胸毛むなげ)” の例文
やまくづして、みねあましたさまに、むかし城趾しろあと天守てんしゆだけのこつたのが、つばさひろげて、わし中空なかぞらかけるか、とくもやぶつて胸毛むなげしろい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
汽車や電車に乗ると、胸毛むなげらし太股ふとももを現すをもって英雄の肌を現すものと心得て、かえってそれを得意とするものがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこを通り抜けて自分の部屋へやに来て見ると、胸毛むなげをあらわにえりをひろげて、セルの両そでを高々とまくり上げた倉地が、あぐらをかいたまま
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
どんなに眠かつたか、素肌の上に半纒はんてん一枚羽織つて、胸毛むなげと一緒に、掛守りと、犢鼻褌ふんどしが、だらしもなくはみ出します。
なかで、胸毛むなげにふかくくびをうづめた母燕おやつばめねむるでもなくをつぶつてじつとしてゐるとひなの一つがたづねました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
たとえば「河馬かば」とか、「仁王におう」とか、「どぶねずみ」とか、「胸毛むなげの六蔵」とか、いったようなのがそうであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
先刻さっきまで、そのなかには、ほおのしろい、胸毛むなげのくりいろをした、かわいいやまがらがいたのにとかんがえると、あんなにれていながらげたことが、ゆめとしかおもえません。
山へ帰ったやまがら (新字新仮名) / 小川未明(著)
オスのハトは、はね毛をふくらまし、頭をまっすぐに立てて、からだをあげたりさげたりするので、そのたびに胸毛むなげが枝にさわりました。そして、ひっきりなしに
平岡の言葉は言訳いひわけと云はんより寧ろ挑せんの調子を帯びてゐる様にこえた。襯衣シヤツ股引もゝひきけずにすぐ胡坐あぐらをかいた。えりたゞしくあはせないので、胸毛むなげが少しゝゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこでいつものように、フッフッといきをかけて、紅雀べにすずめ胸毛むなげで上をかるくこすりました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それからまたしばらくするとおしどりたちはくちばしを胸毛むなげの中に収めて、あおぐろい丸いをおのおのとじた。水の底から老人のふきならす、たえなるふえ音色ねいろがひそやかにのぼりはじめたらしい。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
腹毛はらげ胸毛むなげはものかは、背の真中まで二寸ばかりの真黒な熊毛がもじゃ/\うずまいて居る。余も人並はずれて毛深い方だが、此アイヌに比べては、中々足下にも寄れぬ。熟々つくづく感嘆して見惚みとれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、胸毛むなげをむきだしてうでまくりをしなおしたふたりの道中稼どうちゅうかせぎ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こふの鳥の光明の胸毛むなげ——その断片。
ぴつたりとつけた胸毛むなげ
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
胸毛むなげの露をはらひつゝ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
あか胸毛むなげのおど/\と
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
其處そこには山椿やまつばき花片はなびらが、のあたり水中すゐちういはいはび、胸毛むなげ黄色きいろ鶺鴒せきれい雌鳥めんどりふくみこぼした口紅くちべにのやうにく。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
意氣な單衣ひとへを七三に端折つて、懷中ふところの十手は少しばかり突つ張りますが、夕風に胸毛むなげを吹かせた男前は、我ながら路地のドブ板を、橋がかりに見たてたい位のものです。
水はちょうどてであった。文鳥は軽い足を水入の真中に胸毛むなげまでひたして、時々は白いつばさを左右にひろげながら、心持水入の中にしゃがむように腹をしつけつつ、総身そうみの毛を一度にっている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白き胸毛むなげの百千鳥。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
みどり胸毛むなげ垂尾鳥たれをどり
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「あ、」と離すと、爪を袖口そでぐちすがりながら、胸毛むなげさかさ仰向あおむきかゝつた、鸚鵡の翼に、垂々たらたら鮮血からくれない
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
胸毛むなげおく迄赤くなつたむねを突きして、斯う云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、」とはなすと、つめ袖口そでくちすがりながら、胸毛むなげさかさ仰向あをむきかゝつた、鸚鵡あうむつばさに、垂々たら/\鮮血からくれなゐ
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
就中なかんづく、ねうちものは、毛卷けまきにおしどりの羽毛うまう加工かこうするが、河蝉かはせみはねは、職人しよくにんのもつともほつするところ、とくに、あの胸毛むなげゆるは、ごとうをせる、といつてあたひえらばないさうである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)