まとま)” の例文
もとよりまとまった話の筋を読ませる普通の小説ではないから、どこで切って一冊としても興味の上においしたる影響のあろうはずがない。
う言うわけだ、兄貴、少し詳しく話してくれ、俺も腑に落ちないことがあるが、口へ出してハッキリ言うほど、考がまとまってない」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あかりけて本を読むのが目に悪けりゃあ、話をしていたって好いわけです。誰かがまとまった話をして、みんなで聴いても好いでしょう。
そんな訳だから、気長に一本一本売るつもりならこの辺でもいいが、まとまった金にしようというには、やっぱし東京でないとだめらしい
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
そしてまとまりかけていたんですが、その永峯って男はどういうものか急に気が変わってしまって、工場を出ていってしまったんです。
街頭の偽映鏡 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
御傍へれば心持の好い香水が顔へ匂いかかる位、見るものも聞くものも私には新しく思われたのです。御奉公の御約束もまとまりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……だが、俺がちらと聞いた噂によると、おめえは、何かまとまった金の要り用があって、新町の紅梅から芸妓げいこに出るという話じゃねえか。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ルパンは考え物だとは言ってみたものの、何等そこからまとまった判断、または意見を引き出すことが出来ないので、かなり当惑した。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
大杉氏は言ふ、あの茶話に、今の大杉に香奠で無くて、百円とまとまつた金が入つて来るわけがないとあつたが、あれは可哀かあいさうだ。
彼の妻は、着物の話が出る度に、屹度きっと大島を讃美したが、譲吉の月々の余裕と云っても夫は二三十円と、まとまった金でなかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これもその年あたりは春蚕はるごの出来が大変によろしかった年でしたから在方ざいかたは、みんなたんまりとまとまった金を握っていたはずでございますし
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「辻町のやつ、まだ単行が出来ないんだ。一冊まとまったもののように、楽屋うちで祝ってやろう。筆を下さい。」——この硯箱すずりばこを。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが縁で浜田屋へも出入でいりするようになり、伊藤公にも公然許されて相愛の仲となり、金子男の肝入りで夫妻となるようにまとまった仲である。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのおのおのはまた、近親を伝手つてに小さくまとまった班々を統率した。笠の緒をひきしめ袴の腿立ももだちをたかく取った。そのもの達は緊張していた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
一向にまとまりはつかず、考えれば考えるほど、今日の帰り路は、どう取って、定刻までに信濃町まで出たものかと、そればかりが気になりだした。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「本だけはぽつぽつ読んでいるが——いつになったら考えがまとまるか、自分でもちょいと見当がつかない。殊にこの頃のように俗用多端じゃ——」
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いくら大騒ぎしたってまとまらない時は纏らないし、纏るものなら放っておいたって纏ります。それだから縁というんです。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
この計画を実行するにはまとまった金が必要でしたが、それは国もとへそう云ってやり、すっかりお膳立ぜんだてが整うまではナオミに知らせない決心を以て
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まとまらない印象を無理に纏め上げて見た時に、思ひがけなくも、奇妙にも、それは十七八年も昔の或る母の奇怪な顔になつた——母は丹毒にかかつて居た。
而も、前言した素質を持つた平城天皇の御代であつたとすれば、万葉集は、まとまらなければならなかつたのである。
万葉集のなり立ち (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
上半身は、それは美しい女体であるけれども、腰から下は暗い群青ぐんじょう色に照り輝いて、細っそりとまとまった足首の先には、やはり伝説どおりの尾鰭おひれがあった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それらが縁側から見える中座敷でお蘭は帷子かたびらの仕つけ糸をっていた。表の町通りにわあわあいう声がして、それが店の先でまとまると、四郎が入って来た。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「彼処の旦那様が、あなたのことをほめていらっしゃいますから、あなたが結婚なさる腹なら、すぐまとまりますが」
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伊平は表具屋と経師屋を七、八軒もまわったという、芳古堂にもいったそうだが、賃銀の点でみなまとまらなかった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
然るに夏目氏は朝日新聞の関係を絶つ事かたくして交渉まとまらずまた森先生より小生に頼むやうにと義塾の人が千駄木せんだぎを訪問したる時、森先生のいはるるには
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それでは売られぬという、買われぬという、さんざん押問答の末に立去ろうとしますと、急に、「負けます、負けます」と呼止めて、やっと話がまとまります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
なるべく現代の言葉に近い言葉を使って、それで三十一字にまとまりかねたら字あまりにするさ。それで出来なけれあ言葉や形が古いんでなくって頭が古いんだ。
まとまりない雑談が、見も知らぬ乗客同士の間に交され始めたが、中で一きわ高いしゃがれ声が伸子の注意をひいた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
勿論まだ何らまとまった結果を得た訳ではないが、少しばかり考えた断片的の結果を左に記して、専門家やまた土佐の歴史に明るい先輩諸氏の示教を仰ぎたいと思う。
土佐の地名 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
僕にとって、僕のまわりを通りこす人々はまるでまとまりのない僕の念想のようだ。僕の頭のなか、僕の習癖のなか、いつのまにか、纏りのない群衆が氾濫している。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
学位論文はなるべく内容豊富でまとまったものがよいというので、従来「植物学雑誌」に連続掲載していた欧文の論文千何頁かの本邦植物に関する研究を本論文とし
さうね、まとまりやうがないつて思つてるンでせう? 悉皆すつかり、私はあきらめてもゐるのよ。奥さんを見たら、とても悲しくなつて、歩きながら、思ひ詰めちやつたわ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
近い所では播磨はりま明石あかしの浦がよろしゅうございます。特別に変わったよさはありませんが、ただそこから海のほうをながめた景色はどこよりもよくまとまっております。
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
福日も存外分ってくれて話がまとまって、それからまた社外にあって都新聞の為に書き出すことになった。
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二名にめい水兵すいへい日出雄少年ひでをせうねん大賛成だいさんせいなので、たゞちに相談さうだんまとまつたが、さて何處いづれ方面ほうめんへと見渡みわたすと、此處こゝこと數里すうり西方せいほう一個いつこ高山かうざんがある、火山脉くわざんみやくひとつと
もし是非ともこれを望むとすれば、まとまったいくらかの金をたしまえとして渡さなければなるまい。
梟の眼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
幾百本とも判らぬ幹が総立に一まとまりになっているから、全周囲は二三じょうもあるであろう、思えば先年参詣の時門前の婆さんが千本銀杏と申しますと云われたのであった
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
略装は、簡略な装本態であって、日本の所謂フランス装などは当然この部類に入るわけであるが、余り費用をかけず、しかも綴本としてまとまったものとするための方式である。
書籍の風俗 (新字新仮名) / 恩地孝四郎(著)
「その代りには、あの男、生れてはじめて二千と三千まとまったものを握ったんだ。——門のある家へへえって急に三人と書生を置いたんだ。——いっそ思い置くことはあるめえ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
書損かきそこなって消したというよりは、正の字を二に改めたのが太くなったという方が、事柄としてまとまっているであろう。そこに元禄の句と明治の句との相違があるといえばいえる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
と相談がまとまった。某々等は例の爺さんの小舎こやに集って、その時刻の来るのを待っていた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これで、事がうまくまとまれば、私は人間としての役目の一つが果たせるか、と思って一種言い現わしようのない興味も伴って、心が長者になったような嬉しさ、賑やかさを感じた。
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
今度は必ず成功する、信造からまとまった金が取出せるから、その時にはウンとお礼をする。
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
実はぼく今夜は五円札一枚しかもつて居ないのだ。これは僕の小使銭こづかひせんの余りだからいやうなものゝしか二十円とまとまると、かぎの番人をして居る妻君さいくんの手からはても取れつこない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
余はいつまでっても、小説はもとより多少まとまった文章をも仕上げる事が出来なかった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
『日本書紀』は文庫本でこの頃手に入れたが、その本文から年代のまとまった知識を得ることは容易でない。年表がやはり必要になってくる。幸に鴎外の集なら借覧を許されていた。
松岡寿まつをかひさし君は平八郎の塾にゐた宇津木矩之允と岡田良之進との事に就いて、在来の記録に無い事実を聞かせてくれ、又三上参次みかみさんじ君、松本亦太郎まつもとまたたらう君は多少まとまつた評論を聞せてくれた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けれども私がその時に止まると云う必要もなければ、又止まろうと云う気もない。い加減に返答をして置くと、その二、三度同じような事をいって来たが、もとより話はまとまらず。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かれに与える仕事はまずない。仕事はすくなくともまとまった金のしごとでなければ、せっかく出してやっても何にもならない訳だ、そんな金のかかる仕事は彼の庭では何一つなかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
起きてる事も事実なら、夢の生涯も事実に相違ないとは、その好く云ふ所である。未だまとまつた作は無いが、いづれその内に書く/\と云つて居る。筆で書くより魂で書きたいと云つてる。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)