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苛
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さいな
ふりがな文庫
“
苛
(
さいな
)” の例文
だが人間がある激烈な心の衝動をうけてその心が四分五裂の苦に
苛
(
さいな
)
まれるとき、これを逃れるには自暴自棄の態度が一番宜いのです。
ある日の蓮月尼
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
その未練をこの頃考へ出すのをなるべく避けてゐて、而も私はそれにすつかり
虜
(
とりこ
)
にされ、容赦なく
苛
(
さいな
)
まれ虐げられてゐたのであつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
軍隊の様子を白状しろって、ますます酷く
苛
(
さいな
)
むです。実に苦しくって堪らなかったですけれども、知らないのが
真実
(
ほんとう
)
だから謂えません。
海城発電
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
僕は、自分の中の夢想児を責め
苛
(
さいな
)
んだ。つまり、窓を破壊したのだ。しかも僕の元来の
綽名
(
あだな
)
は「奇態な空想家」ではなかったか。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
十万の少年奴隷を
苛
(
さいな
)
む、酷使、栄養不良、疾病、
砒素
(
ひそ
)
、阿片、銃殺……しかも、天下にこれを救おうとする者は一人も居ない。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
▼ もっと見る
「こりゃお延! 妾の思いは、後で存分知らしてくりょう程に、しばらくそこで、この先そちが
苛
(
さいな
)
まれる、
苦患
(
くげん
)
の闇をみつめておるがよい」
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そこまで云えば、台の上に
載
(
の
)
った屍体が、吸血鬼に
苛
(
さいな
)
まれた第一の犠牲者である西四郎のものだということが分るであろう。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
立てて
捻
(
ね
)
じ
込
(
こ
)
んだ多分養父ではない実父だったのであろう何ぼ修行だからと云って年歯も行かぬ女の子を
苛
(
さいな
)
むにも程がある
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
それは彼女が何か苦しい思いに自分と自分を
苛
(
さいな
)
む時の癖だった。乱れた荒い呼吸が、小さな鼻の孔から激しく出入していた。敬助ははっとした。
蘇生
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
すると恐しい苦痛がわしの心を、赤熱した釘抜のやうに
苛
(
さいな
)
みはじめた。一
分
(
ぷん
)
一分が、わしには一秒であると共に又一世紀であるやうに思はれた。
クラリモンド
(新字旧仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
妻にも妹にも母にも云はれないやうなことが、明ら樣に打ち明けたら笑はれるか卑しまれるかしさうなことが、馬越を責め
苛
(
さいな
)
んでゐたのだつた。
仮面
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
「われは
寝
(
い
)
ねまし、されど
汝
(
な
)
は踊らでやまず。」恋をしながら踊らずにいられぬという、なさけない矛盾が彼を
苛
(
さいな
)
んだ……
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
自分の思いがけぬ罪に対する恐怖に噛み
苛
(
さいな
)
まれながら、彼女は亡失状態の中で
微
(
かす
)
かにひくひくと
蠢
(
うごめ
)
いている蔦代の致死期の胴体を見詰めていた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
自分の愚かしさを
咎
(
とが
)
めつつも、やっぱり思いきることが出来ず、その愚かしい
煩悩
(
ぼんのう
)
に責め
苛
(
さいな
)
まれる思いをしながら、うかうかと道を歩いていた。
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
彼は天災地變に
苛
(
さいな
)
まれる人生の焦熱地獄に堪へられなくなつて、この假現の
濁世
(
ぢよくせ
)
穢土
(
ゑど
)
から
遁
(
のが
)
れようとしたのです。そして
解脱
(
げだつ
)
しようとしたのです。
猫又先生
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
私は、その後手に縛られた両手を見ました時、
腸
(
はらわた
)
を切り
苛
(
さいな
)
むような憤と共に、涙が、——腹の底から湧き出すような涙が、
潸々
(
さんさん
)
として流れ出ました。
ある抗議書
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
別離後の男を
苛
(
さいな
)
む空虚感。焦燥。男がとうとう女に逢いに行く。劇場でのメロドラマティックな出会。狂おしい接吻。
チェーホフの短篇に就いて
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
かつて一度も
外寇
(
がいこう
)
を受けない、信玄治下の甲府城下は、思いもよらない悪病のために、
苛
(
さいな
)
まれなければならなかった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
そのときのやるせなさと、自責の念に
苛
(
さいな
)
まれた幾日かの辛さは、いまでも折りにふれてわが心の底によみがえり、頭が白らけきる宵さえあるのである。
盗難
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
何か漠然とした願望に
苛
(
さいな
)
まれだす。水を飲んでみる——これでもない。……円窓へいざり寄って、もやもやした熱い空気を吸い込む——これでもない。
グーセフ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
そう自省する反面、とりかえしのつかぬことをしてしまったような悔恨と、焦躁とが、はげしく、金五郎を
苛
(
さいな
)
んだ。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
しかしわたしはその日は一日じゅうわが家の前で人間が戦争するもがきと兇暴と殺戮とを目撃したことによって感情を
刺戟
(
しげき
)
され
苛
(
さいな
)
まれたように感じた。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
深く内面的に
喰
(
く
)
いこんでいたので、愛情も何かどろどろ
滓
(
かす
)
のようなものが停滞していて、葉子の心にも受けきれないほど、彼の
苛
(
さいな
)
み方も深刻であった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
そして事実みづ/\しい女の肉体に対する残酷な
苛
(
さいな
)
み方は彼の性慾に異様な苦しい挑発を促してゐたのであつた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
私はあらゆる苦しみで自分を
苛
(
さいな
)
み自分に対するあわれみの心をもつと深刻にしなければならない。それは直ちに多くの人に対する同情がなくてはならない。
人間と云ふ意識
(新字旧仮名)
/
伊藤野枝
(著)
「……やおれ……身請けした暁には、思い知らさいでおこうものか。ズタズタに切り
苛
(
さいな
)
んで、
青痰
(
あおたん
)
を吐きかけて、
道傍
(
みちばた
)
に蹴り棄てても見せようものを……」
名娼満月
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
さうして其の後には反動が來る。——あんな厭な氣持はないね。何うして此の
身體
(
からだ
)
を
苛
(
さいな
)
んでやらうかと思ふね。
我等の一団と彼
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
わたしは斯んな事で産前十日程から不安に襲はれ、体の苦痛に
苛
(
さいな
)
まれて、神経が例に無くひどく
昂
(
たかぶ
)
つて居た。
産褥の記
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
身を
苛
(
さいな
)
む借金ぐらしの重圧に、こんなことなら、
力業
(
ちからわざ
)
だけで頑張っていさえすれば、結句気苦労というものもなく、お君の機嫌もよかった炭坑ぐらしの方が
和紙
(新字新仮名)
/
東野辺薫
(著)
漢の初期の
戚
(
せき
)
夫人が
呂后
(
りょこう
)
に
苛
(
さいな
)
まれたようなことまではなくても、必ず世間の
嘲笑
(
ちょうしょう
)
を負わねばならぬ人に自分はなるに違いないと中宮はお思いになるのである。
源氏物語:10 榊
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
ブレインは月明りの中によく敵の姿を見ながら敵の身体を斬り
苛
(
さいな
)
むほど敵の憎んでおったんでしょうかな?
秘密の庭
(新字新仮名)
/
ギルバート・キース・チェスタートン
(著)
そして雨に濡れた汚い人家の
灯火
(
ともしび
)
を眺めると、何処かに酒呑の亭主に撲られて泣く女房の声や、
継母
(
まゝはゝ
)
に
苛
(
さいな
)
まれる
孤児
(
みなしご
)
の悲鳴でも聞えはせぬかと一心に耳を聳てる。
花より雨に
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
そうして、清三は、「大寺」と云う度毎に、道子も
苛
(
さいな
)
むと見え、道子はかすかなうなり声を発している。
彼が殺したか
(新字新仮名)
/
浜尾四郎
(著)
苛
(
さいな
)
まれしと見ゆる
方
(
かた
)
の髪は
浮藻
(
うきも
)
の如く乱れて、着たるコートは
雫
(
しづく
)
するばかり雨に
濡
(
ぬ
)
れたり。その人は起上り
様
(
さま
)
に男の顔を見て、
嬉
(
うれ
)
しや、
可懐
(
なつか
)
しやと心も
空
(
そら
)
なる
気色
(
けしき
)
。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
人間の精神がこれほど肉体を
苛
(
さいな
)
み、躍起になって無意味な目的に駆りたてて行く例もすくない。
新西遊記
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
極度のやる方なさに
苛
(
さいな
)
まれながら、しかも一面そこには不思議と恍惚たる快感が伴われていた。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
風雨に責め
苛
(
さいな
)
まれ、枝をもがれ、地に叩き伏せられても、まだ根に残るわずかな生命力は倒れたままの姿で、春が来れば芽を出してその営みを続ける病木のようないねの姿。
暦
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
あたかも
稲麻
(
とうま
)
竹葦
(
ちくい
)
と包囲された中に
籠城
(
ろうじょう
)
する如くに
抜差
(
ぬきさし
)
ならない
煩悶
(
はんもん
)
苦吟に
苛
(
さいな
)
まれていた。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
この日ごろ、ことごとに荒あらしい言葉を吐いて、やさしい千浪を苦しめ、
苛
(
さいな
)
むのである。
煩悩秘文書
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
畏怖と驚駭と感嘆と、絶大の圧迫感と、憎悪と崇拝と、私たちはあまりに
苛
(
さいな
)
まれ過ぎた。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
兵士たちは、内地で、自分を搾取するブルジョアジーの利益のために、支那へ来ても、
苛
(
さいな
)
まれ、酷使されている。内地の職場にも、飢餓と、酷使と、搾取がある。失業地獄がある。
武装せる市街
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
また彼らは
渠
(
かれ
)
に
綽名
(
あだな
)
して、
独言悟浄
(
どくげんごじょう
)
と呼んだ。
渠
(
かれ
)
が常に、自己に不安を感じ、身を切刻む後悔に
苛
(
さいな
)
まれ、心の中で
反芻
(
はんすう
)
されるその
哀
(
かな
)
しい自己
苛責
(
かしゃく
)
が、つい
独
(
ひと
)
り言となって
洩
(
も
)
れるがゆえである。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
人に
苛
(
さいな
)
まれようとも、
蹂躙
(
ふみにじ
)
られようとも、かまわないと思召すなら、わたしを突き出してもようござんすけれど、あなたは、そんな
惨酷
(
ざんこく
)
なお方じゃなかろうと、わたしは安心していますのよ
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
しかるに、その間を、たったいま人を殺し、屍体を
苛
(
さいな
)
み、生血と遊んで、全身絵具箱から這い出したようになっているはずの男だけが、この密網の目を洩れてただの一度も
誰何
(
すいか
)
されなかったのだ。
女肉を料理する男
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
いかなる種類の苦しみがその人の良心を
苛
(
さいな
)
んでいるかというようなことまで、見抜いて、本人がまだ口をきかない先に、その霊魂の秘密を正確に言い当てて、当人を驚かしたりきまり悪がらせたり
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
牲と斃れし人々を喰ふ蛆また
苛
(
さいな
)
まず。 415
イーリアス:03 イーリアス
(旧字旧仮名)
/
ホーマー
(著)
従類
(
じうるゐ
)
眷属
(
けんぞく
)
寄
(
よ
)
りたかつて、
上
(
あ
)
げつ
下
(
お
)
ろしつ
為
(
し
)
て
責
(
せ
)
め
苛
(
さいな
)
む、
笞
(
しもと
)
の
呵責
(
かしやく
)
は
魔界
(
まかい
)
の
清涼剤
(
きつけ
)
ぢや、
静
(
しづか
)
に
差置
(
さしお
)
けば
人間
(
にんげん
)
は
気病
(
きやみ
)
で
死
(
し
)
ぬとな……
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
と寄ってたかって声も
得立
(
えた
)
てない女を、びしびしと
苛
(
さいな
)
んでいる有様、見兼ねた新九郎は前後を忘れてばらばらと躍り出した。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
先生の家の話を聴いた
為
(
た
)
めでしょうか、それとも景色自体が三山の山おろしの吹き交ぜて土も草木も掻き
苛
(
さいな
)
まれつけているその為めでしょうか。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
が、そう繰り返してみたものの、彼の心に出来た目に見えぬ深手は、折にふれ、時にふれ彼を
苛
(
さいな
)
まずにはいなかった。
藤十郎の恋
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
苛
常用漢字
中学
部首:⾋
8画
“苛”を含む語句
苛責
苛酷
苛立
苛々
苛辣
苛斂誅求
苛苛
苛虐
苛斂
小苛
苛烈
苛税
苛政
苛刻
手苛
苛察
苛立勝
暴歛苛法
辛辣苛酷
責苛
...