夕飯ゆふめし)” の例文
牛込見附みつけとき、遠くの小石川のもりに数点の灯影ひかげみとめた。代助は夕飯ゆふめしふ考もなく、三千代のゐる方角へいてあるいてつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、あはれや夕飯ゆふめし兼帶けんたいだいざるはしげた。ものだと、あるひはおとなしくだまつてたらう。が、對手あひてがばらがきだからたまらない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
オペラの前の通りのレスタウラン・ユニヹルセルで美味うま夕飯ゆふめしを済ませて両君と別れたのは十時前であつた。(五月十七日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
松助老人はにや/\笑ひながら、夕飯ゆふめしまぐろの事か、往時むかし昵懇妓なじみをんなの事でも考へてるらしい、そつけない眼つきをしてゐた。
あの根村の宿屋で一緒に夕飯ゆふめしを食つた時、頻に先輩は高柳の心をいやしで、『是程新平民といふものを侮辱した話は無からう』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しか丁度ちやうど日曜日にあたつて夜学校やがくかう口実こうじつにも出来できないところから夕飯ゆふめしすますがいなやまだの落ちぬうちふいとうちを出てしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
さうして甲斐かひ/″\しく夕飯ゆふめし支度したく調とゝのへてゐるむすめをみると、彼女かのぢよ祕密ひみつくゐにまづむねをつかれる。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
まぢくないの高聲たかごゑみんないとよびつれておもて出合頭であいがしら正太しようた夕飯ゆふめしなぜべぬ、あそびにほうけて先刻さつきにからぶをもらぬか、誰樣どなたまたのちほどあそばせてくだされ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なんだかとりとめもない事ばかり書きましたが、どうかしからず御赦おゆるし下さい。僕はこの手紙を書いてしまふと、僕の家に充満した焼け出されの親戚しんせき故旧こきうと玄米の夕飯ゆふめしを食ふのです。
でえ阿魔あまだ、夕飯ゆふめしなにやうありやしねえなんてな、ひとりでぐうづ/″\つてな、そんで與吉よきちこと何遍なんべんむけえつてな、さうすつとあの與吉よきち野郎やらうまた、いますぐ饂飩うどんふるまつてよこすとう
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「荒尾君、夕飯ゆふめしの支度が出来たさうだから、食べて行つてくれ給へ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かれは夕飯ゆふめしをすますと、いつもきまつて丘の方へと出かけて来た。
赤い鳥居 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
時刻じこく時刻じこくなので、夕飯ゆふめしひにきやくかはかはた。そのおほくは用辯的ようべんてき飮食いんしよくまして、さつさと勘定かんぢやうをしてだけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その二三日まへ七八人寄つて送別の積りで夕飯ゆふめしを一緒にした帰りに、徳永、九里、川島、僕の四人でチユイルリイ公園に沿うた氷宮パレエ・ド・グラスへ氷滑りを観に行つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ある晩の事、いつもの日本人だけの夕飯ゆふめし会で、誰かが大学の講義を聴き過ぎて胃を悪くした事を話した。
なつさかりながれかけ、いつもならば洗湯せんたうき、それから夕飯ゆふめしをすますとともに、そろ/\かせぎに出掛でかける時刻じこくになるのであるが、道子みちこがけにいたまゝの夜具やぐうへよこたはると
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
旦那だんな相乘あひのりまゐりませう、とをりよく來懸きかゝつた二人乘ににんのりふやうにして二人ふたり乘込のりこみ、淺草あさくさまでいそいでくんな。やす料理屋れうりや縁起えんぎなほしに一杯いつぱいむ。此處こゝ電燈でんとうがついて夕飯ゆふめししたゝめ、やゝ人心地ひとごこちになる。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ふでやのみせとき正太しようた夕飯ゆふめし最中もなかとおぼえし。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
瀟洒あつさりとして美味うま夕飯ゆふめしであつた。ツウルの野菜料理と云へば土地の人が酒の味と共に誇る所ださうである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)