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「さうだすな。」と三人の若者は、近頃み習ひかけた煙草の道具を片付けて、其處に並べてある形の揃はぬ寺子屋流の机に向つた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そして淡巴菰の火が消えているのに気がいたようにして、足許の燃えさしに吸いつけてむ。村の男はそのさまをじろじろと見る。
この頃は高粱コーリャンの刈入れ時で、どこの家でも眼が廻るほど忙がしいのに、この人は朝から煙草ばかりぱくぱくんで、寝そべって……。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
穏やかな淋しげな微笑が唇のあたりに漂っているのを見た女将は、香ばしい薫の高い玉茶を入れてお光にもすすめ自分もみもした。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
しばらくして頭を上げて右の手で煙管を探ッたが、あえて煙草をもうでもなく、顔の色は沈み、眉はひそみ、深く物を思うていである。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「おや、もうんでしまったかな、確かにまだあったと思ったが——いいや、まだやっているだろう、ちょいと行ってもらって来よう」
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
いやしくも大東京市内においては、橋の上で煙草をむ時世ではないのである、と云うのも、年を取ると、口惜くやしいが愚痴に聞える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「世のすべてだ。……されば、茶でももうよと申せば、老臣のそちまでが、はや瘋癲病ふうてんびょうとは助からぬことだわえ。……お、久子」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ホテルに閉じこもってやたらにお茶をむ。新寺院—— again ! ——円屋ドームが遠く霞んで窓から見るモスコーは模糊としている。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
手ごろの煙管パイプで煙草をみ、それから内緒の樂しみに黒麥酒くろビール容器いれものを持つて、自分の陰氣な階上の住場處へと歸つて行くのが常であつた。
煙草だけはぜいを尽したから、落ぶれても馬糞煙草まぐそたばこめねえ、——と言やがるんで、その口の下から女房も、うちの人は酒を飲まないから
船大工ふなだいくの与兵衛は仕事場の中で煙草をんでいました。焚火たきびだけが明りで、広い仕事場がガランとして真暗まっくらでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
眇目めつかちの東川も、意地悪い興味を覚えた様な顔をして、黙つてそれを眺めた。秋野は煙管の雁首がんくびを見ながら煙草をんでゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
青木さんは所在なさにぼんやりと何をか考へ入つてゐられた後のやうな沈んだ顔をして、横になつて煙草をんでゐられた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
右「へえ先程大原村の茶店で馬を買ってお手附をお出しになる時、側に茶をんで居りましたわたくし旅商人たびあきんどでございます」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
嗚呼彼の楓の下の雪白まっしろの布をおおうた食卓、其処そこに朝々サモヷルが来りむ人を待ってぎんじ、其下の砂は白くて踏むにやわらかなあの食卓! 先生は読み
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
翌朝よくちょう。画家は楽気らくげ凭掛よりかかり椅子いすに掛り、たばこみ、珈琲コオフィイを飲み、スケッチの手帳を繰拡くりひろげ、見ている。戸をたたおとす。
五合、三合、従前もとの通りになって、らば烟草の方はまぬむかしの通りにしようとしてもれも出来ず、馬鹿々々しいとも何ともけがわからない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
新島君は無論むろん酒を飲まず、煙草をまず、生理的からいってもこの煙は定めて難儀であろうと思うて、給仕に命じて窓を明けさした事を記憶している。
くたびれると、おい一服しようと土手の草の上にしゃがんで煙草たばこみ、ほとんど終日食っ附いて一日をくらしていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
マツチは義歯の凍つたのを溶かすに役立つのみならず、寝起きにみたくなる煙草にも火をつけることができる。
茶話:12 初出未詳 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
船員の多くは下で茶をんでいた。というのは、近ごろ見張りが規則正しく続けられなくなってきたからである。
側にある刻煙草の袋を引寄せ、それを鉈豆なたまめ煙管きせるにつめてみ喫み話した。菅も捨吉もまだ煙草を喫まなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
メキシコ(?)の若い男女の間では煙草のみ方によって意志を伝え合うことが行われているということです。
雑草一束 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きょうは男が奮発して、久し振に葉巻をんで見た。しずかに煙を吹きながら湖水の波や、その向うの岩の頭に薄黄いろい夕日の差しているのを眺めている。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
お鳥はだらしのない風をして、細い煙管きせるに煙草を詰めると、マッチの火をりつけて、すぱすぱみはじめた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その御坊おんぼうなり手伝いたる僧侶なりが手を洗いもせず、ただバチバチと手を拍って払ったきりで茶をむです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ですから近所の人はこの人の座を見て、時刻を知ることは、丁度沙漏刻すなどけいと同じことです。この人は多く議論を致しませんが、煙草はその代りに絶えずみます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
そうして彼が部屋に戻って、三本目かそこらの煙草をみ終らないうちに、障子の外で人のけはいがした。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
「今から煙草ましてどうするかいね。生意気な! 顔が蒼くなつて了ふかいね。あんたも余りや、いくら何やつて、黙つて放つとくちふことがあるかいね!」
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
もともと煙の香に一種の係恋けいれんを持っていたのだから中学の三年ごろから、秘かに煙草むことをおぼえて、一年ぐらい偶〻たまたまに喫んでいたが、ある動機で禁煙して
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
煙草たばこいかがです。」と麻川氏は叔母さんにケースを出したが叔母さんはまないのでお辞儀だけした。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は新宿の或店で一人で食事をし、それから外の同じような店で茶をゆっくりみ、それからこんどは銀座へ出て、いつまでも夜の人込みの中をぶらついていた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
綺麗に帯封をして小判形にきっちり巻いた刻み煙草、小は半斤、大は一斤、国分こくぶでも秦野はたのでも小口を少しずつ引きだして、これはいかがさまでと遠慮なくませる。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
彼も若い頃は一廉ひとかどの愛煙家であったに違いない。少しみ過ぎたと気が附いて、止めようとして、初手しょては誰でもする代用品を使ってごまかした。それではいけない。
いま習慣しうくわんなんともないやうになつてしまう』とつて芋蟲いもむしは、くち煙管きせるくわへてふたゝはじめました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
踊る事の出来ない国から来た僕等はのろい動物が人間を観る様に二階から黙つて珈琲キヤフエエんで見おろして居た。入場者は男より女の方が多い。女同志で幾組も踊つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
主人あるじは大隊長と巻烟草みて、銃猟のはなしせばやと、小部屋カビネットのかたへゆくほどに、われはさきよりこなたを打守うちまもりて、珍らしき日本人にものいひたげなる末の姫に向ひて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
茶の湯の基をなしたものはほかではない、菩提達磨の像の前で同じわんから次々に茶をむという禅僧たちの始めた儀式であったということはすでに述べたところである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
さういふものを書いてゐる時は、他の人は寒いだらうとかなんとかいつて気にしてくれるけれども、書き出してあぶらが乗れば煙草をむほかはほとんど火鉢なんぞを忘れてしまふ。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
煙草をむ暇もない——といふのが適切である。その点が実に自然科学の研究と同じだと思ふ。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
大方雨に濡れたら、砂糖のやうにけてしまふだらう。併し運の好い奴等だ。裁判所長の見付けない内に、己が煙草をみに内の石段の上に出て来たから、助かつたのだ。
蘿月は仕方なしに雨戸を閉めて、再びぼんやりつるしランプの下に坐って、続けざまに煙草をんでは柱時計の針の動くのを眺めた。時々ねずみが恐しいひびきをたてて天井裏を走る。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
暖炉のそばで好きな煙草もめるし、それに、暖かい自分の寝床でのうのうと眠れるのだ。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
タバコんでまっているうちに「是非この子を仕込んで見たい」と彼れは思ってしまった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
習慣で、わしは朝、とこの上で昆布茶をむのだが、奈世が起きなくてはどうにもならぬ。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
而して誰がみさしたのか、眩ばゆい食卓の一角からやはらかな珈琲の吐息がたちのぼる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして私は思いました。あの人は煙草をまないから燐寸マッチがないのだ。それは私が持っている。とにかくなにか非常に大切なものを落としたのだろう。私は燐寸を手に持ちました。
Kの昇天:或はKの溺死 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
じゃ熊本では煙草たばこまないかたんを吐かないかというと現に煙草を喫んでいる。それでは灰吹はどうするんだと聞くと、裏のやぶへ行って竹をって来てこしらえるんだと教えてくれました。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さアそうなると、今度はどうしてもまなければ苦しくてならない。仕舞しまいには、あの仕掛けのある煙草のことを感づいたのだろうが、そのときはどうにもならないところへ達していた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)