しん)” の例文
旧字:
こんな話でその夜はしんきましたが、戦争と聞いては何んとなく気味悪く、また威勢のいことのようにも思われて心はおどる。
ともしらぬ一同は、その日も帰らぬ源三郎を案じながらも、門之丞のことなどあれこれと話しあって、その晩は早くしんについた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれこれ三時近くまで働いていたと思いますが、私は先へ失敬してしまったから俊夫君のしんに就いた時間を知りませんでした。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
これを終れば、日記を附ける。次でまた読書する。めば保を呼んでを囲みなどすることもある。しんに就くのは十時である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
妻の賈氏こしもいそいそすすめ、李固も何かともてなすので、は自分の小心をじ、その晩はわれから機嫌を直してしんに就いた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでその頓服を求めまして、夜十二時頃、しんにつく時にのんだらしいのです。私はそれより少し前、睡眠剤を大分のみましてとこに入りました。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
黎元れいぐわん撫育むいくすることやや年歳としを経たり。風化ふうくわなほようして、囹圄れいごいまむなしからず。通旦よもすがらしんを忘れて憂労いうらうここり。頃者このごろてんしきりあらはし、地しばしば震動す。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それから数月の後、ある夜のことである。崔は戸を閉じ、とばりを垂れてしんに就くと、夜なかに女の姿が見えなくなった。
その夜は、同じ座敷に床を取って貰って、私達は枕を並べてしんについた。でも、二人とも昂奮の為に仲々眠れない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
古町ふるまちの会津屋旅館へ御投宿。早速一風呂浴びて渓流を耳にしながら杯を傾け、しんに付く前四人して浴場へ志ざす。
やがて裏手の一室に這入はいって、しんいたが、わたくしは旅のつかれを知りながらなかなか寐つかれなかった。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
セエラはしんに就く時、また新しい厚い敷蒲団と、大きな羽根枕のあるのを見つけました。昨夜のは、いつの間にかベッキイの寝床に移されていたのでした。
予が辞去じきょの後、先生例の散歩さんぽこころみられ、黄昏こうこん帰邸きてい初夜しょやしんつかれんとする際発病はつびょうついたれず。哀哉かなしいかな
独り燈下に細書さいしょしたため、ようよう十二時頃書き終りて、今やしんに就かんとするほど、稲垣は帰り来りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さて夕食が終わって、私はしんに就く前に、しずかに煙草をふかそうと思って、甲板へ登って行った。
もちろん、安兵衛や勘平も手伝った。で、いよいよしんにつこうとした時、そばに寝ていた勘平が
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
しんについてもいうことは何時いつもただ一つ、京にのぼり宮仕みやづかえして一身を立てなおすことであった。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
幼儀ようぎ雑箴ざっしん二十首を読めば、りつこうしんより、げんどういんしょく等に至る、皆道にたがわざらんことを欲して、而して実践躬行底きゅうこうていより徳を成さんとするの意、看取すべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その夜老人は平生いつものように十時ごろからしんに就いたが、夜半になって急に発熱して苦しみはじめた。家族は驚いて薬をのませたり医者を呼んだりしたが、老人の熱は去らなかった。
位牌田 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
宵惑よいまどいの私は例の通り宵の口から寝て了って、いつ両親りょうしんしんに就いた事やら、一向知らなかったが、ふと目を覚すと、有明ありあけが枕元を朦朧ぼんやりと照して、四辺あたり微暗ほのぐら寂然しんとしている中で
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
こうして夜が次第に更け、柏屋でも門へかんぬきを差した。客も家の者もしんについたらしい。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宇津木兵馬は、あすは中房なかぶさの温泉に向けて出立しようと、心をきめてしんにつきました。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが、その廿一日にじゅういちの夜には、氏の親戚を初め近隣の人々を集めて、或る場所で自分の琴を聴かした、十時少し前後演奏が終りて、私は同氏の家へ帰って泣菫氏と共に、枕を並べてしんいた
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
お登和嬢いよいよ気にかかり「竹や、和女おまえ草臥くたびれたろうから私に構わず寝ておくれ。戸締りは私がするから」と下女をしてしんに就かしめその身はしずかに玄関へ出て門口に立ちてひそかに大原家の様子を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人々がしんについてからは、よけいにせきとして、かなり離れている白河の水音までが、淙々そうそうと松風にまじって聞こえてくる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愈々いよいよしんにつく時が来た。藤次郎は予定通り短刀を要之助の目の前で戸棚にしまった。あとはもうねるばかりである。
夢の殺人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「黙られい! いたずらに大言壮語——オッ、そういうお手前は、笠間氏じゃな、うわさによると、お手前は鎧兜よろいかぶとを着してしんかれるということじゃが」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
常は諸生がおり、僕がおったが、皆新年にいとまうて帰った。この日家人がしんいたのち、浴室から火が起った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
天井の高い寒々とした十二畳の座敷、ここには電燈の設備がないので、石油の台ランプを使っているのだが、それも吹き消してしんについた、全くの暗闇である。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その夜お京は兄の部屋で、かなり遅くまで話しこみ、十二時近くなってしんについた。お京はおとなしい性質で、日本式の娘型。物事ものごと内輪うちわへ内輪へとひそめ、出しゃばることをひどく嫌った。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今夜もまた二人は床を並べてしんに就きましたが
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
香華こうげをたむけ、夜更けるまで、家族や弔問客の読経どきょうの声が絶えなかったが、十二時前後、それらの人々も或は帰り去り、或はしんにつき、電燈を消した真暗な広い部屋に
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もうしんに就こうかと思っていると、あわただしく用人がやって来て、もちの木坂の大迫様から仲間ちゅうげん仁平が使いに来たというので、早速、すでに閉めた雨戸を一まい開けさせ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「いや、わしが納屋へ行こう。そしてな玄蕃、これはそちだけに申しつける。誰をも納屋へ近づけてはならん。……また、書院のしょくは消して、道誉は早やしんについたていにいたしておけよ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鳰鳥は若衆を送り出すと、心しずかにただ一人、しとねを冠ってしんいた。とすぐ、彼女を死が襲った——これまでも彼女をよく襲った、短かい仮死の状態が、眠りかけた彼女に襲いかかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一風呂浴びると共にしんに就いてしまいました。
警視庁捜査一課長恒川警部は、ちょうど寝入りばなをたたき起こされた。役所から帰って、坊やと遊んで、少しばかり読書をして、つい今しがたしんについたばかりであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
夜になって、吉良がしんにつく世話をしてしまうと、女は、さっさと自分の部屋へ退って行った。側女そばめとして来ているのに、そうすることが当然であるような、女の態度だった。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
明日の発掘を楽みながら、博士はしんこうとした。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも、しんにつく時には、四人とも、各自の部屋のドアに、内側から鍵をかけることにした。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
枕をならべてている子供たちをみてやったのち、お久美は黙って、またしんに就いた。
あの顔 (新字新仮名) / 林不忘(著)
宮家ご一行はしんにつかれたらしい。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのまましんについたが、翌日はうらうらと暖かい日ざしを味方に、まさか真昼間怪しい奴が庭に隠れていることもあるまいと、川手氏は昨夜の謎を確めるために庭へ降りて行った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、その晩しんにつくまでは別段の異変も起らなかったのだが……
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)