夕飯ゆうめし)” の例文
家へ帰って冷たい残飯で夕飯ゆうめしうのがいやになったので、カフェーに入って夕飯を喫い、八時比になって良い気もちで帰っていると
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四里といっても、地震で壊されたひどい石ころ道ばかりなので、夕飯ゆうめしの支度に間に合うように帰って来るのはなかなか楽ではない。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
千代子は途切とぎれ途切れの言葉で、先刻さっき自分が夕飯ゆうめしの世話をしていた時の、平生ふだんと異ならない元気な様子を、何遍もくり返して聞かした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
K君の東京へ帰ったのち、僕は又O君や妻と一しょに引地川の橋を渡って行った。今度は午後の七時頃、——夕飯ゆうめしをすませたばかりだった。
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
貧しい職人ていの男も居る。中には茫然ぼんやりと眺め入って、どうしてその日の夕飯ゆうめしにありつこうと案じわずらうような落魄らくはくした人間も居る。
並木 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
カトリーヌおばさんがそれから出て来て、わたしたちを夕飯ゆうめしんでくれた。リーズは急いで食卓しょくたくの上におさらを二つならべた。
しかし丁度日曜日に当って夜学校を口実にも出来ない処から夕飯ゆうめしすますが否やまだ日の落ちぬうちふいとうちを出てしまった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の頭にはおそらくこの「夕飯ゆうめしのかますご」が膠着こうちゃくしていてそれから六句目の自分の当番になって「宵々よいよい」の「あつ風呂ぶろ」が出現した感がある。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
十吉は炉の火をかきおこして夕飯ゆうめしの支度にかかった。お時は膳にむかったが、ろくろく箸もとらないでぼんやりしていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とお梅は不便ふびんに思いますから膳立をして、常とちがってやさしくお繼に夕飯ゆうめしを食べさせ、あとで台所を片付けてしまい
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
身うち知合いの人々のあつまってくるようなさいには、今でもかならずただの朝飯あさめし夕飯ゆうめしとちがった物を調理して、食べさせなければならぬものとなっている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かあさんはこのことを、おとうさんにいわぬわけにはまいりませんでした。おとうさんがおかえりなさって、一のものがたのしく夕飯ゆうめしをすましたのちでありました。
おさらい帳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
人間から言はせれば、いとも悪いとも言はうがまゝだ。俺はただむねで、例の夕飯ゆうめしかせいで居たのだ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夕飯ゆうめしを食ってから、湯に出かけたが、帰りにふたたび郁治を訪ねて、あきらかな夕暮れの野を散歩した。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「だが、必らずしもそれがそうでなくなっている事情があるんだ。併し、話すよ。無論話す積りなんだけれど、では、今夜ね、夕飯ゆうめしでもたべながら話すとしよう」
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼が家では、夏の夕飯ゆうめしをよく芝生でやる。椅子テーブルのこともあり、むしろを敷いて低い食卓の事もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてすっかり鋤きおえると、うちへ帰りました。彼は馬をときはなしてうちへ入りました。するとそこには、兄の兵隊のシモンとそのお嫁さんが、夕飯ゆうめしを食っていました。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
夕飯ゆうめしぜんに附けてあった、いやな酒を二三杯飲んだので、息が酒の香がするからだろうかと思う。飲まなければかったに、のどが乾いていたもんだから、つい飲んだのを後悔する。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
ナンダ夕飯ゆうめしの相談か。しかし末広の扇屋とはうれしかろう。エ篠原君は……。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
ことに、私がそんなことを考えているすぐ隣の部屋で夕飯ゆうめしのしたくをしているみな子の物音を聞くと、絶対に、たといみな子が人殺しをしてもそんなことはできぬという気がしたのであった。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
夕飯ゆうめしでも早く持って来さしたらどうだい。」少々心細くなる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
日は暮れかかり夕飯ゆうめし時になったけれど何をくおうとも思わない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夕飯ゆうめしうっちゃって、石盤せきばんうっちゃって
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
牛込見附うしごめみつけまで来た時、遠くの小石川の森に数点の灯影ひかげを認めた。代助は夕飯ゆうめしを食う考もなく、三千代のいる方角へ向いて歩いて行った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女は顔に双手りょうててのひらを当てていた。それはたしかに泣いているらしかった。彼はもう夕飯ゆうめしのことも忘れてじっとして女の方を見ていた……。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
狐でもなく女給でもなく、公休日にでも外出した娼妓であったらしい。わたくしはどこで夕飯ゆうめしをととのえようかと考えながら市設の電車に乗った。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
家に入ってたたみの上にすわって、おぜんを出して朝飯あさめし夕飯ゆうめしと同じに、食事をする者は上流の家、または都会に住む人のところでも、決して全部とはいわれぬのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうして更に大胆なるある者は、私の庭内へ忍びこんで、妻と私とが夕飯ゆうめししたためている所を、うかがいに参りました。閣下、これが人間らしいおこないでございましょうか。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かあさんは、夕飯ゆうめし用意よういをして、おなかをすかしてかえってくる息子むすこっていられました。自分じぶんにはなくても、子供こどもには、べつに滋養じようになりそうなおさかながついています。
夕焼けがうすれて (新字新仮名) / 小川未明(著)
夕飯ゆうめしかゆにしてもらって、久しぶりでさいの煮つけを取って食った。庭には鶏頭けいとうが夕日に赤かった。かれは柱によりかかりながら野を過ぎて行く色ある夕べの雲を見た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と茂二作夫婦は世話になった礼心れいごゝろで、奉行所から帰宅の途中、ある鰻屋へ立寄り、大屋徳平とくへい夕飯ゆうめしをふるまい、徳平に別れて下谷稲荷町の宅へ戻りましたのは夕七時半なゝつはん過で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
登山してから三日目の夕刻、一同はある大樹たいじゅの下にたむろして夕飯ゆうめしく。で、もうい頃と一人が釜のふたを明けると、濛々もうもうあが湯気ゆげの白きなかから、真蒼まっさおな人間の首がぬツと出た。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
俺はただ屋の棟で、例の夕飯ゆうめしを稼いでいたのだ。処で艶麗あでやかな、奥方とか、それ、人間界で言うものが、虹の目だ、虹の目だ、と云うものを(くちばしを指す)この黒い、鼻の先へひけらかした。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしたちはばんまでレッド・ライオン・コートへ帰らなかった。父親と母親はわたしたちのいなかったことをなにも言わなかった。夕飯ゆうめしのあとで父親は二きゃくのいすをのそばへせた。
夕飯ゆうめしがすむと、四人はすぐに鉱石の分析試験にとりかかる。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
自分は彼女の去ったあと、兄夫婦の事を思い出す暇さえなかった。彼らの存在を忘れた自分は、快よい風呂に入って、うま夕飯ゆうめしを食った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
漁師の勘作かんさくはその日もすこしも漁がないので、好きな酒も飲まずに麦粥むぎかゆすすって夕飯ゆうめしをすますと、地炉いろりの前にぽつねんと坐って煙草をんでいた。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
古本の虫干だけはやっと済んだので、其日夕飯ゆうめしを終るが否やいつものように破れたズボンに古下駄をはいて外へ出ると、門の柱にはもうがついていた。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蔵六が帰ったあと夕飯ゆうめしかゆを食ったが、更にうまくなかった。体中からだじゅうがいやにだるくって、本を読んでも欠伸あくびばかり出る。そのうちにいつか、うとうと眠ってしまった。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夕飯ゆうめしは小川屋に行って食った。雨気あまけを帯びた夕日がぱッと障子しょうじを明るく照らして、酒を飲まぬ荻生さんの顔も赤い。小畑は美穂子や雪子のことはなるたけ口にのぼさぬようにした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
わたしはかれらがそのうちの中で夕飯ゆうめしを食べている姿すがたを見ることができた。
彼が火鉢ひばちそばすわって、烟草タバコを一本吹かしていると、間もなく夕飯ゆうめしぜんが彼の前に運ばれた。彼はすぐ細君に質問を掛けた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ラディオの物音を避けるために、わたくしは毎年夏になると夕飯ゆうめしもそこそこに、或時は夕飯も外で食うように、六時を合図にして家を出ることにしている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
細君の帰って来たのは、彼が夕飯ゆうめしを済ましてまた書斎へ引き取ったあとなので、もうあかりいてから一、二時間経っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時刻が時刻なので、夕飯ゆうめしを食いに来る客は入れ代り立ち代り来た。その多くは用弁的ようべんてき飲食いんしょくを済まして、さっさと勘定かんじょうをして出て行くだけであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は事務所から帰りがけに、外套がいとうえりを立てて歩きながら道々雨になるのを気遣きづかった。その雨が先刻さっき夕飯ゆうめしぜんに向う時分からしとしとと降り出した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は半ば春を迎えながら半ば春をのろう気になっていた。下宿へ帰って夕飯ゆうめしを済ますと、火鉢ひばちの前へすわって煙草たばこを吹かしながら茫然ぼんやり自分の未来を想像したりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私が夕飯ゆうめしに呼び出されたのは、それから三十分ばかりったあとの事でしたが、まだ奥さんとお嬢さんの晴着はれぎが脱ぎてられたまま、次の室を乱雑にいろどっていました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな事で時間がかかって帰りは夕飯ゆうめしの時刻になりました。奥さんは私に対するお礼に何かご馳走ちそうするといって、木原店きはらだなという寄席よせのある狭い横丁よこちょうへ私を連れ込みました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「聞かせてもいいが、何だか寒いじゃないか。ちょいと夕飯ゆうめし前に温泉這入はいろう。君いやか」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)