もたら)” の例文
Tolède Andalousieトレド アンダルジイ の国々よ。燃上るの声もなき狂熱を、君いづこよりかもたらせし。おそろしき痴情ちじょうの狂ひかな。
では、藤原玄明が、どういう密告をここにもたらしたのかといえば、それはただ、右馬允貞盛が常陸にいるというだけのことでしかない。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話の落ち行く先は大抵黒部ときまっていた。そして探検の度毎たびごとに同君のもたらし帰る新しい黒部の秘境に聞き入りつつ私の心は躍った。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
彼の放蕩のもたらしたこの不幸な移転に対する不満がこのきびしい寒さの苦痛を通して秘かにあらわれて来ているものかも知れなかった。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
この彼此両岸国土の消息を通じることを役とする者が考へられ、其もたらす詞章が、後々、文学となるべき初めのことばなのであつた。
狼狽あわてて駈けつけたもんだから、鰡八大尽のためにも、道庵先生のためにも、悪い結果をもたらすということを夢にも予想はしませんでした。
人間は自己満足や陶酔やのために自分の愛を云々するのではない、新しい、より高い価値を現実のうちにもたらすことこそ愛の実証だのに。
何しろ、島中の人民はほとんど総てが信徒なので、征討軍が放つ密偵は悉く偽りの報告をもたらすから、まるで裏をかかれ通しである。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
要するに憲法施行後の暫くの経験は、吾人に教うるにこれによって多大の幸福をもたらし得べしとする当初の信念の妄なることを以てした。
そこにはただ村娘の茜裏を吹きかえす春風があるだけである。この一色のもたらす太平の気は、洛中洛外の春に優るとも劣るものではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
此の地の生活のもたらした利益の一つは、ヨーロッパ文明を外部から捉われない眼で観ることを学んだ点だ。ゴスが言っているそうだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お島は小野田に済まないような気のすることもあったが、この結婚がこんな苦しみを自分の肉体にもたらそうとは想いもかけなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼によれば形而上学は現実的存在の夫々の或る一面のみを取り出して整合にもたらすものに過ぎず、経験的所与を絶対化するものであるから
辞典 (新字新仮名) / 戸坂潤(著)
過去において、その自我発展を沮止そしされていただけに、男子本位の文化生活に見ることの出来なかった特異な貢献をもたらすかも知れません。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「だが、御子息の守さんは、どうなすった。さい前一足先にわしの家を出られたのだが、一刻も早く吉報をもたらすのだとか云って」
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それは或る科学者が想像するように他の星体から隕石いんせきに混入して地表にもたらされたとしても、少くとも有機物の存在に不適当だった地球は
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
聞き込みが頻々ひんぴんもたらされてくる。何も一時にその聞き込みが入ってきたわけではないが、総合すると大体、こういうことになる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わたくしは今淺井平八郎さんのもたらし來つた眞志屋文書に據つて、記載のもつれを解きほぐし、あきらめ得らるゝだけの事を明めようと努めた。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
午後からくもった冬の空は遂に雨をもたらして、闇を走る人々の上につめたい糸のしずくを落した。が、そんなことに頓着している場合でない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんな風な挨拶あいさつであったが、無論即答が得られる筈のものではないので、貞之助はそう云う姉の言葉をもたらして帰って来たに過ぎなかった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
最近の物理学の急激な発展のもたらした結果を文学やその人の「哲学」の基礎に導き入れようという試みをする人が出て来ている。
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
若しも私の文學的努力(と言ひ得るならば)が、今迄に何等かの効果を私にもたらしてゐたならば、多分私も斯うは成らなかつたかも知れない。
硝子窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
けれどもそれは、先に挙げた平凡な後頭部の打撲による脳震盪が死因であると云う以外に、変ったニュースはもたらされなかった。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
またぱうからかんがへると國民こくみんの一協力けふりよく經濟上けいざいじやう如何いかなる結果けつくわもたらすものであるかとふ一つの經驗けいけん確信かくしんられたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
夫人おくさん、好事門を出でずと申しましたけれども、ああ、善きことは致したいもの、これ御覧ごろうじまし。」と三太夫が書斎にもたらしたる毎晩新聞。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところがここに、下妻の藩中に一つの暗い報告がもたらされた。それは、今年こそは結城の平馬が、いよいよ仕合に出るらしいという一事である。
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
春秋しゅんじゅう筆法ひっぽうを用いれば、明治何年ですか? 田川の大伯父、角町に交通不便をもたらし、中学校を○○町へ追う。ハッハヽヽ」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また同台からは一隊の学者をアンデス山頂に派遣して火星の写真を撮らせたそうであるから、定めて有益な知識を斯学しがくの上にもたらす事であろう。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あひだそらわたこがらしにはかかなしい音信おどづれもたらした。けやきこずゑは、どうでもうれまでだといふやうにあわたゞしくあかつた枯葉かれは地上ちじやうげつけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼はこの志をもたらし、暗にその兄に別を告げて曰く、今より風塵を鎌倉に避け、ただ読書を事とせんと。しこうしてその兄に向って誓文を与えて曰く
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この片々たる一冊が、はたして何ものをもたらそうとするのだろうか⁉ ところが、表紙を開くと、意外な事に、彼の顔をサッと驚愕きょうがくの色がかすめた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この上はその待人まちびと如何いかなる者なるかを見て、疑は決すべしと、やがてその消息をもたらきたるべき彼の帰来かへりの程を、陰ながら最更いとさらに遅しと待てり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
陶器を焼いて生活の資にて、他にもたらすところ厚く、自らは乏しくつつましく暮し、謙虚さは失わなかった姿こそ、まことに日本女性のかがみであり
大田垣蓮月尼のこと (新字新仮名) / 上村松園(著)
芸術的感激をもたらすべき或必然の方則を捉へる為なら、白汗百回するのも辞せなかつた、あの恐るべきセザンヌの面目が。
芸術その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
花氣人を襲ふ、必ずしもその薔薇たり芍藥たるを問はずして名園の春に醉ふやうに、何がもたらすといふことも無しに鹽原の溪は人を好い氣持にする。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
生活と娯楽とが人格的統一にもたらされることが必要である。生活を楽しむということ、従って幸福というものがその際根本の観念でなければならぬ。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
特に今は、敗戦をもたらしたもろもろの禍根を追及して後世の遺産たるべき新しい日本を再建する空前の機会ではないか。
チッポケな斧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
こうした消極的な、金を使わずに、ためて、自分の生活を安定させるという考え方は、近代の経済に於て、決して大きい富をもたらすべき方法では無い。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
けれども敬太郎にはこの御籤おみくじめいた言葉がさほどの意義をもたらさなかった。二人は少しの間煙草たばこを吹かして黙っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこにはゐのしゝかれて死すべき者が、貨幣かね模擬まがへを造りつゝ、センナのほとりもたらすところのうれへ見ゆべし 一一八—一二〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
暮方くれがたの町のにぎわいが、晴れやかに二人の周囲まわりを取り巻いた。市中一般に、春のもたらした喜びがひろがっていて、それが無意識に人々に感ぜられると見える。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
即ち私が断然として養子に行きさえせねばよかったのです。つまり私の意志が薄弱であったことが、今こうした悲運をもたらしたといって差閊さしつかえありません。
猫と村正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
恐らくその爭鬪さうとう一生いつしやう續きませう。けれども秋々あき/\みのりは、かならず何ものかを私にもたらしてくれるものとしんじてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし、兵部の宿禰は、この突然の出兵が、娘、香取の上に何事か悲しむべき結果をもたらすであろうことを洞察した。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
良吉のいた時分のような賑かな笑い声や打解けた雑談は二階では跡を絶っていて、栄一の帰省は勝代が予期したような明るみを家の中へもたらさなかった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
が、このボタンの調査もなんらの結果をもたらさなかったとみえて、アンドルウス氏は、いつ帰ったともなく、まもなく空手でロンドンに帰ってきていた。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
召使は一封の書面をもたらしたのです。受取って見ると、封書の裏に、「根岸の里にて、大戸片里」とかいてあります。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あるいは蝘蜒が怠慢なまけて早く好報をもたらさざりしを憤って、烟草タバコを食わせ、身を諸色に変じ、悩死するを見て快と称う。
その翌日お登和嬢は今にも小山ぬしがよろこばしき報告をもたらし来るならんとて待ちぬ。夜に入るまで小山遂に来らず。二日目は懸念のうちに一日を過ごせり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その時、三吉は向島の言伝ことづてもたらそうとして、電話で聞かせたことを話しかけた。お種が廊下の方から入って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)