唯今ただいま)” の例文
「あれ、貴方あなた……お手拭てぬぐいをと思いましたけれど、唯今ただいまお湯へ入りました、私のだものですから。——それに濡れてはおりますし……」
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにしろ唯今ただいまのところでは恐怖と戦慄があるばかりで、怖ろしい物が常に自分のうしろに付きまとっているように思われてなりません。
愚なる者の癖に人がましき事申上候やうにて、誠に御恥おんはづかし存候ぞんじさふらへども、何とも何とも心得難こころえがた存上候ぞんじあげさふらふは、御前様おんまへさま唯今ただいまの御身分に御座候ござさふらふ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「そういう料簡りょうけんではお相手が勤まらん。明日あすとはいわぬ、今日唯今ただいま、帰りなさい。さあ。帰りなさい。自分の家へ帰りなさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ソレカラ唯今ただいま申す通り実父じっぷ同様の緒方先生が立会たちあいで、内藤数馬先生の執匙で有らん限りの療治をして貰いましたが、私の病気も中々軽くない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
甲野はこの声を聞いた時、澄み渡った鏡に向ったまま、始めてにやりと冷笑をらした。それからさも驚いたように「はい唯今ただいま」と返事をした。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして坂上でちょっと馬を止めて「唯今ただいま六郷川ろくごうがわを挟んで彼我ひが交戦中であるが、何時いつあの線が破れるかもしれないから、皆さんその準備を願います」
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
賓頭盧尊者びんずるそんじゃの像がどれだけ尊いものか存ぜずにいたしたことと見えます。唯今ただいまでは厨で僧どもの食器を洗わせております
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それに唯今ただいまでは、既に夫人があることを告白してしまいましたので、彼女の無実は明白になりました。第三は三千子に取っては恋敵の小間使小松です。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
唯今ただいま、御表におきまして、赤穂の城主浅野内匠頭事、意趣あって、高家の吉良上野介に対して刃傷に及びました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
唯今ただいま」と校長がとうとした時、梅子は急に細川の顔を見上げた、そして涙がはらはらとそのひざにこぼれた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
唯今ただいま午後七時三十分、米国空軍の主力は、伊豆七島の南端、三宅島の上空を通過いたして居りますむね、同島の防空監視哨から報告がございました。以上」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
唯今ただいまはもう就寝にございますゆえ、誰もしとみのそばには出てはおられませぬ。いまのうちに早く。」
花桐 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
、どんなに後悔して居ることか——、唯今ただいま、店先で見られた絵姿をたよりに、万に一つ拙者の手で探し当てたなら、ぐ様知らせてくれるようにとくれぐれもおっしゃったが
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
貴方の都合に依ツて、假にあたへられた目的、目的に附隨ふずゐする資格、其はあらためて唯今ただいま返上へんじやうする。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ただそのものゝやうに懐かしく、恋しきにも珍らしきにも涙のみこぼれて、この虫がやうに、よし異物ことものなりとも声かたち同じかるべき人の、唯今ただいまこゝに立出で来たらばいかならん。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大磯おおいそ箱根はこねや湯河原を流れ渡って、唯今ただいまでは熱海のまつに巣を食って居ります。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すると此時たちまへやがスーと明いて、入って来たのは此家の老家扶かふで、恭しく伯爵の前に頭を下げ、「殿様に申上げます唯今ただいま之れなる品物が、倫敦ロンドン玉村たまむら侯爵家より到着致して御座います」
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
唯今ただいますぐに申しつけます」と、若い婦人は次の間へ急いで行った。
現在別にわるいところがないのなら、無論近い将来にもさして病難があるとは思われません。現在は唯今ただいまも申上げたように波瀾はらんのあった後むしろ無事で、いくらか沈滞というような形もあります。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「しばらくどうぞ。唯今ただいますぐ博士がみえますから」
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
唯今ただいま母様かあさん、こんな遅くまでよくまあお仕事。」
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
唯今ただいまはどうも、失礼をいたしまして……」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
唯今ただいまちょいとおまいりに。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その危険な事は、硝子壺がらすつぼも真鍮壺も決して差別はありません。と申すが、唯今ただいまもお話しました通り、火が消えないからであります。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯今ただいまお話し申した婆さんが借りていた時、すなわち三十年前から四十年前のあいだだそうですが、すでにそのころから怪しいことがあったといいます。
をとこは、——いえ、太刀たちびてれば、弓矢ゆみやたづさへてりました。ことくろえびらへ、二十あまり征矢そやをさしたのは、唯今ただいまでもはつきりおぼえてります。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
現に唯今ただいまでも僕の配下のものが一人その方の捜索にかかり切っている様な訳ですが、まだ何の吉報もありません。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
貴方様は京浜国道で、自動車を電柱に衝突なさいまして、御頓死ごとんし遊ばしましたのですぞ。貴方様は幽界ゆうかいにお入りになって、唯今ただいまから幻影げんえいを御覧になっています。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それはご苦労でした。したが唯今ただいま、殿下には、おん鞠場まりばへ出て、公卿輩くげばらを相手に、蹴まりに興じておられますゆえ、しばらく、その辺でお待ちくださらぬか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとは農商務省に勤めてをりましたが、唯今ただいまでは地所や家作かさくなどで暮してゐるやうでございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
唯今ただいま御指図おさしずの通り早々帰国しますが、御隠居様に御伝言は御在ございませんか、いずれ帰れば御目おめに掛ります、又何か御品おしながあれば何でももって帰りますといって、ず別れて翌朝よくあさいって見ると
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
唯今ただいま、世話人の方からお願い申上げたように、これから皆さんのお手拭を
川島君は砲弾の破片に撃たれたのです。私もその時、小銃弾に帽子を撃ち落されましたが、幸いに無事でした。その弾丸がもう一寸いっすんと下がっていたら、唯今ただいまこんなお話をしてはいられますまい。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「はい、唯今ただいま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
唯今ただいま狂人きちがいが、酒に酔って打倒ぶったおれておりましたのは……はい、あれは嘉吉と申しまして、私等わしら秋谷在の、いけずな野郎でござりましての。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何時いつぞやわたしがとらそんじたときにも、やはりこのこん水干すいかんに、打出うちだしの太刀たちいてりました。唯今ただいまはそのほかにも御覽ごらんとほり、弓矢ゆみやるゐさへたずさへてります。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
唯今ただいま絆創膏ばんそうこうを差上げます。何しろ皆書生でございますから随分乱暴でございませう。故々わざわざ御招おまねき申しましてはなはだ恐入りました。もう彼地あつちへは御出陣にならんがよろしうございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
心にかかって、お屋敷まで駈けて参りましたが、唯今ただいま、主税殿のおはなしでは、江戸表において、殿様御刃傷との御注進にござります由、やはり虫の知らせでございました。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ハーイ、唯今ただいま」とそれには答え、それから帆村の方に向き、低い声で言った。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ハイ、ハイ、唯今ただいま参ります。あまり月が良いので」
「おやおや唯今ただいま内の人におことづけをなさいました、蝶吉ねえさんに酌をして欲しいと仰有いますのは、ちょいとお前さんかい。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吾々は、故浅野内匠頭が浪人共でござるが、唯今ただいま、亡君のあだを討って、吉良殿の屋敷から引き揚げて来たところでござります。恐れ入るが、暫時ざんじ、休息のため、御寺内を拝借したい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ええ、あったどころじゃないです。唯今ただいま総監閣下が殺害さつがいされました」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
重吉は外套や帽子をとると、必ずこの「離れ」へ顔を出し、「唯今ただいま」とか「きょうは如何ですか」とか言葉をかけるのを常としていた。しかし「離れ」のしきいの内へは滅多に足も入れたことはなかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「しますると、お気に入りますかどうでございましょうか。ちとその古びておりますので。ほかには唯今ただいまどうも、へい、へい。」
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又アメリカ主義にわずらわされて西太平洋の鬼となった米軍の空襲勇士たちのために、前に聞かせて頂いた空襲葬送曲を、唯今ただいま放送を以て、遠く米国本土にまで、お返ししようと思うのでございます。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「同役(といつも云う、さむらいはてか、仲間ちゅうげんの上りらしい。)は番でござりまして、唯今ただいま水瓶みずがめへ水を汲込くみこんでおりまするが。」
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
皆さん。お静かに願い上げます。唯今ただいま女優が一人、急病でくなりました。しかしもう事は済みましたから、御安心の上、お仕舞しまいまでごゆるりと御見物願います。では直ちに第六景、『奈良井遊廓』の幕を
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御覧のとおり、花を売りますものでござんす。二日置き、三日おきに参って、お山の花を頂いては、里へ持って出てあきないます、ちょう唯今ただいま種々いろいろ花盛はなざかり
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)