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すす
ふりがな文庫
“
啜
(
すす
)” の例文
半之助はひどくぶきように、一椀の茶を
啜
(
すす
)
り、菓子を摘みながら、夫人の姿をそれとなく、だが相当大胆にちらちらと眺めまわした。
半之助祝言
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
一羽の
鴉
(
からす
)
が、彼と母との
啜
(
すす
)
り
泣
(
な
)
く声に交えて花園の上で
啼
(
な
)
き始めた。すると、彼の妻は、親しげな愛撫の微笑を洩らしながら
咳
(
つぶや
)
いた。
花園の思想
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
せめて今宵一夜は空虚の寂寞を脱し、酒の力を
藉
(
か
)
りて能うだけ感傷的になって、蜜蜂が蜜を
啜
(
すす
)
るほど微かな悲哀の快感が味わいたい。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
だが時折、魯提轄の神経を針で突ッつくような
興醒
(
きょうざ
)
めが洩れてきた。さっきから、どこかでシクシクいっている女の
啜
(
すす
)
り泣きである。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
敬太郎と顔を合せた時、スープの中に
匙
(
さじ
)
を入れたまま、
啜
(
すす
)
る手をしばらくやめた態度などは、どこかにむしろ気高い風を帯びていた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
平次は
呆
(
あき
)
れ返って黙ってしまいました。平次の口添で、ようやく出来た盛蕎麦を
啜
(
すす
)
りながら、この浪人者は途方もない事を言うのです。
銭形平次捕物控:243 猿回し
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
今この茶碗で番茶を
啜
(
すす
)
っていると、江戸時代の麹町が湯気の間から
蜃気楼
(
しんきろう
)
のように
朦朧
(
もうろう
)
と現れて来る。店の八つ手はその頃も青かった。
二階から
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そして
佇
(
たたず
)
んでいた女たちが
堪
(
たま
)
らなくなったのであろう。ワッと泣き出す声や
啜
(
すす
)
り上げる声が、一時にそこここから湧き起ってきた。
生不動
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
蔦代はそう言って目を上げたが、言いたいことが言葉になってこないらしく、ハンカチで目を押さえて
啜
(
すす
)
り泣きを始めてしまった。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
あんなぶざまな肥え方に私をなぞらえる天願氏の
下心
(
したごころ
)
が、私の心に伝わってとげを刺した。私は黙って冷たくなった珈琲を
啜
(
すす
)
った。
風宴
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
ここまで語って坊さんは一息ついて茶を
啜
(
すす
)
った。戸外には吹雪の音がだんだんはげしくなった。私はその先が聞きたくてこらえ切れず
狂女と犬
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
「——それから検事さん」と帆村は紅茶を一口
啜
(
すす
)
らせてもらっていった。「あの大
暖炉
(
ストーブ
)
のなかから出てきた屍体のことは分りましたか」
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
努めて一口
応答
(
こたえ
)
をしようと思うけれど、張りさけるような心臓の激動と、とめどなく流れる涙とに私はただ
啜
(
すす
)
り上げるばかりであった。
駅夫日記
(新字新仮名)
/
白柳秀湖
(著)
客既ニ集リ炉底火ハ活シ鼎腹沸沸トシテ声アレバ
乃
(
すなわち
)
茗ヲ
瀹
(
に
)
テ主客倶ニ
啜
(
すす
)
ルコト一碗両碗。
腋間
(
えきかん
)
風生ズルニ至ツテ古人ノ書画ヲ
展
(
の
)
ブ。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
そのにわかに緊張した空気の中で、法水は冷たくなった紅茶を
啜
(
すす
)
り終ると語りはじめたが、それは、驚くべき心理分析だったのだ。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
珊瑚は何かいいたそうにしながら何もいわないで、
俯向
(
うつむ
)
いて
啜
(
すす
)
り泣きをした。その
泪
(
なみだ
)
には色があってそれに白い
衫
(
じゅばん
)
が染まったのであった。
珊瑚
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
保吉は次第に遠ざかる彼等の声を憎み憎み、いつかまた彼の足もとへ下りた無数の鳩にも目をやらずに、永い間
啜
(
すす
)
り泣きをやめなかった。
少年
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
炉塞
(
ろふさぎ
)
の場合、そこに坐っている客も主人も共に老人で、茶を
啜
(
すす
)
りながら閑談に
耽
(
ふけ
)
っている、というようなところらしい。
侘
(
わ
)
びた趣である。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
と
怪
(
あや
)
し気な日本語で会釈して、
巨大
(
おおき
)
な手で赤い小さな
百合形
(
ゆりがた
)
の皿を抱えたが、それでも
咽喉
(
のど
)
が乾いていたと見えて
美味
(
おいし
)
そうに
啜
(
すす
)
り込んだ。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
二人は湯から上って、一局囲んだ後を
煙草
(
たばこ
)
にして、渋い
煎茶
(
せんちゃ
)
を
啜
(
すす
)
りながら、
何時
(
いつも
)
の様にボツリボツリと世間話を取交していた。
二癈人
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
帰りはまた
聿駄天
(
いだてん
)
走りだ。自分の
辛
(
つら
)
いよりか、朝から三時過ぎまでお粥も
啜
(
すす
)
らずに待っている
嬶
(
かかあ
)
や子供が案じられてなんねえ。
躯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
「あれぢや
商人
(
あきんど
)
にもなれんし、百姓にもなれまいし、まあ
粥
(
かゆ
)
でも
啜
(
すす
)
れるくらゐの田地を配けてやるつもりで、抛つて置くか。」
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
彼女は佃の横顔に自分の顔を押しつけたまま、
啜
(
すす
)
りあげて泣き出した。佃は訳も知らず、あわてて、自分の胸から伸子の顔を離そうとした。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
こんな奇効ある故か、道家に
尹喜
(
いんき
)
穀を避けて三日一たび米粥を食い白馬血を
啜
(
すす
)
り(『弁正論』二)、黄神甘露を飲み
駏驉
(
きょきょ
)
の
脯
(
ほじし
)
を食うという。
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
今夜吾人は香炉の前に
拝跪
(
はいき
)
し、吾人の心神を清浄にし、而て吾人の指を刺し、吾人の血を混じ、これを
啜
(
すす
)
りて同生同死を
盟
(
ちか
)
う。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「
何事
(
なんに
)
も
為
(
し
)
てくれなくても可いよ」とお雪は鼻を
啜
(
すす
)
り上げて言った。「居眠り居眠り本を読んで何に成る——もう可いから止してお休み——」
家:01 (上)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
某年
(
あるとし
)
の晩秋の
夕
(
ゆうべ
)
のことであった。いつものように渋茶を
啜
(
すす
)
りながら句作に
耽
(
ふけ
)
っていた庄造が、ふと見ると窓の障子へ怪しい物の影が映っていた。
狸と俳人
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
乞食が
家鴨
(
あひる
)
のやうな口もとをして珈琲を
啜
(
すす
)
つてしまふ頃には、立派な
舞踏曲
(
ミニユエト
)
の一つが有り合せの
紙片
(
かみきれ
)
に書き綴られてゐた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤーで、運び上げ、
啜
(
すす
)
り
啖
(
くら
)
い、轢殺車は地響き立てながら地上を席捲する。
牢獄の半日
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
まるで
碁
(
ご
)
を打つようなカラクリをしていたその間に、同じような族類系統の
肖
(
に
)
たものをいろいろ求めて、どうかして
甘
(
あま
)
い汁を
啜
(
すす
)
ろうとしていた。
骨董
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
物足りなさに
啜
(
すす
)
り泣いていた
豊饒
(
ほうじょう
)
な肉体——かの女が規矩男のその肉体をまざまざ感じたその日、かの女は武蔵野へ規矩男を無断で置いて来た。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
ラムネを取りにやりたれど夜中にて無し、氷も梨も同様なりとの事なり。退屈さの茶を
啜
(
すす
)
れば胸ふくれて心地よからず。
東上記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
煎餅
(
せんべい
)
二、三枚をかぢり、紅茶をコツプに半杯づつ二杯飲む。昼飯と夕飯との間に、
菓物
(
くだもの
)
を喰ふかあるいは茶を
啜
(
すす
)
り菓子を喰ふかするは常の事なり。
明治卅三年十月十五日記事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
おうどんの湯気に顔をつっ込み、するするとおうどんを
啜
(
すす
)
って、私は、いまこそ生きている事の
侘
(
わ
)
びしさの、極限を味わっているような気がした。
斜陽
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
勝四郎よろこびてかの家にゆきて見れば、
七十可
(
ななそぢばかり
)
の翁の、腰は
一三六
浅ましきまで
屈
(
かがま
)
りたるが、
一三七
庭竈
(
にはかまど
)
の前に
一三八
円座
(
わらふだ
)
敷きて茶を
啜
(
すす
)
り
居
(
を
)
る。
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
すうっと、匂いを嗅ぎ込むようにして、じっとみつめて、溢れそうなのを、口から持って行ってきゅうと、
啜
(
すす
)
った法印
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
その後四五日は
重湯
(
おもゆ
)
ばかり
啜
(
すす
)
っていたので、腹は空いたらしかった。そのつど
賄
(
まかない
)
から届けてくる食事を見るたびに、順吉は不服そうな顔つきをした。
夕張の宿
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
そういうと母親は、娘を抱いたまま
啜
(
すす
)
り泣きをはじめた。かれらは岩かげに動かずにいる間に、暮色はこの一帯をすこしずつ飴色にぼかしはじめた。
みずうみ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
蕪村はいつも、寒夜の寝床の中に亡き母のことを考え、遠い昔のなつかしい幼時をしのんで、ひとり悲しく夢に
啜
(
すす
)
り泣いていたような詩人であった。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
物音に驚いて眼をさました時には、父はもう隣の部屋で茶を
啜
(
すす
)
っているらしかった。その朝も晴れ切った朝だった。
親子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「鶏の肉汁にはもうあきあきした。何か変ったものはないかしら。」……そう言って眉根をよせながら、肉汁を
啜
(
すす
)
っている母の顔が眼に浮かんで来た。
次郎物語:01 第一部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
「猫のようにまんまるになってさ……」と、彼女はこみ上げて来る情愛と不憫さに、
啜
(
すす
)
り泣くような笑うような声を出した、「ほんとに可哀そうな……」
女房ども
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
茶渋に
蕎麦切
(
そばきり
)
を
搦
(
から
)
ませた、
遣放
(
やりッぱな
)
しな立膝で、お下りを
這曳
(
しょび
)
いたらしい、さめた
饂飩
(
うどん
)
を、くじゃくじゃと
啜
(
すす
)
る処——
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
女は
啜
(
すす
)
り泣いている。そして何か言っている。聞きとれないほどの小声だった。が、だんだんに
甲高
(
かんだか
)
くなっていった。けれど意味はよくわからなかった。
釘抜藤吉捕物覚書:07 怪談抜地獄
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
色は死人のように青い。数秒時間呼吸の
息
(
や
)
んでいる時がある。それから
上面
(
うわつら
)
でするような、
啜
(
すす
)
るような息をする。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
復讐として肉を
噬
(
くら
)
い髄を
啜
(
すす
)
るとも飽かないような深怨を結ばせて、ますます陰険、醜陋、残忍を以て終始する政界の私闘を助長する危険があると思います。
選挙に対する婦人の希望
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
これをかり/\と噛んで澁茶を
啜
(
すす
)
るのはまことに私の毎朝の樂しみであつた。殆んど毎朝その容器をば空にした。また、時として酒のさかなにもねだつた。
樹木とその葉:02 草鞋の話旅の話
(旧字旧仮名)
/
若山牧水
(著)
この米を
焼
(
やけ
)
ヶ
島
(
しま
)
の
力米
(
ちからごめ
)
といい、病人にかぎって
粥
(
かゆ
)
にして
啜
(
すす
)
らせた。火風水土の
四厄
(
しやく
)
を凌いで育った米の精は強大で、たいていの病人は良薬ほどにも効いた。
藤九郎の島
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
その人たちの
啜
(
すす
)
り泣きや
号泣
(
ごうきゅう
)
の声が高い
円
(
まる
)
天井に反響して、それが時折り構内へもれて聞えるのが、最初の二三日はなんとも言へず不気味だつたさうです。
死児変相
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
女は刃物を投げ
棄
(
す
)
てて泣き出した。両手を顔に押し当てて泣く、
啜
(
すす
)
り泣くたびに頭から
爪先
(
つまさき
)
まで身を
慄
(
ふる
)
わせる。
水晶の栓
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
啜
漢検1級
部首:⼝
11画
“啜”を含む語句
啜泣
啜上
啜込
鼻啜