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俯向
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うつむ
ふりがな文庫
“
俯向
(
うつむ
)” の例文
その頃、崖邸のお
嬢
(
じょう
)
さんと呼ばれていた真佐子は、あまり目立たない少女だった。無口で
俯向
(
うつむ
)
き
勝
(
がち
)
で、
癖
(
くせ
)
にはよく
片唇
(
かたくちびる
)
を
噛
(
か
)
んでいた。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
「はい」とおしのは
俯向
(
うつむ
)
いて答えた、「おめでとう」それからようやくのことで続けた、「どうぞ今年も、よろしくお頼み申します」
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
泣いているように、
俯向
(
うつむ
)
いている。そして、そばには無色の小袖を着た若い侍が、同じように、顔を上げずに、手をついているのだ。
田崎草雲とその子
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
吹矢の店から送って来た女はと、中段からちょっと見ると、両膝をずしりと、そこに居た奴の
背後
(
うしろ
)
へ火鉢を離れて、
俯向
(
うつむ
)
いて坐った。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
不意に、何だか鼻をすゝるような音がしたので、国経が顔を上げてみると、讃岐は袖で面を隠して、じっと
俯向
(
うつむ
)
いているのであった。
少将滋幹の母
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
▼ もっと見る
そうして時々
仔細
(
しさい
)
らしく頭を動かしてあちらを向いたりこちらを向いたり、
仰向
(
あおむ
)
いたり
俯向
(
うつむ
)
いたりするのが実に可愛い見物である。
鴉と唱歌
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
彼は文人でも官吏でも、誰か親しい人に会いたいものだと思いながら、眼尻を下げやや
俯向
(
うつむ
)
き加減で通りの真中をがに股で歩き出した。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
とは言ったが、母の声はなんだか
陰
(
くも
)
っているようにも聞かれた。娘もだまって
俯向
(
うつむ
)
いていた。かれらには何かの屈託があるらしかった。
鷲
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
女はちょっと
俯向
(
うつむ
)
くようにした。登は縁側に腰をかけて帽子を置き、外の方を見ながら無意識に額から首のまわりに手拭をやった。
雑木林の中
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
もう一人、お稻の後ろに引添ふやうに、美しい顏を
俯向
(
うつむ
)
けて居るのは、お由といつて先代の
配偶
(
つれあひ
)
の遠い
姪
(
めひ
)
で、十九になつたばかり。
銭形平次捕物控:153 荒神箒
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
青年は右手に半ば
諏訪山
(
すはやま
)
にかくれて
禿鷹
(
はげたか
)
の頭のやうに見える真黒な丘をさしてかう云ふと、
俯向
(
うつむ
)
き乍ら下駄の歯で士を掻いてゐた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
お俊は
最早
(
もう
)
気が気でなかった。母は、と見ると、障子のところに身を寄せて、聞耳を立てている。
従姉妹
(
いとこ
)
は
長火鉢
(
ながひばち
)
の側に
俯向
(
うつむ
)
いている。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
岡田は
俯向
(
うつむ
)
き加減になって、早めた足の
運
(
はこび
)
を緩めずに坂を降りる。僕も黙って附いて降りる。僕の胸の
中
(
うち
)
では種々の感情が戦っていた。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
やはり
俯向
(
うつむ
)
いて笑っている。そうして何か食っている。クックッと云うのは笑い声であり、ビチャビチャと云うのは物を食う音だ。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
十字架につけられた後
俯向
(
うつむ
)
けに投げ出された者のように、
拳
(
こぶし
)
を握りしめ両腕を十の字にひろげて、夜が明けるまでじっとしていた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
よく解りませんでしたから
俯向
(
うつむ
)
いていますと「お前はこれで母親を締め殺したんだろう」と谷警部が
雷
(
かみなり
)
のような声で怒鳴りました。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
珊瑚は何かいいたそうにしながら何もいわないで、
俯向
(
うつむ
)
いて
啜
(
すす
)
り泣きをした。その
泪
(
なみだ
)
には色があってそれに白い
衫
(
じゅばん
)
が染まったのであった。
珊瑚
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
見かねた美都子が、その小犬を抱きあげてやると、
俯向
(
うつむ
)
いていたハルミは、そのまま顔も上げないで、両手をだらんと
垂
(
た
)
らしてしまった。
睡魔
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
彼女はそれを
拒
(
こば
)
んで、あまり
俯向
(
うつむ
)
いていたので頭痛がして来たから、あなたに読んでもらいたいと言うので、バーグレーヴ夫人が読んだ。
世界怪談名作集:07 ヴィール夫人の亡霊
(新字新仮名)
/
ダニエル・デフォー
(著)
ボンボン時計を
修繕
(
なほ
)
す禿頭は硝子戸の中に
俯向
(
うつむ
)
いたぎりチツクタツクと
音
(
おと
)
をつまみ、本屋の
主人
(
あるじ
)
は蒼白い顏をして空をたゞ
凝視
(
みつ
)
めてゐる。
思ひ出:抒情小曲集
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
やや
俯向
(
うつむ
)
き
加減
(
かげん
)
の一男の小さい姿は、遥かに青み渡った帝都の大空にくっきりと浮かんで、銅像かなんかのように
微塵
(
みじん
)
も動きそうにない。
秋空晴れて
(新字新仮名)
/
吉田甲子太郎
(著)
「そうですか、伯父自ら罪を承認したといえば、どうしても致し方ありません」坂口はその儘
俯向
(
うつむ
)
いてしまったが霎時すると顔を上げて
P丘の殺人事件
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
「お駒ちやん、もうこの頃は白い
丈長
(
たけなが
)
懸けんのかい。」と、定吉は、
俯向
(
うつむ
)
いて咽せてゐるお駒の
島田髷
(
しまだまげ
)
の
搖
(
ゆら
)
いでゐるのを見ながら言つた。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
民子は年が多いし
且
(
かつ
)
は意味あって僕の所へゆくであろうと思われたと気がついたか、非常に
愧
(
は
)
じ入った様子に、顔真赤にして
俯向
(
うつむ
)
いている。
野菊の墓
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
法水は、しばらく雑談している三人から離れて、
俯向
(
うつむ
)
きながら歩いていたが、やがて
速歩
(
はやあし
)
に追いつくと、ウルリーケにいった。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
「御米、
御前
(
おまい
)
子供ができたんじゃないか」と笑いながら云った。御米は返事もせずに
俯向
(
うつむ
)
いてしきりに夫の
背広
(
せびろ
)
の
埃
(
ほこり
)
を払った。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
王座の右手の唐草を彫刻した台座の上に等身大の聖母の像がすこし
俯向
(
うつむ
)
き加減に立っているのに気がつきました……いやマリヤの像ではない。
ハムレット
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
彼女は汲み上げた水壺の水を長羅の馬の前へ
静
(
しずか
)
に置くと、
赧
(
あか
)
らめた顔を
俯向
(
うつむ
)
けて、垂れ下った柳の糸を胸の上で結び始めた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
「まあ!」と言ったまま、おしおは
俯向
(
うつむ
)
いて考えこんでしまった。が、ややあって、思い入ったようにむっくり顔を上げた。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
それで、なるべく私に気づかないようにと、隠れるように
俯向
(
うつむ
)
いてじっとしていた。それだのに先生はわざと私を名ざした。
何が私をこうさせたか:――獄中手記――
(新字新仮名)
/
金子ふみ子
(著)
そしてハンケチを取りだす暇もないので、両方の中指を眼がしらのところにあてて、
俯向
(
うつむ
)
いたままじっと涙腺を押えていた。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
『靜子さん。』と清子は、
眤
(
ぢつ
)
と友の
俯向
(
うつむ
)
いた顏を見ながら、しんみりした聲で言つた。『私よく知つてるわ。貴女の心を!』
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
その後ある巡礼が子をおぶってこの辺に来てその綺麗な水で手を洗おうとして
俯向
(
うつむ
)
くとそのおぶって居る子が池の中に落ちて死んでしまった。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
「邪魔がはいる——」と彼は
俯向
(
うつむ
)
いてぼそぼそ繰りかえした。障害になっているものに、これでしょう——と、導いて行くような声であった。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
鐘
(
かね
)
ヶ
淵
(
ふち
)
のあたりであった。冬空のさむ
気
(
げ
)
に暮れかかる放水路の
堤
(
つつみ
)
を、ひとりとぼとぼ
俯向
(
うつむ
)
きがちに歩いていた時であった。
枯葉の記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
義夫は
俯向
(
うつむ
)
きに崖下の岩にぶつかったと見え、右胸前部の肋骨が三四本折れ、拳を二つ重ねた程の大さの、血に塗れた凹みが出来ておりました。
安死術
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
圭一郎は
赧
(
あか
)
らむ顏を
俯向
(
うつむ
)
いて異樣に
沸騰
(
たぎ
)
る心を抑へようとした。をばさんさへ居なかつたらと彼は齒をがた/\
顫
(
ふる
)
はした。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
「おや何かしらん」と
怪
(
あやし
)
みつつ
漸々
(
ようよう
)
にその
傍
(
わき
)
へ
近付
(
つかづ
)
いて見ると、岩の上に若い女が
俯向
(
うつむ
)
いている、これはと思って横顔を
差覘
(
さしのぞ
)
くと、
再度
(
ふたたび
)
喫驚
(
びっくり
)
した。
テレパシー
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
が、
日頃
(
ひごろ
)
いかつい
軍曹
(
ぐんそう
)
の
眼
(
め
)
に
感激
(
かんげき
)
の
涙
(
なみだ
)
さへ
幽
(
かす
)
かに
染
(
にぢ
)
んでゐるのを
見
(
み
)
てとると、それに
何
(
なん
)
とない
哀
(
あは
)
れつぽさを
感
(
かん
)
じて
次
(
つぎ
)
から
次
(
つぎ
)
へと
俯向
(
うつむ
)
いてしまつた。
一兵卒と銃
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
文治は成るたけ人に逢わぬように、
俯向
(
うつむ
)
いて目立たぬように小さくなってまいりましたが、國藏が早くも見付けまして
後の業平文治
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
知れない人は、まだ
俯向
(
うつむ
)
いて眼を洗っていましたが、そのうちにふいとお玉の眼に触れたものは、敷物の
傍
(
わき
)
に置かれた大小の腰の物でありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
西風が強いかして、傾斜の土に疎ら生えしている、丈の短い唐松や、富士薊が、東に向いて
俯向
(
うつむ
)
きに手を突いている。
雪中富士登山記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
麻油は変な顔をして
俯向
(
うつむ
)
き
乍
(
なが
)
ら、「孤踏夫人て、あんた好き? ……」又沈黙して今度は一層際立った顔をしながら
小さな部屋
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
ふと
街
(
まち
)
の方を眺めると、彼女は若い工兵隊の士官が自分のいる窓をじっと見上げているのに気がついたが、顔を
俯向
(
うつむ
)
けてまたすぐに仕事をはじめた。
世界怪談名作集:03 スペードの女王
(新字新仮名)
/
アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン
(著)
それがやや
俯向
(
うつむ
)
きになった、血色の
好
(
い
)
い頬に反射している。心もち厚い唇の上の、かすかな
生
(
う
)
ぶ
毛
(
げ
)
にも反射している。
母
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
弥吉は、そのまま縁側に手をついたなり、
俯向
(
うつむ
)
いてしまった。磨きをかけた縁板に、児太郎の小姓
袴
(
ばかま
)
の銀縫いの影がちらついていた。口が過ぎたのだ。
お小姓児太郎
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
(画家の方へ
俯向
(
うつむ
)
く。)わたくしはそれを後悔なんか致しませんの。わたくしのためにも大きい幸福でございましたわ。本当に嬉しいと存じましたわ。
家常茶飯 附・現代思想
(新字新仮名)
/
ライネル・マリア・リルケ
(著)
また
戊辰
(
ぼしん
)
戦争の後には、世の中が惨忍な事を好んだから、
仕掛物
(
しかけもの
)
と称した怪談見世物が大流行で、小屋の内へ入ると薄暗くしてあって、人が
俯向
(
うつむ
)
いてる。
江戸か東京か
(新字新仮名)
/
淡島寒月
(著)
ついでに落葉を一と
燃
(
もえ
)
させて
行頃
(
ゆくころ
)
何か徳蔵おじが
仔細
(
しさい
)
ありげに申上るのをお聞なさって、チョット
俯向
(
うつむ
)
きにおなりなさるはずみに、はらはらと
落
(
おつ
)
る涙が
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
「どうって……。」云いかけておいて彼女は、今井の真剣な気勢に打たれてさし
俯向
(
うつむ
)
いたが、やがて静に続けた。
変な男
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
俯
漢検1級
部首:⼈
10画
向
常用漢字
小3
部首:⼝
6画
“俯向”で始まる語句
俯向形
俯向加減
俯向伏
俯向勝