にほ)” の例文
北海道に來てから感じた——而もそれが渠の刹那々々の生命に吸收されてゐたと思ふ——新しいにほひと色とを思ひ浮べる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
父 そりやらつぱ卒が酔つぱらつてゐたから、お酒つ臭いにほひをなくした上、食べることにしようと思つたのさ。
虎の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さいはひに一ぱいみて歇息やすませ給へとて、酒をあたため、下物さかなつらねてすすむるに、赤穴九一袖をもておもておほひ、其のにほひをくるに似たり。左門いふ。
彼等かれら玉蜀黍たうもろこしがざわ/\とめうこゝろさわがせて、花粉くわふんにほひがさらこゝろあるもの衝動そゝはたけあひだくとては
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
向ふにあるかゞみと蝋燭たてを眺めてゐる。妙に西洋のにほひがする。それから加徒力カゾリツクの連想がある。何故なぜ加徒力カゾリツクだか三四郎にもわからない。其時ヷイオリンが又鳴つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
人間といふものは、頭に水気が多いとか、霊魂たましひ牛乳ミルクにほひがするとか言つてけなされても、大抵の場合笑つて済まされるものだが、唯胃の腑の事になるとさうは往かない。
みぞつかつた麥藁帽子むぎわらばうしが、たけかは一所いつしよに、プンとにほつて、くろになつて撥上はねあがる。……もう、やけになつて、きしきるむし合方あひかたに、夜行やかう百鬼ひやくき跳梁跋扈てうりやうばつこ光景くわうけいで。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みつは、初めて乘つた汽動車といふものゝ惡いにほひに顏をしかめて、縞絹しまぎぬのハンケチで鼻をおほふてゐたが、この時やうやう言つて、其の小じんまりとした、ツンと高い鼻を見せた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
とげをひきぬいてやりました。うみがどろどろと流れでました。ぷーんとくさいにほひです。それをがまんして、うみをすつかり押し出してやつて、傷口に怪我けがの薬をつけてやりました。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
卯一郎 (鼻を鳴らし)生魚なまざかなをいぢつて来たな。云つとくがね、おれはそのにほひが何よりも嫌ひなんだ。奥さんには、もう何度も云つた筈だが、お前はまだ来たてで、教はつてなけれや仕方がない。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
二年前まではこの中学の校舎は兵営だつたため、控所の煉瓦敷れんぐわじきは兵士の靴のびやうや銃の床尾鈑しやうびばんやでさん/″\破壊されてゐた。汗くさい軍服のにほひ、油ツこい長靴の臭ひなどを私は壁からぎ出した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
チブスの病室の近くまで來ると、樟腦カンフルと焚いた香醋のにほひが警告するやうに私の鼻をいた。私は、夜中起きてゐる看護婦に聞きつけられはしないかと恐れて、その室のドアの前を素早く通り拔けた。
土手にゆけば土手のにほひのかなしけれ萌えてまもなき青草の土手
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
河土手に蛍のにほひすずろなれど朝間あさまはさびし月見草つきみさうの花
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
墓番は思つたよりも老人としよりで、酒のにほひをさせて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
肉の臭気や織物の、びたにほひも知らぬげに
そつぽを向いてにほつた人もある
山之口貘詩集 (旧字旧仮名) / 山之口貘(著)
雜炊ざふすゐげついたやうなにほひがぷんとはないたときしなはしつてようかとおもつて俯伏うつぶしになつてたが、すぐいやになつてしまつた。おしなうごいたのでふところ與吉よきちした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
小池が其の障子を開けて入ると、お光も默つてあとから入つた。割合ひに廣い土間には、駒下駄が二三足そろへてあつて、煑物にものにほひがプンと鼻をいた。奧の方からは三味線さみせんが響いて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
馬のにほひのする鞄やシヤツの置いてあるなかをぶらぶら歩きながら、福沢氏はこれまですつかり忘れてゐた大事のものを思ひ出した。大事のものとは、外でもない、妹婿の杉浦非水氏である。
くささとつては、昇降口しようかうぐち其方そつちはしから、洗面所せんめんじよたてにした、いま此方こなたはしまで、むツとはないてにほつてる。番町ばんちやうが、また大袈裟おほげさな、と第一だいいち近所きんじよわらふだらうが、いや、眞個まつたくだとおもつてください。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くつがへされたる蜜蜂の大きなるはげしくにほ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「さうして、肉のにほひがしやしないか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)