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もたら
ふりがな文庫
“
齎
(
もたら
)” の例文
Tolède Andalousie
(
トレド アンダルジイ
)
の国々よ。燃上る
其
(
そ
)
の声もなき狂熱を、君いづこよりか
齎
(
もたら
)
せし。おそろしき
痴情
(
ちじょう
)
の狂ひかな。
珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
では、藤原玄明が、どういう密告をここに
齎
(
もたら
)
したのかといえば、それはただ、右馬允貞盛が常陸にいるというだけのことでしかない。
平の将門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
話の落ち行く先は大抵黒部ときまっていた。そして探検の
度毎
(
たびごと
)
に同君の
齎
(
もたら
)
し帰る新しい黒部の秘境に聞き入りつつ私の心は躍った。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
彼の放蕩の
齎
(
もたら
)
したこの不幸な移転に対する不満がこの
酷
(
きび
)
しい寒さの苦痛を通して秘かにあらわれて来ているものかも知れなかった。
不幸
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
この彼此両岸国土の消息を通じることを役とする者が考へられ、其
齎
(
もたら
)
す詞章が、後々、文学となるべき初めのことばなのであつた。
日本文学の発生:――その基礎論――
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
▼ もっと見る
狼狽
(
あわて
)
て駈けつけたもんだから、鰡八大尽のためにも、道庵先生のためにも、悪い結果を
齎
(
もたら
)
すということを夢にも予想はしませんでした。
大菩薩峠:16 道庵と鯔八の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
人間は自己満足や陶酔やのために自分の愛を云々するのではない、新しい、より高い価値を現実のうちに
齎
(
もたら
)
すことこそ愛の実証だのに。
獄中への手紙:04 一九三七年(昭和十二年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
何しろ、島中の人民はほとんど総てが信徒なので、征討軍が放つ密偵は悉く偽りの報告を
齎
(
もたら
)
すから、まるで裏をかかれ通しである。
島原の乱
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
要するに憲法施行後の暫くの経験は、吾人に教うるにこれによって多大の幸福を
齎
(
もたら
)
し得べしとする当初の信念の妄なることを以てした。
憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず
(新字新仮名)
/
吉野作造
(著)
そこにはただ村娘の茜裏を吹きかえす春風があるだけである。この一色の
齎
(
もたら
)
す太平の気は、洛中洛外の春に優るとも劣るものではない。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
此の地の生活の
齎
(
もたら
)
した利益の一つは、ヨーロッパ文明を外部から捉われない眼で観ることを学んだ点だ。ゴスが言っているそうだ。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
お島は小野田に済まないような気のすることもあったが、この結婚がこんな苦しみを自分の肉体に
齎
(
もたら
)
そうとは想いもかけなかった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
彼によれば形而上学は現実的存在の夫々の或る一面のみを取り出して整合に
齎
(
もたら
)
すものに過ぎず、経験的所与を絶対化するものであるから
辞典
(新字新仮名)
/
戸坂潤
(著)
過去において、その自我発展を
沮止
(
そし
)
されていただけに、男子本位の文化生活に見ることの出来なかった特異な貢献を
齎
(
もたら
)
すかも知れません。
婦人改造の基礎的考察
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
「だが、御子息の守さんは、どうなすった。さい前一足先にわしの家を出られたのだが、一刻も早く吉報を
齎
(
もたら
)
すのだとか云って」
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
それは或る科学者が想像するように他の星体から
隕石
(
いんせき
)
に混入して地表に
齎
(
もたら
)
されたとしても、少くとも有機物の存在に不適当だった地球は
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
聞き込みが
頻々
(
ひんぴん
)
と
齎
(
もたら
)
されてくる。何も一時にその聞き込みが入ってきたわけではないが、総合すると大体、こういうことになる。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
わたくしは今淺井平八郎さんの
齎
(
もたら
)
し來つた眞志屋文書に據つて、記載のもつれを解きほぐし、
明
(
あきら
)
め得らるゝだけの事を明めようと努めた。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
午後から
陰
(
くも
)
った冬の空は遂に雨を
齎
(
もたら
)
して、闇を走る人々の上に
冷
(
つめた
)
い糸の
雫
(
しずく
)
を落した。が、そんなことに頓着している場合でない。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
そんな風な
挨拶
(
あいさつ
)
であったが、無論即答が得られる筈のものではないので、貞之助はそう云う姉の言葉を
齎
(
もたら
)
して帰って来たに過ぎなかった。
細雪:02 中巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
最近の物理学の急激な発展の
齎
(
もたら
)
した結果を文学やその人の「哲学」の基礎に導き入れようという試みをする人が出て来ている。
科学と文化
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
若しも私の文學的努力(と言ひ得るならば)が、今迄に何等かの効果を私に
齎
(
もたら
)
してゐたならば、多分私も斯うは成らなかつたかも知れない。
硝子窓
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
けれどもそれは、先に挙げた平凡な後頭部の打撲による脳震盪が死因であると云う以外に、変ったニュースは
齎
(
もたら
)
されなかった。
闖入者
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
又
(
また
)
一
方
(
ぱう
)
から
考
(
かんが
)
へると
國民
(
こくみん
)
の一
致
(
ち
)
協力
(
けふりよく
)
が
經濟上
(
けいざいじやう
)
に
如何
(
いか
)
なる
結果
(
けつくわ
)
を
齎
(
もたら
)
すものであるかと
云
(
い
)
ふ一つの
經驗
(
けいけん
)
と
確信
(
かくしん
)
が
得
(
え
)
られたのである。
金解禁前後の経済事情
(旧字旧仮名)
/
井上準之助
(著)
「
夫人
(
おくさん
)
、好事門を出でずと申しましたけれども、ああ、善きことは致したいもの、これ
御覧
(
ごろう
)
じまし。」と三太夫が書斎に
齎
(
もたら
)
したる毎晩新聞。
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ところがここに、下妻の藩中に一つの暗い報告が
齎
(
もたら
)
された。それは、今年こそは結城の平馬が、いよいよ仕合に出るらしいという一事である。
平馬と鶯
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「
春秋
(
しゅんじゅう
)
の
筆法
(
ひっぽう
)
を用いれば、明治何年ですか? 田川の大伯父、角町に交通不便を
齎
(
もたら
)
し、中学校を○○町へ追う。ハッハヽヽ」
村の成功者
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
また同台からは一隊の学者をアンデス山頂に派遣して火星の写真を撮らせたそうであるから、定めて有益な知識を
斯学
(
しがく
)
の上に
齎
(
もたら
)
す事であろう。
話の種
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
其
(
そ
)
の
間
(
あひだ
)
に
空
(
そら
)
を
渡
(
わた
)
る
凩
(
こがらし
)
が
俄
(
にはか
)
に
哀
(
かな
)
しい
音信
(
おどづれ
)
を
齎
(
もたら
)
した。
欅
(
けやき
)
の
梢
(
こずゑ
)
は、どうでもう
此
(
こ
)
れまでだといふやうに
慌
(
あわたゞ
)
しく
其
(
そ
)
の
赭
(
あか
)
く
成
(
な
)
つた
枯葉
(
かれは
)
を
地上
(
ちじやう
)
に
投
(
な
)
げつけた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
彼はこの志を
齎
(
もたら
)
し、暗にその兄に別を告げて曰く、今より風塵を鎌倉に避け、ただ読書を事とせんと。
而
(
しこう
)
してその兄に向って誓文を与えて曰く
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
この片々たる一冊が、はたして何ものを
齎
(
もたら
)
そうとするのだろうか⁉ ところが、表紙を開くと、意外な事に、彼の顔をサッと
驚愕
(
きょうがく
)
の色が
掠
(
かす
)
めた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
この上はその
待人
(
まちびと
)
の
如何
(
いか
)
なる者なるかを見て、疑は決すべしと、やがてその消息を
齎
(
もたら
)
し
来
(
きた
)
るべき彼の
帰来
(
かへり
)
の程を、陰ながら
最更
(
いとさら
)
に遅しと待てり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
陶器を焼いて生活の資に
充
(
あ
)
て、他に
齎
(
もたら
)
すところ厚く、自らは乏しくつつましく暮し、謙虚さは失わなかった姿こそ、まことに日本女性の
鑑
(
かがみ
)
であり
大田垣蓮月尼のこと
(新字新仮名)
/
上村松園
(著)
芸術的感激を
齎
(
もたら
)
すべき或必然の方則を捉へる為なら、白汗百回するのも辞せなかつた、あの恐るべきセザンヌの面目が。
芸術その他
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
花氣人を襲ふ、必ずしもその薔薇たり芍藥たるを問はずして名園の春に醉ふやうに、何が
齎
(
もたら
)
すといふことも無しに鹽原の溪は人を好い氣持にする。
華厳滝
(旧字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
生活と娯楽とが人格的統一に
齎
(
もたら
)
されることが必要である。生活を楽しむということ、従って幸福というものがその際根本の観念でなければならぬ。
人生論ノート
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
特に今は、敗戦を
齎
(
もたら
)
したもろもろの禍根を追及して後世の遺産たるべき新しい日本を再建する空前の機会ではないか。
チッポケな斧
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
こうした消極的な、金を使わずに、ためて、自分の生活を安定させるという考え方は、近代の経済に於て、決して大きい富を
齎
(
もたら
)
すべき方法では無い。
大阪を歩く
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
けれども敬太郎にはこの
御籤
(
おみくじ
)
めいた言葉がさほどの意義を
齎
(
もたら
)
さなかった。二人は少しの間
煙草
(
たばこ
)
を吹かして黙っていた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そこには
猪
(
ゐのしゝ
)
に
衝
(
つ
)
かれて死すべき者が、
貨幣
(
かね
)
の
模擬
(
まがへ
)
を造りつゝ、センナの
邊
(
ほとり
)
に
齎
(
もたら
)
すところの
患
(
うれへ
)
見ゆべし 一一八—一二〇
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
日
(
ひ
)
の
暮方
(
くれがた
)
の町の
賑
(
にぎわ
)
いが、晴れやかに二人の
周囲
(
まわり
)
を取り巻いた。市中一般に、春の
齎
(
もたら
)
した喜びが
拡
(
ひろが
)
っていて、それが無意識に人々に感ぜられると見える。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
即ち私が断然として養子に行きさえせねばよかったのです。つまり私の意志が薄弱であったことが、今こうした悲運を
齎
(
もたら
)
したといって
差閊
(
さしつかえ
)
ありません。
猫と村正
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
恐らくその
爭鬪
(
さうとう
)
は
一生
(
いつしやう
)
續きませう。けれども
秋々
(
あき/\
)
の
實
(
みの
)
りは、
必
(
かなら
)
ず何ものかを私に
齎
(
もたら
)
してくれるものと
信
(
しん
)
じてゐます。
冬を迎へようとして
(旧字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
しかし、兵部の宿禰は、この突然の出兵が、娘、香取の上に何事か悲しむべき結果を
齎
(
もたら
)
すであろうことを洞察した。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
良吉のいた時分のような賑かな笑い声や打解けた雑談は二階では跡を絶っていて、栄一の帰省は勝代が予期したような明るみを家の中へ
齎
(
もたら
)
さなかった。
入江のほとり
(新字新仮名)
/
正宗白鳥
(著)
が、このボタンの調査もなんらの結果を
齎
(
もたら
)
さなかったとみえて、アンドルウス氏は、いつ帰ったともなく、まもなく空手でロンドンに帰ってきていた。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
召使は一封の書面を
齎
(
もたら
)
したのです。受取って見ると、封書の裏に、「根岸の里にて、大戸片里」とかいてあります。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
あるいは蝘蜒が
怠慢
(
なまけ
)
て早く好報を
齎
(
もたら
)
さざりしを憤って、
烟草
(
タバコ
)
を食わせ、身を諸色に変じ、悩死するを見て快と称う。
十二支考:03 田原藤太竜宮入りの話
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
その翌日お登和嬢は今にも小山ぬしが
悦
(
よろこ
)
ばしき報告を
齎
(
もたら
)
し来るならんとて待ちぬ。夜に入るまで小山遂に来らず。二日目は懸念の
中
(
うち
)
に一日を過ごせり。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
その時、三吉は向島の
言伝
(
ことづて
)
を
齎
(
もたら
)
そうとして、電話で聞かせたことを話しかけた。お種が廊下の方から入って来た。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
齎
漢検1級
部首:⿑
21画