吹聴ふいちょう)” の例文
旧字:吹聽
甚吉は人違いであるということを世間へ吹聴ふいちょうすれば、それが自然にかみの耳にもはいると思って、偽幽霊の狂言をかいたらしいのです。
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その後ハンター先生はジェンナーのこの考えを他人にも吹聴ふいちょうしてきかせました。そうして、おりあるごとに、ジェンナーに向かって
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あまつさえ下婢に向って妾はレデーの資格なきものなりなど余計な事を吹聴ふいちょうせられ候由、元来右はいかなる御主意に御座候や伺度候。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
門人が名主なぬしをしていて、枳園を江戸の大先生として吹聴ふいちょうし、ここに開業のはこびに至ったのである。幾ばくもなくして病家のかずえた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
でなきゃ、用もねえのに、わざわざあんないやがらせを吹聴ふいちょうに来るはずはねえんだ。人を見そこなうにもほどがあるじゃござんせんか。
かつこれに加えて広告に巧みな民友社が商略上大袈裟おおげさ吹聴ふいちょうしたから、自然この附録に載ったものは大家を公認される形があって
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「とにかくわたしは満足しています。しかしこれもあなたの前だけに、——河童でないあなたの前だけに手放しで吹聴ふいちょうできるのです。」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
又親里の事を誇りて讃め語る可らずとは念入りたる注意なり。いたずらに我身中みうちの美を吹聴ふいちょうするは、婦人に限らず誰れも慎しむ可きことなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これで漸く合点が行ったが、それよりもここ一寸ちょっと吹聴ふいちょうして置かなきゃならん事がある。私は是より先春色梅暦しゅんしょくうめごよみという書物を読んだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
実際情婦も持っており、実際それを吹聴ふいちょうしもしたが、しかしその話し方が下等だった。彼のあらゆる長所もそれぞれ欠点を持っていた。
金魚きんぎょよりか、あいきょうがあるし、おどりもするし、ずっとおもしろいや。」と、子供こどもは、びんをあるいて、ともだちに吹聴ふいちょうしたのです。
どじょうと金魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
きっと手柄顔てがらがお吹聴ふいちょうするに違いない。そうして俺が蜜柑の袋を投げたと分りゃ、皆の頭がそっちへ向かうというもんじゃねえか。
指環 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
木村大膳が吹聴ふいちょうしたものとみえる。虎之助の沈着と胆気たんきは城内でも評判になった。いや城下の街ではそれ以上のうわさだという。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小平太は一丁ばかり来て、始めて吾に返ったように息をいた。別段取りたてて吹聴ふいちょうするようなこともないが、使命だけは無事に果した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
金内は、おのれの手柄てがら矢鱈やたら吹聴ふいちょうするような軽薄な武士でない。黙って微笑ほほえみ、また前のように腕組みして舷によりかかってすわっている。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は彼女があまり世に知られていないことを憤慨し、グラン・ジュールナルの友人らの力をかりて世に吹聴ふいちょうさせようと、彼女に言い出した。
目のかたきにやっきとなることか! 彼等が毎週繰返して、俺には勢力が無いと吹聴ふいちょうせねばならぬ程、俺は勢力をっている訳だ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうそう近着の外国雑誌にストロボダインという新受信機が大分おおげさに吹聴ふいちょうしてあったようですね。しかし私は余り感心しないのですよ。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼らは相互に警戒して口をかんし、吹聴ふいちょう本能の禁欲につとめた。実に彼らこそ訓練の行届いた模範的な百貨店員と云うべきだ!
その折仲人が新郎新婦不参の次第を然るべく吹聴ふいちょうに及んだ時、連中は妙な披露式もあればあるものだと思ったが、大して失望も感じなかった。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
がんりきはひきつづいて手柄話と盗んで来た品物とを、鼻高々と七兵衛の前へ並べて吹聴ふいちょうしているのを七兵衛は、やはり苦々しく聞いていたが
苦心談、立志談は、往々にして、その反対の意味の、自己吹聴ふいちょうと、陰性の自讃、卑下高慢になるのに気附いたのである。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「随分商人はひどいことをしやがる」もっとも、彼はそれに一円二十銭を夜店で出したということは、あまり吹聴ふいちょうはしない方が賢いと思っていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「決して吹聴ふいちょうするな」と言われたイエスの御言にそむいて、彼の病の癒されたことを述べ伝えあまねくひろめたので
常に春琴を弟子に持っていることをほこりとして人に吹聴ふいちょう玄人くろうと筋の門弟たちが大勢集まっている所でお前達は鵙屋のこいさんの芸を手本とせよ〔注
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
従順なる点においては決して彼らにおとらぬと、各自がその特長とするところをいっそう多く吹聴ふいちょうし、したがって高値に他に売らんとする考えがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
わたくし任務つとめというのはごく一とすじのもので、したがって格別かくべつてて吹聴ふいちょうするようなめずらしいはなしたねとてもありませぬが
正味は四丈八尺ですが、吹聴ふいちょうは五丈八尺という口上、一丈だけさばを読んで奈良の大仏と同格にしてしまいました。
自分の手柄を吹聴ふいちょうし、褒美ほうび一笑いっしょうにありつこうとしたところで、さあ、それが何になる? おまけに、うっかりすると、ひどい目にあうかも知れない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かの東方日出でてなお燈を点じ、天下公衆に向かってみずから蒙昧もうまい吹聴ふいちょうをなすものはもとより論ずるに足らず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
が、もし復讐ふくしゅうのために専務の預金の食い込みを吹聴ふいちょうするとすると、取付けを食うのは分っていた。だが、取付とりつけを食って困るのは、銀行よりも預金者だった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
儒学じゅがく最盛期さいせいき荻生徂徠おぎゅうそらいみだりに外来の思想を生嚼なまかじりして、それを自己という人間にまで還元することなく、思いあがった態度で吹聴ふいちょうしているのに比べると
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
パンの破片かけら紙屑かみくずうしほねなど、そうしてさむさふるえながら、猶太語エヴレイごで、早言はやことうたうようにしゃべす、大方おおかた開店かいてんでもした気取きどりなにかを吹聴ふいちょうしているのであろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あまりの不思議に天水香の亀が水をいたというてえらい評判だした。と彼は常に私に吹聴ふいちょうするのだった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
それからのちは宅の父も小山の事を知った人へ吹聴ふいちょうして我が婿むこはこういう人物でござると自慢を申すのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あまりにお気の毒なので御辞退ができなかったのだが、これをまた世間は大仰おおぎょう吹聴ふいちょうをするだろうね。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
それがかなり高級で、わりにピントが合っているから、一々いささかの吹聴ふいちょう意識をもって答えてやる。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
稲川先生の母親は、まるで気ちがいのように息子むすこをかばい、今では彼が前非ぜんぴいあらためていると、会う人ごとに吹聴ふいちょうしてまわるのにいそがしいといううわさを聞いた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
こっちには松山の伯父さんもいられるし、これもうんと力瘤ちからこぶを入れているように吹聴ふいちょうしたでしょう
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
早速この珍犬を手に入れた喜びを、親しい友達たちに吹聴ふいちょうせずにはいられなかったのであろう。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
ロシアの支配下のモンゴリヤ人が来て居るので、本当のロシア人はどこにも見出せないのに、それをラサの市街まち濶歩かっぽして居るかのようにダージリンへ来て吹聴ふいちょうして居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
烟草屋のお婆さんは、いかに新吉が真面目で勉強家で身持が正しいかを隣近所に吹聴ふいちょうして廻った。お婆さんには息子が一人あるのだが、ある保険会社の台湾支部に勤めていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
今朝ほどまでに二十ぺんも繰りかえしたことをこの瞬間もお客に吹聴ふいちょうしているかもしれない。
翌日学校に行くと、その生徒たちはめずらしいことを見て知っているというふうにそれを他の生徒に吹聴ふいちょうした。「先生、昨日書いてた絵を見せてください!」などと言った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
かような女を召し抱えたは、お館にとって不幸だが、これとてやはり競争から来ておる。一ツ橋家の方でまず最初に、蝦蟇がま夫人という女方術師を抱え、大仰に吹聴ふいちょうしたからさ。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここの清雲香は私の常用するところ、誠にいいにおいのする線香であると吹聴ふいちょうしておく。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
朝鮮でも盗難の被害者は嫌疑者の家の隣宅に往き、某の品を盗まれたから不日ふじつ猫を蒸し殺すと吹聴ふいちょうすると、盗人怖れて盗品をひそかに還付す(『人類学雑誌』三十巻一号二四頁)。
しかし、恥を知らぬ自堕落な連中が、どこまでもただ道楽を道楽として臆面おくめんもなく下等にばか話を吹聴ふいちょうし合っている時、一人ひとり沈黙を守るのは偽瞞ぎまんでもなければることでもない。
と彼はそれとなくおしのけて、「七郎丸」に関するゆくたてを熱弁をもって吹聴ふいちょうした。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
露月ろげつが『俳星』に出して居る文章などは一々に読まぬからよくはわからぬが、自分が今始めて元禄の俳書などを読んで今更事珍し気に吹聴ふいちょうするのはなほ感ずべき点があるとしても
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)