ページ)” の例文
ぱらぱらとページをめくってみると、或る頁に名刺ぐらいの大きさの写真が一枚はさんであった。雀斑そばかすのありそうな、若い男の写真である。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
羊皮の表紙に一杯ドス黝い血がこびりついて、六インチに四吋ぐらいの合判あいばんの帳面であったが、綴糸はきれてページはバラバラになっていた。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
戦争長官ラヂウム元帥げんすいは、自分の机のうえに足をあげて、動物漫画の本を読んでいたが、ここで、残念そうに、ぱたりとページを閉じた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
渡瀬さんは書物を手に取り上げて、しばらくどこともなくページをくっていたが、少し失礼だと思うほどまともにおぬいを見やりながら
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれども姫が又急いで次のページを開いて見ると、今度はいよいよ二人の名前が出鱈目でたらめに並べてあるのではなく、この書物には本当に
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
セリグマンとかいう世界的な元老の作品のページと並んで載っているむす子の厳格な詩的な瑞々みずみずしい画にいては何の疑いもなかった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
水沫集みなわしゅう」一巻は、青春の書というにはあまり老成なような気もするが、明治二十年代の早い春はあの集のどのページにも残っている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
Hさんはけいこまかい西洋紙へ、万年筆まんねんふでで一面に何か書いて来た。ページかずから云っても、二時間や三時間でできる仕事ではなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜、二畳の炬燵こたつに入って、架上かじょうの一冊をいたら、「多情多恨たじょうたこん」であった。器械的きかいてきページひるがえして居ると、ついつり込まれて読み入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それで二十ページばかり書きましたがなかなか文典というものは新聞雑誌の文章を書くようにただちにこしらえてしまうという訳にいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まあいいかげんに辞書を引いては、ページをはぐっていっただけであるが、ともかくそれが僕にとっては、最初に親しんだ仏蘭西フランス小説だった。
仏蘭西文学と僕 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼女かのぢよよろこびも心配しんぱいも、たゞそのためにのみしてれた努力どりよくページをあらためてつてみてひそかにほこりなきをないのであつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
読んでゆき、ページを繰るが、なんにも頭にはいらない。活字の列はただ素通りするだけで、一行読むごとにきれいに消えてしまう。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
祠の縁に腰をかけて、私はここで「通俗巴里一揆物語」の読みかけを出して見たが、何となく気が散って一ページも読むことが出来なかった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
読者諸氏は本書を初から順序立てて読まれてもし、行き当りばったりという工合にページを繰って出た歌だけを読まれても好し
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
呪のダイヤの二百年にわたる流転の歴史は、ここにその最初のページを開きます。船長はそれをフランスのルイ十四世に売りました。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
新聞紙の殆ど一ページを費した激情的な報道によって、この前代未聞の怪事件は、全国に知れ渡り、人々に絶好の話題を提供した。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しおらしい女人ひとかと思いめぐらすときに、あまりに違った有様に、もしや違った人のページを繰って見たのではないかといういぶかしみさえも添った。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
彼はそのページの下段にある写真に視線をうつした。紙質のせいで、それはぼやけて印刷されていた。しかしそれは確かに彼自身の写真であった。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
一方四名の部下の連中は本箱から図書を一冊ずつ引っ張り出してページを一枚二枚探り開け、はては背皮せがわまで突ついて見ておる。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
去月きょげつ二十八日より不着ふちゃくの新聞今日一度に来る。夜、善綱氏ぜんこうし(小僧)に算術教ふ。エノックアーデン二十ページのところまで進む。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
おばさんが封筒を持ってきてくれると、俊夫君は、鉛筆で手帳へ何やら走り書きをしましたが、それからそのページを破って封筒の中へ入れました。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
見せて呼んでいる「妻」——読みかけの書物のページに落葉を挾んで木蔭の吊床ハンモックから起ち上る自分——教授の老いたこころに
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
この書物は上下二巻美濃紙摺みのがみずり六十ページ、草書体まじりの平仮名文ひらかなぶんで、上巻の扉には羅甸ラテン字で書名を横に書き、その下に漢字で
しかし、ページっていって、死神と屍骸で埋められている多くの版画を追うているうちに、法水の眼は、ふとある一点に釘付けされてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
あわれな、おていさいである。パラパラ、ページをめくっていって、ふと、「なんじもしおの心裡しんりに安静を得るあたわずば、他処にこれを求むるは徒労のみ。」
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
すると少々腑に落ちないことが目に留まったから、今度は探究的になって、本箱の奥から去年の分まで捜し出した。目的は縁談の頃のページにあった。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私はその書物のページの間から、小さい紙片をそっと取り出して、書物をもとの棚へしまった。そしてその紙片を電気の下へもって行ってひろげてみた。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
彼はまじまじと夫婦のようすをながめていたが懐中から黒い表紙の手帳をとりだすと、数字のギッシリとつまったページをペラペラとはぐって見せながら
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かねがね学校で学ばれたところの英国の文学者の言葉に、かくの如き思想が始終あると、ちゃんと良い本ならば一ページごとに注意しておくようにする。
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もつとも悪性の伝染病の心配だけはまづ無いはずですけれど、ページのまくれあがつた手垢てあかだらけの娯楽雑誌なんか、手にとるより先に虫酸むしずが走ります。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
およそ二百ページのものであったと思う。それを写すについては誰にも言われぬのは勿論もちろん、写す処を人に見られては大変だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
最初の一ページはいまでも暗誦あんしょうしています。アンデルセンはその生涯を綴るに際して、こういう一行からはじめました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
さう思ひながら、ページを繰る夫人の手許と、やゝ蒼んでゐる美しい面から、一瞬も眼を放たず、ぢつと見詰めてゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
幕末における伊藤八兵衛の事業は江戸の商人の掉尾とうびの大飛躍であると共に、明治の商業史の第一ページを作っておる。
けれども、ね、ちょっとこの本をごらん、いいかい、これは地理ちり歴史れきし辞典じてんだよ。この本のこのページはね、紀元前きげんぜん二千二百年の地理ちり歴史れきしが書いてある。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
置時計の音などがうらからかちかち聞えて、たまに人のいるような部屋には、書物のページをまくる音が洩れ聞えた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は英雄を非認ひにんするためにこの演壇に上がりました、私は歴史のあらゆるページから英雄を抹殺したいと思います。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
歌声が聞こえだすと、まるで待ちかまえていたように私にその曲の名前を訊き、あわててノートのページをくる。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
この辺のような輝くばかりの美しい姿に変えたということにしなかったんだろう? つまり彼が自然という大きな書物のページを金色に塗り上げたという風にね。
特に高遠な議論にしたり、ページ数を増したりする目的でやたら難しい言葉を使うことはこの場合厳禁である。
科学と文化 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そして、食事が終ると、すぐに二階へ上って、自分のテーブルに寄って、しきりに英和辞書のページをめくった。かの字をさぐり当てるまでにはよほどの時間を費した。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それからパイプに火をつけて、しばらくの間煙草をくゆらしながらそのページをひっくりかえしていた。
書籍ほんを取り上げページひるがえし、じっと一所ひとところを見詰めたが、ガラリ言葉の調子を変え紋太夫はこう云った。
そこで、今迄いまゝで毎月まいげつ三銭さんせんかの会費くわいひであつたのが、にはかに十せん引上ひきあげて、四六ばん三十二ページばかり雑誌ざつしこしらへる計画けいくわくで、なほひろく社員を募集ぼしうしたところ、やゝめいばかりたのでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こうしてメンデレーエフのつくった元素の表を掲げて見ますと、次ページの図の通りであります。
メンデレーエフ (新字新仮名) / 石原純(著)
同じく十八世紀で、百科全書編纂へんさん者として名高いダランベールも、ヴォルテールに劣らぬ人の悪い男であるが、彼の百科全書第二巻、愛書狂のページには斯んな事が書いてある。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
夏が来た夏が来た。その夏の熊野神社の祭礼も忘れられない思い出の一ページを占めねばならぬ。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
諭吉自身が抱懐する政治的見解はこの書のすべてのページから最大の注意をもって隠匿いんとくされた。
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
川原は書斎からぶ厚い鴎外の著書を二三冊持ち出してきて、ゆうゆうとページをくった。上質の紙はぱさっぱさっと歯ぎれのよい音を立てて色の黒い川原の指にあやつられている。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)