きのこ)” の例文
耕一はよろよろしながらしっかりをつかまえていましたらとうとう傘はがりがり風にこわされて開いたきのこのような形になりました。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私が何と云うきのこかと尋ねると、これはにれの木に生えるものですと答えた。少し分けてくださいと頼むと、気持よく承知してくれた。
月夜のあとさき (新字新仮名) / 津村信夫(著)
妖精えうせいなんてヂキタリスの花や葉の間やきのこのかげや、古壁の隅をつた連錢草れんせんさうの下を探したけれど、どこにも見附からないので結局
先日午餐の時、きのこにそっくり真似た砂糖菓子が出た。死白色の柄や菌褶きんしゅう、半透明で黄灰色な菌傘は、事実、それ等の特性を示していた。
山は御祭礼おまつりで、お迎いだ——とよう。……此奴こやつはよ、でかきのこで、釣鐘蕈つりがねだけと言うて、叩くとガーンと音のする、劫羅こうら経た親仁おやじよ。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大きな喧嘩師ブルウザアと敏捷なちびラントと、留索栓ビレイング・ピンの打撲傷と舵手甲板の長年月と、そしてそれに、荒天の名残の遠い港のにおい、強いあごきのこのような耳
赤と白の渦巻や、シトロン色や、臙脂えんじの水玉や、緑と空色の張り交ぜや、さまざまな海岸日傘ビーチ・パラソルが、きのこのようにニョキニョキと頭をそろえている。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その壁は、雨もりのあとが不思議な模様のように見えていて、どうかすると、一寸法師のような形をした、灰いろのきのこが一面に簇生ぞくせいしたりした。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼は土塊どかいの下に馬鈴薯とは見えずしてむしろ醜怪な円屋根形まるやねがたの頭をもった、きのこのような形をした変なものを掘り出した。
あの灰色の柔かい傘を有ったきのこが、丘一面に集り合って生い茂るようにも見える。山に眠る家、家をかばう山、人と自然とがここでは互に抱き合う。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
庭の栗の樹の蔭で、私達は小屋で分けてもらったきのこを焼いた。主人は薄縁を三枚ばかり持って来て、樹の下へ敷いてくれた。そこで昼飯が始まった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あるいは奇妙な形をしたきのこのように見えもするだろうし、また、故人降矢木算哲さんてつ博士の神秘的な性格から推して、現在の異様な家族関係を考えると
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さてこの辺にはいろいろのきのこが生じて居る。すなわち水蕈みずきのこ黄色蕈おうしょくきのこが樹もないのにその湿地に生じて居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
屋根にはきのこの生えた太い木が五、六本のっている。小屋の入口には、小川から運んだ石でかまどをつくり、その傍には白樺と赤樺で組んだ三本足の鍋かけができた。
山と雪の日記 (新字新仮名) / 板倉勝宣(著)
戸数は九百ばかりなり。とある家に入りて昼餉ひるげたべけるにあつものの内にきのこあり。椎茸しいたけに似てかおりなく色薄し。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きのこには、これは食べられる、これは食べられないと云ふしるしが附いてゐませんから、食用きのこと、有毒蕈とを見分ける事は専門家でない人には出来ない事です。
きのこだの、肉饅頭だの、早焼麺麭パンだの、パイだの、薄焼ブリンだの、いろんな物を入れた厚焼レピョーシカ、例えば葱を入れたり、芥子を入れたり、凝乳を入れたり、石斑魚うぐいを入れたり
夕飯の膳には名物の岩魚いわなや珍しいきのこが運ばれて来た。宿の裏の瀦水池ちょすいちで飼ってあるうなぎ蒲焼かばやきも出た。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
松林のあるところ、きのこの生えるところ、人間の住むところ、思想のあるところへさ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あとにひろがる叢の上に、この季節にはふさわしからぬ大きなきのこが残っていた。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それはたくさんの蛇を殺して土中にうずめ、それにとまをかけて、常に水をそそいでいると、毒気が蒸れてそこに怪しいきのこが生える。それを乾かして、さらに他の薬をまぜ合わせるのである。
スワは空の青くはれた日だとその留守にきのこをさがしに出かけるのである。
魚服記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
きのこのように、地から湧いたといおうか。
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「おれのは漬物つけものだよ。お前のうちぢゃきのこの漬物なんか喰べないだらうから茶いろのを持って行った方がいゝやな。煮て食ふんだらうから。」
(新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「戸隠では、きのこと岩魚に手打蕎麦」私がこのように手帖に書きつけたのは、善光寺の町で知人からきかされたのによる。
月夜のあとさき (新字新仮名) / 津村信夫(著)
今しがた、この女が、細道をすれ違った時、きのこに敷いた葉を残したざるを片手に、く姿に、ふとその手鍋てなべ提げた下界の天女のおもかげを認めたのである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きのこのようなかさの下に、まっ白い絹糸のようなものの幕をたれて、小さなテントの恰好をしている。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
熊笹くまざさ、柴などを分けて、私達はきのこを探し歩いたが、その日は獲物は少なかった。枯葉をかま掻除かきのけて見るとたまにあるのは紅蕈べにたけという食われないのか、腐敗した初蕈はつだけ位のものだった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで例の麦焦むぎこがしの粉とそのきのこを喰いましていよいよ法華経を読みに掛ると、娘はそれを差し止めて申しますには、是非あなたにいわねばならんひどい事を聞きましたから申します。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それで駄夫はシンとした身体を起して洋服を着けはじめたら、いろんな取止めのない昔のことがきのこのやうにノコノコ生えたりパッと消えたり又現れたりした。矢張り出掛けねばならぬのである。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
「おれのは漬物つけものだよ。お前のうちじゃきのこの漬物なんか喰べないだろうから茶いろのを持って行った方がいいやな。て食うんだろうから。」
(新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そぞろに声掛けて、「あの、きのこを、……三銭に売ったのか。」とはじめ聞いた。えんぶだごんの価値あたいでも説く事か、天女に対して、三銭也を口にする。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋には坊の食膳にかならずきのこの類がのぼされる。ふかい秋のもの哀しい風味がある。
月夜のあとさき (新字新仮名) / 津村信夫(著)
きのこの類かと思って二つに割ってみたら何か草食獣のふんらしく中はほとんど植物の繊維ばかりでつまっている。同じようなのでまた直径が一倍半くらい大きいのがそろって集団をなしている。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
前の前の晩に降った涼しい雨と、前の日の好い日光とで、すこしはきのこの獲物もあるだろう。こういう体操教師の後にいて、私は学生と共に松林の方へ入った。この松林は体操教師の持山だ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
但し最後に前論士は釈尊の終りに受けられた供養くようが豚肉であるという、何という間違まちがいであるか豚肉ではないきのこの一種である。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あれは人間じゃあない、きのこなんで、御覧なさい。片手ふところって、ぬうと立って、笠をかぶってる姿というものは、堤防どての上に一ぽん占治茸しめじが生えたのに違いません。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西はめずらしそうに、牛額うしびたいと称するきのこの塩漬などを試みながら
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
間もなく役人たちは私たちのやったかやの穂をすっかりその辺に植ゑて上にみんなきのこをつき刺しました。実に見事にはなりましたが又をかしかったのです。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
冷いが、時めくばかり、優しさが頬に触れる袖の上に、月影のような青地の帯の輝くのを見つつ、心も空に山路を辿たどった。やがて皆、谷々、峰々に散ってきのこを求めた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしたちはとうとうわらいました。役人やくにんわらっていました。間もなく役人たちは私たちのやった萱の穂をすっかりそのへんえて上にみんなきのこをつき刺しました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さて、それから御飯ごはんときぢや、ぜんには山家やまがかうもの生姜はじかみけたのと、わかめをでたの、塩漬しほづけらぬきのこ味噌汁みそじる、いやなか/\人参にんじん干瓢かんぺうどころではござらぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そしてジョバンニは青いことの星が、三つにも四つにもなって、ちらちらまたたき、脚が何べんも出たり引っんだりして、とうとうきのこのように長く延びるのを見ました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
さて、それからご飯の時じゃ、ぜんには山家やまがこうの物、生姜はじかみけたのと、わかめをでたの、塩漬の名も知らぬきのこ味噌汁みそしる、いやなかなか人参にんじん干瓢かんぴょうどころではござらぬ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてジョバンニは青いことの星が、三つにも四つにもなって、ちらちらまたたき、あしが何べんも出たり引っんだりして、とうとうきのこのように長くびるのを見ました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たゞし人目ひとめがある。大道だいだう持出もちだして、一杯いつぱいでもあるまいから、土間どまはひつて、かまちうづたかくづれつんだ壁土かべつちなかに、あれをよ、きのこえたやうなびんから、逃腰にげごしで、茶碗ちやわんあふつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あすこに大きな黄色の禿げがあるでしょう。あすこの割合わりあい上のあたりに松が一本生えてましょう。平ったくてまるでつぶれたきのこのようです。どうしてあんなになったんですか。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
前に橋銭を受取るざるの置いてある、この小さな窓から風がわりな猪だの、希代なきのこだの、不思議な猿だの、まだその他に人の顔をした鳥だの、獣だのが、いくらでも見えるから
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おいおい、どこからこぼれて此処ここらへ落ちた? さらはれるぞ。きのこのうんと出来る処へ連れてってやらうか。お前なんかには持てない位蕈のある処へ連れてってやらうか。」
(新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
かやにも尾花にも心を置いて、葉末はずえに目をつけ、根をうかがひ、まるで、美しいきのこでも捜す形。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)