声高こわだか)” の例文
旧字:聲高
飢えた蒼鷹くまだかが小鳥をつかむのはこんな塩梅あんばいで有ろうかと思う程に文三が手紙を引掴ひっつかんで、封目ふうじめを押切ッて、故意わざ声高こわだかに読み出したが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼はまくらの上で、そういう不正な仕打にたいして腹だたしくてたまらなかった。他の人たちは声高こわだかに談笑して、杯を突き合していた。
三人づれで、声高こわだかにものを言つて、笑ひながら入つた、うした、などと言ふのが手に取るやうに聞えたが、又笑声わらいごえがして、其から寂然ひっそり
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
のみならずその笑い声はだんだん声高こわだかになって来るらしい。保吉は内心ぎょっとしながら、藤田大佐の肩越しに向う側の人々を物色ぶっしょくした。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
表門の中からとびだして来た(伊達家の)侍たちが十四五人邸内のほうに向って輪をつくり、なにか声高こわだかに喚いたり、手を振ったりしていた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「しっ……あまり声高こわだかに何か申されぬがよい。番人の耳へでも入って代官の年景に告げ口されたら、これ以上、ひどい所へ移されようも知れぬ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この声高こわだかな、表街道の風流人の会話に、しばし聞き耳を立てていた美濃の女が、それより、月ともほととぎすとも言うもののないのにごうを煮やし
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうして私が伯爵を知っているなんてお思いですか?」と、教師は低い声でいい、フランス語で声高こわだかにつけたした。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
声高こわだかな言語は行く人を立ち止らせるが、趣意を汲み取らぬうちに、さっさと行き過ぎる者を制止することができない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
廿四日、天気てんきし。となりきゃくつとめて声高こわだか物語ものがたりするに打驚うちおどろきてめぬ。何事なにごとかと聞けば、衛生えいせい虎列拉これらとの事なり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
閑山は声高こわだかにたった一人の下男を呼んだ。出て来た久七、酒好きだが愚鈍実直な男、閑山には無二の忠義者だ。その耳へ口を寄せて、閑山がささやく。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「千寿どの安堵あんどめされい。藤十郎、このたびの狂言の工夫が悉く成り申したわ」と云いながら、声高こわだかに笑って見せた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
透明な光は天地に充ちてそよとの風もない。門の垣根の外には近所の子供が二、三人集まって、声高こわだかに何か云っているが、その声が遠くのように聞える。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
過ぐる日の饗筵きょうえんに、卓上の酒尽きて、居並ぶ人の舌の根のしどろにゆるむ時、首席を占むる隣り合せの二人が、何事か声高こわだかののしる声を聞かぬ者はなかった。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田川その人に対してよりもさらに声高こわだかな大歓呼が、桟橋にいてかさを振り帽子を動かす人々の群れから起こった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
下で何か声高こわだかにしゃべっているのが、ガン、ガ——ンと反響していた。——地下何百尺という地獄のような竪坑たてこうを初めて下りて行くような無気味さを感じた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
天秤てんびんの先へ風呂敷ふろしきようのものをくくしつけ肩へ掛けてくるもの、軽身に懐手ふところでしてくるもの、声高こわだかに元気な話をして通るもの、いずれも大回転の波動かと思われ
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それらの間を何か声高こわだかに叫びながら疾駆しっくしている若い乗馬将校の姿などが、つぎからつぎにかんで来た。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
声高こわだかに物をいい交し、あちこちと行違い、それはひどい混雑です。毎朝その市場の人込ひとごみを分けて、肋骨ろっこつの附いた軍服の胸を張って、兄は車でお役所へ通われます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
若い娘たちは、下駄の歯をならして、おなじように厚いショールを前に垂らして、声高こわだかに話合ってゆく。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
白髪白髯の名探偵は、我れと我が言葉に、段々昂奮しながら、つい知らず声高こわだかになって行くのであった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今日明日と医師のことに戒めしその今日は夕べとなりて、部屋へや部屋はともしびあまねくきたれど、声高こわだかにもの言う者もなければ、しんしんとして人ありとは思われず。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
緑の葉の間に白い羅紗らしゃの夏服がちらちらしたり、おりおり声高こわだかく快活に笑う声がしたりする。その洋服や笑い声は若い青年にとってこの上もない羨望の種であった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
王子がさましたのを見て、老人ろうじんはハハハと声高こわだかわらいました。王子はおそれもしないでたずねました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
林は独身者であるが、近来その部屋のなかでしきりに人声を聞くことがあった。殊に或る夜は何か声高こわだかに論じ合っているようであったが、暫くしてひっそりと鎮まった。
「ね、馭者ぎょしゃをやって見てもいいでしょう。私、馭者のとこへ行くわ!」とソフィヤ・リヴォヴナが声高こわだかに言った、「馭者さん、待ってよ。私、あんたの隣へ行くから。」
最初は口早に、いつもより声高こわだかに言っていたのが、段々末の方になると声がかすかになってしまった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
ゆき子は、にぎやかな女達の後から足早やについて行つた。そして、声高こわだかに話してゐる女達から聞く話に、日本も、そんな風に変つてしまつてゐるのかと、妙な気がしてきた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
うしろに下がって声高こわだかに呼び上げた退屈男のその合図待ちうけながら、閉められていた御陣屋門がギイギイと真八文字に打ち開かれると、茶坊主お小姓一統を左右にはべらせて
私は今まで随分ずいぶん太平楽をいったとか、恐ろしい声高こわだかに話をして居たとか云て、毎度人からいやがられたこともありましょうが、しか艶男いろおとこわれたのは今日が生れてから始めて。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そう気づいて、泣き出したくなって立ちつくしていたら、前のお家の西山さんのお嫁さんが垣根の外で、お風呂場が丸焼けだよ、かまどの火の不始末だよ、と声高こわだかに話すのが聞えた。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ひづめで落葉を蹶散けちらす音、これは騎兵演習の斥候せっこうか、さなくば夫婦連れで遠乗りに出かけた外国人である。何事をか声高こわだかに話しながらゆく村の者のだみ声、それもいつしか、遠ざかりゆく。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と調子に乗って声高こわだかに談判するを、先刻せんこくより軒前のきさき空合そらあいを眺めて居りました二人の夜店商人あきんどが、互いに顔を見合わせ、うなずきあい、懐中から捕縄とりなわを取出すや否や、格子戸をがらりっと明けて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
反閇あしぶみぞ。もっと声高こわだかに——。あっし、あっし、それ、あっしあっし……。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ばア様は私の室の前を、steal, stole, stolen と声高こわだかに言つて通つて行く。私は無念の唇を噛みながらも、のさばるばア様をうしようもなく、たゞ/\おど/\した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
家へ入ろうとしたら、ふだん仲のいい姉妹きょうだい声高こわだかさかいをしていられましたから、福次郎さんも躊躇ちゅうちょして、しばらくそこに、立っていたのだそうです。お姉さんの声は、聞こえませんでしたけれど
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
いましも『主の祈り』を声高こわだかにとなえているところだったのです。
我が言ふ行きずり人の声高こわだかをひそみゐにけり暑き日なかを
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今度は兄が声高こわだかに笑った。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
と、声高こわだかに呼んだ。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いくらか貸してくんな、おめえが持っていなけりゃお嬢様におねげえして、いくらか貸してくんなと、声高こわだかになる。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その人々の声高こわだかにいいわして通る言葉を聞いて、住蓮は、叡山の策動や、この虚に乗じて、素志をとげようとしつつある彼らの肚をまざまざと見た。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしは一足退すさったが、いかに深山だといってもこれを一人で置くという法はあるまい、と足を爪立つまだてて少し声高こわだか
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は必ず音を立てて紅茶をすすったり、巻煙草の灰を無造作むぞうさ卓子テエブルの上へ落したり、あるいはまた自分の洒落しゃれ声高こわだかに笑ったり、何かしら不快な事をしでかして
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
くにも飛び廻るにも、この小さい連中が最も声高こわだかで最も活溌であるが、中にも目立って籠の数が多く、賑やかなのは、明るい黄いろな外国だねのカナリア共であった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
というような野卑な言葉が、ボーイらしい軽薄な調子で声高こわだかに取りかわされるのを葉子は聞いた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
二人の車掌が詰め寄るような勢いを示して声高こわだかにものを云っていた。「誤魔化ごまかそうと思ったんですか、そうじゃないですか。サア、どっちですか、ハッキリ云って下さい。」
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かれが、便所に通ずる廊下の角をまがると、一段さがった入り口のたたきの上に立って、何かしきりと声高こわだかにがなりたてている一人の塾生がいた。見ると、飯島好造だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
場長がなにか声高こわだかに近くの人に話すのを聞くと、来月らいげつにはいるとそうそうに、駒場農学校こまばのうがっこう卒業生そつぎょうせいのひとり技手ぎしゅとして当場とうじょうへくるとの話であった。糟谷かすやはおぼえずひやりとする。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
張札はりふだをして、酒屋、魚屋、八百屋連の御用聞ごようききたちが往来のものに交って声高こわだかののしりちらして、そこにもいたたまれないようにさせたが、やがてその侘住居わびずまいも戸をめてしまった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)