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夕靄
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ゆうもや
ふりがな文庫
“
夕靄
(
ゆうもや
)” の例文
暮方近い
夕靄
(
ゆうもや
)
の立ちこめる道の上を年老いた郵便配達夫のパイプを
啣
(
くわ
)
えながら歩いて行くのが、いかにも呑気に見られたものでした。
亜米利加の思出
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
その日湯河原を発って熱海についたころには、熱海のまちは
夕靄
(
ゆうもや
)
につつまれ、家家の灯は、ぼっと、ともって、心もとなく思われた。
秋風記
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
もう、何と云いますか、あたりは
夕靄
(
ゆうもや
)
に大変かすんで、花が
風情
(
ふぜい
)
あり
気
(
げ
)
に散り乱れている。……云うに云われぬ華やかな夕方でした。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
黄昏
(
たそがれ
)
——その、ほのぼのとした
夕靄
(
ゆうもや
)
が、地肌からわき
騰
(
のぼ
)
って来る時間になると、私は何かしら
凝乎
(
じっ
)
としてはいられなくなるのであった。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
そこからは、アカシアの植わった小さな広場の一
隅
(
ぐう
)
が見え、なお向うには
夕靄
(
ゆうもや
)
に浸った野が見えていた。ライン河は丘の
麓
(
ふもと
)
を流れていた。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
▼ もっと見る
夕靄
(
ゆうもや
)
の白く立ちこめた
街
(
まち
)
の上を、わけもなく初夏の夕を愛する若いハイカラ男やハイカラ女が雑踏にまじってあちらこちらへ歩るいている。
六月
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
「はい」「はい」海軍機は、すでに、魔の海——大渦巻の上空を去って、
夕靄
(
ゆうもや
)
の深く
鎖
(
とざ
)
した
大海原
(
おおうなばら
)
を、西方指して飛んでいる。
怪奇人造島
(新字新仮名)
/
寺島柾史
(著)
すなわち、水域に
游弋
(
ゆうよく
)
すること三日……その三日目も空しくまさに暮れなんとして、模糊たる
夕靄
(
ゆうもや
)
の海上一面を
掩
(
おお
)
わんとしている頃であった。
ウニデス潮流の彼方
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
日本の晩秋に立ちこめる
夕靄
(
ゆうもや
)
に似て、街々をうすくおおう霧にきがついたとき、もうその霧は刻々に濃くなって、商店の光もボーッとくもり
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
……此処で、姉の方が、
隻手
(
かたて
)
を
床几
(
しょうぎ
)
について、少し
反身
(
そりみ
)
に、浴衣腰を長くのんびりと掛けて、ほんのり
夕靄
(
ゆうもや
)
を視めている。
甲乙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
筒井はたえかねて自ら裏戸に走り出て見たが、夕はもはや夜を
継
(
つ
)
いで道のべ裏戸近くに人かげはなく、暖かい夜の
夕靄
(
ゆうもや
)
さえそぞろに下りていた。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
のおりる頃、彼はおりていって、大通りを注意深くあちこち見回した。だれも見えなかった。街路には全く人影が絶えてるように思われた。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
その
崕
(
がけ
)
下の民家からは炊煙が
夕靄
(
ゆうもや
)
と一緒になって海のほうにたなびいていた。波打ちぎわの砂はいいほどに湿って葉子の
吾妻下駄
(
あづまげた
)
の歯を吸った。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
の奥で人の騒ぐ声が聞こえ、物打つ音が聞こえる。里も若葉も
総
(
すべ
)
てがぼんやり色をぼかし、冷ややかな湖面は
寂寞
(
せきばく
)
として夜を待つさまである。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
小諸の町つづきと、かなたの山々の間にある谷には、白い
夕靄
(
ゆうもや
)
が立ち
籠
(
こ
)
めた。向うの岡の道を帰って行く農夫も見えた。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
白い
夕靄
(
ゆうもや
)
がうすくぼんやりと降りて、
彼方
(
かなた
)
の黒ずんだ杉林に、紅く夕日が落ちた時分であった。村の子供等は、いつものように古い屋敷跡に集った。
過ぎた春の記憶
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
明るくなって来る気がするが——それへ薄っすらと
夕靄
(
ゆうもや
)
がかかって、眼をこすってもこすっても、
睫毛
(
まつげ
)
の先に、虹みたいな光が
遮
(
さえぎ
)
ってならなかった。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
が、駕籠の側に付いていた若い男が、何やら駕籠屋に耳打ちをすると、そのまま駕籠をあげて
銀鼠色
(
ぎんねずいろ
)
の
夕靄
(
ゆうもや
)
に包まれた暮の街を、ヒタヒタと急ぎます。
銭形平次捕物控:131 駕籠の行方
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
道子が堤防の上に立ったときは、輝いていた西の空は白く濁って、西の川上から川霧と一緒に
夕靄
(
ゆうもや
)
が迫って来た。
快走
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
こんな自分勝手の理屈を考えながら、佐山君は川柳の
根方
(
ねかた
)
に腰をおろして、鼠色の
夕靄
(
ゆうもや
)
がだんだんに浮き出してくる川しもの方をゆっくりと眺めていた。
火薬庫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
奇
(
く
)
しき
因縁
(
いんねん
)
に
纏
(
まと
)
われた二人の師弟は
夕靄
(
ゆうもや
)
の底に大ビルディングが数知れず
屹立
(
きつりつ
)
する東洋一の工業都市を見下しながら、永久にここに
眠
(
ねむ
)
っているのである。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
外へ出ると、そこらの庭の木立ちに、
夕靄
(
ゆうもや
)
が
被
(
かか
)
っていた。お作は新坂をトボトボと小石川の方へ降りて行った。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
三日月の光で、あるいは闇夜の星の光で、あるいは暁の空の輝きで、朝霧のうちに、
夕靄
(
ゆうもや
)
のうちに、黒闇のうちに、自由にこの堂を鑑賞することができる。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
最早はっきりとは文字の見えぬ本を
膝
(
ひざ
)
にのせて、
先刻
(
さっき
)
から音もなく降って居た
繊
(
ほそ
)
い雨の其まゝ
融
(
と
)
けた
蒼
(
あお
)
い
夕靄
(
ゆうもや
)
を眺めて居ると、忽ち向うの蒼い杉の森から
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
(やがて、このあたりも……)
夕靄
(
ゆうもや
)
のなかに炎の幻が見えるようだった。それから銀座四丁目の方へ引返して行くと、魔の影は人波と夕靄のなかに揺れていた。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
がおりるころになって、一行はたいへんな元気で帰って来た。スロープのずっと下からキャッキャッと笑う声がきこえ、みな、なにかひどくはしゃいでいた。
キャラコさん:02 雪の山小屋
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
日が暮かかってきた、荒地には鼠色の
夕靄
(
ゆうもや
)
が
這
(
は
)
い、沼地にはけたたましく
河鵜
(
かわう
)
の飛立つのが見える。
蛮人
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その煙が
夕靄
(
ゆうもや
)
と溶け合って峰や谷をうずめ終る頃に、千光山金剛法院の暮の鐘が鳴りました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
蒸し暑い、蚊の多い、そしてどことなく魚臭い
夕靄
(
ゆうもや
)
の上を眠いような月が照らしていた。
田園雑感
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
今しも
鍬
(
くわ
)
をかついて帰りかけた若い夫が鍬を肩から
下
(
お
)
ろして、その上に手をのせて、静かにジット首をうなだれています。画の正面は一つの地平線、もう
夕靄
(
ゆうもや
)
がせまっています。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
待乳山
(
まつちやま
)
から、河向うの隅田の木立ちへかけて、米の
磨
(
と
)
ぎ汁のような
夕靄
(
ゆうもや
)
が流れている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
と親馬もまた立ち止って長く嘶き互に嘶き合って一つ一つ
夕靄
(
ゆうもや
)
の中に消えて行く。
木曽御嶽の両面
(新字新仮名)
/
吉江喬松
(著)
ここにもまた沈丁花は
夕靄
(
ゆうもや
)
のようにただよっていた。その生垣にそって歩きながら、ミネは涙をおさめた。そして帰るなり悠吉の部屋にゆき、かかとを立てて火鉢のそばに膝をついた。
妻の座
(新字新仮名)
/
壺井栄
(著)
肘掛窓
(
ひじかけまど
)
の外の
高野槙
(
こうやまき
)
の植えてある所に打水をして、煙草を
喫
(
の
)
みながら、上野の山で
鴉
(
からす
)
が騒ぎ出して、中島の弁天の森や、
蓮
(
はす
)
の花の咲いた池の上に、次第に
夕靄
(
ゆうもや
)
が漂って来るのを見ていた。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
の
中
(
うち
)
に暮れて行く
外濠
(
そとぼり
)
の景色を見尽して、
内幸町
(
うちさいわいちょう
)
から別の電車に乗換えた
後
(
のち
)
も絶えず窓の外に眼を注いでいた。
霊廟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
天涯に
衝立
(
ついたて
)
めいた
医王山
(
いおうせん
)
の
巓
(
いただき
)
を
背負
(
しょ
)
い、
颯
(
さっ
)
と
一幅
(
ひとはば
)
、障子を立てた白い
夕靄
(
ゆうもや
)
から半身を
顕
(
あら
)
わして、
錦
(
にしき
)
の帯は
確
(
たしか
)
に見た。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
これも牛乳のような色の寒い
夕靄
(
ゆうもや
)
に包まれた雷電峠の突角がいかつく大きく見えだすと、防波堤の
突先
(
とっさき
)
にある灯台の
灯
(
ひ
)
が明滅して船路を照らし始める。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
車をヴェステル
街
(
ガーデ
)
から
皇帝街
(
コングスガーデ
)
の方へと走らせていると、
夕靄
(
ゆうもや
)
の中に
瞬
(
またた
)
き出した市街の灯と同時に、いつかのビョルゲ邸の事件が、まざまざと
蘇
(
よみがえ
)
ってきた。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
のおりるのを待ってパン屋へ行き、一片のパンをあがなって、あたかも盗みでもしたようにそれをひそかに自分の屋根部屋へ持ち帰ることもあった。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
九月十三夜の赤銅色の月が、州崎十万坪あたりの起伏の上に、
夕靄
(
ゆうもや
)
を破ってぬッと出る風情は、まことに江戸も深川でなければみられない面白い景色でした。
銭形平次捕物控:152 棟梁の娘
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
と云って戸外へ出ると、いつの間にか街は青い
夕靄
(
ゆうもや
)
に
罩
(
こ
)
められて、
河岸通
(
かしどお
)
りにはちら/\灯がともって居る。
少年
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
石垣の乾きにもう初冬の色を見せている堀川は黒い水の上にうそ寒い
夕靄
(
ゆうもや
)
を立てゝいます。
河岸
(
かし
)
の
賑
(
にぎや
)
かな
商
(
あきな
)
い店の中に混って釣船宿が二軒、
鄙
(
ひな
)
びて居ります。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
月の光はこんもりとした木立の間から射し入って、林に満ちた
夕靄
(
ゆうもや
)
は
煙
(
けぶ
)
るようであった。細長い幹と幹との並び立つさまは、この夕靄の灰色な中にも見えた。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
黄昏
(
たそがれ
)
ちかき野山は
夕靄
(
ゆうもや
)
にかくれて次第にほの
闇
(
くら
)
く蒼黒く、
何処
(
いずく
)
よりとも知れぬ
蛙
(
かわず
)
の声
断続
(
きれぎれ
)
に聞えて、さびしき墓地の春のゆうぐれ、
最
(
いと
)
ど静に寂しく暮れてゆく。
父の墓
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
見ると、彼方から女の影が
夕靄
(
ゆうもや
)
につつまれてくる。女は、
羅衣
(
うすもの
)
の
被衣
(
かつぎ
)
をかぶり、
螺鈿鞍
(
らでんぐら
)
を置いた駒へ横乗りに
騎
(
の
)
って、手綱を、鞍のあたりへただ寄せあつめていた。
宮本武蔵:06 空の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
日が暮れかかっていた、釜梨川の方から
夕靄
(
ゆうもや
)
が立ち始めて、駒ヶ岳の峰だけがくっきりと斜陽を受けている——半太郎は額の汗を拭きながら黙って
畷手道
(
なわてみち
)
にかかった。
無頼は討たず
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
夕靄
(
ゆうもや
)
につつまれた、眼前の狩野川は満々と水を
湛
(
たた
)
え、岸の青葉を
嘗
(
な
)
めてゆるゆると流れて居ました。
老ハイデルベルヒ
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
そこらあたりは畑と森と林が
夕靄
(
ゆうもや
)
に包まれて、その間に宿はずれの家の屋根だけが見え隠れして、二人の立っているところには、「袖切坂」という石の道標に朱を差したのが
大菩薩峠:14 お銀様の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それから、また五日ほどたった夕方、遅くまで二人が帰って来ないので、河原まで迎いにゆくと、二人は鉱坑のそばの石に腰をかけて、白い
夕靄
(
ゆうもや
)
のなかでこんな会話をしていた。
キャラコさん:04 女の手
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
その丘の雑木林の裾をめぐる長い道は東長崎の方へまでつづいているのだそうです。
夕靄
(
ゆうもや
)
がこめている。その方をしばらく眺めました。その野原の端を道路に沿って小川が流れていた。
獄中への手紙:01 一九三四年(昭和九年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
夕
常用漢字
小1
部首:⼣
3画
靄
漢検1級
部首:⾬
24画
“夕”で始まる語句
夕
夕餉
夕飯
夕陽
夕方
夕闇
夕日
夕暮
夕焼
夕映