がわ)” の例文
「この小屋が手頃てごろ。こん夜からわしもここに泊るから、おまえ達も気のどくだが、二、三人ずつかわがわる看護にここへ泊ってくれい」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前のその蝦蛄しゃこもののようになった、両手の指を、かわがわってめろと言え。……いずれ剣劇や活動写真が好きだろう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そばにいた両親のかわがわる話すのを聞けば、この大切な一人息子は、夏になってから毎日裏の池で泳いでいたということである。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
平次は十手と青銭とかわがわる飛ばして、わずかに身を防ぎましたが、相手の武家は思いの外の使い手で、平次も次第に圧迫されるばかりです。
が、ボールは思う通りには、バウンドしなかった。でも、段違に上手じょうずな譲吉は、相手の少年をかわがわる、幾度も負かした。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かわがわるさまざまの色の電光が射し込んで、床にかれた石膏せっこうぞうや黒い寝台しんだいや引っくりかえった卓子テーブルやらを照らしました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
氏は毎朝、六時に起きて、家族と共に朝飯前に、静座せいざして聖書と仏典ぶってんの研究をかわがわるいたしてります。
それから三十分程の間、母子してかわがわる楽器の前に坐っては、一つ所を復習していたが、やがて梅子が
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな事をば、出入の按摩あんま久斎きゅうさいだの、魚屋さかなやきちだの、鳶の清五郎だのが、台所へ来てはかわがわる話をして行ったが、然し、私にはほとん何等なんらの感想をも与えない。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
それでかわがわる其処まで行って足を掛けて見るが、荷が無ければかく、荷があっては素早く行動しないと落ちそうなので、長次郎さえも行きかけて止めてしまう。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
もちろん各楽章の排列はいれつは転倒し、また変形しているとはいえ、二つの主題がかわがわるに起伏出没していることまで、何とソナータの形式に似通っていることであろう。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
私の眼は、その仮綴かりとじの本の純白な西洋紙と、彼女の胸の白さとの上に、かわがわる注がれました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さては又、県視学の眼の前で、複雑な高次方程式に属する四則雑題を見事に解いた教え子の無邪気な笑い顔なぞを思い出しつつ……云い知れぬ喜びや悲しみにかわがわる満たされつつ
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大変生計くらしに困っているらしいので、気の毒に思い、石川光明さんその他三、四の友達を誘い、お茶の稽古を初めることを思いつき、石川さんの宅や、私の宅とかわがわる四、五人会合し
ブーブーとふいごでコークスの火を燃やして、その中で真赤にした鉄を鉄床かなとこの中にはさみはさんで置いて、二人の男がトッテンカンとかわがわ鉄鎚てっついで叩いていた。叩く度にパッパッと火花が散った。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
船はまずわかったものの、何の船がはいって来たのか、そのほかの言葉はさっぱりわからぬ。あれはあの男もうろたえた余り、日本語と琉球語とをかわがわる、饒舌しゃべっていたのに違いあるまい。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ルピック氏は、息子むすこたちをかわがわる猟にれて行く。彼らは、父親のうしろを、鉄砲の先をけて、すこし右のほうを歩く。そして、獲物えものかつぐのである。ルピック氏は疲れを知らぬ歩き手だ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
死を宣告される前のような、奇怪な不安と沈静とがかわがわる襲って来た。不安が沈静に代る度にクララの眼には涙が湧き上った。クララの処女らしい体はあしの葉のように細かくおののいていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
慇懃いんぎんに辞退したが聞き入れない。昔からしいたげられて来た露西亜ロシアに勝った日本だ。その国の人が乗っていると聞いて、はるばる他の車室から、かわるがわる顔を見にくる。すっかり英雄扱いである。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
三人のお医者がかわがわる、僕たちのからだの隅々すみずみまで調べた。峻烈しゅんれつを極めた診察で、少々まいった。レントゲンにかけられ、血液も尿もとられた。坊やは、トラホームを見つけられ泣きべそをいた。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
女主人は機嫌好げに彼女の顔と私の方とをかわがわる見ながら
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
皆が代るがわる手を差し出したが届かなかった。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「それはね私達が皆終るまで決して終らないでしょうよ。かわがわる呪いが私達にふりかかるでしょう、あの牧師さんが言ったように、たぶんそろそろとね、しかしそれはあの方にふりかかったように私達皆んなにかかる事でしょう」
住蓮と、安楽房とは、かわがわるそこへ彼女たちの不便な物を運んでやっていた。——すると、何時とはなく、こう二人の者の行動を知って
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その西の手から東の手へ、一条ひとすじの糸を渡したので町幅をって引張ひっぱり合って、はらはらと走り、三ツ四ツ小さな顔が、かわがわる見返り、見返り
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は十手と青銭とかわがわる飛ばして、わずかに身を防ぎましたが、相手の武家は思いの外の使い手で、平次も次第に圧迫されるばかりです。
ところがある朝手習の先生のうちの前の草原で二人の子供がみんなに囲まれてかわがわる話していました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
近くで得られるあてもないから、大きな油紙を拡げて雨水を溜めたり、其他鍋、飯盒、弁当箱、空缶等、何でも水の溜る物は、用が済むとかわがわる外に出して雨受けにした。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
出入口の戸や壁にりかかって話をしている事もあるし、時候が暑くなると舞台で使う腰掛を持出して、夜昼となく大勢かわがわるに腰をかけて、笑い興じていることもあったが
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
床の間の前に並んでいる教授がたの処へ、卒業生がかわがわるお杯を頂戴しに行く。教授の中には、わざと卒業生の前へ来て胡坐あぐらをかいて話をする人もある。席は大分入り乱れて来た。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
恥ずかしきくれないと恨めしき鉄色をより合せては、逢うて絶えたる人の心を読むべく、温和おとなしき黄と思い上がれる紫をかわがわるに畳めば、魔に誘われし乙女おとめの、われがおに高ぶれるさまを写す。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると二人の侍が、かわがわる答えますには
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
よろこびなやみとにおそろしくかわがわる襲われて
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それから数日の間、ここに巣くう悪の一群ひとむれは、毎日、範宴の居所と、噂の実相をさぐることにかわがわる出あるいていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……と唄う、ただそれだけを繰返しながら、矢をはぎ、斧を舞わし、太刀をかざして、あごから頭なりに、首を一つぐるりと振って、かわがわるに緩く舞う。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お静とガラッ八が、かわがわる報告する軽業小屋の不思議な殺しの顛末てんまつ、平次は黙って聴いておりましたが
みんなはかわがわる、前肢まえあしを一本環の中の方へ出して、今にもかけ出して行きそうにしては、びっくりしたようにまた引っ込めて、とっとっとっとっしずかに走るのでした。
鹿踊りのはじまり (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
辛防しんぼう肝心かんじんだと思って左右かわがわるに動かしたがやはり依然として歯は餅の中にぶら下っている。ええ面倒だと両足を一度に使う。すると不思議な事にこの時だけは後足あとあし二本で立つ事が出来た。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうだ、螇蚸ばった蟷螂かまきり、」といいながら、お雪と島野をかわがわる、笑顔でみまわしても豪傑だからにらむがごとし。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野宿の軽業一座は、夜通し火を焚いて、かわがわる番人を置きましたが夜中から暁方あけがたかけて、焚火を見張らされたのは、一座の花形で源吉という綱渡りの少年でした。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼の脳裏には、今日の日中に、かわがわあとを残した色彩が、時の前後と形の差別を忘れて、一度に散らついていた。そうして、それが何の色彩であるか、何の運動であるかたしかにわからなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「かかる折こそ」とばかり、舎人とねりたちは、宵の早くから酒を持ち込んでいるし、上達部かんだちべたちは、宴楽にけっているし、衛府えふの小者などは、御門が閉まると、かわがわる町へ出ては、遊んで帰った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてかわがわるふっふっと息をそこへ吹き込みました。
双子の星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おっこちたとわるる男、すなわちこれなる源次郎のせめてそれだけでもして頂きたい、目金を乗せた鼻の形と、くだんの下駄とかわがわ見競みくらべてせない顔附。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがてかわがわる風呂に入った二人の浪人者は、一本つけさして、互に献酬を始めました。平次はその間に部屋を出て、懐紙に帳場すずりでサラサラと何やらしたため、店先に立って宵の街を眺めております。
二人はかわがわる火鉢に手をかざした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かわがわる取って投げしが、はずみて、矢のごとくそれたる一条、土間に居たまいたる母上の、袖もてわれをいだきてうつ向きたまいし目のさきにハタと落ちたるに、フト立ちて帰りたまいき。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
通ったですが、村の者がかわがわる高く傘を擎掛さしかけてったですね。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「お召ものの飾から、光のすお方を見たら、お連れ申して参りますように、お使つかいでございます。」とかわがわるいって、向合って、いたいたけにそでをひたりと立つと、真中まんなかに両方からき据えたのは
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)