内々ないない)” の例文
……俺は小さい時から一種の精神異状者に生れ付いているのじゃないか知らん……なぞと内々ないないで気を付けるようになったものである。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おッ母さんもね、内々ないない心配していただよ。ひどいことを言うって、どんなこと言うのかい。それで男親は悪い顔もしないかい」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「かうなつちや經費が溜らん。」と、父はこぼしてゐたが、避病院を島へ建てたことを、祖母などに向つて内々ないないで後悔してゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
朱子しゅしちゅうって論語を講釈するのを聞いたより外、なんの智識もないのだが、頭の好い人なので、これを読んだ後に内々ないない自らかえりみて見た。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしお約束を忘れてはならないのですから、腹の中では、今に何かって来られるだろう来られるだろうと思って、内々ないないこわがっていました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは本名を鳥居圭三とりいけいぞうという三十五にもなる男でカフェ・ネオンの現業員げんぎょういんの中でも最年長者なのだ。こいつは、内々ないない春ちゃんに気があるらしい。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白妙ただ一人、(でも。)とか申して、内々ないない思ひをほのめかす、大島守は勝手が違ふ上に、おのれ容色きりょう自慢だけに、いまだ無理口説むりくどきをせずにる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
兄上に見とがめられなくても、内々ないない嫂上あねうえに相談して力になって頂こうと思い定めていたのに、その前に見つかって早速叱られてしまいましたよ。
今では御本丸へ出仕するような身分になっているのを幸い、是非にもと縋付すがりついてごく内々ないないに面会を請うた次第であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大神おおかみもこれには内々ないないびっくりしておしまいになりまして、しかたなくいっしょに御殿ごてんへおかえりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「それを聞いてわたしも安心しました。馬籠から中津川の方へ無事に浪士を落としてやることですね、福島の旦那様も内々ないないはそれを望んでいるんですよ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
おとらが内々ないないお島の婿にしようと企てているらしい或若い男の兄が、その頃おとらのところへ入浸いりびたっていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
疑っていたのだよ。内々ないないスリを働いているんじゃないかとね。ハハハハハ滑稽だね、それで遠慮をして、その後逢った時にも、わざとそのことを話さなんだのさ
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
権力の下ではしかたがないと、泣き寝入りにしている人もあるというが、秀吉のわるさや、好奇心では、内々ないないいろんな噂がある。忠興は、それをよく知っている。
お登和お登和と女房らしく呼棄よびすてになさるのは内々ないないその美人に野心があるのですね。そうにちがいありません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ですから犬が死んだ時には、そりゃ御新造には御気の毒でしたが、こちらは内々ないないほっとしたもんです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
は、御意にござります、万事お申しつけ通りに、極めて内々ないないに取計らい仕りました、今日、現品を
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
実は、極く内々ないないの話だが、今でこそ私は腰弁当と人の数にもかずまえられぬ果敢はかない身の上だが、昔は是れでも何のなにがしといや、或るサークルでは一寸ちょっと名の知れた文士だった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大方そんなことぢやあないかと内々ないないあやぶんでゐたんですが、今更どうにも仕様がありません。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
出抜だしぬけに蘭学の修業に参りたいと願書を出すと、懇意なその筋の人が内々ないない知らせてれるに
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
尋常の人は遺言をしても、内々ないないは前途にある死を恐れながら書いている。それではいけない。それに書くものは、目で見たり手でつかんだりするようなものを材料にしたくない。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「そうさ二里位遅れて居るかも知れぬ。」「実はこの間からあなたに内々ないない申し上げたいと思って居った事ですが、実は彼の二人の荷持はあなたの身にとっては恐ろしい人です。 ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それでも神様かみさまほうでは、格別かくべついかりにもならず、内々ないないひいさまのところをお調しらべになってられたものとえまして、今度こんどいよいよ時節じせつたとなりますと、御自身ごじしんわたくし案内あんないして
「これから、一人一人に内々ないないで訊きたい。まずお越だけ、お勝手へ来て貰いたいが」
そこでおれは時々自分の家で飲む時には必らず今の太郎坊と、太郎坊よりは小さかった次郎坊とを二ツならべて、その娘と相酌あいじゃくでもして飲むような心持で内々ないない人知らぬ楽みをしていた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いいえ。わたくしはほんとに、若松屋惣七から参ったのでございます。ちょっと内々ないないで、お耳に入れておきたいことがございまして——わたくしは、若松屋惣七の女番頭でございます」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
岩崎三井みついにも少々融通してやるよう相成るべきかと内々ないない楽しみにいたしおり候
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
どこへでも二人が並んで顔を出すと、人が皆ささやき合う。男はしっかりしてあやうげがなく、気力があふれて人をしのいで行く。女はすらりとして、内々ないない少し太り掛けていると云う風の体附きである。
号外が最う刷れてるんだが、海軍省が沈黙しているから出す事が出来んでり焦りしている。尤も今日は多分夕方までには発表するだろうと思うが、近所まで用達しに来たから内々ないないそっらしに来た。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
困らぬように内々ないない面倒は見てやられるのだとも聞いていた。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
支那海まで進出して宜しいという鼻息を、総督から内々ないないで吹き込まれた……というと実に素晴らしい、堂々たる事業に相違ない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先生の細君はこう言ったら、お冬さんはきっと弟の方がいいというに違いないと、内々ないない心の中ではそう思っていた。
噂ばなし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ですが、唯今は、ほんのこれは内々ないないの下見なので。……後に御披露の上、皆さんにおいでを願う筈に成っています。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
徳川幕府あって以来いまだかつて聞いたこともないような、公儀の御金蔵おかねぐらがすでにからっぽになっているという内々ないないの取り沙汰ざたなぞが、その時、胸に浮かんだ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ただ従兄の父親だけは——つまりあたしの叔父おじだわね。叔父だけはよめに貰いたいのよ。それも表向きには云われないものだから、内々ないないあたしへ当って見るんでしょう。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「遠くて近きは何とやらだよ。この上は隣の武大ぶだに知れないよう、頼むは神様仏様、次いでは王婆様々だ。今日だけでなく極く内々ないないに、この後の首尾もひとつたのむぜ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
祖母も其は然う思わぬでもないから、内々ないない自分が無理だと思うだけに激する、言葉が荒くなる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その時の一体の事情を申せば、前に申した通り、私は十二、三年間、夜分外出しないと云う時分で、最もみずからいましめて、内々ないない刀にも心を用い、がせてれるようにして居ます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ほんとうに神隠かみかくしにでも逢った様な気がします。警察のほう内々ないないで捜索を願ってあるんですし、主人を始め出入の方も手分けをして方々ほうぼう探しているのですけれど、まるで手がかりがありません。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
親分さんに少し内々ないないで申し上げて置きたいことがございますが……。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
親戚しんせきの、幼馴染おさななじみ一人ひとり若人わこうど……世間せけんによくあることでございますが、敦子あつこさまははやくからみぎ若人わこうどおもおもわれるなかになり、すえ夫婦めおとと、内々ないない二人ふたりあいだかた約束やくそくができていたのでございました。
内々ないないにお願い申上げたいことがございます、お人払いを——」
今日は大統領の意向、ならびにかねて申し上げ置き候英国政府の思惑おもわく内々ないないに申し上げ候儀に御座候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こちらは鼻蔵はなくら恵印法師えいんほうしで、『三月三日この池より竜昇らんずるなり』の建札が大評判になるにつけ、内々ないないあの大鼻をうごめかしては、にやにや笑って居りましたが
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐ河向かわむこう須賀町すがちょうなので、内々ないない様子をききに行ったのだと言うので、「そんなら早くそう言やアいいのに。」とわたしは百円札を並べて見せ、証文は丸抱まるがかえの八百円というのだから
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「何、まあね、うぞこれを打つことのないやうにと、内々ないない祈つて居るんだよ。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さればこそ、内々ないない、尊氏から切に、神器のお譲り渡しをおねがい申し出てあるのだ。さる折に、そちが事をこわしては困るではないか。……さっそくに、御待遇ごたいぐうを、ゆるやかにあらためろ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何本でもみんな製薬用にして返さぬと云うのだから、酒屋でも少し変におもったと見え、内々ないない塾僕に聞合ききあわせると、このせつ書生さんは中実なかみの酒よりも徳利の方に用があると云うので、酒屋は大に驚き
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私は内々ないない其を心待にしていて、来ると急いで部屋を出て椽側を彷徨うろつく。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
大きい町人の中には、内々ないない米の買い占めをやってるものがあるなんて、そんな評判も立ちましたからね。まあ、この一揆を掘って見たら、いろいろなものが出て来ましょう。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)