折々おりおり)” の例文
子供に対しての事も一寸ちょっとお聞きになったようですね。子供とわたくしの間もこれと同じ気もちです。折々おりおりの歌でそれを表わして置きます。
折々おりおりにわ会計係かいけいがかり小娘こむすめの、かれあいしていたところのマアシャは、このせつかれ微笑びしょうしてあたまでもでようとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いつめた渡り職人、仕事にはなれた土方、都合つごう次第で乞食になったり窃盗せっとうになったり強盗ごうとうになったり追剥おいはぎになったりする手合も折々おりおり来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そう思って、この痩せ衰えた盲人めくらを見ると、何となくこの盲人が怖しいように感ぜられた。二人はその後無言であった。私の手は折々おりおりふるえた。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
木の葉のしずくが沢に落ちて、折々おりおり通う猪鹿の息つぎになる水を、谷底へ行けばどこかに見つけることができるものである。
夜がけるにつれ、夜伽よとぎの人々も、寝気ねむけもよおしたものか、かねの音も漸々ようように、遠く消えて行くように、折々おりおり一人二人の叩くのがきこえるばかりになった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
長吉はこの夕陽の光をば何という事なく悲しく感じながら、折々おりおり吹込む外の風が大きな波をうたせる引幕の上を眺めた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三味線さみせんきて折々おりおりわがかどきたるもの、溝川みぞかわどじようを捕ふるもの、附木つけぎ草履ぞうりなどひさぎに来るものだちは、皆このどもが母なり、父なり、祖母などなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
全く教師の所得にすることが出来たその上に、折々おりおり私の財嚢ざいのうから金を出して塾用を弁ずることも出来ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
思うに自分の家では祖母を始め、姉や妹がみなその検校の弟子であったし、その後も折々おりおり狐噲の曲をかえいたことがあるから、始終印象が新たにされていたのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
どういう有様に在るかというと、僧侶の貧学生は喰ったり喰わなんだりして居ってもとにかく月に一遍いっぺんずつ学録がくろくを貰うことにきまって居るし、また折々おりおり布施物ふせものもあるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
それについては、わたくしがあまりたびたびたずねるのは、かえって修行しゅぎょう邪魔じゃまになりましょうから、るべく自分じぶん住所じゅうしょはなれずに、ただ折々おりおり消息たよりをきいてたのしむことにいたしましょう。
折々おりおり新聞に伝えられるぼう学者は何千円の俸給ほうきゅうを取るが、毎日教場きょうじょうのぞみ授業するとき、たまたま生徒が何か質問をすると、それはむずかしい、字引じびきを引いてもちょっと分かるまい
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
駿河の山に大なる男あり。折々おりおりは見る者もあり。鹿しかさるなどを食する由なり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
◎先代の坂東秀調ばんどうしゅうちょう壮年の時分、伊勢いせへ興行に赴き、同所八幡やはたの娼家山半楼やまはんろう内芸者うちげいしゃ八重吉やえきちと関係を結び、折々おりおり遊びに行きしが、ある夜鰻をあつらえ八重吉と一酌中いっしゃくちゅう、彼がの客席へ招かれたあと
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
榾火ほだびはパッとひとしきり燃え上って、うしろの灰色の壁だの、黒い老爺おやじの顔を、赤く照すのであった、田舎のことでもあるし、こんな晩なので、よいから四隣あたりもシーンとして、折々おりおり浜の方で鳴く鳥の声のみが
千ヶ寺詣 (新字新仮名) / 北村四海(著)
この道夜ふけにづべからず、折々おりおり怪しきことありといふ。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
折々おりおりぐさ
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ハバトフは折々おりおり病気びょうき同僚どうりょう訪問ほうもんするのは、自分じぶん義務ぎむであるかのように、かれところ蒼蠅うるさる。かれはハバトフがいやでならぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
全く口早に何をいうのか分らなくなって折々おりおりは独りで腹を立てて、独り口の中で何かいってへやの中を歩き廻ることがある。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
長吉は失ったお糸の事以外に折々おりおりだ何というわけもなくさびしい悲しい気がする。自分にもどういう訳だか少しも分らない。唯だ淋しい、唯だ悲しいのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その折々おりおりにお松が察しているものですから、お松から勧めて、その捨てられたという場所へ地蔵様を立てさせたり、それを最初に見つけたという人の縁故をたどったりして
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
で夜の十二時頃に本堂に出かけて行くところの小僧をつかまえて、泣きわめく口をふさぎながらどこかへ引張って行くというような事も折々おりおりある。それが知れたところで別段罪にならん。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
外国人はけがれた者だ、日本の地には足踏みもさせられぬと云うことが国民全体の気風で、その中に武家は双刀を腰にして気力もあるから、血気の若武者は折々おりおり外国人を暗打やみうちにしたこともある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
木も炭も石も何にでも負ひもせず。唯折々おりおり其小屋へ食事などの時分を考へ来るとなり。飯なども握りてつかはせば悦びて持ち退く。人の見る処にては食せず。如何いかにも力は有りさう也。物は言はず。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
夜が更けるに従って、雪がこごって堅かったが、各自がいましめ合って雪の上を踏んで行くと、すねを切るように抜け落ちるのである。折々おりおり木枯が激しく吹き荒んだ。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
気候が夏の末から秋に移って行く時と同じよう、春の末から夏の始めにかけては、折々おりおり大雨おおあめふりつづく。千束町せんぞくまちから吉原田圃よしわらたんぼは珍しくもなく例年の通りに水が出た。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また忍んで折々おりおり歩いて来る人間があれば、つかまえてじきにニャートンに報知する事になって居る。そのためにここに一軒家があるのです。その家にはばあさんとほかに一人居りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
仕事場でろうとかしながら、暗い片隅の方で釜の下の火を掻き廻しては、折々おりおりその手を止めて町の家根の上を飛んで彼方あちらに淋しそうに見える杉のいただきを越えて、果ては北となく
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
折々おりおり硝子戸に当る音がした。鼠色の服を着た、肥ったBの体は大理石をった像のように白い床の上に浮き出していた。Kは痩せた手を伸ばしてBの両手を胸の上で組ませた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
電信柱は遠くまでつづいた。折々おりおり冬木立に風が当って、枝が鳴るかと思うと頭の上の電線が呻った。彼方に沙山すなやまが見える。急いで来ると、やがて沙山へ着いた。沙山を越えると町だ。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
折々おりおりぴしりぴしりと生木の刎返はねかえる音がして、そのたびに赤い火花が散った。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
道行く人の姿は悄然しょんぼりとして、折々おりおり落葉を巻いて北風が氷雨ひさめを落した。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
柿村屋は決して是等これらの人に対しても、親分らしい顔をしたことがなかった。いつも苦み走った顔でじろりと集った人の顔を見廻わして考え深いような眼付に、折々おりおり、底意味の知れない笑いをたたえた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)