あま)” の例文
旧字:
しかるに悉皆しっかい成就の暁、用人頭の為右衛門普請諸入用諸雑費一切しめくくり、手脱てぬかることなく決算したるになお大金のあまれるあり。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あますところの国もただ名義上において独立国たるを得るのみ。おもうにこれもまた早晩大蛇の腹中に葬るの命運を免れざるや否や。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
いまもつぶさに調べたが、城中のかては、あますところ、あと四、五日分しかない。死馬を喰い、草を喰うとも、幾日をつなぎ得よう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ勝伯が一しんを以て万死ばんしの途に馳駆ちくし、その危局ききょく拾収しゅうしゅうし、維新の大業を完成かんせいせしむるに余力をあまさざりし所以ゆえんにあらずや云々うんぬん
ここらで鴎外に対する在来の見方は綺麗きれいかたをつけて、これを変改するよりほかはない。それには唯一の方法しかあまされていない。
こちとらは帳面なンかつけやしねえ、年の暮になりゃ足りた時は足りた、あまらねえ時は剰らねえンだ、って左様そう云ってやりましたよ、と。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
A「ありがとう。幸いに平和に還った今日、天与のこの恩恵を活かして学問のために余生をあますところなく捧げるつもりです」
そこでも、味いあますがゆえにいつも暗鬱あんうつな未練を残している人間と、飽和に達するがゆえに明色の恬淡にさえる人間とは極端な対象を做した。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
集中には夏の詩がおほよそ六首ある。其中別宅の事を言ふ一首と避暑の事を言ふ二首とは既にかみに見えてゐる。あます所が猶三首ある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この時、せめて木戸孝允の命をあましたゞけでも、長藩のため、引いては明治維新のために、不幸中の幸と云はねばならない。
白糸は諸方に負債ある旨を打ち明けて、その三分の二を前借りし、不義理なる借金を払いて、手もとに百余円をあましてけり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うぐいすの声でも聞きながら、静かに終日働いていたのでその地に親しくなり、他日人の手があまってその附近に畑を開き田屋を構える時に及んでも
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おッとまかせと饒舌しゃべり出した、文三のお勢の部屋へ忍び込むから段々と順をッて、あまさず漏さず、おまけまでつけて。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けれども、敵はまだ二人ににんあましている。加之しか一人いちにんの味方をきずつけられた彼等は、いかってたけってお葉に突進して来た。洋刃ないふ小刀こがたな彼女かれ眼前めさきに閃いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その窓をあました南側の壁と向うの北側の壁とには、ほとんど軸のかつてゐなかつた事がない。蔵沢ざうたく墨竹ぼくちく黄興くわうこうの「文章千古事ぶんしやうせんこのこと」と挨拶をしてゐる事もある。
漱石山房の秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
割合に気楽な官吏の生活を送ったものが多年倹約してあました蓄財を日に日に減らして行くは、骨を削り肉を刻むに等しい堪えがたい苦痛であるのが当然で
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
以上のような工合で六千枚のコレクションもまずあますところなく綺麗に分類されてしまう。これを要約すると
肉体の関係ということにもいろいろある佐助のごときは春琴の肉体の巨細こさいを知りつくしてあます所なきに至り月並の夫婦関係や恋愛関係の夢想むそうだもしない密接な縁を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「じゃ、千円札で五枚、それにあまったこまかいのが、百円札と銀貨を合わせて総計五千九百円になる。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
山を照し、谷を輝かして、あまる光りは、又空に跳ね返って、残る隈々くまぐままでも、鮮やかにうつし出した。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
持っていった金も半分たらずあまして、帰って来てから、この春の時に用意したお島の婚礼着の紋附や帯がまた箪笥たんすから取出されたり、足りない物が買足されたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一機をもあますところなく直ちに艦上を離れ、空中に於て強行戦闘隊形をととのえ日本艦隊及びそれに属する空軍とを撃破し、以て吾が艦隊の不利なる戦績を救済きゅうさいすべし。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あわてたなら、一人二人をたおすことが出来ても、五人の敵を、あまさず亡ぼすことは不可能であろう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そうした場合には、右の人物の悪癖の矯正に手間どれて、あますところが幾何いくばくもないことになる。
五大洲の彼に圧せらるる形勢は既にその四所に蔓延し、一塊の乾浄土かんじょうどあますは、ただ僅にわが黄人の故郷、亜洲あるのみ。然るに君、一たび試みに亜洲の地図を検し給え。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
紀昌は早速さっそく師のもとおもむいてこれを報ずる。飛衛は高蹈こうとうして胸を打ち、初めて「出かしたぞ」とめた。そうして、直ちに射術の奥儀秘伝おうぎひでんあますところなく紀昌に授け始めた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「たぶん手続が遅れているのは、算哲の遺言書でもあるからだろうが、あますところもう、法定期限は二ヶ月しかない。それが切れると、遺産は国庫の中に落ちてしまうんだ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
圧スル有リ/五月東山兵火発ス(中略)/金銀仏寺一炬ニ付ス/荒涼只あまス枯林ノ叢〕云々。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
百年を十で割り、十年を百で割って、あますところの半時に百年の苦楽を乗じたらやはり百年の生をけたと同じ事じゃ。泰山もカメラのうちに収まり、水素も冷ゆれば液となる。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれは誰ひとり他人を不幸にした覚えがない。寡婦ごけのものをふんだくったこともなければ、人を破産させたこともない。おれはただ有り余った上のおあまりを頂戴しただけのことだ。
彼の刑期は三年でまだあと二年の月日をあましていた。彼も東京にいたのだった。鳶職とびしょくであった。しかし足場からちたことがあって、足を痛めてからその職も休んでいたようであった。
その人 (新字新仮名) / 小山清(著)
阿Qは彼に二枚の煎餅をねだり、食べてしまうと四十蝋燭のあまり物を求めて燭台を借りて火を移し、自分の小部屋へ持って行ってひとり寝た。彼は言い知れぬ新しみと元気があった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
店も最後の四条の宿屋兼薬屋をあますのみとなり、女も一番新しいお雪さんだけみたいになつてゐたが、お信さんを養女にしたのは、それから十四五年も前の、丁度全盛時代のことらしく
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
あます所は燕麦からすむぎがあるだけだったが、これは播種時たねまきどきから事務所と契約して、事務所から一手に陸軍糧秣廠りょうまつしょうに納める事になっていた。その方が競争して商人に売るのよりも割がよかったのだ。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
搾り粕の人間のやつれ死は、まだまだ幸福な方で、社会—裟婆—で云えば国葬格だ。未だ搾り切れずに幾分の生気をあまして居る人間は、苦しまぎれに反抗もする、九死に一生を求めて逃亡も企る。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
といって三郎をれていった。そこに倉があって三十石にあまる粟がたくわえてあった。それがあるなら家賃を払ってもまだあまりがあった。三郎は喜んだ。そこで屋主の謝に粟をとってくれといった。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
画料数百貫をあまし得て、駿馬一頭を伯楽し、それに馭して以て房州の海に帰り候はば欣快至極と存じ候へ共、これは当になり申さず、但し画嚢ぐわなうの方は、騰驤磊落とうじやうらいらく三万匹を以て満たされ居り候へば
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
フロルスは隅々まで気を配つて、しかも足早に監獄を見て廻つて、最後の地下室をもあまさなかつた。その目附は馴染のある場所を見て廻るやうな目附であつた。最後にフロルスは詞せはしく問うた。
その間も金ゆえ逢れぬとなると倍一倍逢たさが差募さしつのり、わずか三四十銭の小銭をあますばかりの蟇口がまぐちを袂へ入れて、一夜ふらりと秋元を出たが、貞之進とてもそれで小歌に逢えると思ったのではなく
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
どんな陶酔を持てあましていた事か——。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あまさず7650
それがいかにもよろこびにあふれ、青春を持てあましている食後の夜の町のプロムナードの人種になって、特に銀座以外には見られぬ人種になって
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
少小より尊攘のこころざし早く決す、蒼皇そうこうたる輿馬よば、情いずくんぞ紛せんや。温清おんせいあまし得て兄弟にとどむ、ただちに東天に向って怪雲を掃わん
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
然るに悉皆しつかい成就の暁、用人頭の爲右衞門普請諸入用諸雑費一切しめくゝり、手脱てぬかる事なく決算したるに尚大金のあまれるあり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
この海角の荒野原をあますにだも漸く難からむとするを看れば、英雄といへども、一たび地下に瞑するや、千古の威名、はた虚栄に過ぎざるごとし。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
その窓をあました南側の壁と向うの北側の壁とには、ほとんど軸のかつてゐなかつた事がない。蔵沢ざうたく墨竹ぼくちく黄興くわうこうの「文章千古事ぶんしやうせんこのこと」と挨拶あいさつをしてゐる事もある。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
抽斎の性行とその由ってきたる所とは、ほぼ上述の如くである。しかしここにただ一つあます所の問題がある。嘉永安政の時代は天下の士人をしてことごとく岐路に立たしめた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
出鱈目でたらめをお云いでないよ。妾は知らないことだよ。——さあ、もう時間はあますところ一分だよ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうなると、あますところは僅かに百銭に過ぎないので、劉はその村でおぎ十余束を買い込み、あしたの朝になったらば船に積むつもりで、その晩は岸のほとりに横たえて置いた。
つまり、扉口から窓際に向っている二条にじょうのうちの一つが、一番最後にあまってしまうのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)