しる)” の例文
時鳥ほととぎす啼くや五尺の菖蒲あやめ草を一杯に刺繍ぬいとった振り袖に夜目にもしるき錦の帯をふっくりと結んだその姿は、気高く美しくろうたけて見える。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
母屋もやの几帳のかたびらひきあげて、いとやをら入り給ふとすれど、みな静まれる夜の御衣おんぞのけはひ、柔らかなるしもいとしるかりけり。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船室にりて憂目うきめいし盲翁めくらおやじの、この極楽浄土ごくらくじょうど仏性ほとけしょうの恩人と半座はんざを分つ歓喜よろこびのほどは、しるくもその面貌おももちと挙動とにあらわれたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも、この語は古事記にも、「阿佐士怒波良アサジヌハラ」とある。併しそれよりも感心するのは、一首の中味である、「が思ふ君が声のしるけく」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そういうことでくさ/\するのはまだ自分を纏めて行き度いという一筋のしるきものがあるうちのことでもございましょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
入りにし人の跡もやと、此處彼處こゝかしこ彷徨さまよへば、とある岸邊きしべの大なる松の幹をけづりて、夜目よめにもしるき數行の文字。月の光に立寄り見れば、南無三寶。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
二人の送って来てくれたところは、村境むらざかいとみえて、そこには夕暗にもしるく、大きな自然石を並べた橋が架かって、橋の向うはもう坦々たんたんたる村道になっているのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
夏の夜、この橋の上に立つて、夜目よめにもしるき橋下の波の泡を瞰下みおろし、裾も袂も涼しい風にはらめかせて、數知れぬさゝやきの樣な水音に耳を澄した心地は長く/\忘られぬであらう。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
世界にしる澎湃ほうはいたる怒濤が死ぬに死なれない多感の詩人の熱悶苦吟に和して悲壮なる死のマーチを奏する間に、あたかも夕陽いりひ反映てりかえされて天も水も金色こんじきいろどられた午後五時十五分
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「キング、リヤア」の悲劇は馬琴の作に似て勸懲の旨意いとしるく見えたれども、作者みづからが評論の詞、絶えて篇中になきゆゑ、見るものゝ理想次第にてあながち勸懲の作と見做すを要せず
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
其一人の外被うわぎ青白赤せいはくせき三色の線ある徽章しるしおびたるはとうでもしるき警察官にして今一人は予審判事ならん、判事より少し離れたる所に、卓子ていぶるに向い何事をか書認かきしたゝめつゝ有るはたしかに判事の書記生なり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
家どころももとむるによしなく、途に逢ふ人々の怪しむさまはしるきに、はじめておのが姿をみとめつつ、白髪の地に曳くばかりなるを撫し、かばかり老いさびたりしをおどろくに堪へざりしも、ことわりなり
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そのゆゑとも覚えずあまりしる面羸おもやつれは、唯一目に母が心をおどろかせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
椴松とどまつの霧たちかくす日の在処ありど気流の冷えがとみにししる
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
烈しき風をうち凌ぐはねしるくもあらはれて
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
中にもしるき二勇將、共にアレース軍神に
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
今すこししるく み姿あらわしたまえ——。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
振舞ひしる蜻蛉あきつのむれ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
薄墨ながらいとしるし。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
前駆ぜんくの人々とみえる七、八名の影が、大股にまず門を出て行った。つづいて、夜目にもしるき白と黒のまだら牛が、車おもげに曳いて通る——。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまざかるひなともしる許多ここだくもしげき恋かもぐる日もなく」(巻十七・四〇一九)等の例に見るごとく、加行上二段に活用する動詞である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
社を離れて三町余り、闇にもしる鬱蒼うっそうと茂った杉の林まできた時に、二人は精根を使い果たし転がるように腰を下ろした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つちの下の、仄白ほのじろい寂しい亡霊もうれいの道が、草がくれの葉がくれに、暗夜やみにはしるく、月にはかすけく、冥々めいめいとしてあらわれる。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さすがにこの瞬間穏やかな言葉の背後に死の予感を感じたのであろう。夜目にもしるくベナビデスの面は真っ青であった。挙げている両手も脚も烈しくふるえ出してきた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
夏の夜、この橋の上に立つて、夜目にもしるき橋下の波の泡を瞰下みおろし、裾も袂も涼しい風にハラめかせて、数知れぬ耳語ささやきの様な水音に耳を澄した心境ここちは長く/\忘られぬであらう。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
さくら咲くあかるきには立ちにけりわがきぬしわにはかにしる
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
今すこししるくみ姿示したまへ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かかるけはひの、いとかうばしくうち匂ふに、顔もたげたるに、単衣ひとへうち掛けたる几帳のすきまに、暗けれど、うち身じろぎ寄る気はひ、いとしるし。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしその涙は、さっき、父親や、自分の家の不幸のために泣いた涙とは違い、歓喜と希望と愛情とに充ちた涙であった。栞の頬は夜眼にもしるく赤味していた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
良人の衰弱は日にしるけきに、こは皆おのが一念よりぞと、深更四隣静まりて、天地沈々、病者のために洋燈ランプを廃して行燈あんどんにかえたる影暗く、隙間すきまもる風もあらざるにぞ
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神南備かむなび浅小竹原あさしぬはらのうるはしみきみこゑしるけく 〔巻十一・二七七四〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
飛退とびのひまに雀の子は、荒鷲あらわしつばさくぐりて土間へ飛下り素足のまま、一散に遁出にげいだすを、のがさじと追縋おいすがり、裏手の空地の中央なかばにて、暗夜やみにもしるき玉のかんばせ目的めあてに三吉と寄りて曳戻ひきもどすを振切らんと
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
船頭の頬には夜目にもしるく古い太刀傷が印されている。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)