彼女あれ)” の例文
彼女あれの美しさはよる生くるものの為には日中ひるよりもなお恐ろしい美しさだ、翼ある月の子らのためにはよるよりもなお不思議な美しさだ。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
「では、赤橋どの、出陣の式の大床から、すぐそのまま立ち出でます。よろしく留守の事どもを。またおわずらいでも、彼女あれの身を」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第四、その代わりにマルファは時々わたしが小間使に手を出すことを許すが、しかし、これも彼女あれの内諾によらなければならぬこと。
彼女あれのところへ行こう』と私は思い定めた、『口実は見つかる。イヷン・イヷーヌィチに用があると言おう、それだけの話だ。』
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ガラリピシャ用はねえかなんてえ山家やまがの者で面白おもしれえが、彼女あれア旦那何処へもき処がないので、可愛相で、彼女はちょいと様子が
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
サモワールを支度するのじゃ、分ったか? それから、この鍵を持っていってマヴラに渡すのじゃ、彼女あれに倉へ行って来いってな。
なになにをしたつて身體からださへはたらかせりや、彼女あれはせて、ちゝはのまされます。」と、仕立屋したてやさんは、いそ/\とかへつていつた。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
幻影まぼろしのように彼女あれは現われて来てまた幻影まぼろしのように消えてしまった……しごくもっとものことである。自分おれはかねて待ちうけていた。』
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
(間)彼女あれと俺とは(と窓を通して音楽堂を見る)今音楽堂の建っている対岸の岩の上に、小城のような家を構えて住んでいた。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
時には、とぎれとぎれに「待ってくれ! 余り早く彼女あれに逢ってはわたしは死にそうだから。」という返事をすることもあった。
彼女あれ播磨はりま印南野いなみのの出身であるが、親もなくて不幸ないやしい境遇にいるので、ついふびんに思って情をかけてしまったのだ。
「何が阿呆あほうかいな? はい、あんた見たいに利口やおまへんさかいな。好年配えいとしをして、彼女あれ此女これ足袋たびとりかえるような——」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
私はあの子の母が何時いつも嫌ひだつたのさ。何故かと云へば、彼女あれは私の良人をつとのたつた一人の妹で、おまけに大變なお氣に入りだつたから。
彼女あれには自殺する程の不満はなかった筈だ。彼女は、せい一っぱい僕を愛し、そして僕に愛されることによって満足していた。
勝敗 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
「旦那は今朝はまだここへ来ねえようだの。大方彼女あれそばにべたべたとくっついて、手助けでもしてござらっしゃるだろうさ」
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「どういたしまして、よく、あれの心を知ってやってくださる、あなたがたに、こうして頂いた事は、よい友達をもった、彼女あれの名誉で——」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ぎらぎらと例の斜視をやっているとすると、彼女あれっと悪く最っと細く、極端にヒステリックになっていはしないだろうか。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
節ちゃんももう好いとしだから、こんな好い貰い手のある時に俺の方では嫁けてしまいたいとそう思うんだが、彼女あれが不承知だ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今度こんどは、おまえ眼玉めだま掻毮かきむしるかもしれない。ラプンツェルはもうおまえのものじゃアい。おまえはもう、二と、彼女あれにあうことはあるまいよ。
それに梅子などはどうやら其の僻論へきろんに感染して居るらしいので、おほいに其の不心得を叱つたことだ、ことに近頃彼女あれの結婚について相談最中のであるから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ま、望みを叶えてやるよう頼む。老いては子にしたがえ——とか、申すが、このわしは、とりわけ彼女あれが可愛ゆうてな」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「もつとも彼女あれには悪い気はないですよ、悪気でもある位なら、いゝんだが……」彼は巧みに母を操つてゐる気がした。
父の百ヶ日前後 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「言わないどころか、大変ですわ。この間もお店へ来て酔っぱらい、初子をのしちまうんだって暴れたんですよ。彼女あれは毒婦だ、悪党だって——」
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「じゃその時私が彼女あれからいって来ただけの金を調えて送ったら、それで脚を抜いて、そして体は私の方に来ないで三野村の方に往ってしまったな」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
電車に乗りながらも、彼女あれはたしかにの女であると思って、すぐ声をかけなかったのが、残念のような気がした。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
併し、要するに、皆な自分の腑甲斐ない処から来たのだ。彼女あれは女だ。そしてまた、自分がかかあや子供の為めに自分を
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
彼女あれの味方になっていた養父ちちもお磯婆さんも死んでしまって、今では全くの一人ぽっちになっているんですからね
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
勘次かんじさん彼女あれこがれたんぢやあんめえ、もつと年頃としごろつゝけだからつれ一人ひとりぐれえ我慢がまん出來できらあな、そんだがあれつなくなつちやつてこまつたな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
帰宅したとてもお勢の顔を見ればよし、さも無ければ落脱がっかり力抜けがする。「彼女あれに何したのじゃアないのかしらぬ」ト或時我をうたぐッて、覚えずも顔をあからめた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ただ彼女あれんまり嫉妬やきもちいて仕方しかたがございませんから、ツイ腹立はらだちまぎれに二つ三つあたまをどやしつけて、貴様きさまのようなやつはくたばってしまえと呶鳴どなりましたが
然しだけ余計だよ。そんなことは打棄うっちゃってしまうさ。……がまあ、今晩はゆっくり話をしよう。そして、このことは達子には内密ないしょにしといてくれ給い。彼女あれの心を
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「ナニ、お蓮? うむ! これはおもしろい。助けてやろう。彼女あれに娘があるとは、知らなんだが——」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女あれこひはせぬとちかうたゝめ、わしうしてものうてゐるものゝ、きながらんでゐるのぢゃ。
明けの別れに夢をのせ行く車のさびしさよ、帽子まぶかに人目をいと方様かたさまもあり、手拭てぬぐひとつてほうかふり、彼女あれが別れに名残の一撃ひとうち、いたさ身にしみて思ひ出すほど嬉しく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「心配する必要はない。彼女あれも十六と云えば多少は物の分別もつく年頃だ。いまに何とか云って来るだろう。事情も分らぬうちに騒いだところで仕様がない。——寝よう」
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
併し金が無い。念の爲め蟇口を開けて見る。二十錢ある。二十錢では錦絲は斷念せねばならぬ。第二に小光! さうだ、神田の小川亭に掛つてゐる。彼女あれを聽きに行かう。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
梅野は美しいから人の目につく、けれども矢張彼女あれは俺のもんさ。末は怎でも今は俺のもんさ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「現にきのうも朝から出て行ったと云いますから、三島屋の一件は彼女あれに相違ありませんよ」
半七捕物帳:52 妖狐伝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「薩摩っ坊め、下らぬごたごた騒ぎをしやがって、彼女あれとの約束が、ふいになってしもうた」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まるでお姫様だね。いいえお前さんの見違いだよ。それに第一、彼女あれは醜い顔だったが、今のはそんなに悪くもないじゃないか。全く悪い方じゃない。彼女あれのはずはないよ。
それは本当です——しかしそれが本当だとは、彼女あれのような若いものには分かりません
「サア、どういう気だか……彼女あれも何だか変な女だ。」新吉は投げ出すように言った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女あれはこのモンテ・カアロのばくちにかけてはじつに天竺鼠てんじくねずみのように上手に立ち廻るのです。御覧なさい。ペイジ色の蜜柑マンダリンがすっかり上気してまるで和蘭オランダのチイス玉のようでしょう。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「寝顔を見せた時にやはり彼女あれは目をさましていたのだな。それをいうのかしらん」
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
実に立派な家内です。若し彼女あれがこんな怖ろしい犯罪に関係したとすれば、決して一人ではなく、いや、ルウスが主犯ではないので、ただ、手を藉したに過ぎないという程度に相違ありません。
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
先月彼女あれが出ました晩、旦那が途中でお待受け、私が口を開かされましたが、恠しいどころじやござりませぬ。お腹に赤児ややが居ますもの。とうからちやんとお支度が、出来てゐたのもごもつと。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
「エ、彼女あれこそ病身なんですが、まだ何とも音信たよりがありません。」
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
しかしおれの方じゃかつて彼女あれを愛したおぼえがない
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女あれがね、この石碑を
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
もう何しろ、遅うございます。それに、彼女あれの親爺が長わずらいで、床についているところですから、もう四、五日のところ、折を
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)