はく)” の例文
中空に漂うて、それは一点のはく、高雅なアトムを撒きちらしてゐた。(いちど「静」のなかで羽根を憩うた、あの「動」の相で…)
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
駅中に土神八幡の祠あり。これは昔年よりありしを慶長の乱に西軍これを焼けり。後元和中越前侯忠直たゞなほ(一はく)再脩せり。此所神祖御榻ぎよたふの迹なり。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
見渡すかぎりはく皚皚がいがい、まれに見る氷の裂け目か、氷丘の黒い影のほかには、一点のさえぎるものなき一大氷原である。遙か南方にあおい海の狭い通路がみえる。
起きて来た連中れんぢゆうが一銭銅貨を投げるふりをすると彼はかぶりを振つて応じない。五銭はく銅以上を要求するのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ひろいところに雪がはく皚々がいがいでしょう? それを白い障子のたった明るい室で見て、白い紙の字をよんだり書いたりする毎日だもの! ほんとにめくらになります
其の頃「此の露で伽羅墨練らんはく牡丹」と云う句が有り「吉原のおごり始めは笠に下駄」という川柳が有りますが、仙台侯は伽羅の木履ぽくり穿いて吉原へおはこびになり
李意は少し筆をやすめて自分の絵を見ていたが、やがてその図の上に一字「はく」と書いて筆を投じ
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月より流るゝかぜこずえをわたるごとに、一庭の月光げつくわう樹影じゆえい相抱あひいだいておどり、はくらぎこくさゞめきて、其中そのなかするのは、無熱池むねつちあそぶのうをにあらざるかをうたがふ。
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
半井うしがもとをいでしは四時ころ成りけん、はく皚々がいがいたる雪中、りん/\たる寒気をおかして帰る。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
右も桜左も桜、上も桜下も桜、天地は桜の花にうずもれてはく一白いっぱく落英らくえい繽紛ひんぷんとして顔に冷たい。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そこで、おおかみは、荒物屋あらものやの店へ出かけて、大きなはくぼくを一本買って来て、それをたべて、声をよくしました。それからまたもどってきて、戸をたたいて、大きな声で
「あの金は、荐橋双茶坊こう秀王墻しゅうおうしょう対面に住んでおります、はくと云う女からもらいました」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
阿Qの話では、彼は挙人太爺きょじんだんなうちのお手伝をしていた。この一節を聴いた者は皆かしこまった。この老爺だんなは姓をはくといい城内切っての挙人であるから改めて姓をいう必要がない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
天気朦朧もうろうたる事数日すじつにして遠近ゑんきん高山かうざんはくてんじて雪をせしむ。これを里言さとことば嶽廻たけまはりといふ。又うみある所は海鳴うみなり、山ふかき処は山なる、遠雷の如し。これを里言に胴鳴どうなりといふ。
此間このあひだむかふの土手にむら躑躅つゝぢが、団団だんだんと紅はくの模様を青いなかに印してゐたのが、丸で跡形あとかたもなくなつて、のべつに草がい茂つてゐる高い傾斜のうへに、大きなまつが何十本となく並んで
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
来青花そのおほいさ桃花の如く六瓣にして、其の色はくわうならずはくならず恰も琢磨したる象牙の如し。しかして花瓣の肉はなはだ厚く、ほのかに臙脂の隈取くまどりをなせるは正に佳人の爪紅つまべにを施したるに譬ふべし。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
李のうたう曲やその間へはいるはくにつれて、いろいろ所作しょさをするようになると、見物もさすがに冷淡を装っていられなくなると見えて、追々まわりの人だかりの中から、※子大そうしだいなどと云う声が
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
茶屋の際の葉柳の下枝しずえくぐって、ぬっくりと黒くあらわれたのは、たてがみから尾に至るまで六尺、たけの高きこと三尺、全身墨のごとくにして夜眼やがん一点のはくあり、名を夕立といって知事の君が秘蔵の愛馬。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
王上おうじょうはくを冠すれば、そのぶんは皇なり、儲位ちょい明らかに定まりて、太祖未だ崩ぜざるの時だに、かくごときの怪僧ありて、燕王が為に白帽を奉らんとし、しこうして燕王かくの如きの怪僧をいて帷幙いばくの中にく。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
はく牡丹さける車のかよひ路に砂金しやごんしかせて暮を待つべき
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
じっさい、べきべきたる濃霧のうむはくぱくよりほかは、なにものも見えないのである。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ケダシ少陵ハ忠憤ナレドモすこぶる婆心ニ近シ。青蓮せいれんノ仙風実ハ虚誕きょたんわたル。韓蘇かんそ鉤棘こうきょくはく氏ハ浅俗ナリ。妙ハすなわち妙ナリトイヘドモヤヤ、清雅ナラズ。アヽ詩聖詩仙、詩家詩伯、敬スベクとおざクベシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
はくと申します、私の家は白三班はくさんぱんで、私は白直殿はくちょくでんの妹でちょうと云う家へかたづいておりましたが、主人が歿くなりましたので、今日はその墓参をいたしましたが、こんな雨になって、困っているところを
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
或方あるかたから御教示を受けましたから、長二郎の一件に入用いりようの所だけをつまんで平たく申しますと、唐の聖人孔子様のお孫に、きゅうあざな子思しゝと申す方がございまして、そのお子をはくあざな子上しじょうと申しました
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
竹童ちくどうがあいずの狼煙のろしをみて、この地方に敵ありと知った武田伊那丸たけだいなまるは、白旗しらはたもり軍旅ぐんりょをととのえ、裾野陣すそのじん降兵こうへいをくわえた約千余の人数を、せいりゅうはくげんの五段にわかち、木隠こがくれたつみ山県やまがた
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はく銅の持合もちあはせが無いので一人が十銭銀貨をなげ入れると、彼は黒い大きなたいなゝめに海中に跳らせて銀貨がだ波の間を舞つて居る瞬間に其れを捉へてあがつて来る。ベツクリンの絵の中の怪物の心地がした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)