独身者ひとりもの)” の例文
炭焼きの勘太郎は妻も子も無い独身者ひとりもので、毎日毎日奥山で炭焼がまの前に立って煙の立つのを眺めては、淋しいなあと思っておりました。
虫の生命 (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
もちろん恩人には相違ないが、李も独身者ひとりものだ。崔の娘がまだ十三、四のころから関係をつけてしまって、妾のようにしていたのだ。
女侠伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
霰弾さんだんの中でひとりの兵士が、「ここはまったく独身者ひとりものの朝飯のようだ」と言ったのを、実際耳にした男をわれわれは知っている。
「何故といつて、奥さん、女房持ちの男がこはがるのは、たつた一人の女ですが、独身者ひとりものは女全体を恐ろしがるんですからね。」
「私は帰る処ですが、おかまいなければ、これから私の家へ遊びに往きませんか、何人だれも他におりません、独身者ひとりものですから」
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
此年の春早く、連合つれあひに死別れたとかで独身者ひとりものの法界屋が、其旅宿に泊つた事がある。お夏の挙動は其夜甚だ怪しかつた。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「イヤそうでない、全くうまいものだ、これほど技があるなら人のかどを流して歩かないでも弟子でも取った方が楽だろうと思う、お前独身者ひとりものかね?」
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
勇「若くって独身者ひとりものでいるから、随分女も泊りに来るだろう、しかし其の女は人の悪いようなものではないか」
「徳な男だったよ。皆を撲って置いて、撲り返されたことは一遍もないらしい。それというのは皆妻子があるから首のことを考える。此奴は独身者ひとりものだから気が強い」
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そんな事はママして云うもんじゃあありませんわ、いかにも独身者ひとりものらしい言葉じゃありませんの」
千世子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「でも根気よく探していれば、どこかで見つかるわ。それに女は独身者ひとりものじゃないんだから」
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
負けずに横合いからのり出したは、その伝次の隣家となりに住んでいる独身者ひとりもののおじいさんで。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかるを愚図々々ぐづ/\さかしらだちてのゝしるは隣家となりのおかずかんがへる独身者ひとりもの繰言くりごとなんえらまん。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
何しろ滅法めっぽう安値やすい家で、立派な門構もんがまえに、庭も広し、座敷も七間ななまあって、それで家賃がわずかに月三円五十銭というのだから、当時まだ独身者ひとりものの自分には、願ったりかなったりだと喜んで
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
独身者ひとりもののよく乗りまわすような半蓋馬車ブリーチカがいよいよ旅館の門をすべり出たのである。
七歳の初発心しょほっしん二十四の暁に成道じょうどうして師匠もこれまでなりと許すに珠運はたちまち思い立ち独身者ひとりものの気楽さ親譲りの家財を売ってのけ、いざや奈良鎌倉日光に昔の工匠たくみが跡わんと少しばかりの道具を肩にし
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「姉さん、間違えちゃいけないよ、こっちは独身者ひとりものなんですから」
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その又木某は身寄タヨリのない全くの独身者ひとりもので、兼てから湊屋仁三郎と水野某を保証人として何千円かの生命保険に加入していた。又木いわ
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれは独身者ひとりもので、終日表の戸をあけないのを近所の者が不審に思ってうかがうと、彼はいつの間にか死んでいたというのである。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
独身者ひとりものゆえ看病人も有りませんが、近所の人が来ては看病をしてくれますが、万事行届ゆきとゞかん勝でございます、なれども田舎気質かたぎのものは親切でございますゆえ
「壮い独身者ひとりもののところじゃ、そりゃ女も泊りに来るだろうよ。で、その女が悪党だとでも云うのか」
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女といふものは、亭主持で居ながら、外へ出ると処女きむすめ独身者ひとりものからしい顔をしたがるものなのだ。
それは退職の陸軍中佐か二等大尉、乃至ないしは百人ぐらいの農奴のうどを持っている地主といった、まあ一口に言えば、中流どころの紳士と呼ばれるような独身者ひとりものがよく乗りまわしている型の馬車で。
けれども笑ったりしちゃいけないよ伯父さんは金持で独身者ひとりものだから、し気に入れば乃公に財産を譲るかも知れないんだそうだ。かも知れないは心細いが、全く当のないよりかましだと思う。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「かまわないとも。独身者ひとりものののん気な世帯だ。お前さんさえいたいなら、いつまででもいなさるがいい。だが待てよ、この節はばかに人別がきびしくてな、大家のほうへは何と届けておこう?」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
サ、何もそんなに感心する事はなかろう、今度のようなちよっとした風邪かぜでも独身者ひとりものならこそ商売あきないもできないが女房がいれば世話もしてもらえる店で商売もできるというものだ、そうじゃアないか
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そいつが吾輩と同様独身者ひとりものの晩酌で、羽化登仙うかとうせんしかけているところへ、友吉の屍体をかつぎ込んで、何でもいいから黙って死亡診断書を書いてくれと云うと
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ある日の午後、独身者ひとりものの善昌が近所へ用達しに出ると、その留守へやはり近所のお国という女が参詣に来た。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ると煎餅せんべいのやうなうすつぺらの蒲団ふとんつめ引掻ひつかくとポロ/\あかおちる冷たさうな蒲団ふとんうへころがつてるが、独身者ひとりものだからくすりぷくせんじてむ事も出来できない始末しまつ、金
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
女を捨てる事を草履を穿き換へる位にしか思つてない人でも、その草履を独身者ひとりものの哲学者が、つい足に突つ掛けるのを見ると、急にまた惜しくなつて、けてけて溜らなくなるらしい。
そういう隠処かくれがのある世帯持は幸福だが、情けないのは独身者ひとりもので!
「べつになんでもありませんよ、あなたのような独身者ひとりものですよ」
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
紋作はまだ独身者ひとりもので、下谷の五条天神から遠くない横町の、小さい小間物屋の二階に住んでいるのであった。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お安さんという独身者ひとりもので、村一番のけちぼうの六十婆さんが、鎮守様のお祭りの晩に不思議な死にようをした。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
茂「此の間中独身者ひとりもので居るから、棚から物を卸そうとすると、砂鉢すなばちおっこって此様こんなに疵が付いたのさ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
佐兵衛はもう五十ぐらいの独身者ひとりもので、冬になるといつも疝気に悩んでいる男であった。ほかの二人は伝七と長作と云って、これも四十を越した独身者であった。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つまり着物道楽は独身者ひとりものの心理表現で、文化生活は夫婦者の理想の発表とでも定義しようか。
もし男の胴着や何かは女には着悪きにくいが、うちには独身者ひとりものですから、女がるにはりますが女の部には這入はいらねえで、女の大博士に成っちまって、羽が生えて飛びそうな雇婆やといばゝあです
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
六の独身者ひとりもので、お近の心はそちらになびいていたが、何分にも金田にくらべると佐藤は小身であり、且は道楽者で身上しんしょうも悪いので、金田と張り合うだけの力はなく
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まアいじゃア無いか、今夜は泊ってき給え、是から福井町へ帰れば、貸座敷と云ってもあんまいのは無いが色を売る処、ことに君は独身者ひとりものだから遊女にでも引ッかゝると詰らんよ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見るとこのうちの主人は五十ばかりのお爺さんですが、独身者ひとりものと見えてお神さんも子供も居ず、たった一人で一生懸命鉄槌で鉄敷かなしきをたたいて、テンカンテンカンと蹄鉄を作っています。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
西岡は十五の年に父にわかれ、十八の年に母をうしなって、ことし二十歳はたち独身者ひとりものである。——と、まず彼の戸籍しらべをして置いて、それから本文に取りかかることにする。
離魂病 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この独身者ひとりものの憐れな年寄の悩みを救って下さるのは貴女あなたお一人です。貴女なしには私は生きて行けなくなったのです。どうぞこの独身者の淋しい教育家を憐れんで下さい……ね……ね。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
只一人かゝる山の中に居って、みずか自然薯じねんじょを掘って来るとか、あるいきのこるとか、たきゞを採るとか、女ながら随分荒い稼ぎをしてかすかに暮しておるという独身者ひとりものさ、見れば器量もなか/\
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
伝四郎は今年二十歳はたち独身者ひとりもので、これも父に似て骨格のたくましい寡言むくちの男であった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
又作をくびり殺し、此のうちへ火をければ、又作は酒の上で喰い倒れて、独身者ひとりものゆえ無性ぶしょうにして火事を出して焼死やけしんだと、世間の人も思うだろうから、今宵こよい又作を殺して此のへ火をけようと
どうぞどうぞこの淋しい独身者ひとりものを憐れんで下さい……とね。ホホホ……
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
殆どなんの手がかりも無いので、さすがの半七も眼のつけどころに困った。しかし冠蔵はもう三十に近い男で、家には女房もある、子供もある。紋作は若い独身者ひとりもので、のんきに飛びあるいている。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何時いつも御無事で、此の人は僕の知己ちかづきにて萩原新三郎と申します独身者ひとりものでございますが、お近づきの一寸ちょっとさかづきを頂戴いたさせましょう、おや何だかこれでは御婚礼の三々九度さかづきのようでございます
実は火をける訳ではなかったが、おかめも亭主の有る身の上ではなし、わし独身者ひとりものゆえつい悪いことをした処、百姓共が大勢寄ってたかって、叩き殺すと鋤鍬を持って取巻かれ、逃処にげどころがないゆえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)