しき)” の例文
小堀平治も、娘のあまりの美しさに、少し心配になったのでしょう、しきりに英山公を促し立てて、一刻も早くらちを明けようとします。
ぽん太はそのころ天下の名妓めいぎとして名が高く、それから鹿島屋清兵衛さんに引かされるということでしきりにうわさに上った頃の話である。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼女の耳にはウィリアムが床をばたばたさせながら、しきりに喚いている声や、エフィの途切れ途切れに言う言葉が遠慮なく聞えて来た。
目撃者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ハハハ……何も苦労ツてエ程のことぢやありやアしない、……別に……苦労なんて……」彼は鷹揚な手つきでしきりに盃を口に運んだ。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
女房はそわそわと落ち付かぬ容子をして、亭主と同じようにしきりに思い出そうとしていたが、出し抜けに、囁くような声でこう云った。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
一も二もなく自分は歩み寄つて言葉をかけた。彼はもう誰だか少しも覺えが無い。見えない眼をしきりに働かせて見定めようとする。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
娘が居たからつて、格別嬉しいおもひをさせられた訳ではなかつたが、居なくなつて見ると、しきりに淋しい。また一人法師ひとりぼつちになつて了つた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
再び峠の頂きに来る。振り返ってまた来たい心がしきりにく。私は近いうちにそれを果したいと今も思っている。 昭和六年五月二十六日
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だから私はその下駄で差支ないということをしきりに主張したが、どうも文部省の当局が分らないから、それでやむをえずああいう貼出しをした。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに書物をよみに他所よそまで出かけてゆくなどゝ、家持ち子持ちのする事ではないと云ふ激しい反感がしきりに起された。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
『それは舞踏ぶたう第一だいいち姿勢しせいだわ』とつたものゝあいちやんは、まつた當惑たうわくしたので、しきりに話頭はなしへやうとしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
セント・アントワヌ郊外の一労働者が、一切の憎悪は悪であると云う事をしきりに説いて聞かせた一講演者に云った。
医者にせてごらんとしきりに勧めた。然し彼女はそれに従わなかった。診て貰っても無駄だと頑張った。二度目に食物を吐いた時、順造は叱りつけた。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
これを後添に直したら宜かろうと村の者等がしきりに勧めまするが、角右衞門は中々堅固な人だから容易に承知せず
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ふだんから眼をかけて下さるおかみさんに口説かれて、よんどころなく引き受けてしまったが、ああ悪いことをしたと此の頃じゃあしきりに後悔している。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして別れを告げる前に、シモンはアムブロアジヌお婆あさんと、しきりにきのこの料理の話をしてゐました。それ程シモンはきのこが大好きなのでした。
学校時代の私は、銀子さん、貴女御存ごぞんじ下ださいますわねエ——の一時バイロン流行の頃など、貴女を始め皆様みなさんしきりに恋をお語りなさいましたが
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「朝鮮大虎」「大入々々」「大人一文小児半文」と書いた札を背にしてしきりに客を呼んでゐる男が一方にゐる。
しきりなしに騷ぎ出す胸に、兩手を重ねながら、お定は大きい目をみはつて、言葉少なにお八重の言ふ所を聞いた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
妹は出窓際に鏡を置いて、身仕舞に気をやつして、しきりと鏡に見惚れて居る。白いものも幾らか付けたやうだ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
しきりに室の中を詮索する様子で有った、余は眼の角から、見ぬ振りで見て居たが到頭叔父は卓子の下に落ちて居る紙切れの様な者を拾い衣嚢の中へ入れた様だ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
母親は眼も口も一ツにして大驩おおよろこび、尋ねぬ人にまで風聴ふいちょうする娘自慢の手前味噌みそしきりによだれを垂らしていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
赤シヤツが露西亜の文学者みたやうだねと洒落て軽蔑し乍らしかも三人でしきりに釣つたゴルキといふ魚は坊つちやんの説明によると如何にもこのギドの事らしいが
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
さつきからわれわれ一行の先導をしてゐる恰幅のいゝ老人が、帰りがけに、その住居でもあらうか、ある建物の前へ来ると、しきりに寄つて行けといふ身振りをする。
北支物情 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
三友館には電気応用キネオラマの見世物があつて、花の巴里か倫敦か、月がないたかほとゝぎす、古風な西洋館の窓々の灯へはすさまじく大夕立が降りしきつてゐた。
異版 浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
瞬間の睡眠ねむりから醒めた心地で、ぐるりと後ろの方を向くと家が在り、若い女がしきりとはたを織っている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
一匹の犬は台所の傍で、骨を押へて立つたまま、声を限りに吠え立てた。もう一匹の犬は、遠くから吠えながら、前へ出たり、後へ戻つたりして、しきりに尻尾を振つた。
おなか (徳之助の来たるをしきりに待ち)どうしたのだろう。まだ来ない。あなたご免ください。
中山七里 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
利休がこころひそかに自ら可なりとして居た茶入を氏郷も目が高いのでしきりに賞美して之を懇望し、遂に利休をして其を与うるを余儀無くせしめたという談も伝えられている。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
降り続く大雪に、伯母おばに逢ひたる心地ここちにや、月丸はつま諸共もろともに、奥なる広庭に戯れゐしが。折から裏の窠宿とやかたに当りて、鶏の叫ぶ声しきりなるに、哮々こうこうと狐の声さへ聞えければ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ぐわつすゑかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びやうゐんにはには椋鳥むくどりしきりにいてたをりしも、院長ゐんちやう親友しんいう郵便局長いうびんきよくちやう立歸たちかへるのを、門迄もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一人を追躡ついじょうして銀明水ぎんめいすいかたわらまで来りしに、吹雪一層烈しく、大に悩み居る折柄、二人は予らに面会をおわりて下るにい、しきりに危険なる由を手真似てまねして引返すべきことをうながせしかば
人間はどうもそうらしい。相手を求めて交りをする。畜生でもそうだ。犬ころが、何か鳴いては求めている。じゃれ廻ってはしきりに喜でいる。してみると犬もたしかに社会的に出来てる。
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その時に私はしきりにご辞退をしたのである。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
彼は未だしきりに何か呟いてゐたが、不意に電話口に立つた、彼を止めようとした周子は彼に突き飛ばされて、唐紙にドンと当つた。
熱海へ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
主人峰右衛門の後ろに立って居る、青白い四十女は、それは後添のちぞいのお皆というのでしょう。何やら眼顔で、しきりに主人を牽制して居ります。
その靴をしきりに自慢し、めつたに穿かないといふことをも云つた。四十を越した寡婦やもめの上さんは、その靴を大切にして飾つてゐるのであつた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
が、同時に彼女が彼の疑いに気付いて、スラッグに対する話をしきりに誤魔化そうとしている様子も彼には感付かれていた。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
之は非常な秀才で哲学科に居たが、大分懇意にして居たので僕の建築科に居るのを見てしきりに忠告してれた。
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しきりなしに騒ぎ出す胸に、両手を重ねながら、お定は大きい目を睜つて、言葉少なにお八重の言ふ所を聞いた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今度のこともよんどころなく頼まれたのであるとしきりに訴えたが、彼女かれの涙は名奉行の心を動かすことはできなかった。しかし名奉行にも涙が無いのではなかった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わしは決してお前が篠田などと関係があるの何のともやせぬ、私はお前が其様そんな馬鹿と思もやせぬから少しも気には留めぬが、大洞おほほらしきりに其事を言ふので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
一昨夜手痛く此の身を捕縛して呉れたのが有難かったなどと云い更に「叔父上がしきりに貴方をお召しです」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
文三はじめは何心なく二階の梯子段はしごだんを二段三段あがッたが、不図立止まり、何かしきりに考えながら、一段降りてまた立止まり、また考えてまた降りる……にわかに気を取直して
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
外国人の男女が、私のそばでこの光景を珍しさうに眺めながら、しきりに何か囁き合つてゐる。
北支物情 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
がつすえかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びょういんにわには椋鳥むくどりしきりにいてたおりしも、院長いんちょう親友しんゆう郵便局長ゆうびんきょくちょう立帰たちかえるのを、もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こんなことをして楽しんでいる男だった。或る日しきりにエピクテータスが足を引っ張りじまわしては喜でいる。でエピクテータスはちと痛いので「そうなさると私のあしは折れますよ」
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しきりに淋しくなつてゐた所へ以て來て案外なこの兩人の若い女の笑顏を見たので、私は妙に常ならず嬉しかつた。母に隣つてお兼が早速座布團を直して呉れたので、勢よくその上に坐つた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
でも湯村は、「駄目だ/\、そんな不親切な兄妹きやうだいの世話になるより、金で傭つた他人の方が幾ら好いか知れない。」と云ひ/\書斎へ引込んだ。妹が襖越ふすまごしにしきりと謝るのに返事もない。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
斯様かうなつては玄明は維幾に敵することは出来無い。そこで眼も光り口もける奴だから、将門よりほかに頼む人は無いと、将門のところへ駈込んで、何様どうぞ御助け下さいと、しきりに将門を拝み倒した。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)