相対あいたい)” の例文
旧字:相對
それから二時間ばかり後、彼等はやっぱり元のままの状態で、その長い間、殆ど姿勢さえもくずさず、三郎の部屋で相対あいたいしていました。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それと相対あいたいした前面が御本丸。ここまで来て見ると、天地の静かなことが案外で、征夷大将軍の城内をおかしたとは思われない。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
半助 やい、やい、やい! いい加減にしろい、佐貫の半助を前に置いて、名も戒名もねえ三下奴の手前等が、相対あいたい仁義もすさまじいや。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
たいそうによろこんで、おれ仕手方してかたを使い、棟梁とも云われる身の上で淫売じごくを買ったと云われては、外聞げいぶんが悪いから、相対あいたい同様にしてえと云って
すなわち俗にいう瘠我慢やせがまんなれども、強弱相対あいたいしていやしくも弱者の地位を保つものは、ひとえにこの瘠我慢にらざるはなし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なかぞらのやみをこぼれてしのつくばかり降りかかる吹上げの水を照し、相対あいたいして、またさきに申上候銅像の右手めてひっさげたる百錬鉄の剣に反映して
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こうやって一人ずつ相対あいたいになると、いかに愚騃ぐがいなる主人といえども生徒に対して幾分かの重みがあるように思われる。主人も定めし得意であろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相対あいたい異論あらば討論さしつかえない。籤先番により、まず藤波友衛、吟味次第を申して見よ。……さらば相たずねる。
顎十郎捕物帳:09 丹頂の鶴 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
猿楽さるがくを見るに謡曲の厭世的傾向に相対あいたいして狂言の専ら滑稽を主材となしたるは最もよく我が所論を証明するものなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
文明の程度が違うから世界の乱も起るので、文明の程度が等しければ、力が相対あいたいするから争いが起るものでない。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
婆やはそれをしおにあきらめて、おぬいさんにやさしくかばわれながら三隅さんのお袋の所にいっしょになって、相対あいたいよりも少し自分を卑下ひげしたお辞儀じぎをした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
諸藩の旅行者たりとも皆相対あいたい賃銭を払って人馬を使用すべきこと、助郷村民の苦痛とする刎銭はねせんなるものも廃されて、賃銭はすべて一様に割り渡すべきこと
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある時、トラが何ものかと相対あいたいがおに、芝生にすわって居るので、のぞいて見たら、トグロを巻いた地もぐりが頭をちゞめて寄らばたんと眼を怒らして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
じょうめは上馬じょうめの義ででもあろうか。けれども東北のなまりはすでに労働馬と相対あいたいの名に変化していた。その日本の労働馬は欧羅巴のにくらべるといかにも小さい。
玉菜ぐるま (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
半玉の時じゃアあるまいし、高が五十円か百円の身受け相談ぐらい、相対あいたいずくでも方がつくだろうじゃアないか? お前よりも妹の方がよほど気がいてるよ
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
まずその荒れはてた部屋の真中には足の曲った一脚の卓子テーブルがあり、それをはさんで二人の人物が相対あいたいしていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学校教授法の実験に興味きょうみを持つ人間と、詩や歌にあくがれている青年とがこうして長く相対あいたいしてすわった。点心ちゃうけには大きい塩煎餅しおせんべいが五六枚盆にのせて出された。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「いくら主人が堅くっても当人同士の相対あいたいづくなら仕方がないじゃないか。」と、僕も笑って言った。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし、法師の説法でも、氷室ひむろの女心は解けもせず、ひき退がりました。あとは殿との相対あいたいにおまかせするしかありませぬ。ゆめ、胸わるくおとりくださいますな——
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
積極的美と消極的美と相対あいたいするがごとく、客観的美と主観的美ともまた相対して美の要素をなす。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「ほんとだよ。お前さんとこの人との相対あいたいずくなら、何を言おうと勝手だろうがね、なんぼこの人だって少しや傍目はためというものがあろうじゃないか。あんまり阿漕だよ。」
てき相対あいたいしているというがしない。散歩さんぽにきて臥転ねころんで、はなしているようながする。」
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
意地のわるい三人のお武家さん——と思っていたものの、サテ、こうしてひとり取り残されて、お奉行様と相対あいたいになってみると、恐ろしさから、その三人が急に恋しくなって
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
眼近まぢか相対あいたいする伊豆東海岸の各地から、相州そうしゅう足柄下郡あしがらしもぐんの浦々にかけて、祭にこの弥勒歌を踊ったという例が多く、しかも歌のことばは一様に、かえって大島のものよりは古風なのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そう云ったのは夫人であって、夫人の前の卓の上には、金剛石ダイヤモンドを鏤めた巨大の耳飾が一つだけ、燦然と置かれてあるのであった。そして夫人と相対あいたいして、一人の支那人が腰かけていた。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
相対あいたいでは私がどんな我儘なことを云うかも知れないからお増は聞人ききてになってくれ。民子はゆうべ一晩中泣きとおした。定めし私に云われたことが無念でたまらなかったからでしょう」
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
厳然として賦与ふよされているものに、親もまた同様のものをもって、おごそかに相対あいたいするところに、われわれの肉の愛も、人の知恵をもってする教育も清められて、本当のものにされてゆきます。
おさなご (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
自己に擬したる被害者の屍体を階上の手摺てすりより吊り下し、相対あいたいする階段附近よりこれを正視して歓興したるものと察するをべく、かくの如く観察し来る時は、被害者が二重三重に絞首されしのち
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
綵衣さいい相対あいたいして舞わん
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
半助 やい、やい、やい! いい加減にしろい、佐貫の半助を前に置いて、名も戒名もねえ三ン下奴の手前等が、相対あいたい仁義もすさまじいや。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
もしまた、馬や、駕籠かごや、人足の用があらば、よいのうちに宿屋の亭主にあってよく頼んでおくがよい、相対あいたいでやると途中困ることがあるものだ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わが明智小五郎あけちこごろうは、ついに彼の生涯での最大強敵に相対あいたいした。ここに『蜘蛛男くもおとこ』の理智を越えて変幻自在へんげんじざいなる魔術がある。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
これと相対あいたいして帯長き振袖ふりそでの少女立ちながらたもと重げに井筒の上に片手をつき前身を屈して同じく井の底をうかがひたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たとえば西洋各国相対あいたいし、日本と支那朝鮮ちょうせんと相接して、互に利害を異にするは勿論もちろん、日本国中において封建の時代に幕府を中央にいただいて三百藩を分つときは
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一、相対あいたい賃銭継立ての分は、宿人馬と助郷人足とを打ち込みにいたし、順番にてよろしく取り計らうべきこと。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
獣のような重太郎と相対あいたいしているお葉は、すこぶる危険の位置にあると云わねばならぬ。かれじょうが激して一旦の野性を発揮したら、孱弱かよわい女に対してんな乱暴をあえてせぬとも限らぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この光景に相対あいたいしたと仮定して見ても、「ここだも騒ぐ鳥の声かも」とだけに云い切れないから、此歌はやはり優れた歌で、亡友島木赤彦も力説した如く、赤人傑作の一つであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
村の中央には明神みょうじんさまの御社おやしろと清い泉とがあって村の人の渇仰かつごうを集め、それに養われたと言われる無筆の歌人、漁夫磯丸いそまるの旧宅と石のほこらとは、ちょうど私の本を読む窓と相対あいたいしていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今日の有様であれば、段々日本の国民の体力は弱くなってしまう。体力が弱くなると同時に精神が弱くなって来るに相違ない。これではどうも世界の強国と相対あいたいするということはとても出来ない。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
わたしは奉公人の身の上相対あいたいずくだから是非もないが、内儀おかみさんが悋気深いためにわしに斯ういう薬を飲ましたのじゃ、内儀さんさえ悋気せずば此の苦しみは受けまい、あゝ口惜くやしい、わたしは死に切れん
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
口説くとは、当人どうし相対あいたいのことで、愚僧の役は説くにとどまる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あんたよりは殺気が強いしそれに左剣にねばりがある。まず相対あいたいでは四分六、残念ながらあんたが四で先方が六じゃ。ははははは、いやよくいって相討あいうちかな——お! 見なさい。来おるぞ、来おるぞ!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二人はまた沈黙を間に置いて相対あいたいした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その客は服部五郎兵衛はっとりごろべえと云う私の先進先生、至極しごく磊落らいらくな人で、主客しゅかく相対あいたいして酒を飲みながら談論はなしは尽きぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さて、奥村二郎の家の、殺人の行われたその同じ部屋で、庄太郎と死者の弟の二郎とが相対あいたいしていた。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
冗談じょうだんが真剣になったのか、仏頂寺の構えたしらの切り方の刻々に真に迫り行くのが怖ろしく、それと相対あいたいした兵馬の態度が、いよいよ真剣になりそうなのに恐怖を感じだしました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敵味方相対あいたいしていまだ兵をまじえず、早くみずから勝算しょうさんなきをさとりて謹慎きんしんするがごとき、表面には官軍に向て云々うんぬんの口実ありといえども、その内実は徳川政府がその幕下ばっかたる二
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼と相対あいたいしていると、彼か私かどちらかが、異性ででもある様な、一種甘ったるいにおいを感じた。ひょっとすると、その匂が、私達二人の探偵事務を一層愉快にしたのかも知れないのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
相対あいたいで物を貰って喰うには差支えねえ、人の物をったり乱暴をしたりすると、つかまって首を斬られる、首を斬られるのは俺もいやだがお前たちもいやだろう、だから乱暴をしてはいけねえ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
編輯へんしゅうの方について申せば、私の持論に、執筆者は勇をして自由自在に書くべし、他人の事を論じ他人の身を評するには、自分とその人と両々相対あいたいして直接に語られるような事に限りて
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)