庇護ひご)” の例文
私が渡辺七兵衛らと共に、綱宗さま側近の奸物かんぶつを斬って御詮議せんぎにかけられましたとき、御屋形さまお一人が私どもを庇護ひごされました。
母の庇護ひごがあればこそ、これまで化物屋敷に無事でいたお艶! その母の気が変わって、今後どうして栄三郎へみさおを立て通し得よう?
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まつたくそれはいやしいものではあつた——しかし同時にそれは庇護ひごされたものだつた。そして私は安全な隱れ場所を欲してゐたのだ。
きさきが一人自分から生まれるということに明石のしらせが符合することから、住吉すみよしの神の庇護ひごによってあの人も后の母になる運命から
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「安西三郎の庇護ひごもとに、こうして半月の余を過しながら、無断で去っては悪いが、一日遅ければ一日だけ、味方に利という事はない」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取りあえずこれらの土地が下附されているという。捨て売りするほどの俸禄をむ官吏と、それの直接の庇護ひごのもとにある移民であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そこに些少さしょう庇護ひごや作為が加えられたろうけれども、しかし親子の間柄が案外うるわしかったであろうことは、ほゞ想像出来なくはない。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし、今は前川の、愛情を底深く蔵した庇護ひごの下に、どうやら息づいている自分の生活を、これ以上美和子に掻き乱されたくなかった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わたしは現在げんざいあらゆる危険きけんから庇護ひごされていることはわかっているのに、恐怖きょうふがいよいよつのって、もうふるえが出るまでになっている。
「一度あの男の話になると、あなた様には血相変えて、弁解したり庇護ひごなさる! ……これが臭い! ……臭うござる!」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
又その守護神の庇護ひごってあなたに言って居るのだというような話をして、結局私の友達は、未来の世界があることをよく知ることが出来たが
私の試験の前などには、我事の様に骨折ったり心配したりしてくれた。その様な精神的な庇護ひごについては、今もなお彼の好意を忘れ兼ねる程である。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
叫んだところで、聞いてる者はあるが助けにきてくれる者はないのがわかっている。そこには他を庇護ひごし得る壁もあり、彼らを救い得る人もいる。
フィンランドの国民的な音楽家、フィンランド政府の庇護ひごは至れり尽せりで、レコード吹込み頒布はんぷにまで補助していた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
このヘロデ党というのは、前にも一言したように、ローマ皇帝の庇護ひごの下に政権を握っていたヘロデ家の一党である。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
やつらをなすままに任して黙っていることがなかったならば——もし彼らがその庇護ひごと友情とを奴らに利用されるままに任せることがなかったならば
その頃は、今のように焦燥の生活をしなくてもよかったので、数代も名工の後裔こうえいが、殿様の庇護ひごもとで研究を続けて、一つのかまを完成したのである。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
文藝復興期の藝術がメディチ王侯の庇護ひごに依った如く、「茶」も「能」も足利義政の守護によるところが大きい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ただ、にいさん、僕あ、君の庇護ひごに対して、それから、ねえさん、君の手厚い心尽こころづくしに対して、僕あお礼をいうよ
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
これはどういうわけでか修道院と僧侶団の庇護ひごを受けている神学校卒業生で、未来の神学者なのであった。
それから家族以外の彼女には、動機と目すべきものが何一つなく、しかも法水の同情と庇護ひごを一身に集めていた伸子が、どうして犯人だったと信ぜられようか。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
威張えばらツる理由わけぢやねえが、れでやんべとおもつてんだから」卯平うへい自分じぶん庇護ひごするやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼等の多数は愛のない所にその形骸けいがいだけを続ける。男性はこの習慣に依頼して自己の強権を保護され、女性はまたこの制度の庇護ひごによってその生存を保障される。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
然るに子之助の継母三村氏すみは、義理ある子之助を廃嫡の否運に逢わせては、自分の庇護ひごが至らぬように世間の目から見られようと云って、手代等の議を拒んだ。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
研究室の小使いの庇護ひごのもとにいるだけで、ああいう女性の行き届いた心づかいなどを受けたことはかつて一度もないんだから、それが仕事の邪魔になるかどうか
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぼくをいつも庇護ひごしてくれる黒井さんが、そういうとき、「うまい」と一言、めてくれるのが、ふだんクルウの先輩達が、ぼくをまるで、運動神経のゼロなように
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その手紙は、いかにも無学らしい文章に加えるにきたならしい筆跡ひっせきをもって書いてあって、要するに公爵夫人こうしゃくふじんがわたしの母に庇護ひごしてもらいたいむねを願い出たものだった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
まず屍体をずたずたに斬ったのち、彼はどこへ行って手や兇器きょうきを洗うか。いかにしてその血だらけの着衣を始末するか。何人なんぴとが彼を庇護ひごしてそれらの便宜べんぎを提供しているか。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
硯友社に投じて紅葉の庇護ひごの下に『新著百種』の一冊として『石倉新五左衛門』を発表した。
妾の幸福さいわいは、何処どこの獄にありても必ず両三人の同情者を得ていんよう庇護ひごせられしことなり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
家の神様に向い「この花嫁は某から貰い受けて今日より我が家の人となりました。ついては村の神様ならびに家の神様は今日以後この花嫁の庇護ひご者とならんことをこいねがいます」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
桃井播磨守はりまのかみの末の幸若丸こうわかまるが幸若舞をはじめる。二条良基の庇護ひごを受けた連歌師救済れんがしきゅうせいの手で、『筑波集つくばしゅう』や『応安新式おうあんしんしき』やが作られてから、連歌はいよいよ京都での流行を増した。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
道衍あに孝孺が濂の愛重あいちょうするところの弟子ていしたるを以て深く知るところありて庇護ひごするか、あるいは又孝孺の文章学術、一世の仰慕げいぼするところたるを以て、これを殺すは燕王の盛徳をやぶ
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蘇民の末は永く神の御庇護ひごを受けたということになっていて、現に今でも国々の天王社てんのうしゃまたは祇園さんのお社から、授けられる疫病けの守り札には、蘇民将来子孫也そみんしょうらいのしそんなりという文字を
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
時のインド総督カーゾンきょうの目に異様の冷光をひらめかせたらしく、豪族タゴール一家の周到な庇護ひごによってわずかに事なきを得は得たものの、ついに久しくかの国に足をとどめかね
茶の本:01 はしがき (新字新仮名) / 岡倉由三郎(著)
もと、これから三つ上の宿の島田の生れなので、晩年、斎藤加賀守の庇護ひごを受け、京から東に移った。そしてここに住みついた。庭は銀閣寺のものを小規模ながら写してあるといった。
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
娘の権利と幸福を庇護ひごしようと試みるほどさばけない人たちではなかった。
手紙 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは北条時代からこの御維新前まで続いて来たのであって、自然この寺には沢山の女が庇護ひごされてもいたし、またその女の望みによっては末寺の坊に落飾らくしょくして住まっていた女も沢山あった。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ウム、其れはづ其れとしても、君、山木が早く取定とりきめないのは不埒ふらち極まる、今日こんにちまで彼を庇護ひごして遣つたことは何程どれほどとも知れたもンぢやない、の砂利の牛肉鑵詰事件の時など新聞は八釜やかましい……
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
実に三友はヨブの哀切なる懇求に接しても、依然としてヨブを圧する態度を取りて、庇護ひご同情を少しも現わそうとはしなかった。ヨブは三友のこの心を知りて、悲憤が胸中に渦まき立つを感じた。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
けれども、市川菊松という、この妙に、ごつい芸名の陰に、団長、市川菊之助の無言の庇護ひごが感ぜられて、その点は、ほのぼのとうれしかった。市川菊松。いい名じゃねえなあ。丁稚でっちさんみたいだ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
氏は初期の私の歌集以来引きつづいて私を庇護ひごしてくれた人である。
元来伏木ふしき直江津間の航路の三分の一は、はるかに能登半島の庇護ひごによりて、からくも内海うちうみ形成かたちつくれども、とまり以東は全く洋々たる外海そとうみにて、快晴の日は、佐渡島の糢糊もこたるを見るのみなれば、四面しめん淼茫びょうぼうとして
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仏国がことに幕府を庇護ひごするの意なかりし一しょうとして見るべし。
大久保家は井伊家がそうであるように、徳川氏譜代の名門であり、この探索には(極秘で)できるだけの庇護ひごを与えてくれた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
家臣でもない渋沢を、何で平岡が庇護ひごしたり、藩務の助手同様に使ったりしているのか、怪しむ者もあったが、平岡は主人の慶喜に対しても
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして現在この二人の青年に対する庇護ひごを拒むことは、かえってそういう未来の近づくのを早めるゆえんではないかと思う
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
左膳は栄三郎を飛来剣から庇護ひごするがごとく見せかけ、同瞬、左腕の乾雲をひらめかし、続いて飛びきたるであろう二の剣三の剣に備えながら
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
昔ほどではないがその後も右衛門佐うえもんのすけは家に属した男として源氏の庇護ひごを受けることになっていた。紀伊守きいのかみといった男も今はわずかな河内守かわちのかみであった。
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
啓坊けいぼんの兄が多少の資金を出してやったり、得意先を世話してやったり、いろいろ庇護ひごを加えてやった縁故があるので、啓坊も贔屓ひいきにしていたところ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)