二十歳はたち)” の例文
生みました。その長三郎が当年二十歳はたちになりますから、おかみさんは三十八で、容貌きりょうも悪くなく、年よりも若く見える方でございます
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
十九かせいぜい二十歳はたちでしょうが、勝気らしい下町娘も、たった一人の兄が、人殺しの下手人で縛られてはひとたまりもありません。
「ちょうど、むすめも二十歳はたちをこえ、市十郎も、お役付きしてよい年配になりまする。では年暮くれのうちに、何かと、支度しておいて」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手に取り見れば、年の頃二十歳はたちばかりなる美麗うつくし婦人おんなの半身像にて、その愛々しき口許くちもとは、写真ながら言葉を出ださんばかりなり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「その者から聞いたのでございますが、あの北の方は並びない器量のお人で、年はようよう二十歳はたちばかりでいらっしゃる。………」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「いや、本気です。現代の婦人美は、玄人くろうとからすっかり素人しろうとに移りましたね。今の十七八歳から二十歳はたちまでのお嬢さんの美しさは……」
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
年はまだ二十歳はたちには達していまい。いずれ病死したものであろうが、それにしては、さしてやつれも見えず、顔も身体からだも適度の肉附きだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その年ごろは十八、九で、二十歳はたちまでは行ってはいないだろう。身長せいが高くてせぎすである。首なんか今にも抜けそうに長い。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かつ二十歳はたち前に、文体習得の目的を以て此の本を読んだことがあるのだから、全く呆れたものだ。あの頃、此の本の何が私に判ったろう?
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
十六歳の秋から二十歳はたちの夏までを送った学窓に離れて行く時が捨吉にも来た。荷物や書籍ほんは既に田辺の小父さんの家の方へ送ってあった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大槻というのはこの停車場ステーションから毎朝、新宿まで定期券を利用してどこやらの美術学校に通うている二十歳はたちばかりの青年である。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
この女中は二十歳はたちを越していて、何かよくわかったから、却って道案内をしてくれて、神田小川町の竹柏園の門に立ったことがあったのだ。
然し、せればせる程、私は最早やどうしても二十歳はたちの時のやう、他愛なく夢見るやうに遊ぶ事は出來ないらしく思はれた。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
けれども竹丸の眼には却つて父の方が老人に見えた。竹丸は今年十二で、二十歳はたちぐらゐの人はもう年寄のやうに思つてゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
鍔広つばひろなる藍鼠あゐねずみ中折帽なかをれぼう前斜まへのめりかむれる男は、例のおもてを見せざらんと為れど、かの客なり。引連れたる女は、二十歳はたちを二つ三つも越したるし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二十歳はたちか二十一、二とも思われる、女の姿のまた窈窕あでやかさ! しなやかな首筋はすんなりと肩へ流れて、純白女神のごとき白絹の綾羅うすものを装うていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
今の細君というのは、やッぱり、井筒屋の芸者であったのを引かしたのだ。二十歳はたちの娘をかしらにすでに三人の子持ちだ。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
お京の手紙には、二十五年前のことが書かれてあったのに、眼前の女は、どう見ても、まだ、二十歳はたちをいくつか過ぎたばかりとしか思われない。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
家出された時が二十歳はたちであったが着のみ着のままで遺書かきおきなぞもなく、また前後に心当りになるような気配もなかったので探す方では途方に暮れた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
江戸で伊豆伍いずごと言えば知らない者はないのだが、この伊豆伍の有名だったのは、その莫大な富ばかりではなく、今年二十歳はたちになるお園という娘が
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ご婦人です」助手の須永すながほがらかさをいて隠すような調子で答えた。「しかも年齢としの頃は二十歳はたちぐらいの方です」
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は二十歳はたち過ぎまでふるい家庭の陰鬱いんうつと窮屈とを極めた空気の中にいじけながら育った。私は昼の間は店頭みせさきと奥とを一人で掛け持って家事を見ていた。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
二葉亭が死ぬまでも国際問題を口にしたのは決して偶然ではないので、マダ二十歳はたちになるかならぬかの青年時代から血をかした希望であったのだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
二十歳はたちでせうか、二十一でせうか」「聞いて御覽な」「厭なお孃樣、そんなに仰しやらなくつてもいゝぢやありませんか」と今度はお常がふくれて
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
それから六年経って、二十歳はたちの時から一本立ちで生活することになりますと、初めて貧乏の辛さが解って来ました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その時分お雪はまだ二十歳はたちを少し出たばかりであった。色の真白い背のすらりとした貴婦人風の、品格の高い自分の姿が、なつかしく目に浮んで来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
五つ六つから二十歳はたちぐらいの三十人ほどの女にまじって、二、三人の男も見える。みな裸体に近い簡単な服装で、おどりは筋肉的な基本的旋律運動だ。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
その顔は今に忘れることが出来ない。好い色に白い、意地の強そうな顔であった。二十歳はたち頃の女の意地の強そうな顔だから、私には唯美しいと見えた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「それそれそのおくみは四寸にしてこう返して、イイエそうじゃありません、こっちよこしなさい、二十歳はたちにもなッて、お嫁さまもよくできた、へへへへ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「あら! そんなこと御座いませんわ。ここで死んだベラ・キスさんは十九か二十歳はたちの小柄な綺麗な人でしたわ」
生きている戦死者 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
まだ二十歳はたち前の青年であるけれども、なかなか腕のすぐれた人で、この人が主となってその製作をやっておった。
はらす其爲にやいばを振つてあだたふす實に見上げたる和女そなた心底しんてい年まだ二十歳はたちに足らざる少女の爲可きわざにはあらざりける男まさり擧動ふるまひこそ親はづかしき天晴あつぱれ女然れども人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
車の中からはすだれをあげて返事をした。それは二十歳はたちばかりの珍しい美人であった。女は陶を見かえって
黄英 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
涙までためてよろこぶ子どもっぽいしぐさなのに、じみ作りな彼女は二十歳はたちやそこらとは見えなかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
二十歳はたち前後が一番百姓仕事にが入る時ですから、とこぼす若いとっさんもある。然し全国皆兵の今日だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夢みがちな二十歳はたち前後の若者が芝居の帰り道に、スペインの街や夜や、額に捲毛まきげをたらしてギターをかかえた素晴らしい女の姿などを胸に描きながら歩いている時
「うむ、そうか。わかった、わかった。浦部俊子に一人の妹があった。あの娘が順調に生長していれば、丁度二十歳はたち前後、——当時の俊子と同じくらいの年恰好になる」
房枝さんは、そのころ二十歳はたちになったばかりの心のやさしい娘だったが、わずか半年ほど楽しい日を味わっただけで、古い上靴のようにあっさりと捨てられてしまった。
別れまゐらせし歳は我が齢、僅に二十歳はたちを越えつるのみ、また幼児いとけなきを離せしときは六歳むつつと申す愛度無あどなき折なり、老いて夫を先立つるにも泣きて泣き足るためしは聞かず
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
悲しくも懐かしくも嬉しき思い出として二十歳はたちの今日もしみじみと味わうことが出来るのである。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
二十歳はたちに少し足らぬのであるが、すべてが整って美しいこの人に院の御目はとまって、じっと顔をおながめになりながら、どう処置すべきかと御煩悶はんもんあそばされる姫宮を
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
その腹心がほかならぬ私であるのはいささか笑止の次第であるが、甥でもあり、孤独の叔父には年齢の差が問題でなく二十歳はたち頃から唯一のコンフィダンでもあつたところの私をおいて
狼園 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
其所そこには二十歳はたち位の女の半身がある。代助は眼をせてじっと女の顔を見詰めていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくし三浦みうらとつぎましたのは丁度ちょうど二十歳はたちはる山桜やまざくら真盛まっさかりの時分じぶんでございました。
十歳以上十九か二十歳はたちの少年にそんなむずかしい奥ゆかしいかんがえのあるべきはずはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
女の歳は、彼の肉体に慣れた眼には二十歳はたち前と写った。なんという色の白さだ。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
あの時にわしがこれを荒立てれば血で血を洗うようなもの、詰り家の恥になりやすから、鹽原の家名にきずを附けめえと思い、こらえていると、二十歳はたちにもなるものを小僧子こぞうこのように使い𢌞し
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あれはポックリです——女物の、二十歳はたち前の女の子でなければ穿きません」
年と言ふものを取らないので、誰も彼も皆な若いよ、お前の阿父おとつさんでも阿母おつかさんでも皆な若いよ、——私の亭主も丁度ちやうど二十歳はたちなくなつたが、其時の姿のまゝで目に見える、わしの頭が斯様こんなに白くなつたので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
二十歳はたちで嫁に来たお梶は、わたくしなにも存じませんと云うだけで、いつもひっそりと眼を伏せていた。寝屋にはいっても人形を抱くようで、なんの感動もあらわさず、はじらいさえもみせなかった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)