しつか)” の例文
三十前後の平凡な女ですが、んなのが案外しつかりもので、家の事情や、人と/\の關係を説明させるのに、一番便利なのかもわかりません。
でもね、考へようですよ、地方に落ついてゐて、しつかりと土台の定まつた生活をしてゐるといふことは、実に必要なことですわ。
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
さうして、凡ての者の注視のまとになつてゐた。「どうしてかう靜かに——かうしつかりと——耐へてゐられるのだらうか?」
「そんな者はない。」湯浅氏は天国の支配人のやうなしつかりした調子で言つた。「つまり、早いもの勝ちなんだね。」
あしみづなか投出なげだしたからちたとおも途端とたんに、をんな脊後うしろから肩越かたこしむねをおさへたのでしつかりつかまつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はるたといつては莞爾につこりなにたといつては莞爾につこり元来ぐわんらいがあまりしつかりしたあたまでないのだ。十歳じつさいとき髪剃かみそりいたゞいたが、羅甸ラテン御経おきやうはきれいに失念しつねんしてしまつた。
はつきりした自分のものといふ信念なり考へなりがあるのやらないのやら、どうにもしつかりした心棒といふものが皆目見当らない感じで、甚だ頼りないのだつた。
雨宮紅庵 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ことに彼が、人間にも似たしつかりとした理智の眼をもつて居り、同時に彼が、友人とはげしい争闘をするときは、嵐のやうな激情の、凄まじい男性味をもつてゐる。
「大丈夫だから、御取おとんなさい」としつかりしたひくい調子で云つた。三千代はあごえりなかうづめる様にあとへ引いて、無言の儘右の手を前へした。紙幣は其うへに落ちた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しつかと押へ漸く蕎麥責をのがれしが此時露伴子は七椀と退治和田の牡丹餅ぼたもちに梅花道人が辭してより久しく誰人の手にも落ちざりし豪傑號を得たりしは目ざましかりける振舞なり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
胴卷どうまきに入れてしつか懷中くわいちうにてしばり夫れより又土藏へ忍び入り質物しちものの中にていづれも金目なる小袖類を盜みとり風呂敷ふろしきに包みて背負せおひ傍邊かたへに在りし鮫鞘さめざやの脇差を腰にぶつこみ猶又拔足差足ぬきあしさしあし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぼんやりして居るんだい。明日は愈々予選会ぢやないか。今年が第二回目の戦なんだから、今度の成績で君の記録レコード、いや、この学校の名誉が永遠に定るんだ。僕も頼むからしつかりやつて呉れよ。
月下のマラソン (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
困るねえ、うけたまはりますればなに御邸おやしきから御拝領物ごはいりやうものきまして私共わたくしどもまでお赤飯せきはん有難ありがたぞんじますついで女房にようばうよろしくてえんだよ。亭「え。妻「本当ほんたうに子供ぢやアなし、しやうがないね、しつかりおしよ。 ...
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「おい、しつかりしろ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
五十二三の、しつかり者らしい女でした。身だしなみも立派、身扮みなりは地味ですが、折屈みや言葉づかひは、何んとなく江戸の匂ひがするのです。
小僧は巻煙草のやうに頭に火がついても、びくともしないやうなしつかりした調子で言つた。
覺まされなば一大事と思へばそばへ立寄てやいばもつしつかとゞめ聲をひそめて云るやうむすめはやまる事なかれ委細ゐさいの事は書置かきおきにてちく諒知しようちなしたりし流石さすがは大藤武左衞門の娘だけあり無き名をおひ遺恨ゐこん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ちゝはそれを同県下の多額納税議員の某からたしかめたのださうである。最後に、佐川家の財産に就てもはなした。その時父は、あゝ云ふのは、普通の実業家より基礎がしつかりしてゐて安全だと云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……しつかつぶれや。つゑつかまれ。ことばそむくと生命いのちがないぞ。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「すつかり締めきりましたよ。六疊の外の三枚の雨戸は、鵜の毛の尖端さきで突いた程のきずもありませんね。棧もしつかりしてゐるし」
竹のや主人、饗庭あへば篁村氏は剽軽へうきんな面白い爺さんだが、夫人はなか/\のしつかものなので、お尻の長い友達衆は、平素ふだんは余り寄付よりつかない癖に、夫人が不在るすだと聞くと、直ぐ駈けつける。
「出来るつもりです」としつかり答へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手代の周次郎——年は若いがしつかりものだ。御浪人の近藤宇太八樣用心棒と言つては失禮に當るが、何彼とお世話になつてゐる。
叔父の安兵衞は確り店を預かつて、重三郎の儘にさせないから、自分の足場をしつかりと拵へた上で、今度は安兵衞を殺す氣になつたかも知れない
しつかり者と言つても、取つてたつた十八の娘が、不意に鼻の先へ眼を剥いた白髮しらがツ首を突き付けられたのですから、驚いたのも無理はありません。
しかし、家光の胸に錢形平次の名が印象深く記憶きおくされた事と、金色の處女をとめ——お靜の愛をしつかり掴んだことだけで、若い平次は滿足しきつて居りました。
「お千勢はしつかり者ですから、何時までも若旦那の慰みものになつてゐる筈はありません。嫁にしてくれとか何んとか手詰の強談を持ち込んだのでせう」
しつかり者の四十男で、金儲けや商賣には拔け目のないやうな人柄ひとがらですが、昨夜は少しばかり晩酌ばんしやくをやつて、亥刻よつ(十時)そこ/\に二階へ上がつた切り
「何を驚くんだ。この良い男の杵太郎は、ちよいとやさしいが、どうしてどうして、なか/\性根のしつかりした男だ」
娘のおこのが近頃與三郎に熱くなつてゐるので、許嫁いひなづけの金次郎が面白くないのは評判の通りだが、金次郎は根がしつかり者で、人などを殺すやうな男ぢやない。
「いづれはお上で沒收ぼつしうさ。だが、あのお房といふ娘は思ひの外しつかり者だから、結構清次郎を立てゝ行くだらうよ」
その平凡さうな三十女が、前掛で手を拭いて、縁側へキチンと坐ると、思ひの外しつかり者らしい地が出るのです。
何んの、罪も、糸瓜へちまもありやしません。夫の心をしつかと押へて、本妻の格式と、一粒種の子供を護り通さうといふ女には、それ位のことは許されて宜い筈です。
六十を越した、一とつかみほどの老婆ですが、なか/\しつかりものらしく言ふことはハキハキもして居ります。
六疊と四疊半の二た間、元隱居家に建てたものらしく、木口もしつかりしてをり、調度もなか/\に立派です。
叔父さんが、俵屋の帳尻ちやうじりを胡麻化して、しつかり溜めた上で、お辰さんと一緒になつて、大きな小間物の店を持つに違ひない——と、まあ、死んだ叔父さんのことを
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
「俵屋の主人は、跡取りのことを、ひどく氣にしてゐるやうだから、明日の親類方の寄合よりあひの前に、またどんなことが起らないとも限らない、しつかり見張つてくれ」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
あの男は思ひの外しつかり者らしいから、容易に口を割るまいが、うんとおどかしたら、何とか眼鼻がつくだらう。——俺は小染に會つて、いろ/\聽きたいことがある
かういふお皆は、此上もなく質素な調度の中に暮して居りますが、何となくしつかり者らしい中年女でした。
三十二三の、一度や二度は縁づきもしたことのある女、奉公れのしてゐるだけに言ふことは、しつかりしてゐて、決して人に尻尾を掴ませるやうな女ではありません。
年の頃は、二十二三にもなるでせうか、身なりもいやしくは無く、物言ひも上品にしつかりして居ります。
お紋さんと仲がよくないかつて? 御冗談で、お紋さんはしつかり者ですよ。磯五郎さんの方でチヨイチヨイからんだやうですが、あの人は藝人なんか、相手にしやしません。
ところで、花火が揚がつて、矢が飛んで來たとき、お孃さんは何處にゐたのか、しつかりしたところを
その女達をめぐる男を、虱潰しらみつぶしに擧げましたが、何分古いことで、本人達が勘次郎の存在を忘れて居るのと、お清が思ひの外しつかり者で、近頃すつかり堅くなつて居たので
格子戸の中、あかりから遠い土間に立つたのは、二十三——四の年増、ガラツ八が言ふほどの美い縹緻きりやうではありませんが、身形みなりも顏もよくとゝのつた、しつかり者らしい奉公人風の女です。
まア、しつかりやつて見ることだ。おどかしなんかは氣にすることは無いぜ、惡者が惡事を前以つて知らせるのは、何かそれをやらなきやならないワケのある事さ——その變な手紙を
少し眼を泣きらして居りますが、初々しいうちにしつかり味のある娘で、至つて粗末な身なり乍ら、好みも上品に、顏形もよく整つて、何んとなく人好きのする風情があります。
「あの内儀も評判者ですよ、悧巧でしつかり者で、あの若さで後家を立て通して、白粉にも紅にも縁のない暮しをして居るんだから。尤も口説くどき手はいつでも五六人はあるやうで」
「そんなものが居てたまるか、馬鹿野郎。しつかりしろ、皆んなお前の臆病がさせたことだ」
「爪がひどく痛んでゐるし、指も折れてゐるかも知れない。匕首を握り緊めてゐるのを無理にコジ開けたのだ。それに左手は匕首を持たせてはあるが、しつかにぎつてゐるわけでない」