稚児ちご)” の例文
旧字:稚兒
子供たちは綿菓子わたがしべながら、稚児ちごさんが二つの扇を、眼にもとまらぬ速さでまわしながら、舞台の上で舞うのを見ていました。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
ちょうどその時分、やはり俗体のままのお稚児ちごで、奥向きのお給仕を勤めておられた衆のなかに、松王まつおう丸という方がございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
それが女児おなご人形や稚児ちご人形であった時には、それの持つ、この世のほかの夢の様な魅力に、びっくりなすったことはないでしょうか。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
中学時代に私の棒組ぼうぐみに野球に凝って落第ばかりしているニキビ野郎があって、無闇に下級生の「ヨカ稚児ちご」ばかり追っ駆け廻していた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
後囃子あとばやしが、また幕打った高い屋台に、これは男の稚児ちごばかり、すりがねに太鼓を合わせて、同じく揃う十二人と、多一は同じ装束である。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おう、坂部十郎太さかべじゅうろうたか。たかが稚児ちごどうような伊那丸いなまる六部ろくぶの一人や二人が、おりをやぶったとて、なにをさほどにうろたえることがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「五月鯉」の第一回に梅若丸うめわかまる然とした美少年が荒くれ男に組敷かれる処があるのも大方小波の稚児ちご時代の自叙伝の一節だろうと想像する。
おもって、っていました。そのうちふえはだんだんちかくなって、いろしろい、きれいな稚児ちごあるいてました。弁慶べんけい
牛若と弁慶 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
このごろは母を思うの情がいっそうせつになって、土曜日に帰るみちでも、稚児ちごを背に負った親子三人づれの零落した姿などを見ては涙をこぼした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
髪結かみゆい弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児ちご小姓児太郎の朝髪のみだれをでつけていた。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
稚児ちごの行列の出るのを待とうと言うのだ。伯母は小さなキセルを出して煙草を吸うていた。この伯母は私の父に似て骨細で、華奢きゃしゃな、美しい才女であった。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
祭列を見るのは夜の十時頃です。海のやうに灯の点つた町を通るのでありながら、やはり夜のことですから、お稚児ちごさんの顔などは灰白はひじろく見えるだけです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
木賃宿を泊り歩いているうちに周旋屋しゅうせんやにひっ掛って、炭坑たんこうへ行ったところ、あらくれの抗夫達がこいつ女みてえな肌をしやがってと、半分は稚児ちごいじめの気持と
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
二人の稚児ちごは二つ違いの十三に十五であった。年上の方は千手丸せんじゅまる、年下の方は瑠璃光丸るりこうまると呼ばれて居た。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ハテ文殊の像一体とあるが」と不審がると使者が「いえ、文殊菩薩の御像を持参致したわけではござりませぬ。お稚児ちごさんを一人連れてまいったのでございます」
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今日こんにち上野博物館の構内に残っている松は寛永寺かんえいじあさひまつまたは稚児ちごまつとも称せられたものとやら。首尾の松は既に跡なけれど根岸にはなお御行の松のすこやかなるあり。
「わはは。何じゃい何じゃい。今愉快の最中じゃ。当道場には稚児ちごの剣法のお対手仕る酔狂者はいち人もござらぬわ。御門おかど違いじゃ。二三年経ってから参らッしゃい」
可愛らしいお稚児ちご、紫の大振袖、精巧のはかま、稚児輪を俯向うつむけてソッとお茶をすすめているのでした。
「しかし親分、ここは一つ手を借りてあの稚児ちごどんを引っくくったほうが早計はやみちでがしょう」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
養父というのが、明治天皇の前の孝明天皇のそのまた前の天子様の御稚児ちごに上っていたという人なんですからずい分古い話。ちょうど武内宿禰たけのうちのすくねみたいな上品なおじいさんでした。
私の思い出 (新字新仮名) / 柳原白蓮(著)
こうなると話にも尾鰭おひれがついて、やれあすこの稚児ちごにも竜がいて歌を詠んだの、やれここの巫女かんなぎにも竜が現れて託宣たくせんをしたのと、まるでその猿沢の池の竜が今にもあの水の上へ
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
稚児ちごまげにっていて、寸の短い着物に前垂まえだれをかけていた。上唇うわくちびるがきもちむくれていて、いつもかすかに口をあけているような感じであったが、気になるというほどではなかった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
木瓜の枝のまわりに、若芽が一ぱい子供の毛糸のシャツのようにふく/\と暖かそうにかぶさり、しかもその編目の間には美しい稚児ちご麦粒腫ものもらいのような可憐なつぼみが沢山潜んでいます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしいわゆるお稚児ちごさん(土佐ではとんとという)の風は相当にあったと思う。
その判官殿と申さるるは、平治の合戦に負け、父を討たれた後みなし子となり、やがて鞍馬くらま寺の稚児ちご、後には金商人かねあきんどの後にくっついて、奥州まで食糧を背負うていった小忰こせがれのことであろう
「そうじゃそうじゃ……のうヨカ稚児ちごどん。そんたは男じゃなかろうが……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
関寺小町というのは江州こうしゅう関寺の住僧が七夕の日に稚児ちごたちを連れて、その山陰にいおりを結んでおる小野小町のなれの果をおとない、和歌の問答をし、やがて稚児たちに童舞わらわまいを舞わすと、小町も興に乗り
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「どれどれ一見。これはヨカ稚児ちご陰間かげまでござろう、それに相違ない」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「イヨ、君、お久しぶりぢやの。稚児ちご騒ぎでもやつたんかえ?」
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
さる稚児ちごと見るより早く木に登り
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「彼奴は、よい稚児ちごであろうが」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
稚児ちごよわが膝にすが
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
村の稚児ちごさん
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ちやうどその時分、やはり俗体のままのお稚児ちごで、奥向きのお給仕を勤めてをられた衆のなかに、松王まつおう丸といふ方がございました。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
と、いうので、お杉ばばも加えて、乾児のこもの十郎に、お稚児ちごの小六の二人に弁当など持たせて、京橋堀から舟に乗った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一まず女紅場で列を整え、先立ちの露払い、十人の稚児ちごが通り、前囃子まえばやしの屋台をさしはさんで、そこに、十二人の姫が続く。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口々に鐘供養ぞと言っております。鐘楼の洪鐘おおがねのまわりに仕組まれた足場の上を白く塗った稚児ちごたちが練り出しました。何事をもわきまえぬさまにたゞ晴れがましく練り行く稚児たち。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
芝居へ出て来る先代萩せんだいはぎの千松のように、たもとの長い絹物の紋付を着て、頭も顔もお稚児ちごさんのように綺麗になっていましたが、不思議なことに、はかますそはぼけて、足は見えませんでした
眼のきれいなこと、日のあかりに透いた耳の紅かったこと、それに手や足は玉のようだといったらお笑いになるかも知れませんが、むかしの稚児ちごさまのように美しいのでございます。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「石の枕」はひとばあさんが石の枕に旅人を寝かせ、路用ろようの金を奪ふ為に上から綱につた大石おほいしを落して旅人の命を奪つてゐる、そこへ美しい稚児ちご一人ひとり一夜いちやの宿りを求めに来る。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
勅使と観賢は、お姿を拝することができたが、弟子の石山内供淳祐いしやまのないくじゅんゆうは、当時稚児ちご姿でお供に加わっていたが、拝むことができず、うち沈んでいたので、観賢が手を取って大師の膝に押しあてた。
すなはち此の寺の相をるに、れまことの天台宗の寺に非ず。本尊は聖母マリアにして羅漢は皆十二使徒なり。美しき稚児ちごを養ひて天使になぞらふる御辺の御容体は羅馬ローマン加特里克カトリクか、善主以登ゼスイトか。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
にわか発心ほっしんして、ついに仏道に入ったというところをかいたもので、あのお稚児ちごさんは、その晩泊った旅人、実は観世音菩薩の御化身ごけしんが、強慾ごうよくな老婆をいましめの方便ということになっているのです
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
稚児ちごの手の墨ぞ涼しき松の寺
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
稚児ちごといえば優しげに聞えるが、これが向う傷のある肉のかたじまりな、いかにも喧嘩早い生れつきに出来ているような小男で、はうまい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屋台の前なる稚児ちごをはじめ、間をものの二けんばかりずつ、真直まっすぐに取って、十二人が十二のきぬ、色をすぐった南地の芸妓げいこが、揃って、一人ずつ皆床几に掛かる。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのお伴にはかならず松王様をお連れ遊ばすのが例で、御利発な上に学問御熱心なこのお稚児ちごを、お二方ともよくよくの御鍾愛ごしょうあいのようにお見受け致しました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
婆さんはこの稚児ちごも石の枕に寝かせ、やはり殺して金をとらうとする。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「あの、眼をつぶっているお稚児ちごさんは、ありゃ何だろう」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
奥では、佐々木小次郎と、お稚児ちごの小六、それに菰の十郎を加えて、こよい助太刀三名、くから身支度して待っていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)