トップ
>
蟠
>
わだか
ふりがな文庫
“
蟠
(
わだか
)” の例文
過ぐる夜の
靄
(
もや
)
は墨と
胡粉
(
ごふん
)
を以て天地を塗りつぶしたのですけれど、これは
真白々
(
まっしろじろ
)
に
乾坤
(
けんこん
)
を
白殺
(
はくさつ
)
して、
丸竜空
(
がんりゅうくう
)
に
蟠
(
わだか
)
まる有様でありました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
堀端
(
ほりばた
)
を沿うて走るその電車の
窓硝子
(
まどガラス
)
の外には、黒い水と黒い土手と、それからその土手の上に
蟠
(
わだか
)
まる黒い松の木が見えるだけであった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蟠
(
わだか
)
まりのないほゝ笑みに迎へられて、たじ/\となつたのは、反つて捨てた夫の鈴川主水だつたのは、言ふに言はれぬ面白い皮肉です。
銭形平次捕物控:314 美少年国
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
真実
(
ほんと
)
に愛せられることも
曽
(
かつ
)
てなかった。愛しようと思う鶴さんの心の奥には、まだおかねの亡霊が潜み
蟠
(
わだか
)
まっているようであった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
今また野村の帰郷を必要としている背後にも、どれほど複雑な問題が
蟠
(
わだか
)
まっているか、
略
(
ほぼ
)
想像出来るような心もちがした。
路上
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
泊
(
とまり
)
に来ると、左手の屏風が急に畳まれて、
僧
(
そう
)
ヶ岳や駒ヶ岳の重なり合って大きく
蟠
(
わだか
)
まっている後ろから、劒ヶ岳の一部が大鋸の歯で空を引割っている。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
おりんが居なくなってからの平兵衛の変りよう、そこには愛妻を失った悩み以外に何物かが
蟠
(
わだか
)
まっていはしないか。それから不思議といえばもう一つ。
釘抜藤吉捕物覚書:06 巷説蒲鉾供養
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
「妙な議論だな、これは。友達の
胸臆
(
きょうおく
)
に
蟠
(
わだか
)
まる秘密を察しなければ、一々責任を問われるんだから遣り切れない」
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
この山脈が湖面に浮んで居る有様はちょうど大龍が
蜿蜒
(
えんえん
)
として碧空に
蟠
(
わだか
)
まるというような有様で実に素晴らしい。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
怪しき岩の如く獣の如く山の如く鬼の如く空に
峙
(
そばだ
)
ち
蟠
(
わだか
)
まり居し雲の、皆黄金色の
笹縁
(
さゝべり
)
つけて、いとおごそかに、人の眼を驚かしたる、云はんかたなく美し。
雲のいろ/\
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
龍造寺、大友の末路を学ぶとも、天下の
勢
(
せい
)
を引受けて一戦してみようと仰せられる事は必定じゃ。大体、
主君
(
との
)
の御不満の底にはソレが
蟠
(
わだか
)
まっておるでのう。
名君忠之
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
ただただ、山一つ越せば
可
(
い
)
いわ、で
薄
(
すすき
)
、
焼石
(
やけいし
)
、
踏
(
ふみ
)
だいに、……
薄暮合
(
うすくれあい
)
——猿ヶ馬場はがらんとして、中に、すッくりと一軒家が、何か大牛が
蟠
(
わだか
)
まったような形。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一体自分達は、この先き何になるんだらう——二人の胸には一様にさういふ不安が
蟠
(
わだか
)
まつてゐたのだ。
環魚洞風景
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
廟の前にはがまのような形をした大きい石が
蟠
(
わだか
)
まっていて、その石の上に張訓の兜が載せてあった。
青蛙堂鬼談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
蓮華の尾根に、巨岩を負って、大蛇のように
蟠
(
わだか
)
まった老樹で、古い枝は葉も短くまばらに、老蒼の趣きが深く、若く勢いのいい枝の間にも、数多の枯枝をまじえている。
ある偃松の独白
(新字新仮名)
/
中村清太郎
(著)
そして私は、この単純な白漆喰に取り囲まれて、簡潔な、
直線的
(
リネエル
)
な医療機械に護られてゐると、
凡有
(
あらゆ
)
る
蟠
(
わだか
)
まりを発散して、白痴のやうにだらしなく安心したい気持になつた。
蝉:――あるミザントロープの話――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
巨大な白蛇が
蜒
(
うね
)
りをなして、
蟠
(
わだか
)
まっているそれのように、長い白布が束ねられてあり、その中に可愛らしい
田舎
(
いなか
)
娘風の飛天夜叉の
桂子
(
かつらこ
)
が佇んでい、その
背後
(
うしろ
)
に小次郎がいた。
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
この時からお玉は自分で自分の言ったり
為
(
し
)
たりする事を
窃
(
ひそか
)
に観察するようになって、末造が来てもこれまでのように
蟠
(
わだか
)
まりのない直情で接せずに、意識してもてなすようになった。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
斯
(
か
)
くまでに私が漢学を敵にしたのは、今の開国の時節に、
陳
(
ふる
)
く腐れた漢説が後進少年生の脳中に
蟠
(
わだか
)
まっては、
迚
(
とて
)
も西洋の文明は国に入ることが出来ないと
飽
(
あ
)
くまでも信じて疑わず
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
杜はその瞬間、天地の間に
蟠
(
わだか
)
まるあらゆるものを忘れてしまった。ただ女の手首を棟木から放すことのほか、地震のことも、火事のことも、身に迫る危険をも指の先ほども考えなかった。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
船に近くあるいは遠く、
蟠
(
わだか
)
まり、伸び上り、寝そべり、ささやきあい、忍び笑いし、争ってうしろへ消えていく驚くべき多島——これから
芬蘭土
(
フィンランド
)
へルシングフォウスまで海上一昼夜の旅だ。
踊る地平線:05 白夜幻想曲
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
その相反する実にかくの如し。
而
(
しこう
)
してその相反するは、則ち相得る
所以
(
ゆえん
)
なるか。松陰曰く、「象山高く
突兀
(
とっこつ
)
たり、
雲翳
(
うんえい
)
仰ぐべきこと難し。
何
(
いず
)
れの日にか天風起り、快望せん
狻猊
(
さんげい
)
の
蟠
(
わだか
)
まるを」
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
兄が何気なくそこへ手をやると、蜘蛛は今度はその手の甲の上に
蟠
(
わだか
)
まって、腹を動かした。兄は
忙
(
あわ
)
ててもう一方の手でそれを払った。そうしてその瞬間に彼のからだは中心を失って地上に落ちた。
青草
(新字新仮名)
/
十一谷義三郎
(著)
されど貞之進は失望という
蟠
(
わだか
)
まりがあって、とかくこの座が面白くない、面白くないと思うと、一から十までことごとく面白くない、花次が上に着て居る白っぽい
乱達縞
(
らんたつじま
)
の糸織の袷も面白くなく
油地獄
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
健康らしいいゝ血色と
蟠
(
わだか
)
まりのない気持のいゝお声と精力が溢れるやうなお体つきを見てゐますと私は自分の貧弱なのがいやになつて仕舞ひました。廿五から英語をおはじめになつたのださうです。
編輯室より:(一九一五年一月号)
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
謂
(
い
)
わば、こちらも
先方
(
せんぽう
)
も何らの
蟠
(
わだか
)
まりを持っていないのである。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
彼の吐く煙が、彼の白い髯と一緒になって
蟠
(
わだか
)
まる。
再度生老人
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
千代子に至っては何を云おうが笑おうが、いつでも
蟠
(
わだか
)
まりのない彼女の胸の中を、そのまま外に表わしたに過ぎないと考えていた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
寿美子はそういって、
蟠
(
わだか
)
まりもなくにっこりするのでした。この気軽さと明るさだけは、姉の由紀子になかったことです。
奇談クラブ〔戦後版〕:03 鍵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
その向うにある
御堂
(
みどう
)
の屋根などは霞んで見えない筈でございますが、この雲気はただ、
虚空
(
こくう
)
に何やら形の見えぬものが
蟠
(
わだか
)
まったと思うばかりで、晴れ渡った空の色さえ
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
依然として頭山満を中心として九州の北隅に
蟠
(
わだか
)
まりつつ、依然として旧式の親分
乾分
(
こぶん
)
、友情、郷党関係の下に、国体擁護、国粋保存の精神を格守しつつ、日に日に欧化し
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
双方でこんなことを言い合って、疑念も
蟠
(
わだか
)
まりもサラリと解けて、そのまま駕籠は前へ進んで行き、こっちへ来る人影は、提灯もなにも持たないけれど、三人ほどに見えました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
市郎は
之
(
これ
)
より他に、自分の潔白を表明すべき
詞
(
ことば
)
を知らなかった。わが子を信ずる安行は
僅
(
わずか
)
に
首肯
(
うなず
)
いたが、
疑惑
(
うたがい
)
と
嫉妬
(
ねたみ
)
とが
蟠
(
わだか
)
まれる冬子の胸は、まだ容易に解けそうにも見えなかった。
飛騨の怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
燃えていたのが澄み切っている。
蟠
(
わだか
)
まっていたのが晴れている。いつもは余りに悲痛だった。今夜の唄い振りは楽しそうだ。心に喜びがあればこそ、ああいう歌声が出て来るのだろう。
名人地獄
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そんなこんなの
蟠
(
わだか
)
まりから、津田の意志が充分見え
透
(
す
)
いて来た
後
(
あと
)
でも、彼女は容易に自分の方で積極的な好意を示す事をあえてしなかった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
縞物
(
しまもの
)
を短かく着て、何處か
大店
(
おほだな
)
の小僧とも見える美少年米吉は、平次の問ふまゝに、
蟠
(
わだか
)
まりもなく答へます。
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
心に
蟠
(
わだか
)
まりがあるらしいの。膝とも談合ということがある。心を
三甚内
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そうして御互に腹の中にある
蟠
(
わだか
)
まりを御互の
素振
(
そぶり
)
から能く読んだ。しかもその非難に理由のある事もまた御互に認め合わなければならなかった。
道草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
半農半商風の
頑固
(
ぐわんこ
)
な建物で、其處から門は直ぐですが、振り返ると建物の後ろの方から、巨大な老梅の、花少なに淺黄色の春の空に
蟠
(
わだか
)
まる姿が見えるのでした。
銭形平次捕物控:284 白梅の精
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
第一には
大道砥
(
だいどうと
)
のごとしと、成語にもなってるくらいで、平たい真直な道は
蟠
(
わだか
)
まりのない
爽
(
さわやか
)
なものである。もっと分り安く云うと、眼を
迷
(
まご
)
つかせない。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
平次はさう言つて、
蟠
(
わだか
)
まりもなく笑ふのです。猿江町の甚三の自信が絶大であればある程、この男の見込みには、大きな盲點がありさうでならなかつたのです。
銭形平次捕物控:269 小判の瓶
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
日本橋
(
にほんばし
)
を通る人の数は、一
分
(
ぷん
)
に何百か知らぬ。もし
橋畔
(
きょうはん
)
に立って、行く人の心に
蟠
(
わだか
)
まる
葛藤
(
かっとう
)
を一々に聞き得たならば、
浮世
(
うきよ
)
は
目眩
(
めまぐる
)
しくて生きづらかろう。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
平次は
蟠
(
わだか
)
まりのない態度でヌツと入りました。それに續くガラツ八、これは少しばかり
肩肘
(
かたひじ
)
が張ります。
銭形平次捕物控:125 青い帯
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
膳
(
ぜん
)
を引かせて、叔母の新らしく
淹
(
い
)
れて来た茶をがぶがぶ飲み始めた叔父は、お延の心にこんな
交
(
こ
)
み
入
(
い
)
った
蟠
(
わだか
)
まりが
蜿蜒
(
うねく
)
っていようと思うはずがなかった。
明暗
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
矢留瀬苗子は、何の
蟠
(
わだか
)
まりもなく、そのチョコレートを頬張ったりして居りました。
奇談クラブ〔戦後版〕:14 第四次元の恋
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
内に
抑
(
おさ
)
えがたき或るものが
蟠
(
わだか
)
まって、じっと
持
(
も
)
ち
応
(
こた
)
えられない活力を、自然の勢から生命の波動として
描出
(
びょうしゅつ
)
し
来
(
きた
)
る方が実際
実
(
み
)
の
入
(
い
)
った
生
(
い
)
き
法
(
かた
)
と云わなければなるまい。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それは恐ろしい
告白
(
こくはく
)
でした。お咲殺しの疑ひから免れようともがいた喜三郎は、自分の潔白を示すのに急で、胸の中に
蟠
(
わだか
)
まつて居た長い間の
鬱屈
(
うつくつ
)
を、一ペンに吐き出してしまつたのです。
銭形平次捕物控:161 酒屋忠僕
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
そうして彼の神経的に緊張した眼の色と、少し冷笑を
洩
(
も
)
らしているような
嫂
(
あによめ
)
の
唇
(
くちびる
)
との対照を比較して、突然彼らの間にこの間から
蟠
(
わだか
)
まっている妙な関係に気がついた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
平次は微笑をさへ浮かべて、
蟠
(
わだか
)
まりのない調子で斯う言ひました。
銭形平次捕物控:030 くるひ咲
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
六畳の
中二階
(
ちゅうにかい
)
の、南を受けて明るきを足れりとせず、小気味よく開け放ちたる障子の外には、二尺の松が
信楽
(
しがらき
)
の
鉢
(
はち
)
に、
蟠
(
わだか
)
まる根を盛りあげて、くの字の影を
椽
(
えん
)
に伏せる。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
蟠
漢検1級
部首:⾍
18画
“蟠”を含む語句
蟠踞
蟠居
蟠屈
蟠龍
竜蟠
蟠竜
蟠拠
蟠作
大伴蟠龍軒
蟠祭
蟠松矯樹
蟠竜軒
蟠簇
蟠結
蟠纏
蟠蜒
蟠蜛
鬱蒼蟠居
蟠桃河
蟠桃会
...