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沈默
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ちんもく
言葉はまた
暫らく
途切れた。と、
程近くのイギリス人の
家でいつとなく
鳴りはじめたピヤノの
音が、その
沈默をくすぐるやうに
間遠に
聞こえて※た。
さうして、
又廊下を
踏み
鳴らして
奧の
方へ
行つた。
宗助は
沈默の
間に
行はれる
此順序を
見ながら、
膝に
手を
載せて、
自分の
番の
來るのを
待つてゐた。
「お
暑うござんすねどうも」おつぎは
襷をとつて
時儀を
述べながらおつたへ
茶を
侑めた。三
人は
暫く
沈默して
居た。
私も
武村兵曹も
實に
心で
泣いたよ。
此時、
吾等一同の
沈默は、
千萬言よりも
深い
意味を
有して
居るのであつた。
長き
沈默に
次ぐに
僅かこれだけの
言葉でした、それも
時々グリフォンの『
御尤も!』と
云ふ
間投詞や、
絶えず
海龜の
苦しさうな
歔欷とに
妨げられて
絶え/″\に。
が、その
聲も
氣がついて
見れば、おれ
自身の
泣いてゐる
聲だつたではないか? (
三度、
長き
沈默)
女は
少し
冷やかにいひ
放つと、
蒼ざめて
俯向いた。
二人の
間に、
暫く
沈默が
續いた。
と
一寸横顏を
旦那の
方に
振向けて、
直ぐに
返事をした。
此の
細君が、
恁う
又直ちに
良人の
口に
應じたのは、
蓋し
珍しいので。……
西洋の
諺にも、
能辯は
銀の
如く、
沈默は
金の
如しとある。
遠く
落ち
掛けた
日が
劃然と
其の
梢に
光つた。
勘次の
顏は
蒼くなつてぐつたりと
頭を
垂れた。
彼は
暫く
沈默を
保つた。
當別岬から再び小蒸汽船に
乘つて函館へ
歸る私は、深い感動をうけたあとの
敬虔な
沈默の中にあつた。
「あの
女はどうするつもりだ?
殺すか、それとも
助けてやるか?
返事は
唯頷けば
好い。
殺すか?」——おれはこの
言葉だけでも、
盜人の
罪は
赦してやりたい。(
再、
長き
沈默)
帽子屋が
先づ
其の
沈默を
破りました。『
何日だね?』と
云つて
愛ちやんの
方を
振向き、
衣嚢から
時計を
取り
出し、
不安さうにそれを
眺めて、
時々振つては
耳の
所へそれを
持つて
行きました。
「そんだつて、おとつゝあ
等そんな
處ぢやねえから」
勘次はがつかり
聲を
落していつた。さうして
沈默した。
妻は
確かにかう
云つた、——「では
何處へでもつれて
行つて
下さい。」(
長き
沈默)