかな縲絏るいせつはずかしめを受けて獄中にあるや、同志よりは背徳者として擯斥ひんせきせられ、牢獄の役員にも嗤笑ししょうせられて、やがて公判開廷の時ある壮士のために傷つけられぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
この聯想ありて始めて十七字の天地に無限の趣味を生ず。故に四季の聯想を解せざる者はついに俳句を解せざる者なり。この聯想なき者俳句を見て浅薄せんぱくなりと言ふまたむべなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
むべなる哉富豪は決して人を欺かず唯忘れたふり知らぬ顔してまず所得税を収めざるなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
むべなるかな、南園白梅の花、寿陽公主の面上に落ちて、梅花粧の天下を風靡したるや。
近藤、土方の片腕とたのまれて、実戦の場数をあくまで経験している。その早業の人目を驚かすことむべなりと言いつべし。痛ましいことには、この天才的剣士は当時肺を病んでいた。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは俗に泣黒子なきぼくろと云つて、幸にも自分の一族、乃至は平生畏敬して居る人々の顏立かほだちには、ついぞ見當らぬ道具である。むべなる哉、この男、どうせ將來好い目に逢ふ氣づかひが無いのだもの。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかも御衣勝おんぞがち着痩きやせはしたが、玉のはだえ豊かにして、汗はくれないの露となろう、むべなるかな楊家ようかじょ、牛込南町における河野家の学問所、桐楊とうよう塾の楊の字は、菅子あって、えらばれたものかも知れぬ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何ぞき獲物はなきや、……この大雪なればなきもむべなり
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
将卒を強いて戦わしめんとすれば人心の乖離かいり、不測の変を生ずる無きをせず。諸将争って左するを見て王の怒るもまたむべなりというべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わが列祖の事につきては汝これを聞きて足れりとすべし、彼等の誰なりしやまた何處いづこよりこゝに來りしやはむしろ言はざるをむべとす 四三—四五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
其外双方さうはう付添つきそひの役人共みぎの通り申わたせしにより其むね心得こゝろえよと申渡されける實にや大岡殿の裁斷さいだん明鏡めいきやうに物をうつすが如く後世こうせい才量さいりやうたゝへるもむべなるかな
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
斯の如くにして、神聖なる文学を以て、実用と快楽に隷属せしめつゝありたり。むべなるかな、我邦の文運、今日まで憐れむべき位地にありたりしや。
おほよそ地上の美なるもの海にくはなかるべし、むべなり海はアフロヂテの母にしてと云ひさし、少し笑ひて、又ヱネチア歴代の大統領の未亡人なりといへり。
むべなるかな、沒却理想ならざる戲曲といふもの出來て、遂に「ドラマ」の旨なき戲曲を現じ來れること。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
而して自ら陪臣邦彦と署す。襄や実に斯の如き時勢に生れたり。むべなるかな彼が勤王の詩人としてちしや。夫れ英雄豪傑は先づ時勢に造られて、更に時勢を造るもの也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
むべなる哉其の傑作「浅瀬の波」は深川砂村の辺に住われし事あるが故に出で来れるもの。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
に人の最も変化するは十三歳頃より十七、八歳の頃にぞある、見違えしもむべならずやなど笑い興じて、共に腕車わんしゃに打ち乗り、岡山有志家の催しにかかる慰労の宴にのぞまんため
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
友の詩のかゞやけるも亦むべなりや。へやは木曾の清溪に對して、其水聲は鏘々しやう/\として枕に近く、前山後山の翠微すゐびは絶えずその搖曳せる嵐氣らんきを送りて、雲のたゞずまひまた世の常ならず。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
神はうやまふによりてをますとはむべなるかな
その滅亡に至る、またむべならずや。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
ほつすればなすことなきしくなし人のきくことなきほつすれば言ことなきしくなしとむべなるかな嗚呼あゝ謹愼つゝしまずんば有べからず。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むべなるかな。我邦に於て始めて、平民社界の胸奥より自然的育生の声を、この時代に於て聞きたるや。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
苟且かりそめの物を愛するため自ら永遠とこしへにこの愛を失ふ人のはてしなく歎くにいたるもむべなるかな 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ああ日本に義士なき、ああこの国辱をそそがんと欲するの烈士、三千七百万中一人いちにんも非ざる乎、条約改正なき、またむべなるかなと、内を思い、ほかを想うて、悲哀転輾てんてん懊悩おうのうえず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
良工の家なれば滞貨無きもむべなり、特に我が好めるやうに作らせんは甚だ可なるに似たれど、実は我が知れるところよりも此家ここの主人の知れる所の方深くして博かるべきは云ふまでも無きに
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
されば其姿の忽ち見えずなりて、唯だ翁と我とのみ座に殘りしもむべなり。
関西の気質と関東の気質とはおのづから異るところなり、むべなるかな、侠勇を好みし京伝、馬琴の徒の関西に出でずして関東に起り、門左、西鶴等の関東に生れずして大坂に現れたるや。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
居士が議会を捨てたるはむべなり、居士が自由党を捨てたるも亦た宜なり、居士は政治家にあらず、居士は政党員たるべき人にあらず、然れども何が故に、居士は一個の哲学者たるを得ざるか。
兆民居士安くにかある (新字旧仮名) / 北村透谷(著)