なれ)” の例文
「姫よ、もしなれが麗はしき声もてわが為に祭り歌ツルカヅルカを歌ひ給はゞ、われは一時の間に汝をインドラニーに運ぶべし。」
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「嬉し悲しの色さへ見せぬなれが眼は、鉄と黄金こがね混合まじへたる冷き宝石の如し。」と云ひたるも、この種の女の眼にはあらざるか。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しな照る 片岡山かたをかやまに いひて こやせる 旅人たびとあはれ 親無おやなしに なれりけめや 剌竹さすたけの きみはやき いひて こやせる 旅人たびとあはれ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
人なみ/\の心より、思へばなれはこの我を、憎きものとぞうらむらん、われも斯くこそ思ひしが、のりの庭にてなれにあひし、人のことの葉きゝけるに
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
次いではシューマンの『胡桃くるみの樹』(JD一一〇)、シューベルトの『野薔薇のばら』『なれこそわがいこい』など可憐なレコードだ。
そも一秒時毎に、なれと遠ざかりまさるなりなど、吾れながら日頃の雄々しき心はせて、を産みてよりは、世の常の婦人よりも一層ひとしほ女々めゝしうなりしぞかし。
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
それゆえ、この歌にこたえた、「檀越だむをちかもな言ひそ里長さとをさらが課役えつきはたらばなれなからかむ」(巻十六・三八四七)という歌の例と、万葉にただ二例あるのみである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
好的々々よし/\が昔の恋人を血膾ちなますにして、なれと共に杯を傾けむ。外道げだう至極の楽しみ、これに過ぎしと打笑ひつゝ起上りしが、遂に妾が計略に掛かりて、今の仕儀となり果て終りしものに侍り。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そら鳴りの夜ごとのくせぞくるほしきなれ小琴をごとよ片袖かさむ(琴に)
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
なれこそはげにそのかみの、我がため仇を報ずなれ。いざや戦へ!
海はなが身の鏡にて、はてなき浪の蕩揺たゆたひに、なれはながたま打眺む
海の詩:――人と海―― (新字旧仮名) / 中原中也(著)
河豚ふぐ河豚ふぐなれは愚かし地にねて沖津玉藻の香のなげきする
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
恋ひわぶる人の形見と手ならせばなれよ何とて鳴くなるらん
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
無心の勢力せいりき萬物ばんぶつたねは、祭壇に捧ぐる如く、なれほうぜむ。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
あはれとはなれも見るらむ我が民を思ふ心は今もかはらず
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
又さはいへど、なれが身も、明日あすや食はれむ、人間に。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
マリやマリなれ知るやこの不動尊汝の瞳清らかなるよ
冬の逗子 (旧字旧仮名) / 桜間中庸(著)
何處いづこにかが古頭巾忘れ來し物足らぬなれの頭の
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
なれは生けり。ながおもおほへる青空を呑みつつ
知れよ、なれが兄は命さかんなる日にもなほ且つ
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
はてて、『なれゆるす』とのたまはむその一言ひとことを。
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
雪解ゆきどけのせはしき歌はいまなれをぞうたふ。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
酒精アルコルよりもなほ強くなれ立琴リイルも歌ひえぬ
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
なれつかれたらば吾一人にても試みるべし。
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
悲しみ、なれこそとこしへ此処ここちて
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ことよそほひの東人あづまどと、なれやはひとり
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
さきにはそこになれが身のしんざうをぞ
きその日は (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なれが願をつぎ/\に成さんとせば
も老いぬなれも老いけり大根馬だいこうま
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
なれは今いずくにかある! ね
ふたたびなれを見むことを
蛇の花嫁 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
なれも荒れたる野にむせぶ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
聞くよ淋しきなれが唄
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
なれはそも波に幾月いくつき
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
なれを見しより四千年、光りは永久とはに若くして、世はかくまでに老ひしかな……云々以下三スタンザから成るゲルマン族の牧歌を、奴は、滅茶苦茶にひつちやぶいて
バラルダ物語 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「わが欲情、隊商カラバンの如くかたに向ふ時、なれが眼は病める我が疲れし心を潤す用水の水なり。」と云ひ、又
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「さすらい人」「魔王」「ます」「死と乙女」「なれこそいこい」「連祷れんとう」——等、限りもない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
愛児の不憫ふびんさ、探りなれたる母の乳房に離れて、にわかに牛乳を与えらるるさえあるに、哺乳器のふくみがたくて、今頃は如何いかに泣き悲しみてやあらん、なれが恋うる乳房はここにあるものを
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
これは芽出度い、婚礼の門口にはらみ女とは芽出度い、イヤア……なれあ裏山のお花坊じゃねえかい。こん外道人間。片輪者とはいいながら親の死んだ事も知らじい、どこをウロ付きおったかい。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なれは見るべし、フランスの治下に栄ゆるアルジェリア!……
げにげになれら、しをらしく、あるはをかしく、おもしろく
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
當來のいのちよ、眠れるわれをさまさむとしてきたるはなれか。
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
又さはいへど、なれが身も、明日や食はれむ、人間に。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
げに寧楽ならびとがおもひに耐へて なれ千年ちとせぬるかな
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
愛せよ揺籃より柩にまでなれを愛せし者を愛せよ
快闊にして、心り、勇氣ありしなれ
な言ひそ、弟よ、なれがいのちいま衰へて
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
知れりやなれよ、かつては世のくらさに
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ああなれ、かくてこの世の九億劫おくごふ
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
なれに問ふ。われ等とどまれりや