恢復かいふく)” の例文
もうさっぱりした気分になりましたか。でも御恢復かいふくになったかいもありませんね。今までのあなたでこうしてくおなりになったのを
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しばらくして復一が意識を恢復かいふくして来ると、天地は薔薇色に明け放たれていて、谷窪の万象は生々の気を盆地一ぱいにかおらしている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
健康であった時と同じ程な力を恢復かいふくしたらしい様子で、男はしっかり女を抱き締めた。そして唇を女のえりの側へ寄せてささやくのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
新八もどうやら元気を恢復かいふくしていたので、又五郎は彼を伴れて材木町の家に帰り、夕食を済ませるとすぐに、西福寺へでかけていった。
やっと恢復かいふくし出した私はその頃になって反って何だか気もちが落着かずにばかりいたけれど、十一月になってから雪がたいへん降った。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして記憶を失ったことや、記憶恢復かいふく後において身近に起った事件を、差支さしつかえない範囲で、受附の前にくどくどと説明したのであった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
事実、それは米友の糠喜ぬかよろこびではありませんでした。お雪ちゃんは刻々に、著しく元気を恢復かいふくして行くことがありありとわかります。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庸三はあッとなったものだが、材料払底の折だったので、健康がやや恢復かいふくしたところで、もう一度同行するように弁護士に当たってみた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
川上の恢復かいふくすみやかであった。とはいえ、川上は健康を恢復すれば、またも行方ゆくえ定めぬ波にまかせて、海の旅に出ると言ってきかなかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
泡沫を冠っても庄三郎は、理性を恢復かいふくしなかった。死の道を辿たどっていた。その顔色はいよいよ蒼褪め、唇にはほとんど血の気がなかった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は、恐怖からはやっと恢復かいふくしたものの、「まあ!」と、かすかにいったまま、そこに蒼白になって立ちすくんでしまった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
幸いに、二人とも、蘇生そせいした。元より母の楡葉にれはのほうが恢復かいふくは早かった。楡葉は気がつくと、寝食も忘れて、子の枕元に坐ったきりだった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝が名誉を恢復かいふくするもこの時にあるべきぞ。心のみ急がれて用事をのみいいやるとなり。読みおわりて茫然ぼうぜんたる面もちを見て、エリスいう。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それにお前さんのからだは大地の底に居たときから慢性まんせいりょくでい病にかかって大分軟化なんかしてますからね、どうも恢復かいふく見込みこみがありません。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
やがて疲労の恢復かいふくした後おのずから来るべき新しい戯れを予想し始めるので、いかなる深刻な事実も、一旦ねむりおちるや否や
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
田舎いなかびた鷹揚おうような、鈍重なその日その日だった。激しい江戸の生活で疲労していた若松屋惣七の神経は、恐ろしいスピイドで恢復かいふくしつつあった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それにあの方は、今朝がたから起き上ってはいられますけど、まだ訊問に耐えるというほどには恢復かいふくしておられないのです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
とにかく他種のものと合するということが、勢力の微弱なる細胞に取って、その勢力を恢復かいふくせしむる原因となるのである。
巡礼じゅんれいは、からだのぐあいがわるく、それに、つかれていました。彼女かのじょは、さっそく、くすりあたえました。しばらくすると、巡礼じゅんれいは、元気げんき恢復かいふくしました。
二番めの娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
母は、祖父にそんな事で元気を恢復かいふくさせてあげたかったのである。けれども祖父は、へんに真面目な顔になってしまって
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
やがて更年期の心神変調がもととなつて精神異状の徴候があらはれ、昭和七年アダリン自殺を計り、幸ひ薬毒からは免れて一旦健康を恢復かいふくしたが
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
あだかもはるゆきれてかえってびるちから若草わかくさのように、生長しとなりざかりの袖子そでこ一層いっそういきいきとした健康けんこう恢復かいふくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこで女中や書生を呼ぶやら、気つけの洋酒を呑ませるやら、大騒ぎになったが、夫人は間もなく意識を恢復かいふくして、やっぱり怖い話を聞きたがった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その顔をこっちからも同時に見上げ見下しているうちに、私は完全に落ち付きを恢復かいふくした。頭が氷のようになって、あらゆる方向に冴え返って行った。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
五大洲の一撃で一点を恢復かいふくした。このとき三塁の背後の松の枝高くらっぱの音が聞こえた。ついで気違きちがいじみた声!
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
そして翌日から、その土地での、悲惨な生活が始った。負傷者の恢復かいふくもはかどらなかったが、元気だったものも、食糧不足からだんだん衰弱して行った。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その年十月発作が起こり、一度は恢復かいふくしたが、十一月四日、ついにこの世を去った。三十九歳という若さである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
一度傷つくかつまずくかすると、たとえば主人が死ぬ、病人になる、または家出でもすると、そのきずがなかなか恢復かいふくせず、やがて絶家の原因にもなることは
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
悲観する必要もない。失敗すれば如何いかにしてこれを恢復かいふくするかという新たなる第二の希望が起るではないか。この難関を切り抜ける気力がなくてはならぬ。
いかにして国運を恢復かいふくせんか、いかにして敗戦の大損害をつぐなわんか、これこの時にあたりデンマークの愛国者がその脳漿のうしょうしぼって考えし問題でありました。
恢復かいふく期にある明子はよくこの苦渋な回想を反芻はんすうした。彼女はそれに残酷なたのしさをあじわふと言ふ風にさへ見えた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
決心が定まれば元気も恢復かいふくしてくる。この夜は頭も少しくさえて夕飯も心持よくたべた。学校のこと何くれとなく母と話をする。やがて寝に就いてからも
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
松葉杖まつばづえいて歩く恢復かいふく後の姿を想像したりもしたことであったが、実際は、そのほんの二三時間のあいだだけ、わずかに病人は安静を得ていたのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
今後シナの勢力はますます衰えるだけで、決してチベットに対してその衰勢を恢復かいふくするということは出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
実際、今日の人間の多くはコンヴァレサンス(病気の恢復かいふく)としてしか健康を感じることができないのではなかろうか。これは青年の健康感とは違っている。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
元気恢復かいふくすると、もう寝てはいられない。一学期分話が積っている。弟や妹も珍らしがってそばを離れない。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
署長はじめ事件担当の刑事に至るまで、口でこそ言わぬが名誉恢復かいふくはこの一挙にありと期していたのだ。
五階の窓:02 合作の二 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ただ恢復かいふくを待つばかりの病人ははた目には気楽そうに見えるのであろう。渡る世間に鬼はいないと云うが、順吉はいま自分がひどく果報者かほうもののような気がしている。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
彼の疲労が恢復かいふくしたのかもしれなかった。あるいは神経がさらに鋭敏になり始めたのかもしれなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
合田氏のただならぬ丹精に対しては、まだお礼が出来ぬので、私はそれを心苦しく感じているうち段々身体も元に恢復かいふくして参って、仕事も出来るようになりましたので
ただ末期まつごをらくにするために思いきり注射した麻酔剤がきいてるあいだの昏昏こんこんとした眠りからめたときに母は奇蹟的に元気を恢復かいふくした、病苦もなく、浮腫もへり
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
彼は旅装を解くとすぐ寝台に横になり、疲労の恢復かいふくに努めることにした。そうしているときも、彼が東京をつとき、パリからここへ来たことのある医者の友人が
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とある。即ち皇后御病気平癒へいゆを願って建立こんりゅうされた寺であるが、たちま霊験れいげんあって皇后は御恢復かいふくになった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その金がきれかゝったところで、いゝ工合に彼の健康も恢復かいふくしてきた。彼の目下もっかの急務は職に就く事であった。彼はこの数日努めて元気を奮い起して職を求め歩いた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
数旬ののちようやく蘇武の身体が恢復かいふくすると、例の近臣衛律えいりつをやってまた熱心に降をすすめさせた。衛律は蘇武が鉄火の罵詈ばりい、すっかり恥をかいて手を引いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
斯様かような状態において先生おもむろに意識恢復かいふくし、全般の記憶を綜合そうごうしてどうやら自動車に轢き倒され文句なしに顔を強打したという穏かならぬ自らの境遇に気付いたとき
下巻が出るまで待つ訳に行かぬから又、読んでは書いたが、下巻へかかって暫くすると勇気を恢復かいふくして、とうとう二百枚にちぢめたが、この本はもう何処にもあるまい。
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
病中は括枕くくりまくら坐蒲団ざぶとんか何かをくくって枕にして居たが、追々おいおい元の体に恢復かいふくして来た所で、ただの枕をして見たいと思い、その時に私は中津の倉屋敷に兄と同居して居たので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
幸いにして健康が徐々じょじょ恢復かいふくし、一冬をこして春になったころには、完全に医者の手をはなれ、執筆の自信も十分に出来、ちょいちょい雑文などを書くようになったが
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
女はその年の暮れには健康恢復かいふくして再び宝塚へ帰ってきたが、二年のち、やっぱり別れた。その理由はかつて「下町育ち」という小説の中で書いたからここではいわない。
わが寄席青春録 (新字新仮名) / 正岡容(著)