光芒こうぼう)” の例文
それでも二つ三つの光芒こうぼうが、暗黒の室内をあわただしくひらめいたが、青竜王に近づいたと思う間もなく、ピシンと叩き消されてしまった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空気の乾いているせいか、ひどく星が美しい。黒々とした山影とすれすれに、夜ごと、狼星ろうせいが、青白い光芒こうぼうを斜めにいて輝いていた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかしこれだとすると、たいていは光芒こうぼう射出といったようなふうに見えるのであって、どうも「火の玉」らしく見えそうもないと思われる。
人魂の一つの場合 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
と、油断をいましめ合う一部もあった。事実、信長の見まわしている天地の一方に、謙信の存在はなお北斗ほくとのような光芒こうぼうさんとして持っていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にょきにょきと屋根がとがった、ブラゴウエシチェンスクの市街は、三時半にもう、デモンストレーションのような電灯の光芒こうぼうに包まれていた。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
しばし承引の返事もなく思いわずらう宮の胸中を一条の光芒こうぼうが閃いた。相人そうにん上手うまいといわれた少納言惟長これながのことである。
そのうち、彼の眼に異常な光芒こうぼうが現われたかと思うと、ポンと床を蹴って、その高い反響こだまの中から、挙げた歓声があった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
最後の光芒こうぼうが、すすけた屋根ひさしをけばけばしく隈取くまどっていた。けまわる子供らのかんだかいこえがさざめいている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
だが、そのとき、殺気をなごめるようにぽっかりと光芒こうぼうさやけく昇天したものは、このわたりの水の深川本所屋敷町には情景ふさわしい、十六夜いざよいの春月でした。
鶏犬の声によって、この場の会話ははなはだ白けてしまいました。弁信法師のせっかくの広長舌も、なんとなく出端でばなを失い、光芒こうぼうを奪われたかのような後退ぶりです。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もろもろの陰は深い瑠璃色るりいろに、もろもろの明るみはうっとりした琥珀色こはくいろの二つに統制されて来ると、道路側のかわら屋根の一角がたちまち灼熱しゃくねつして、紫白しはく光芒こうぼう撥開はっかい
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いつの間にか彼の生来の鋭い詩魂は光芒こうぼうを現して、現在のフランス新詩壇では彼に追随するものが一人もないと云われるほど絶対の権威を持続するまでにいたっていた。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
元日が最もはげしく、暮れたばかりの夜空に、さながら幾千百の銀蛇ぎんだが尾をひくように絢爛と流星りゅうせいが乱れ散り、約四半時はんどきの間、光芒こうぼうあいえいじてすさまじいほどの光景だった。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すばらしい皮の箱があったから、大方宝石だろうと思って開けて見たら、大きな医刀メスだった。光芒こうぼう電閃でんせん春尚お寒く光っている。さぞく切れるだろう。何か切って見よう。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
文人乎、非文人乎、英雄乎、俗人乎、二葉亭は終にその全人格をひとにも自分にも明白に示さないで、あたかも彗星の如く不思議の光芒こうぼうを残しつつ倏忽しゅっこつとして去ってしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかもこの一切を黙ってひきつれて、なおゆるぎなく合掌する不空羂索観音の威容は、天平のあらゆる苦悩と錯乱の地獄から立ちあらわれた姿として、益々ますます光芒こうぼうを放つのだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
又は金銀色の光芒こうぼうを散らしつつ、地上最初の生命の自由を享楽しつつ、どこを当ともなく浮游し、旋回し、揺曳しつつ、その瞬間瞬間に分裂し、生滅して行く、その果敢はかなさ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだ顔をふき終らぬうちに高射砲がなりはじめ、頭をあげると、もう頭上に十何本の照空燈が入りみだれて真上をさして騒いでおり、光芒こうぼうのまんなかに米機がぽっかり浮いている。
白痴 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
闇の空を掻き廻す巨大な白銀しろがねの延棒、幾十条の照空燈の光芒こうぼうは、やがて上空の一点に集中し、敵機の姿を白熱の焦点にとらえた。四発の大型爆撃機である。名にし負う「超空の要塞」。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのままスルスルと力柱、宙に向かって昇って行く、遅く出でたる片割れ月は、柱の頂きに引っかかり、光芒こうぼうあお利鎌とがまの如く、夜嵐颯々さっさつと吹く中に、突っ立ち上がった五右衛門の姿は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
世にも不思議な巨大なランプの月の傘の如く八方に放った光芒こうぼうが澄明な黄金の輪を現出して、その一区劃の中ばかりが戦闘準備のように花々しい活気を呈している面白い光景に僕は魅了された。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
腐れたわら屋根。レモンの丘。チャボが花のように群れた庭。一月の太陽は、こんなところにも、霧のような美しい光芒こうぼうを散らしていた。畳をあげた表の部屋には、あのひとの羽織がかけてあった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
魚の卵や昆布の葉質とにらめッくらをしているような味気ないわたし達の雰囲気にひきくらべて、荒海の彼方かなたへ夜ごとに秘めやかな光芒こうぼうをキラリキラリと投げつづけている汐巻灯台の意味ありげな姿が
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
白色光の神秘な光芒こうぼうがあたりに耀かがよいはじめた。……そして、どこからともなく、「雅楽」のような不思議な楽音がかすかに聞えて来る。やがて、文麻呂は魂を失ったもののごとく、茫然として立上る。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
僧一 黄色くて、そして光芒こうぼうが少しもありませんね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
無限にける光芒こうぼうのゆくてに思馳おもひはするなく
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
さすがの「火の玉」少尉も、すこし不安な気持になって、照空灯のまぶしい光芒こうぼうを手でさえぎりながら、地上の騒ぎをじっと見下していた。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聯合艦隊が芝浦しばうらに集合して、昼は多勢の水兵が帝都の街頭に時ならぬユニフォームの花を咲かせ、夜は品川湾の空に光芒こうぼうの剣の舞を舞わせた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
四明しめいだけのうしろに、夕雲の燦爛さんらんをとどめて、陽は落ちかけていた。——湖上にも虹のような光芒こうぼうが大きく走って、水面は波騒なみさいを起こしていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月の出ない前、碇泊中ていはくちゅうの独艦のサーチライトが蒼白い幅広の光芒こうぼうを闇空に旋回させて、美しかった。床に就いたが頸部けいぶのリウマチスが起って中々眠れない。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
光芒こうぼう寒き銀蛇ぎんだ一閃いっせんさせたものでしたから、並みいる花魁群のいっせいにぎょッとしながら青ざめたのはいうまでもないことでしたが、しかし、その驚愕きょうがくはただの秒時——。
懐中電燈の光芒こうぼうが小さな探照燈の様に入りみだれた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
カタリと音がして、スクリーンの上に、青白い光芒こうぼうが走った。こんどは十六ミリであるから、画面はスクリーンの真中まんなかに小さくうつった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それによって、その全生涯が定まるし、また、泡沫ほうまつになるか、永久の光芒こうぼうになるか、生命の長短も決まるからである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時三名人の放った矢はそれぞれ夜空に青白い光芒こうぼうを曳きつつ参宿さんしゅく天狼星てんろうせいとの間に消去ったと。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
有り難い、壊れていなかったのだ。眩しい光芒こうぼうの中に異様な空気管の内部が浮びあがった。彼は元気をとりかえして、ゴソゴソと前進を開始した。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
西方になお恒星こうせいかがやき、客星の光芒こうぼう弱く、今年はなお征軍に利あらず、大将の身には凶事のきざしすらあり、くれぐれ身命をつつしみ給えとしたためてある
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに一歩ふみ出すと、それと共に伸びた物干竿の切先一尺ほどに、軒の月が白くした。チカッと、余五郎の眼もくらむばかり、白い光芒こうぼうがそれからねた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
用心ぶかくソロソロと降りてゆく黒影の人物の手は休みなしに懐中電灯の光芒こうぼう周囲まわりの壁体を照らしていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
潜水服に潜水兜をつけたワーナー博士の海底調査隊の数人の姿が、この光芒こうぼうの中にありありと捉えられた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
この河の、はるか海口うみぐち、尼ヶ崎の空へむかって光秀のひとみが、光芒こうぼうを放ったようにすわったとき、彼のくちびるはかつて吐いたことのない強い語気をもらした。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地上からは、噴水のように、青白い光芒こうぼうを持った照空灯が、飛び上ってきた。ゴンドラの、防弾硝子ガラスで張った窓が、チカチカと、その光芒に、射すくめられた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「天に口なし人をもって言わしむ、とか。その童歌も、北斗のあやしき光芒こうぼうも、偶然ではございませんぞ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうたまりかねたものか、一行のうちから、サッと、懐中電灯の光芒こうぼうが、射るように、高い天井を照した。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると、夜もけてきた頃、一つの大きな星が、あやしい光芒こうぼうをひいて、西の空へ飛んだと思うと、白い光煙をのこして、ぱっと砕けるごとく、大地へ吸いこまれた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして七日目の満願まんがん三更よなかだった。誰もが神気朦朧もうろうとしているうちに、宋江は夢ともうつつともなく一きょの白い光芒こうぼうが尾をひいて忠義堂のそとの地中にちるのを見た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この洋杖こそ孫悟空そんごくう如意にょいの棒ではないが、学士自慢の七つの仕掛のある護身杖ごしんづえであった。いま流れだした光芒こうぼうは、その杖の先に仕掛けた懐中電灯の光であったことは云うまでもない。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
刀は、いうまでもなく、いつもの長刀物干竿ものほしざお厨子野ずしの耕介が研桶とおけに古い錆垢さびあかを落して光芒こうぼうを改めて以来、近頃しきりと、血にかわいて、血をむさぼりたがっている刀である。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、その瞬間に、ガラス箱の中が、紫の色目もあざやかな光芒こうぼうでみたされた。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そういえば近頃、成都の西北の天に、毎夜のごとく、瑞気ずいきある光芒こうぼうが立ち昇っている」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)