心地こころもち)” の例文
旅するものに取ってはこの上もない好い日和ひよりだった。汽車が国府津の方へ進むにつれて、温暖あたたかい、心地こころもちの好い日光が室内にあふれた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それでも「池のぬしになっているから、姿をかくしたが安心してくれ。」という伝言ことづけをせねば、自分の重い役が一生とれぬ心地こころもちもするので
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
市郎は散歩がすきであった。加之しかも未来の妻たるべき冬子の家を訪問するのであるから、悪い心地こころもちなかった。早速に帽子を被って家を出た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
再びかえって来はしないぞ、今日こそ心地こころもちだとひとり心で喜び、後向うしろむつばきして颯々さっさつ足早あしばやにかけ出したのは今でも覚えて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ひょっとこれがさかさまで、わたしが肺病で、浪の実家さとから肺病は険呑けんのんだからッて浪を取り戻したら、おっかさんいい心地こころもちがしますか。おんなじ事です
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
不図ふつとさう思出おもひだしたら、毎日そんな事ばかり考へて、可厭いや心地こころもちになつて、自分でもどうかたのかしらんと思ふけれど、私病気のやうに見えて?
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二人の形見の鏡を載せて、漕いで行く二人の両親の心地こころもちはどんなでしたろう。又の鏡を車に載せて、都へ送る両方の村人の思いはどんなでしたろう。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
目指す的と捲藁をねらッて矢数幾十本かを試したので、少し疲れを覚えて来たゆえ、しばし一息を入れていると冷や冷やとして心地こころもちよい朝風が汗ばんで来た貌や、体や
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
皆様みなさん、これじゃたまらん。ちと甲板かんぱんへおでなさい。涼しくッてどんなに心地こころもちいいか知れん。」
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「小畑もそんなことを言っていたよ。僕だッて、君の心地こころもちぐらいは知っているさ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
何卒どうかしてお新を往時むかし心地こころもちに返らせたいと思って、山本さんは熱海まで連れて行ったが、駄目だった。そこで今度は伊東の方へ誘った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四千何百トンのふねが三四十度ぐらいに傾いてさ、山のようなやつがドンドン甲板かんぱんを打ち越してさ、ふねがぎいぎいるとあまりいい心地こころもちはしないね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
すべ如斯こんけで私はどうも旅とは思われぬ、真実故郷にかえった通りで誠に心地こころもち。それから兄が私に如何どうして貴様きさまは出し抜けに此処ここに来たのかという。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
雪風ゆきかぜに熱い頬を吹かせながら、お葉はいい心地こころもち庭前にわさきを眺めていると、松の樹の下に何だか白い物の蹲踞しゃがんでいるのを不図ふと見付けた。どうやら人のようである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それをこらへてお前を人にとられるのを手出しもずに見てゐる僕の心地こころもちは、どんなだと思ふ、どんなだと思ふよ! 自分さへ好ければひとはどうならうともお前はかまはんのかい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
青森あおもりあたりだとききました、越中えっちゅうから出る薬売りが、蓴菜じゅんさいいっぱい浮いて、まっさお水銹みずさびの深い湖のほとりで午寐ひるねをしていると、急に水の中へ沈んでゆくような心地こころもちがしだしたので
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そのまま横になッたが,いつ眠ッたかそれも知らず心地こころもちよく眠入ねいッてしまッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
耶蘇教やそきょうの信者の女房が、しゅキリストと抱かれて寝た夢を見たと言うのを聞いた時の心地こころもちと、回々教フイフイきょう魔神ましんになぐさまれた夢を見たと言うのを聞いた時の心地こころもちとは、きっとそれは違いましょう。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何となく頭の上から押しつけられるような、ハッキリと物を考えられない心地こころもちで、山本さんは礼を言って車に乗って行くお新に別れた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こう妙に胸に響くような心地こころもちがしましてね——それはこのほんにも符号しるしをつけて置きましたが——それから知己しるべうちに越しましても、時々読んでいました。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
人に金を借用してその催促に逢うて返すことが出来ないと云うときの心配は、あたか白刃はくじんもって後ろから追蒐おっかけられるような心地こころもちがするだろうと思います。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その時になつて、お前の心地こころもちを考へて御覧、あの富山の財産がそのくるしみすくふかい。家に沢山の財が在れば、夫に棄てられて床の置物になつてゐても、お前はそれでたのしみかい、満足かい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「ええ、もうなんともかともえないいやな心地こころもちだ。この水を飲んだら、さぞ胸が清々するだろう! ああ死にたい。こんな思いをするくらいなら死んだほうがましだ。死のう! 死のう!」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
堅い地を割って、草の芽も青々とした頭をもちあげる時だ。彼は自分の内部なかの方から何となく心地こころもちの好い温熱あたたかさき上って来ることを感じた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何だか寝台の周囲まわり歩行あるいたんだが、そう、どっちにしてもおんならしく思われた——それがすぐに、息の詰るほどいや心地こころもちだったんではないけれども、こう、じとじとして、湿っぽくッて、陰気で
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その人はそよそよとした心地こころもちの好い風が顔をでて通るような草原に寝そべって岸本の旧詩を吟じている若者を想像して見よとも言った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自分は田舎で埋木うもれぎのような心地こころもちで心細くってならない処。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お房が父の背中に頭をつけて、心地こころもちさそうに寝入った頃、下婢は勝手口から上って来た。子供の臥床が胡燵こたつの側に敷かれた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いい心地こころもちになってこんでしまった
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まあ僕はきたいような気が起る。真実ほんとうに苦しんで見たものでなければ、苦しんで居る人の心地こころもちは解らないからね。そこだ。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あるいはこのあたりに多い羊の群の飼われる牧場の方へ歩き廻りに行っても、彼は旅らしい心地こころもちあじわうに事を欠かなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旦那の心地こころもちは私によく解る。真実に、その方の失敗しくじりさえなかったら、旦那にせよ、正太にせよ……私は惜しいと思いますよ
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
叔父達が夏羽織を引掛けて、ち上った頃は、対岸の灯もかすかに成った。混雑した心地こころもちで、一同は互に別れを告げた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仕事が済んで、いよいよそこへ筆を投出した時は——その心地こころもちは、君、何とも言えませんでした。部屋中ゴロゴロころがって歩きたいような気がしました
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は先ずそれを子供に言って聞かせたが、兄弟の幼いものが互いに呼びかわす声を新しい住居の方で聞いたばかりでも、彼には別の心地こころもちを起させた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この人達を宿の二階に迎えた時のお種の心地こころもちは、丁度吾子を乗せた救い舟にでも遭遇であったようで、破船同様の母には何からたずねて可いか解らなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「しかし、阿爺さん」と三吉は老人の前に居て、「あの自分で御建築おたてに成った大きな家が、火事で焼けるのを御覧なすった時は——どんな心地こころもちがしましたか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旦那様は口をつぐんで了いました。御互に物を仰らないのは、仰るよりもなおか冷い心地こころもちがしましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、この野辺山が原へ上って来て、冷々ひやひやとしたすずしい秋の空気を吸うと、もう蘇生いきかえったようになりましたのです。高原の朝風はどの位心地こころもちのよいものでしょう。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これが私には一番自然なことで、又たあの当時の生活の一番好い記念に成るような心地こころもちがする。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私はどうしても平沢へ行きたくないような心地こころもちがして……気がとがめてなりゃせん」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
沸し湯ではあるが、鉱泉に身を浸して、浴槽よくそうの中から外部そとの景色をながめるのも心地こころもちが好かった。湯から上っても、皆の楽みは茶でも飲みながら、書生らしい雑談にふけることであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この平素ふだん信じていたことを——そうだ、よく彼女に向って、誰某だれそれは女でもなかなかのシッカリものだなどと言ってめて聞かせたことを、根から底から転倒ひっくりかえされたような心地こころもちに成った。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あれほど山里に住む心地こころもちを引き出されたことも、吉左衛門らにはめずらしかった。金兵衛はまた石屋に渡した仕事もほぼできたと言って、その都度つど句碑の工事を見に吉左衛門を誘った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふる馴染なじみの看護婦が二人までもまだ勤めていること、それに一度入院して全快した経験のあること——それらが一緒になって、おげんはこの病院に移った翌日から何となく別な心地こころもちを起した。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
世間を見るに、い声がまず口唇くちびるから出るのはめずらしくも有ません。然し、この女のようなのもすくないと思いました。一節歌われると、もう私は泣きたいような心地こころもちになって、胸が込上げて来ました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
男や女が仕事しかけた手を休めて、屋外そとへ出て見るとか、空を仰ぐとかする時は、きっと浅間の方に非常に大きな煙のかたまりが望まれる。そういう時だけ火山のふもとに住んでいるような心地こころもちを起させる。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先生は自然と出て来る楽しい溜息ためいきおさえきれないという風に、心地こころもちの好い沸かし湯の中へ身を浸しながら、久し振で一緒に成った高瀬をながめたり、田舎風な浅黄あさぎ手拭てぬぐいで自分の顔の汗をいたりした。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)