あわ)” の例文
女性はよろしくその処置に女性特有な冷めたい細心と美の放散をあわせ用いて、逆に男へ火をつかませる思いを与えなければなるまい。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわせてその邪魔になる佐藤孫四郎の命を縮めるよう……詰まりは恋に眼がくらんで、白蝶の邪法を行なうことになったのでござります。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼の指揮は、ワルターのように整然とした中に、トスカニーニの覇気とフルトヴェングラーの劇的な面白さをあわせ備えたものである。
かれは文学と画とをあわせ学び、これをもって世に立ち、これをもってかれ一せいの事業となさんものと志しぬ、家は富み、年は若し。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
この頃『俳句とはどんなものか』『俳句の作りよう』をあわせて一冊として重版するという事になって、それを校正しながら読んで見た。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あの頃は世界の大勢に逆行しあわせて我我若い婦人の内部要求を無視した旧式な賢母良妻主義が一般女子教育家の聡明をおびやかして
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ところがその当時日本は福建ふっけん省の不割譲を約束してあったのもあわせて罵倒した様な訳で、各新聞などから甚だ相済まぬという批評を受けた。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
振返った途端に、右のほおげたから上下の歯をあわせて斜めに切って、左のあばらの下まで切り下げられて、二言ふたことともありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その外の俳句、芭蕉たると蕪村たるとに論なく、古句たると新句たるとを問はず、他人の作と自己の作とあわせてことごとくこれを忘れざるべからず。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
撰者名のある本もあわせ御所持になったかも知れぬが、それは本来は和歌所の事務関係の台本たるべき性質のものだったろう。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
それで私はここに一言を附加して、私の不明を謝し、あわせて私の誤解を正してくれた人々の親切をありがたく思うむねを公けにするのである。〕
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『太陽』へ出すこの文と『現代』へ寄せたかの文をあわせ読んだら、諸君は必ずよくもまあたった一つのこの鳥について、かくまで夥しい材料を
われらが渇けるがごとくに求めつつある善の概念の内容は自然の真相と性情の満足とにあわせ応うる豊富にして徹底せるものでなければならない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「果断より来たる者あり、より来たる者あり、勇より来たる者あり。義と智をあわせてしかして来たる者あるは上なり。いたずらに勇のみなる者し」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なお、和算と洋算とを学校にあわせ用いたいとの彼の意見にひきかえ、筑摩県の当局者は洋算一点張りの鼻息の荒さだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老いたる祖母は浦賀で困厄こんやくの間に歿した。それでも跡に母と妻と子とがある。自己をあわせて四人の口を、かくの如き手段でのりしなくてはならなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
◯ヨブ記十章とあわせて読むべき者は詩四十二、三篇である。「わが魂は渇ける如くに神を慕う、活ける神をぞ慕う」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
為永春水ためながしゅんすいの小説『梅暦うめごよみ』の続篇たる『辰巳たつみその』以下『梅見船うめみのふね』に至る幾十冊の挿絵は国直の描く処にして余は春水の述作とあわせて深くこの挿絵を愛す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兄弟力をあわせて家を保たんには家も無事長久なるべけれど汝等互ひに私慾を図りて分れ分れとなりなば、一条の糸の弱きがごとくなりて家も衰へ亡ぶべし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おんあるじ、大いなる御威光ごいこう、大いなる御威勢ごいせいを以て天下あまくだり給い、土埃つちほこりになりたる人々の色身しきしんを、もとの霊魂アニマあわせてよみ返し給い、善人は天上の快楽けらくを受け
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
右に分業といったが、すなわち、花盤かばん上にある小花はもっぱら生殖をつかさどり、周辺にある舌状ぜつじょう小花は、昆虫に対する目印めじるし看板かんばんあわせて生殖を担当たんとうしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
帆村は何も応えなかったが、先に園長令嬢のトシ子と語ったときのことと、いま西郷副園長が冗談にまぎらせて云ったこととをあわせて頭脳あたまの中で整理していた。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
したがってこの『詩の原理』は、かかる文壇に対する挑戦ちょうせんであり、あわせてまた当時の詩壇への啓蒙けいもうだった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
問題が、具体化した以上いつまでも、京子に対して曖昧あいまいな態度をとってはいられなくなった。ハッキリ断ることが、自分を救い、あわせて京子を救うことになるのだ。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もしある期間を過ぎても、両人の醜行改まる模様なき時は、本紙は容赦なく詳細の記事を掲げて畜生道ちくしょうどうに陥りたる二人ふたりを懲戒し、あわせて汽船会社の責任を問う事とすべし。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は実は、「聞書」が伝える順慶の直話じきわに依ってその光景を紙上に再現し、あわせて順慶が、弓矢を捨てたのみか琵琶をも捨てゝ、或る時は悔い、或る時は怒り、或る時は悟り
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
興味とをあわせ持っている者で、これを実地に試験すべく最適当した時機……すなわち被害者、呉一郎が或る大きな幸福に対する期待に充たされている最高潮のところを狙って
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、有体ありていにいうと沼南は度量海の如き大人格でも、清濁あわむ大腹中でもなかった。それよりはむしろ小悪微罪に触れるさえ忍び得られないで独りをいさぎようする潔癖家であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
假令たとひ監視かんしからのがれてをんな接近せつきんしたとしても、んだをんなじやうこはければ蛸壺たこつぼたこだまされるやうにころりとおと工夫くふうのつくまではをとこ忍耐にんたいむし危險きけんとをあわせてしのがねばらぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あわせて、知りつつ企らんだ不義ならば何と召さる。かような膳立てになろうとは承知のうえでこの主水之介、わざとお借り申した膝枕じゃ。どうあっても切腹せぬと申さば何と召さる!
こうしたいっさいのことをあわせて考えると、フリーダとアマーリアとのあいだにどんなちがいがあるのでしょうか? ただ一つのちがいは、アマーリアが拒んだことをフリーダはやった
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
兄貴のフェリックスは、「こん畜生」といいながら、くぎの頭が並んでいる重い戸にぶつかって行く。戸はしばらく音を立てている。それから二人は、力をあわせて、肩で押す。むだである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
小杉雅之進こすぎまさのしんと、医師二人、水夫火夫かふ六十五人、艦長の従者をあわせて九十六人。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかしてその間、スペイン・仏・露・メキシコその他の諸国より購求してもってわが版図にあわせたる土地は諸君の熟知するごとくきわめて大にして、人口もまた三百万より五千万に増加したり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
織江からきたる十五日御登城の節お通り掛けお目見え仰付おおせつけらるゝ旨、かつ上屋敷に於てお長家ながやを下し置かるゝ旨をもあわせて達しましたので、大藏は有難きよしのおうけをして拝領の長家へさがりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
是らは後に倉稲魂、ウガノミタマという神の条においてあわせ述べたい。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なぜあなたがたは自分の理想と敵の理想とをあわせ用いないのですか。
樺太の半をおさめ、朝鮮をあわせ、南満洲に手を出し、布哇を越えて米国まで押寄する日本膨脹の雛型ひながたででもあるように、明治四十年の二月に一反五畝の地面と一棟のあばら家からはじめた私共の住居すまい
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
取りあわせると
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
洛内守護の任を果し、あわせて伏見城に秀吉の安否を見舞って、彼は近く関東に帰る予定であったが、なお、ここに野陣している間も
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岡っ引だって顔のいい奴には何とか挨拶をして置かなけりゃあならねえ。そんなこんなをあわせると、まず四、五千両は要るだろう。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二重唱の重要なレコードは、独唱の項にあわせて掲げた。三重唱以上のレコードにも、良いものは少くないが、取り立てて掲げるものは——
その後広重が浮世絵派から出て前にもいふたやうに景色画を画いたといふのは感ずべき至りで文鳳とあわせて景色画の二大家とも言つてよからう。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さっきから貰わせまい貰わせまいとしていらっしゃるんです。つまりこのお金を断ることによって、あわせて私の親切をも排斥しようとなさるのです。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十三年四月赤松殿阿波国あわのくにあわせ領せられ候に及びて、景一かげかずは三百石を加増せられ、阿波郡代あわぐんだいとなり、同国渭津いのつに住居いたし、慶長けいちょうの初まで勤続いたしそろ
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私は日本人の一人であり、あわせて日本婦人の一人である立場から、下のような人格の候補者を物色して国民の代表者として頂きたい希望を持っております。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
南方の密室は赤道以北の住民には見るあたわざる星を総称したものであろう。(これと三十八章三十一、二節とをあわせて当時の天文知識を知る良資料となる)
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
私は人格物を憧憬するならば霊肉をあわせて憧憬したかった。生命と生命との侵徹せる抱擁を要求するならば、霊肉を併せたる全部生命の抱合が望ましかった。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
よってその勧められるがままに旧版を校訂しあわせて執筆当初の事情と旧版の種類とをここにしるすことにした。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二月、怒るまい事か三月から初め三日を借り、自分に残った末の三日とあわせて六日間強く霜を降らせてことごとくその綿羊を殺し、老女をして次団太踏ましめた。