商人あきんど)” の例文
「いかに商人あきんどでも半金の掛合いはむごいな。しかし殿様がなんと仰しゃろうも知れない。思召しをうかがって来るからしばらく待て」
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人の前垂を持った商人あきんどらしい男が、威勢よく格子戸を開けて入って来た。一人は正太だ。今一人は正太が連れて来たさかきという客だ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『オオ、何処かで見たようなと思ったら、貴様は、三州横須賀村の御領地へ入り込んで、この一学の家へ、物売りに来た旅商人あきんどだな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医者も、牧場主も、商人あきんども青くなって、倉皇そうこうとして馬車から降りて行った。そして最後に私が降りかけた時、私は睦じげな囁きを聞いた。
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
従って三五屋という名前は大阪では一廉ひとかど大商人おおあきんどで通っていたが、長崎では詰まらぬ商人あきんど宿に燻ぶっている狐鼠狐鼠こそこそ仲買に過ぎなかった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
役人、商人あきんど、芸妓、学生……さういふ連中れんぢゆうは大事な瀬戸物をこはしでもしたやうに、てんでに頭を掻き掻き、博士の前へ出て来る。
成程なるほど考えて見れば、お前は商人あきんど古道具買、せっかく手に入れた品物を、元価もとねで返しては商売になるまい。よろしいよろしい増金を
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妹の方は——来る時、そばを通りました、あの遊廓くるわ芸妓げいしゃをしていて、この土地で落籍ひかされて、可なりの商人あきんどの女房になったんでしたっけ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寛保の末つかたのことなりしが、江戸橋茅場町に有徳なる商人あきんど、手代、年季の者まで十二、三人も召し使い、なに暗からず暮らせしあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
大晦日にこれでは露天の商人あきんどがかわいそうだと、女中は赤い手をこすった。入湯客はいずれも温泉場の正月をすごしに来て良い身分である。
雪の夜 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「あれぢや商人あきんどにもなれんし、百姓にもなれまいし、まあかゆでもすすれるくらゐの田地を配けてやるつもりで、抛つて置くか。」
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
昔から小さな店がつづいてきているところへ、こんどこちらの万屋ができたのでございますから、地元の商人あきんどは上がったりでございますよ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蟠「紀伊國屋百両とまとまった金だ、貴様は堅い商人あきんどだから間違はあるまいが、鳥渡ちょっと証文を書かぬとわしが証人になって困るから」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
商人あきんどという者は殊に利に走り易いものであるから、どういう事から私の事を政府に告げて金を儲ける算段さんだんをするかも知れない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
三十前後でせうか、色の黒い、眼鼻立は立派ですが、いかにも感じの荒々しい、用心棒には結構ですが、商人あきんどの店には、少し粗野な人柄です。
喧嘩にもならず実に当惑して居た処に、同船中、下ノ関の商人あきんど風の男が出て来て、乃公が請合うけあうとず発言して船頭に向い
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お雪は今立派な商人あきんどの娘と、いうじゃない。またあゝいう処にも手伝ってもいたし以前かたづいていた処もあんまり人聞きの好い処じゃなかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「こまけえ勘定かんぢやうにや近頃ちかごろ燐寸マツチめてくんだが、何處どこ商人あきんどもさうのやうだな」商人あきんどたまござるれながらいひつゞけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しかし諸君よ、今日の社会の状態に於て、所謂ブルジョアでないところの、また所謂商人あきんどでないところの何人がもとでを喰はずして生きてゐるか。
文芸家の生活を論ず (新字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
今までそれとは気がつかないでいて、不意にこの同勢を引受けた人、ことに屋台店の商人あきんどなどは、狼狽してけるところを失う有様でありました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
音なしく親父のいふことをきいて商人あきんどになる筈だつた奴が、道楽で読んだり見たりした小説や芝居を役に立てて、その日/\を送ることになつたのも
井上正夫におくる手紙 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
「そんなら、名前なまえはともかく、どんなおとこなんだか、それをいっとくれ。お武家ぶけか、商人あきんどか、それとも職人しょくにんか。——」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
薬売くすりうりは、どうしたかと、太郎たろうは、なおふねなかさがしますと、甲板かんぱんうえに、薬売くすりうりは、らぬ商人あきんどとなにやらわらいながら、煙草たばこってはなしをしていました。
薬売り (新字新仮名) / 小川未明(著)
商人あきんどたちからして、こんなに沢山人の出たことはねえって呆れていたよ。おれの村から持って行ったものが、何もかも飛びきりの上値で売れっちまってさ。
きいろい軍服をつけた大尉たいいらしい軍人が一人、片隅かたすみに小さくなって兵卒が二人、折革包おりかばんひざにして請負師風うけおいしふうの男が一人、掛取かけとりらしい商人あきんどが三人、女学生が二人
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「同じ商人あきんどでも魚屋なんかは品物が直ぐに消えてしまって後が利くから繁昌する。鉄瓶は一遍買えば子々孫々の代まである。その辺の道理が分れば宜いのさ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どっちかになっておけばよかったのを、祖母おふくろが、商人あきんどがいいといって丁銀ちょうぎんという大問屋へ小僧にやられた。
言葉使いから見ても、彼は全くの町人であった。そうかといって、決して堅気かたぎ商人あきんどとは受取れなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「合い宿はいいが、その侍たちは困るね、ほかの旅商人あきんどかなにか、侍でない客にしてもらおうじゃないか」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
成経 何とかして商人あきんどをだまして九州まで行けば、どこかにかくれて時期をうかがうこともできるだろう。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
黄の平生密輸入者たちに黄老爺こうろうやと呼ばれていた話、又湘譚しょうたんの或商人あきんどから三千元を強奪した話、又ももに弾丸を受けた樊阿七はんあしちと言う副頭目を肩に蘆林譚ろりんたんを泳ぎ越した話
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伊勢山田の商人あきんど勾玉こうぎょくより小包送りこしけるを開き見ればくさぐさの品をそろへて目録一枚添へたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その中には、皺の深い顔を綺麗に剃った、背の高い商人あきんどらしい老人が交っていた。彼は高価なアメリカ貂の外套を着て、大きな眼庇のついたラシャの帽子を被っていた。
その商人あきんどの噂もそのうちに伝わって来た。町の女小供は恐れてますます夜歩きをしなくなった。
餅を喫う (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
万作は立上つて何事だらうと思つてのぞいてみると、何百人か何千人か知らないが、百姓や商人あきんどや職人たちが多勢てんでにあかい旗を打振つて山をこちらへ登つて来るのでした。
蚊帳の釣手 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
縁日商人あきんどの方で、「流れ」ということをいいますが、これはチラリホラリ見物の客が賑やかな場所から静かな方へ散って来るはずれの場所に店を出して客の足を留めるので
加多 われらと同憂の士が、玉造の百姓と共に打って出て、永らく我等に耳を貸そうとしない横道の物持ち、米商人あきんど、質屋、支配所、陣屋などを焼くのだ。……綺麗だなあ!
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
お賣りお賣りと言ひながら先に立つて砂糖の壺を引寄すれば、目ッかちの母親おどろいた顏をして、お前さんは本當に商人あきんどに出來て居なさる、恐ろしい智惠者だと賞めるに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いいえ、おめえも、相当なものさ。これが、どこぞ、商人あきんどの、土蔵むすめでも掘るときならね。だが、武家屋敷を攻めるにゃあ、そのガニ股じゃあ、駆け引きがおぼつかないよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「八さんは商人あきんどじゃねえ、職人だ、江戸っ子だ、それもガラッ八って仇名のある代物なんだ。そんな、ごめんくださいなんて、おとなしい調子で言うかよ。……今日こんちは——ッ」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
商ふ物賣ものうりの聲も花街くるわ商人あきんど丁稚でつち寢言ねごと禿かふろと聞え犬の遠吼とほぼえ按摩針あんまはりの聲迄もすべ廓中くるわの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さだまりの小倉の筒袖を脱ぎ棄てて、気の利いた商人あきんどらしい着物に着換えるのであった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、首を振りながら、右肩を上げて、商人あきんどの正面から、突っかかろうとした時、商人が
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それは勿論もちろん借りた後といへども良心を持たなければならんけれど、借りざる先の良心と、借りたる後の良心とは、一物いちぶつにして一物ならずだよ。武士のたましひ商人あきんど根性とは元これ一物なのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
所で僕は発身ほつしんして商人あきんどと宗旨を換え、初めは資本もとでが無いから河渫ひの人足に傭はれた事もある。点灯会社に住込んで脚達きやたつかついで飛んだ事もある、一杯五厘のアイスクリームを売つた事もある。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
使ってくれるなよ、ね、きみは豆腐屋の子、ぼくは雑貨屋の子、同じ商人あきんどの子じゃないか、ねえきみ、きみもぼくも同じ小学校にいたときのように対等の友達として交わりたいんだ、きみも学生だからね
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
街のなかをとぼろとぼろとあるいてゆくめくらの商人あきんどです。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
実は世間に聞えた商人あきんどボリース・チモフェーイチじゃよ。
商人あきんど、労働者、農夫、そういった人達とその妻子だ。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
商人あきんどの、道に賢き笑いよう
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)