雑魚ざこ)” の例文
旧字:雜魚
求めてみるとなかなか獲物えものはかからない、ところへひっかかった君は、案外の雑魚ざこだと思ったら、実は意外の掘出し物であったのだ。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
荻生君は熊谷に行っていなかった。二人は引きかえして野を歩いた。小川には青いが浮いて、小さな雑魚ざこがスイスイ泳いでいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一網打尽にして、呑舟どんしゅううお雑魚ざこも逃さないようにするには、相当に大きい網が必要さ、花房一郎は今その網を張って居るのだよ
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
やっと次郎吉は雑魚ざこととまじりながらに、師匠の描いた絵草紙の下図へ絵の具を施すくらいのことはできるようになってきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
谷へはさまって、出端ではを失った風が、この底をすくうようにして通り抜ける。黒いものは網の目をれた雑魚ざこのごとく四方にぱっと散って行く。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やれ打つ、へへへ、小鳥のように羽掻はがいあおつ、雑魚ざこのようにねる、へへ。……さて、騒ぐまい、今がはそで無い。そうでは無いげじゃ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
垣根の「うつぎ」の芽を摘んでは、胡桃くるみあえにして食べたこと、川へ雑魚ざこすくいに行って、下駄や鍋を流してしまったこと。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこへ、もう一人雑魚ざこ売りの爺さんが天秤棒を担いでやって来る。魚芳のおとなしい物腰に対して、この爺さんの方は威勢のいい商人であった。
(新字新仮名) / 原民喜(著)
川に流れているしばを拾い、それを削ってくしを作り、川からとった雑魚ざこをその串にさして焼いて、一文とか二文とかで売ってもうけたものなんだ。
親友交歓 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、孔明の計を奉じて、土嚢どのうせきを一斉にきった。さながら洪水のような濁浪は、闇夜あんやの底を吠えて、曹軍数万の兵を雑魚ざこのように呑み消した。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余の郷里にはホゴ、メバルなどいふ四、五寸ばかりの雑魚ざこくずつらぬいて売つて居る。さういふのを煮て食ふと実にうまい。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
または関西ものの「ちりめんじゃこ」をいっしょに煮るのもいい。雑魚ざこという原料の相違によって、東京のは例え昆布がよくても問題にならない。
塩昆布の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「二尺のこいを二ひきってくれと、二三日前から頼まれて、この広い湖へかたぱしから網を入れているが、鯉はおろか、雑魚ざこもろくろくかかりゃしない」
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
……いかにもおれの親父はどん百姓だったが、おれはというと、この通り白いチョッキを着て、茶色い短靴たんぐつなんかはいている。雑魚ざこのととまじりさ。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
また、このさむいのに、どこからってきたものか、ふな、なまず、雑魚ざこなどのきたのをっているおとこがありました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
それを子供に持たせてった所が、途中の小川を渡ろうとしてその粉をこぼし、それを川の雑魚ざこが浮いて来て食った。
「ところが、泰山鳴動たいざんめいどうしてねずみ一匹でね。つかまったのは雑魚ざこばかり。大物はみんな逃げてしまったということです」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
雑魚ざこ魚交ととまじりと申しましょうか、次官さんや局長さんの奥さま方と御一緒ですから、気骨が折れて困りますわ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これは畢竟ひっきょう量を見るに急なために質を見る目がくらむのであり、雑魚ざこを数えて呑舟どんしゅうの魚を取りのがすのである。
量的と質的と統計的と (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
湖水にうつる雲の影はしずかにうごき、雑魚ざこの群は吹きかわった新鮮の気を吸うようになめらかな水面に泡をたてる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
もう夕方のことだったろう、河岸の道傍みちばたで漁師たちが四五人、むしろおけを並べて、鯉や雑魚ざこや貝類などを売っていた。それは「日銭ひぜに」をかせぐためのものであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「発破かけだら、雑魚ざこかせ。」三郎が、河原の砂っぱの上で、ぴょんぴょんはねながら、高く叫んだ。
さいかち淵 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「いままで、ずいぶん、いろいろなうまいものも食いましたが、いま考えてみると、あのとき母が煮てれた雑魚ざこの味ほどうまいと思ったものに食い当りません」
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そしておれはまたすくわれたなと感じた。ちょうど手網にかかった雑魚ざこのようにも思われたからである。
が、今は入江の魚が減って、岩のあたりで釣魚をしたって、雑魚ざこ一匹針にかかってこないらしい。山や海の景色もあの時分は今よりもよほど美しかったように思われる。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
とうとう一尾いっぴきも釣れずに家へ帰ると、サアおこられた怒られた、こん畜生ちくしょうこん畜生と百ばかりも怒鳴どなられて、香魚あゆ山鯇やまめは釣れないにしても雑魚ざこ位釣れない奴があるものか
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雑魚ざこだ雑魚だと馬鹿にしたが、どうしてどうして紋也という男は、雑魚でないばかりか大物だ。気象も武道も素晴らしい。……あやうく俺は切られるところさ。……おや」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八十之賀には御垢附御羽折おんあかつきおんはをり雑魚ざこ数品拝領、其外近比ちかごろ八丈島二反御肴とも被下置候。殊遇特恩身にあまり難有奉存候。桑楡さうゆ之景もはや可然御奉公も出来かね、只々恐入奉存候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その頃はメバルはすでに遠のいて、セイゴ、キスゴ、平あじ、ハゼなどの雑魚ざこが来ていた。日によってはボラが群をなしてやってくる。よく釣れて餌が足りなくなることもある。
魚の餌 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
または子供を背負った児娘こむすめまでがざるや籠やおけを持って濁流のうちに入りつ乱れつ富裕な屋敷の池から流れて来る雑魚ざこを捕えようとあせっている有様、通りがかりの橋の上から眺めやると
「ごらん、馬鹿ッ声をはりあげるもんだから、雑魚ざこが寄ってきたじゃないか!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つりして雑魚ざこをかついでかえっても、なりわいの足しにはならないからである。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
残っているのは雑魚ざこばかり。今夜の会に出て貰おうと思った連中は、『愉快な四人』にしろ何んにしろみんないやしない。それがまた一日違いなんだから、全くはらが立つ話じゃないですか。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
待網を掛けて雑魚ざこを捕りひそかに寺へ持帰もちかえって賞玩しょうがんするのだ、この事檀家だんかの告発にり師の坊も捨置すておきがたく、十分に訓誡くんかいして放逐ほうちくしようと思っていると、当人の方でもあらかじめそのあたりの消息を知り
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
七、雑魚ざこ魚交ととまじり、並びに生簀いけすの悶着のこと。翌日の出発は午前七時。
眼にさぐる雑魚ざこは箸つけて暗きかもやあはれ霜夜しもよ燈火ともしび
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雑魚ざこの心をたのみつつ。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
雑魚ざこの餌食になろうとも、我利我利亡者がりがりもうじゃの手前たちの身代りになって沈めにかかるような、そんなお安いお角さんじゃないよ。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
喜平というのは、村はずれの小屋に住んでいる、五十ばかりのおやじで、雑魚ざこどじょうを捕えては、それを売って、その日その日の口をぬらしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そこには店頭みせさき底曳網そこびきあみ雑魚ざこを並べたり、あさりやはまぐり剥身むきみを並べている処があって、その附近まわりのおかみさんが、番傘などをさしてちらほらしていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
まるで雑魚ざこの踊りをくぐっているようなものでしかない。——ところへ、事の次第を聞いて彼方から飛んで来た六尺ゆたかな色白な壮漢があった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おっ母さんの客間には、よく天下のお歴々がずらり顔をならべたもんです——役者とか、文士とかね。そのなかで僕一人だけが、名も何もない雑魚ざこなんだ。
大きな網を張って、雑魚ざこは後から棄てれば宜い。何のことやあると僕は益〻手を拡げた。相場表の送り先も今まで五百軒内外だったのを二千軒に改めさせた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やあ、小鳥のように羽打つ、雑魚ざこのようにねる。はて、笑止じゃの。名告なのれ、名告らぬか、さても卑怯な。やいの、殿たち。上﨟たち。へへへ、人間ども。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう夕方のことだったろう、河岸の道傍みちばたで漁師たちが四五人、むしろおけを並べて、鯉や雑魚ざこや貝類などを売っていた。それは「日銭ひぜに」をかせぐためのものであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
発破はっぱかけだら、雑魚ざこかせ。」三郎さぶろうが、河原かわらすなっぱの上で、ぴょんぴょんはねながら、高くさけんだ。
さいかち淵 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
来たぜ、銭形の親分。二、三十人は来た様子だ。どうせ雑魚ざこだが、あれを相手に立ちまわりを
「雨降りあとじゃ、川へいて、雑魚ざこなと、取って来なはれ、あんじょ、おいしゅう煮て、食べまひょ」継ものをしていた母親がいった。鼈四郎はざるを持って堤を越え川へ下りて行く。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
海の小海老 を用ゐるものは小鯛釣、メバル釣、アブラメ、ホゴそのほか沖の雑魚ざこ
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「だって君ゃ大学の教師でも何でもないじゃないか。高がリードルの先生でそんな大家を例に引くのは雑魚ざこくじらをもってみずかたとえるようなもんだ、そんな事を云うとなおからかわれるぜ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)