可也かなり)” の例文
可也かなり皮肉な出来事であつたからで、気の小さい、きまわるがり屋の彼は、うかしてうまくそれを切りぬけようと、頭脳あたまを悩ましてゐた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこは、帝都のあっちこっちを見下ろすに、可也かなりいい場所だった。眺めると、帝都の彼方此方かなたこなたには、三四ヶ所の火の手が上っていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
可也かなり難しい、全部拾って見ても、南無阿弥陀仏の六字と読点だけしかない。この七つの記号を以て、どういう文句が綴れるだろう。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夫でも全寮で可也かなり名物男に近かつた久米や自分がやつて居るので、喝采するものも可なりあつたが、狂言その物はマルで出鱈目であつた。
学生時代の久米正雄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
一度も?——若し一度でも通つたとすれば、それは僕の小学時代に業平橋なりひらばしかどこかにあつた或可也かなり大きい寺へ葬式に行つた時だけである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
宿の内儀かみさんは既う四十位の、亡夫は道廳で可也かなりな役を勤めた人といふだけに、品のある、氣の確乎しつかりした、言葉に西國の訛りのある人であつた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ここおいて、孫子そんし使つかひをしてわうはうぜしめていはく、『へいすで整齊せいせいす、わうこころみにくだりてこれし。わうこれもちひんとほつするところ水火すゐくわおもむくといへど可也かなり
私達の遊びごっこは、戦争ごっこが一番盛んで、可也かなりにこっぴどく殴り合った。月のある夜なんか、沢山たくさんの子供が、語らいあって、村はずれの鎮守を中心にして、「陣地」の奪い合いをやったものだ。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
これに対して米軍の駆逐艦隊は可也かなり高い波浪はろうにひるんだものか、それとも長い航洋に疲れを見せたものか、ずっと側面そくめんに引返して行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宿の内儀かみさんう四十位の、亡夫は道庁で可也かなりな役を勤めた人といふだけに、品のある、気の確乎しつかりした、言葉に西国の訛りのある人であつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やっと僕の家へ帰ったのち、僕は妻子や催眠薬の力により、二三日は可也かなり平和に暮らした。僕の二階は松林の上にかすかに海を覗かせていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私が陳述した所の、母親が初代の留守中に、彼女の机や手文庫を、ソッと検べていたなどと云う事も、可也かなり悪い心証を与えた様子であった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
矢張やっぱりこんなような町?」お島は汽車が可也かなり大きなある停車場へ乗込んだとき、窓から顔を出して、壮太郎にささやいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
頁を繰ってゆくうちに、毛筆で書いてある可也かなり大きい字がボーッと融け崩れ始めて、僕はあまりの睡さにとうとうこらえられなくなった。……
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やつと僕の家へ帰つた後、僕は妻子や催眠薬の力により、二三日は可也かなり平和に暮らした。僕の二階は松林の上にかすかに海をのぞかせてゐた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「わたくし、大江春泥という名前は可也かなり以前から存じて居りましたけれど、それが平田一郎の筆名でしょうとは、ちっとも存じませんでした」
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
威嚇いかくことばと誘惑の手からのがれて、絶望と憤怒に男をいらだたせながら、もとの道へ駈出かけだすまでに、お島は可也かなり悶踠もがき争った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すべからく汝の自負に傲慢なれ、不遜なれ、大水の声をあげて汝みづからの為に讃美し、謳歌して可也かなり
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そして部屋の外には、可也かなり広いアスファルト路面の廊下が、どこまでも続いていて、なにが通るのか、軌道レールが敷いてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕はプロレタリアの戦士諸君の芸術を武器に選んでゐるのに可也かなり興味を持つて眺めてゐる。諸君はいつもこの武器を自由自在にふるふであらう。
私はあの時、その植物を用いる時は、どんなにやすやすと、少しの苦痛もなく堕胎を行うことが出来るかについて、可也かなり誇張的な説明をした筈である。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
千駄木せんだぎおくわたしいへから番町ばんちやうまでゞは、可也かなりとほいのであるが、てからもう彼此かれこれ時間じかんつから、今頃いまごろちゝはゝとにみぎひだりから笑顔ゑがほせられて
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
二三年も前から眼病をわづらつてゐた新家の御新造の妹なさうで、盛岡でも可也かなりな金物屋だつたが、どうした破目かで破産して、夫といふ人が首を縊つて死んで了つた爲め、新家の家の家政を手傳ひ旁々
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
すると向うからお嬢さんが一人ひとりがきに沿うて歩いて来た。白地のかすりに赤い帯をしめた、可也かなりせいの高いお嬢さんだつた。
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし犯人が若い女の方だとすると、煙草は可也かなり重要な証拠になると思う。金が目醒めざめている間には、あんなに煙草を撒き散すことは出来ない。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青柳と云うその男は、その町の開業医として可也かなりに顔が売れていたが、或私立学校を卒業したというその弟をも、お島はちょいちょい見かけて知っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで、その紳士泥坊は、五万円隠匿のかどによって、窃盗犯としては可也かなり重い懲役に処せられたのである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ああ礼金のことですね。あれは弁理士会の規則があって、最低料金が定められています。私のところは他の特許事務所よりも可也かなりたかいのです。」
可也かなりな締りやであつたから、倉敷を出して質屋へあづけてある衣類なども少くなかつたし、今少し稼ぎためようと云ふ気もあつたので、楼主と特別の約束で
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その顔は可也かなり長いあひだ、彼の心に残つてゐた。が、年月としつきの流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。
鬼ごつこ (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
見ると、きん金具のついた、可也かなり上等の二つ折り紙入れです。それがかさ高くふくらんでいるのです。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
避暑客の込合ふ季節なので、停車場は可也かなり雑沓ざつたふしてゐたが、さうして独りで旅をする気持は可也心細かつた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
けれども谷中やなかへは中々来ない。可也かなり長い葬列はいつも秋晴れの東京の町をしずしずと練っているのである。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なに馬鹿馬鹿しい程雑作ぞうさもない方法だったのですが、それを実行する土地を探すのには可也かなり手間どりました。ただ最初から中央線の沿線ということ丈けは見当をつけていました。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
可也かなりやったつもりだったが、どうしても出なかったのだった。
キド効果 (新字新仮名) / 海野十三(著)
僕が講演旅行へ出かけたのは今度里見弴さとみとん君と北海道へ行つたのが始めてだ。入場料をとらない聴衆は自然雑駁ざつぱくになりがちだから、それだけでも可也かなりしやべりにくい。
講演軍記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
察していたか知らない。敏感なお前は定めし可也かなり深い所まで想像をめぐらしてもいただろう。だが、流石のお前も、私の計画なり理想なりが、これ程根強いものとは、まさか知らなかっただろうね
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お産の前後、磯村は二三度、自身彼女に金を届けたり、為替かはせを組んだりした。それは磯村に取つては可也かなり骨の折れる仕事であつた。そして子供の顔を見た彼女の慾望が、段々大きくなつて行つた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その故に他の作家、殊に本来密を喜ぶ作家が、みだりに菊池の小説作法を踏襲たふしふしたら、いきほひ雑俗のへいおちいらざるを得ぬ。自分なぞは気質の上では、可也かなり菊池とへだたつてゐる。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
書斎の椅子にもたれて、何心なく其日そのひとどいた郵便物を調べていた平田氏は、沢山の封書やはがきの中に混って、一通の、可也かなりみだれてはいたが、確かに見覚えのある手蹟で書かれた手紙を発見して
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さうして、太鼓に腰を支へられながら「これは失礼」と声をかけた。君はその時、私がどんな心もちだつたと思ふ? 私は、この接触から来る可也かなり強い刺戟を予想してゐた。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
博士夫妻の部屋とは可也かなり隔っていることや、当夜は召使共は、それは二人の女であったが、熟睡していて朝の騒ぎで始めて目を覚し、夜中の出来事は少しも知らなかったということや、当の博士が
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕自身も「姿」とか「形」とか云ふ意味に「ものごし」と云ふ言葉を使ひ、すさまじい火災の形容に「大紅蓮だいぐれん」と云ふ言葉を使つた。僕等の語彙ごゐはこの通り可也かなり混乱を生じてゐる。
彼はソッと懐中電燈をともして、しらべて見ますと、それは可也かなり大きな木の節で、半分以上まわりの板から離れているのですが、あとの半分で、やっとつながり、危く節穴になるのを免れたものでした。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれども含芳の顔を見た時、理智的には彼女の心もちを可也かなりはっきりと了解した。彼女は耳環みみわを震わせながら、テエブルのかげになった膝の上に手巾ハンケチを結んだり解いたりしていた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この辺の心理は可也かなり不思議なものだが、併し、昔の物の本などによく例がある、つまり、それは、何人なんぴととも分らぬ男との、夜毎よごと逢瀬おうせは、恐らく、彼女にとって、一つのお伽噺とぎばなしであったのであろうか。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
我々は一しよに大学前の一白舎いつぱくしやの二階へ行つて、曹達水ソオダすゐに二十銭の弁当を食つた。食ひながらいろんな事を弁じ合つた。自分と成瀬との間には、可也かなり懸隔かけへだてのない友情が通つてゐた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
可也かなり遠方へ使つかいに出されたというではないか。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
上り列車に間に合ふかどうかは可也かなり怪しいのに違ひなかつた。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せてゐた。彼はなつめのやうにまるまると肥つた、短い顋髯あごひげの持ち主だつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
上り列車に間に合うかどうかは可也かなり怪しいのに違いなかった。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せていた。彼はなつめのようにまるまると肥った、短い顋髯あごひげの持ち主だった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)