“夕靄:ゆうもや” の例文
“夕靄:ゆうもや”を含む作品の著者(上位)作品数
吉川英治6
谷崎潤一郎5
永井荷風5
橘外男4
岡本かの子4
“夕靄:ゆうもや”を含む作品のジャンル比率
文学 > フランス文学 > 小説 物語5.8%
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.2%
文学 > 日本文学 > 評論 エッセイ 随筆0.3%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
非常な辛抱をし続けて、なお皆、じっと寝ていた。それきり銃音はしなかった。その上に白い夕靄ゆうもやが下りて来たので……。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云って戸外へ出ると、いつの間にか街は青い夕靄ゆうもやめられて、河岸通かしどおりにはちら/\灯がともって居る。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
外へ出ると、そこらの庭の木立ちに、夕靄ゆうもやかかっていた。お作は新坂をトボトボと小石川の方へ降りて行った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
武蔵は、あきらめて、町のほうへ戻りかけた。町の空には、夕靄ゆうもやがこめて、その靄が、年の市の灯りでうす赤く見えるのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道子が堤防の上に立ったときは、輝いていた西の空は白く濁って、西の川上から川霧と一緒に夕靄ゆうもやが迫って来た。
快走 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夕靄ゆうもやにつつまれた、眼前の狩野川は満々と水をたたえ、岸の青葉をめてゆるゆると流れて居ました。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
野末の彼方此方から、人間が労働を終ろうとするわだちの音や家畜の唸り声が微かな夕靄ゆうもやとともに聞えた。
白い翼 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そこからは、アカシアの植わった小さな広場の一ぐうが見え、なお向うには夕靄ゆうもやに浸った野が見えていた。
左手は一番広くてふくろなりに水は奥へ行くほど薄れたふところを拡げ、微紅びこう夕靄ゆうもやは一層水面の面積を広く見せた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
待乳山まつちやまから、河向うの隅田の木立ちへかけて、米のぎ汁のような夕靄ゆうもやが流れている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もう、何と云いますか、あたりは夕靄ゆうもやに大変かすんで、花が風情ふぜいありに散り乱れている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
白い夕靄ゆうもやがうすくぼんやりと降りて、彼方かなたの黒ずんだ杉林に、紅く夕日が落ちた時分であった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
糸貫川とは遠く離れてしまったのであるが、路の一方には底知れぬほどの深い大きい谷がつづいていて、夕靄ゆうもやの奥に水の音がかすかに聞える。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夕靄ゆうもやの白く立ちこめたまちの上を、わけもなく初夏の夕を愛する若いハイカラ男やハイカラ女が雑踏にまじってあちらこちらへ歩るいている。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
家康は、忠広の顔も見ない。——陽は沈んで、刻々、三方ヶ原の野末のずえには、白い夕靄ゆうもやと夜の闇とが、二条ふたすじに濃くわかれていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月の光はこんもりとした木立の間から射し入って、林に満ちた夕靄ゆうもやけぶるようであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「はい」「はい」海軍機は、すでに、魔の海——大渦巻の上空を去って、夕靄ゆうもやの深くとざした大海原おおうなばらを、西方指して飛んでいる。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
筒井はたえかねて自ら裏戸に走り出て見たが、夕はもはや夜をいで道のべ裏戸近くに人かげはなく、暖かい夜の夕靄ゆうもやさえそぞろに下りていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その煙が夕靄ゆうもやと溶け合って峰や谷をうずめ終る頃に、千光山金剛法院の暮の鐘が鳴りました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……此処で、姉の方が、隻手かたて床几しょうぎについて、少し反身そりみに、浴衣腰を長くのんびりと掛けて、ほんのり夕靄ゆうもやを視めている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その山と山の隙間すきまに、小さな可愛い形の山が二つ、ぽうっと夕靄ゆうもやにかすんで見えた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
石垣の乾きにもう初冬の色を見せている堀川は黒い水の上にうそ寒い夕靄ゆうもやを立てゝいます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
蒸し暑い、蚊の多い、そしてどことなく魚臭い夕靄ゆうもやの上を眠いような月が照らしていた。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三日月の光で、あるいは闇夜の星の光で、あるいは暁の空の輝きで、朝霧のうちに、夕靄ゆうもやのうちに、黒闇のうちに、自由にこの堂を鑑賞することができる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その時は最早暮色が薄く迫った。小諸の町つづきと、かなたの山々の間にある谷には、白い夕靄ゆうもやが立ちめた。向うの岡の道を帰って行く農夫も見えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのがけ下の民家からは炊煙が夕靄ゆうもやと一緒になって海のほうにたなびいていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
黄昏たそがれ——その、ほのぼのとした夕靄ゆうもやが、地肌からわきのぼって来る時間になると、私は何かしら凝乎じっとしてはいられなくなるのであった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
すなわち、水域に游弋ゆうよくすること三日……その三日目も空しくまさに暮れなんとして、模糊たる夕靄ゆうもやの海上一面をおおわんとしている頃であった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
目も届かないような遠くのほうに、大島おおしまが山の腰から下は夕靄ゆうもやにぼかされてなくなって、上のほうだけがへの字を描いてぼんやりと空に浮かんでいた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こんな自分勝手の理屈を考えながら、佐山君は川柳の根方ねかたに腰をおろして、鼠色の夕靄ゆうもやがだんだんに浮き出してくる川しもの方をゆっくりと眺めていた。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夕靄ゆうもやがおりるころになって、一行はたいへんな元気で帰って来た。スロープのずっと下からキャッキャッと笑う声がきこえ、みな、なにかひどくはしゃいでいた。
と親馬もまた立ち止って長く嘶き互に嘶き合って一つ一つ夕靄ゆうもやの中に消えて行く。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
夕靄ゆうもやうちに暮れて行く外濠そとぼりの景色を見尽して、内幸町うちさいわいちょうから別の電車に乗換えたのちも絶えず窓の外に眼を注いでいた。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鷹之尾たかのお、八幡山などの、敵の支塁しるいも、夕靄ゆうもやにつつまれていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕靄ゆうもやの奥で人の騒ぐ声が聞こえ、物打つ音が聞こえる。里も若葉もすべてがぼんやり色をぼかし、冷ややかな湖面は寂寞せきばくとして夜を待つさまである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
これも牛乳のような色の寒い夕靄ゆうもやに包まれた雷電峠の突角がいかつく大きく見えだすと、防波堤の突先とっさきにある灯台のが明滅して船路を照らし始める。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さっ一幅ひとはば、障子を立てた白い夕靄ゆうもやから半身をあらわして
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、駕籠の側に付いていた若い男が、何やら駕籠屋に耳打ちをすると、そのまま駕籠をあげて銀鼠色ぎんねずいろ夕靄ゆうもやに包まれた暮の街を、ヒタヒタと急ぎます。
夕靄ゆうもやのおりる頃、彼はおりていって、大通りを注意深くあちこち見回した。
そのもあらず一同を載せた屋根船は殊更に流れの強い河口のうしおに送られて、夕靄ゆうもやうちよこたわ永代橋えいたいばしくぐるが早いか
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
(やがて、このあたりも……)夕靄ゆうもやのなかに炎の幻が見えるようだった。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
Kも、私も、くたくたに疲れていた。その日湯河原を発って熱海についたころには、熱海のまちは夕靄ゆうもやにつつまれ、家家の灯は、ぼっと、ともって、心もとなく思われた。
秋風記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
馬場の蒼黒い顔には弱い西日がぽっと明るくさしていて、夕靄ゆうもやがもやもやけむってふたりのからだのまわりを包み、なんだかおかしな、狐狸のにおいのする風景であった。
ダス・ゲマイネ (新字新仮名) / 太宰治(著)
黄昏たそがれちかき野山は夕靄ゆうもやにかくれて次第にほのくらく蒼黒く、何処いずくよりとも知れぬかわずの声断続きれぎれに聞えて、さびしき墓地の春のゆうぐれ
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
田野には低く夕靄ゆうもやが匍って離れ離れの森を浮島のように漂わした。
荘子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから、また五日ほどたった夕方、遅くまで二人が帰って来ないので、河原まで迎いにゆくと、二人は鉱坑のそばの石に腰をかけて、白い夕靄ゆうもやのなかでこんな会話をしていた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして遊びほうけて、野原へ走り出て、池の端の大木のうつろなぞに隠れているうちに、水の面にうっすらと夕靄ゆうもやが漂って、ゴウンゴウンと遠くから鐘の音なぞが聞こえてきます。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
白い夕靄ゆうもやのうちに、本丸の灯が三つ四つきらめいていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
画の正面は一つの地平線、もう夕靄ゆうもやがせまっています。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
最早はっきりとは文字の見えぬ本をひざにのせて、先刻さっきから音もなく降って居たほそい雨の其まゝけたあお夕靄ゆうもやを眺めて居ると、忽ち向うの蒼い杉の森から、
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
夕靄ゆうもやがおりるころになって、四人が小屋へ帰ってきた。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
長い橋の中ほどに立って眺望をほしいままにすると、対岸にも同じような水門があって、その重い扉を支える石造の塔が、折から立籠たちこめる夕靄ゆうもやの空にさびしくそびえている。
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
短くなりまさった日は本郷ほんごうの高台に隠れて、往来にはくりやの煙とも夕靄ゆうもやともつかぬ薄い霧がただよって、街頭のランプのがことに赤くちらほらちらほらとともっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかしてこれらの坂の眺望にして最も絵画的なるは紺色なす秋の夕靄ゆうもやうちより人家ののちらつく頃、または高台の樹木の一斉に新緑によそわるる初夏しょか晴天の日である。
しき因縁いんねんまとわれた二人の師弟は夕靄ゆうもやの底に大ビルディングが数知れず屹立きつりつする東洋一の工業都市を見下しながら、永久にここにねむっているのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見ると、彼方から女の影が夕靄ゆうもやにつつまれてくる。女は、羅衣うすもの被衣かつぎをかぶり、螺鈿鞍らでんぐらを置いた駒へ横乗りにって、手綱を、鞍のあたりへただ寄せあつめていた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は黙って夕靄ゆうもやの中を眺めております。
日本の晩秋に立ちこめる夕靄ゆうもやに似て、街々をうすくおおう霧にきがついたとき、もうその霧は刻々に濃くなって、商店の光もボーッとくもり、歩道の通行人もさきの見とおしが困難なくらいになって来た。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
わたし今まででも若草山い上ったこと何遍でもありますけど、そんなに日イ暮れてしまうまで山の上にいたことあれしませなんだのんで、あそこから夕靄ゆうもやの景色見わたすのんは、ほんまにその時が初めでした。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そうです、たしかあの中に、「ヴェニスは沈みつつ、ヴェニスは沈みつつ」と云うところがあったと思いますが、ナオミと二人で船に揺られつつ、沖の方から夕靄ゆうもやとばりとおして陸の灯影を眺めると
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
田端たばた停車ていしやしたときその立上たちあがつて、夕靄ゆうもやにぽつとつゝまれた、あめなかなるまちはうむかつて、一寸ちよつと会釈ゑしやくした。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕靄ゆうもやがこめている。
暗い湿っとりした谷間たにあいを通って、道はまた次の山へ登りになって、やっと最後のこんもりとした山の中腹を回ると、眼下はるかの向うに、村らしい家々の屋根が、模糊もこたる夕靄ゆうもやの中に点々と眼に入りました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そこらあたりは畑と森と林が夕靄ゆうもやに包まれて、その間に宿はずれの家の屋根だけが見え隠れして、二人の立っているところには、「袖切坂」という石の道標に朱を差したのが、黄昏たそがれでも気をつけて読めば読まれるのであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よく陽のあたる障子の中にいるように、辺りは陽が暮れるほど反対に、明るくなって来る気がするが——それへ薄っすらと夕靄ゆうもやがかかって、眼をこすってもこすっても、睫毛まつげの先に、虹みたいな光がさえぎってならなかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
苦しい生活のある場合には、マリユスは自ら階段を掃き、八百屋でブリーのチーズを一スーだけ買い、夕靄ゆうもやのおりるのを待ってパン屋へ行き、一片のパンをあがなって、あたかも盗みでもしたようにそれをひそかに自分の屋根部屋へ持ち帰ることもあった。
後はまた明日……早く帰って、母の料理の手伝いでもしようか! と、車をヴェステルガーデから皇帝街コングスガーデの方へと走らせていると、夕靄ゆうもやの中にまたたき出した市街の灯と同時に、いつかのビョルゲ邸の事件が、まざまざとよみがえってきた。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
遠山とおやまの形が夕靄ゆうもやとともに近づいて、ふもとの影に暗く住む伏家ふせやの数々、小商こあきないする店には、わびしいともれたが、小路こうじにかゝると、樹立こだちに深く、壁にひそんで、一とうの影もれずにさみしい。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
井上唖々いのうえああさんという竹馬ちくばの友と二人、梅にはまだすこし早いが、と言いながら向島を歩み、百花園ひゃっかえんに一休みした後、言問ことといまで戻って来ると、川づら一帯早くも立ちまよう夕靄ゆうもやの中から、対岸の灯がちらつき、まだ暮れきらぬ空から音もせずに雪がふって来た。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それから夕方になると、女中が台所でことこと音をさせているのを聞きながら、肘掛窓ひじかけまどの外の高野槙こうやまきの植えてある所に打水をして、煙草をみながら、上野の山でからすが騒ぎ出して、中島の弁天の森や、はすの花の咲いた池の上に、次第に夕靄ゆうもやが漂って来るのを見ていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
正月は一年中で日の最も短いかんうちの事で、両国から船に乗り新大橋で上り、六間堀ろっけんぼりの横町へ来かかる頃には、立迷う夕靄ゆうもやに水辺の町はわけても日の暮れやすく、道端の小家には灯がつき、路地の中からは干物の匂が湧き出で、木橋をわたる人の下駄げたの音が、場末の町のさびしさを伝えている。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)