“囃(はや)” の例文
遠くから私のほうをちらちら見ては何やら囁(ささや)き合い、そのうちに、わあいと、みんな一緒に声を合せて、げびた囃(はや)しかたを致します。
千代女 (新字新仮名) / 太宰治(著)
名手の割に余り世にも持て囃(はや)されない検校(けんぎょう)さんに、「残月」の緩やかな手のところでも弾いて貰ったら、或は調和するかも知れない。
六日月 (新字新仮名) / 岩本素白(著)
「あらあら、ごらんなさいよ」とほかの女たちがみつけて囃(はや)したてた、「珍しいことがあるじゃないの、おいしさんが顔を隠したわ」
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それもただ、逐いまわしているのではない。「鼻を打たれまい。それ、鼻を打たれまい」と囃(はや)しながら、逐いまわしているのである。
鼻 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
やはりぶらさがったままである。近辺(きんぺん)に立つ見物人は万歳万歳と両人(ふたり)を囃(はや)したてる。婆さんは万歳などには毫(ごう)も耳を借す景色はない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おもしろそうに唄ったり囃(はや)したりしているうちはよかったが、しまいには取組合いの喧嘩を始めた。上さんが金切声(かなきりごえ)を搾(しぼ)って制する。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
声を聞かざるは三代の恥、姿を見ざるは七代の不運なぞと言い囃(はや)され、美人番付の小結どころに挙げられるほどの持て方となった。
「いよ/\海女は水底深く潜つて龍王の顎を探ります。明珠は、お松、お村、どちらの手に入りませうや、暫らくは一と囃(はや)し——」
ションガイナは今のみなさんの「しょうが無いな」と同じ意味の言葉で、もう今から三百年もまえの流行唄(はやりうた)の囃(はや)しの文句であった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
猥雑な歌が響き渡って、羯鼓(かっこ)がじゃらじゃらと鳴り、囃(はや)し拍子には口笛がはいった。例の女はくるみをかみ割りながら笑っている。
桟敷の手摺りをたたく者がある、しまいには鬨(とき)をつくって囃(はや)し立てるという未曾有(みぞう)の騒擾(そうじょう)を演出したので、他の観客もおどろかされた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで次郎の話が、彼に偶然な興味を添えたものか、賑やかな鳴物を囃(はや)し立てている空(あ)き地の方へ、人波に交じッて流れてゆきますと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつしか私(わたくし)のことを世(よ)にも類(たぐい)なき烈婦(れっぷ)……気性(きしょう)も武芸(ぶげい)も人並(ひとなみ)すぐれた女丈夫(じょじょうぶ)ででもあるように囃(はや)し立(た)てたらしいのでございます。
御神楽歌(おかぐらうた)一巻を唱(とな)え囃(はや)し踊る神前の活動はやんで、やがて一脚の椅子テーブルが正面に据(す)えられ、洋服を着た若い紳士が着席し
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
「この茶入は、継ぎ目の合はぬところこそ、利休にも面白がられ、世間にも取り囃(はや)されたので、どうかこのまま大事に残しおかるるやうに」
利休と遠州 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ただ違うのは、之を取巻いて囃(はや)し応援し批評する観衆の中に、ハモニカを持った二人の現代風な青年の交っていたことである。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
其囃(はや)しとも乱辞(ヲサメ)とも見える文句は、天語連の配下なる海部駈使丁の口誦する天語の中の歌だと言ふ事を保証するものであつた。
きつかけを外して囃(はや)し方(かた)をかへりみて恥しげに笑ひ、あらためて又とんと板を踏み鳴らし、何かの踊りをはじめるのが見えた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
狭い村だけに少しの事も意味あり気に囃(はや)し立てるが常である。万一其麽事があつては誠に心外の至りであると智恵子は思つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
間伸びのした悠長(ゆうちょう)な囃(はや)しと一つに融けて聞えて来る中で、ついとろとろと好い心持に眠りこけては、又はっとして眼をさます。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と唄い、囃(はや)し、おどり狂っているものもある。その千態万状、たしかに珍しい見物(みもの)ではある。七兵衛も呆(あき)れながら飽かず眺めておりました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船や河岸から花火を囃(はや)す子供の声。広告の船でしょうか見物船の中に混って白い光を扇形にマグネシュームを燃しております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
左手を静かにその上に加え、その傍らにて、あるいは太鼓を打ち、あるいは唱歌して、いろいろ囃(はや)し立つるときは、その盆が回り始むるなり。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
珍しい玩具(おもちゃ)も五日十日とたつうちには投げ出されたまま顧みられなくなるように、最初のうちこそ「坊ちゃん坊ちゃん」と囃(はや)し立てた子供も
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
誰かが、つづけさまに屁(へ)をたれると、みんなが囃(はや)したり、笑つたり、歌をうたひました。けれど誰も手を休めず、ドン/\、栗をひろひました。
栗ひろひ週間 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
「やあ、太郎さんの独楽は溝の中へ落(おっこ)ちた。」と囃(はや)しましたから太郎は口惜しがって、泥に汚れたのを草の葉で拭きとって稍々(やや)力を入れて廻す。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほほほ、申過しました、御免なさいよ。いえね、実はね、……小児(こども)衆が、通せん坊をして、わやわや囃(はや)しているから、気になってね、密(そっ)と様子を
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ドドンガ、ドドンガと太鼓を打って、サイコドンドン、サイコドンドンと囃(はや)した。錦子が通ると錦子に呼びかけるように
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
学友(なかま)はいつしか彼を「らっきょ」と呼びなして囃(はや)し立てたけれども、この陰欝な少年の眼には一種不敵の光が浮んでいた。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
その汁を地蔵尊の冷たい石の鼻の穴のあたりに塗り附けて見る。そうして手を拍(う)ち合(あ)って囃(はや)したてる。「鼻垂れ地蔵だ。やい」というのである。
童等はもろ聲に、超えよ超えよ、亞伯罕(アブラハム)の神は汝を助くるならんといと喧しく囃(はや)したり。翁は聖母の像を指ざしていふやう。人々あれを見給へ。
隆太郎は嬉々(きき)として声を立てる。やっと上(のぼ)ったところで、半ズボンの両脚を前へつるつるつるである。父の私も前廻りして手をうって囃(はや)し立てる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そのときベルが、喧(けたたま)しく鳴った。ジャズに囃(はや)されて重い緞帳(どんちょう)が上っていった。いよいよ第四の「ダンス・エ・シャンソン」の幕が開いたのだった。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
内ン中の鮑(あわび)ッ貝、外へ出りゃ蜆(しじみ)ッ貝、と友達に囃(はや)されて、私は悔しがって能(よ)く泣いたッけが、併し全く其通りであった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
口で囃(はや)して、床を踏み鳴らして歩いた。大正エビは頭に派手な手拭(てぬぐい)をかぶり、衣紋(えもん)を抜いている。女形(おやま)のつもりなのだ。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
殊に支那式の麻雀なぞいうのは、高価な道具を使うので上流社会に持(も)て囃(はや)されて、多額の金が賭けられているが、取締が非常に困難だそうである。
この説はしばらくは極度に持て囃(はや)され、生物進化の現象は、この説のみでことごとく説明せられるというて、自然淘汰万能を唱える学者までができた。
人間生活の矛盾 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
「行っておいで。大人の狐にあったら急いで目をつぶるんだよ。そら僕ら囃(はや)してやらうか。堅雪かんこ、凍(し)み雪しんこ、狐の子ぁ嫁ぃほしいほしい。」
雪渡り (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
得董紇那耶は、エンヤラヤの様なもので、囃(はや)し言葉である、別に意味もないから、定まった字もないわけである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしは側へゆくことが出来ないで遠くの方で立っていると小さな友達はわたしが「秩秩斯干(チーチースーハン)」が読めることなど頓著(とんじゃく)なしに寄ってたかって囃(はや)し立てる。
村芝居 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その前の日の午後、少し浮かぬ顔で遠くから帰って来るのが見え、勝子と二人で窓からふざけながら囃(はや)し立てた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
しかも、江戸の人気は、一時、広海屋方に集まって、あれこそ、廉(やす)い米を入れてくれた恩人と持て囃(はや)されるであろうよ。一人は泣き、一人はよろこぶ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
喚(わめ)きつつ身を捻返(ねぢかへ)して、突掛けし力の怪き強さに、直行は踏辷(ふみすべ)らして尻居に倒るれば、彼は囃(はや)し立てて笑ふなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と一同がそれをきいて囃(はや)した。栄蔵はしまつたと思つた。またこれは、いつものやうに調戯(からか)はれるに違ひない。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
一時に囃(はや)し立てる太鼓、鈴、喇叭(らっぱ)などの騒がしい音楽が沈まった後で、クラリオネットだけ吹奏されるのを聞いていると、その音は灰色な映画の方よりも
船 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
涼しくさへあれば好いといふんではないでせうからね。軽井沢や日光あたりが普通に持て囃(はや)される訳ですね。
談片 (新字旧仮名) / 田山花袋、田山録弥(著)
正直にいって、僕は、女に持て囃(はや)され過ぎた。女など、いつでも欲しい時に手に入れることが出来ると思って、かつて一度も心からの恋愛をしたことがない。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
学位売買事件や学位濫授問題が新聞雑誌の商売の種にされて持(も)て囃(はや)されることの結果が色々あるうちで、一番日本のために憂慮すべき弊害と思われることは
学位について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
陣中の座興にと、信長、家康の士酒井左衛門尉忠次に夷舞(えびすまい)を所望し、諸将箙(えびら)を敲いて囃(はや)した。充分の自信があったのであろう。落付き払った軍議の席である。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
やるならこの位の事をやって見せぬと大向こうがヤンヤと囃(はや)してハシャガナイ。右はとてもイイ案でしょう。