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囀
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さえず
ふりがな文庫
“
囀
(
さえず
)” の例文
石橋を渡る駄馬の蹄の音もした。そして、満腹の雀は
弛
(
たる
)
んだ電線の上で、無用な
囀
(
さえず
)
りを続けながらも尚おいよいよ
脹
(
ふく
)
れて落ちついた。
南北
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
わけて、女院の内では、興味と嫉妬の対象として、
囀
(
さえず
)
りぬかれた。——が、この事件に、誰よりも仰天したのは、烏丸ノ成輔である。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
雲雀
(
ひばり
)
が方々の空で鳴いている。多くはこれも自分の畠を持っていて、
他処
(
よそ
)
へ出て行かぬ時ばかり、最も自由に
囀
(
さえず
)
り得るものらしい。
野草雑記・野鳥雑記:02 野鳥雑記
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
渓向うの木立のなかでは
瑠璃
(
るり
)
が美しく
囀
(
さえず
)
っていた。瑠璃は河鹿と同じくそのころの渓間をいかにも楽しいものに思わせる鳥だった。
交尾
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
多くは赤んぼ——ジプシイの——を抱いていて、私たちの自動車もたちまち彼らに包囲された。口々に
囀
(
さえず
)
るような一本調子である。
踊る地平線:02 テムズに聴く
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
▼ もっと見る
彼はそれらの余震になおも
怯
(
おびや
)
かされながら、しかし次第に、露台のまわりでうるさいくらい
囀
(
さえず
)
りだした小鳥たちの
口真似
(
くちまね
)
をしてみたり
恢復期
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
雍家花園
(
ようかかえん
)
の
槐
(
えんじゅ
)
や柳は、午過ぎの微風に
戦
(
そよ
)
ぎながら、この平和な二人の上へ、日の光と影とをふり撒いている。
文鳥
(
ぶんちょう
)
はほとんど
囀
(
さえず
)
らない。
母
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
畑にはもう刈残された
玉蜀黍
(
とうもろこし
)
や
黍
(
きび
)
に、ざわざわした秋風が渡って、
囀
(
さえず
)
りかわしてゆく渡鳥の群が、晴きった空を遠く飛んで行った。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
庭つづきになった
後方
(
うしろ
)
の丘陵は、一面の
蜜柑畠
(
みかんばたけ
)
で、その先の山地に茂った松林や、竹藪の中には、終日鶯と
頬白
(
ほおじろ
)
とが
囀
(
さえず
)
っていた。
十六、七のころ
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
昔は朝になると、この竹林に小鳥が来て
囀
(
さえず
)
るので、それで時刻を知ったのだという説明を、非常におもしろがって聞かれました。
アインシュタイン教授をわが国に迎えて
(新字新仮名)
/
石原純
(著)
鶏のコーココと云っている声や雀の
囀
(
さえず
)
りが聞えるのに交って、竹の葉がカサカサと乾いた音を立てている。何だか暮のようです。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
春琴は常に我が居間の
床脇
(
とこわき
)
の窓の所にこの箱を
据
(
す
)
えて
聴
(
き
)
き入り天鼓の美しい声が
囀
(
さえず
)
る時は
機嫌
(
きげん
)
がよかった故に奉公人共は精々水を
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
母屋
(
おもや
)
の縁先で何匹かのカナリヤがやっきに
囀
(
さえず
)
り合っている。庭いっぱいの黄色い日向は彼らが吐きだしているのかと思われる。
千鳥
(新字新仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
「この
鶯
(
うぐいす
)
は千両積んだって売れやしません、なんていい鳴き声でしょうかね、あの
囀
(
さえず
)
り、——心がしんからすうっとするじゃありませんか」
赤ひげ診療譚:06 鶯ばか
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
やがて、あたりには、再び次第次第に緑の
木洩日
(
こもれび
)
がきらきらと輝き始める。それに従って、思い出したようにまた小鳥が
遠近
(
おちこち
)
で
囀
(
さえず
)
り始めた。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
小鳥のような子供の声音を
真似
(
まね
)
て、形の定まらないその
囀
(
さえず
)
りを人間の語調に直そうとする、浮き浮きしたおどけたものだった。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
陽炎
(
かげろう
)
のたち昇る春の日に、
雲雀
(
ひばり
)
の
囀
(
さえず
)
りをききつつ、私のいつも思い出すのは、「春の野に菫摘まむと来し
吾
(
われ
)
ぞ野をなつかしみ一夜
宿
(
ね
)
にける」
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
私たちの
一向
(
いっこう
)
に気のない事は——はれて雀のものがたり——そらで
嵐雪
(
らんせつ
)
の句は知っていても、今朝も
囀
(
さえず
)
った、と心に
留
(
と
)
めるほどではなかった。
二、三羽――十二、三羽
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
私は彼女の顔を見ながらあねさん
被
(
かぶ
)
りが似合うだろうと思い、空に
雲雀
(
ひばり
)
の
囀
(
さえず
)
る畑の中にいる彼女の働く姿を容易に想い浮かべることができた。
朴歯の下駄
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
夏の夕方から出かけてこの山の頂上にある古寺で、蚊やりをいぶしながら色々と
囀
(
さえず
)
り交わして、夜を更かし、疲れて少し仮寝したかと思うと
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
石盤
(
スレート
)
葺の屋根が、左右の両樋の方へなだれ落ち、雀等が、そこらを何の怖れもなさそうに飛び歩きながら、
囀
(
さえず
)
っていました。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
両人
(
ふたり
)
がここに引き越したのは千八百三十四年の六月十日で、引越の途中に下女の持っていたカナリヤが
籠
(
かご
)
の中で
囀
(
さえず
)
ったという事まで知れている。
カーライル博物館
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
鳥の羽音、
囀
(
さえず
)
る声。風のそよぐ、鳴る、うそぶく、叫ぶ声。
叢
(
くさむら
)
の蔭、林の奥にすだく虫の音。
空車
(
からぐるま
)
荷車の林を
廻
(
めぐ
)
り、坂を下り、
野路
(
のじ
)
を横ぎる響。
武蔵野
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
夕暮れになると空の雲雀は、今日の逝くのを惜しむかのように、ますます高く
囀
(
さえず
)
り続け、野良から帰る農夫達の、長閑に唄うのも聞こえて来る。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
すぐ
眼
(
め
)
の下には、熱海駅前の雑踏や、小学校のグランドに飛びまわっている子供らの声が、
雲雀
(
ひばり
)
の
囀
(
さえず
)
るように聞こえる。
謎の女
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
千鳥足で
囀
(
さえず
)
り散らし何の考えもなくただただ斥候の用心深きを
憑
(
たの
)
んで行くものと見ゆ、若猴数疋果を採らんとて
後
(
おく
)
るれば殿士来って追い進ましむ。
十二支考:07 猴に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
三
春
(
しゅん
)
の
長閑
(
のどか
)
なる、咲く花に
囀
(
さえず
)
る鳥は人工のとても及ばぬものばかりで、
富者
(
ふしゃ
)
も
貧者
(
ひんじゃ
)
も共に
享
(
う
)
けて共に喜ぶ権利は
異
(
ことな
)
らない
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
お政は始終顔を
皺
(
しか
)
めていて口も
碌々
(
ろくろく
)
聞かず、文三もその通り。独りお勢
而已
(
のみ
)
はソワソワしていて更らに
沈着
(
おちつ
)
かず、
端手
(
はした
)
なく
囀
(
さえず
)
ッて
他愛
(
たわい
)
もなく笑う。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
風もないし、小鳥も
囀
(
さえず
)
らないし、寂寞とした、深い杉木立の中に、じっと、生きている墓を、睨みつづけていた月丸は
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
ミーラヤ、ラドナーヤとでも
囀
(
さえず
)
っているのか。相手は逃げて向うの電柱の頂へ止まる。追いかけてその下の電線へ止まる。頂上のはじっとして動かない。
病院風景
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
仰いで大空を蔽う松葉を眺めると、その間に小さな豆のような小禽が
囀
(
さえず
)
りながら虫をあさっている。豆のような小禽とはいうものの
枳殻
(
からたち
)
の実ほどはある。
茸をたずねる
(新字新仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
そこの緑の楽しい影のうちでは、汚れに染まぬ数多の声が静かに人の魂に向かって語っており、小鳥の
囀
(
さえず
)
りで足りないところは
昆虫
(
こんちゅう
)
の羽音が補っていた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
野島屋はここらでも古い店で、いろいろの美しい小鳥が籠のなかで頻りに
囀
(
さえず
)
っているのを、侍は眼にもかけないような風で、ずっと店の奥へはいって来た。
半七捕物帳:41 一つ目小僧
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
樹々が小径の上に枝差し伸べて、枝から枝へは、眼の覚めるほど華美な小鳥が、楽しげに飛んでは
囀
(
さえず
)
っている。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
駒鳥の眼、駒鳥の
紅
(
あか
)
い胸は再び輝いて居た。彼は
囀
(
さえず
)
り、歌い、そして妻子を連れて枝から枝へと飛び移った。
少年・春
(新字新仮名)
/
竹久夢二
(著)
ころは秋。そこここわがままに生えていた木もすでに緑の上衣を
剥
(
は
)
がれて、寒いか、風に
慄
(
ふる
)
えていると、旅帰りの
椋鳥
(
むくどり
)
は慰め顔にも澄ましきッて
囀
(
さえず
)
ッている。
武蔵野
(新字新仮名)
/
山田美妙
(著)
山脈の方の空に
薄靄
(
うすもや
)
が立ちこめ、空は曇って来た。すぐ近くで、
雲雀
(
ひばり
)
の
囀
(
さえず
)
りがきこえた。見ると、薄く曇った中空に、一羽の雲雀は静かに翼を
顫
(
ふる
)
わせていた。
永遠のみどり
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
かれはこう考えたとき、あとから来た少女のむれも怖そうに地上を見おろしながら小鳥のように
囀
(
さえず
)
っていた。
幻影の都市
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
その馬の
嘶
(
いなな
)
きのような鳴き声は、すべての小鳥たちにとって、もう
囀
(
さえず
)
るのをやめて寝ろと命令する声である。
博物誌
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
それからその近所の山には百草もあればまた極楽世界の三宝を
囀
(
さえず
)
る
迦陵頻伽
(
かりょうびんが
)
鳥も居る。その美しさと言えば
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
わかったかい? 僕はもう昔の小柴じゃないんだよ。いまはもう、この健康道場に於ける一羽の雲雀なんだ。ピイチクピイチクやかましく
囀
(
さえず
)
って騒いでいるのさ。
パンドラの匣
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
朝から晩までべちゃくちゃ
囀
(
さえず
)
る
葭原雀
(
よしわらすずめ
)
の隠れ
家
(
が
)
にもなる。
五月雨
(
さみだれ
)
の夜にコト/\
叩
(
たた
)
く
水鶏
(
くいな
)
の宿にもなる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
朝の
辰刻半
(
いつつはん
)
(九時)そこそこ、桜はようやく満開で、江戸の春はまことに快適そのものでした。便所の格子窓からその花を眺めていると春の小鳥の
囀
(
さえず
)
りも聴えます。
銭形平次捕物控:246 万両分限
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その度毎に、隣の裁縫の師匠の家で、小雀の
囀
(
さえず
)
るような娘達の声が一際
喧
(
やかま
)
しくなる。それに促されてお玉もどんな人が通るかと、覚えず気を附けて見ることがある。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
彼は、
雲雀
(
ひばり
)
の
囀
(
さえず
)
る麦畑の間を歩きながら、竜一たちと、ほのかな希望を語りあったりするのであった。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
学校においては、それを書きあらわす文字と、少しの口語の規則とを教えさえすれば、子女をそれを鳥の自ら
囀
(
さえず
)
るように、楽々として読みかつ書くことが出来るのです。
教育の民主主義化を要求す
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
女房の暗雲のような重圧にも拘わらず、外には依然陽が輝き青空には白雲が美しく流れ樹々には小鳥が
囀
(
さえず
)
っていることを、彼は十年この方始めて発見したように思った。
南島譚:02 夫婦
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
揚雲雀
(
あげひばり
)
というものは、中空高く
囀
(
さえず
)
りつつ舞っているが、
己
(
おの
)
れの巣へ降り立とうとする時は、その巣より遥かに離れた地点へ着陸して来て、そこから麦の株や、
畦
(
あぜ
)
の間を
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
限界もなき
蒼空
(
そうくう
)
を住家となし、自在に飛揚し、自在に
囀
(
さえず
)
り、食を求めて
啄
(
ついば
)
み、時を得て鳴き、いまだ人間の捕らえて、
籠裏
(
ろうり
)
に
蟄居
(
ちっきょ
)
せしむるがごときことあるを知らざりき。
妖怪報告
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
神祗釈教恋無常と人の世の味気なさを
囀
(
さえず
)
っているものは、すなわち私一人でなかったのだった。
随筆 寄席囃子
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
囀
漢検1級
部首:⼝
21画
“囀”を含む語句
百囀
春鶯囀
高囀
囀々
囀出
囀啼
囀声
宛囀
油囀
瑠璃囀
百々囀
空囀
莫才人囀