上﨟じょうろう)” の例文
わしはあの優雅ゆうがみやこの言葉がも一度聞きたい。あの殿上人てんじょうびと礼容れいようただしい衣冠いかんと、そして美しい上﨟じょうろうひんのよいよそおいがも一度見たい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
だから元より、和歌の道とか、香を聴き分ける事とか、そういう上﨟じょうろうたちの風雅みやびも知らねば、難しいふみむ知識も持たなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はえよ、蠅よ、蒼蠅あおばえよ。一つはらわたの中をされ、ボーンと。——やあ、殿、上﨟じょうろうたち、わしがの、今ここを引取るついでに、蒼蠅を一ツ申そう。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「静御前」と云う一人の上﨟じょうろう幻影げんえいの中に、「祖先」に対し、「主君」に対し、「いにしえ」に対する崇敬すうけい思慕しぼの情とを寄せているのである。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小野小町、和泉式部という類の上﨟じょうろうまでが、東西の諸国に同じ一つの物語の跡を止めているなどもこれを模倣または妄説と見る必要は少しもない。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの通りトテモ見識ばったお上品ずくめで、腰附きから眼づかい、足どりまでもうえがたのお上﨟じょうろうソックリで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
顔に檜扇ひおうぎを当てた、一人の上﨟じょうろうが、丈なす髪を振り敷いて、几帳きちょうの奥にいる図が描かれてあって、それに感じた漠然ばくぜんとしたあこがれが、いまも横蔵の
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
何が笑うべきものか、何が憎むに値するものか、一切知らぬ上﨟じょうろうには、唯常と変った皆の姿が、うらやましく思われた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「ははあさようでござりましたか。いや都の上﨟じょうろう方には下様しもざまのことが珍らしくあるいはそうかも知れませぬ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此の日余烟濛々もうもうとして襲い、夫人上﨟じょうろう達は恐れまどって居るのに、義政は自若として酒宴を続けて居たと云う。こうなれば、義政も図々しい愉快な男ではないか。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すまし顔の女院や上﨟じょうろうなどは目もくれない。遊興はすべて下司げす張った、刺戟の強いほうが好ましい。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
美しい上﨟じょうろうべにさいた口から、こうした問いを露骨むきつけに持ち出されて、さすがに世馴れた兼好も少し返事に困ったらしかった。忽ちに小さい身体をゆすって大きく笑い出した。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
茶瓶に湯が注がれて、名茶『一の森』の上﨟じょうろうびのやうな淡いいろ気のある香気が立ちのぼつた。彼は茶瓶をむづとつかんだ。茶瓶の口へ彼のがつた内曲りの鼻を突込んだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
上﨟じょうろう房子が女房奉書をかいた。これを立入左京亮に渡しながら、あゝ、大変なことになった、こまったこまった、と、まだ大納言はつぶやいていた。だから、その晩は一睡もできない。
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
浪路は、上﨟じょうろうに似げない性急さで、髪をかきつけ、顔を直すと、立ち上って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
白河法皇の女御にょうごで、最後は、ろう御方おんかたと呼ばれる、花山院の上﨟じょうろうであった。
此方こなたは鷹狩、もみじ山だが、いずれいくさに負けた国の、上﨟じょうろう、貴女、貴夫人たちの落人おちうどだろう。絶世の美女だ。しゃつ掴出つかみいだいて奉れ、とある。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後で聞けば、輿の上﨟じょうろうは、吉野の仮宮に仕える内侍所の女性で、何かのお使いで東条の城へ見えた途中であったという。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キミとも上﨟じょうろうとも彼らを呼んだのは、常の日に化粧し色ある衣を着ることが、民間では甚だ目に立ったからであろう。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
左大臣の肩にあるものは、よく見ると一人の上﨟じょうろう、———此の館の主が「宝物」だと云ったその人に違いなかった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一時イツトキ上﨟じょうろうなどと言って、女の神人を、祭りのために、臨時に民家から択び出すような風が、方々にあったことを思えば、神きたって、家々を訪問する夜には
最古日本の女性生活の根柢 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そのゆえ、遊女には上﨟じょうろう風のよそおいをさせて、太夫だゆう様、此君このきみ様などともいい、客よりも上座にすえるのです。それも、一つには、客としての見識だろうと思いますがのう。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ひざのある所と思われる辺へ、うねりをつくりひだをつくり、しずしずと先へすべって行く様子は、白衣を頭からスッポリとかずいた、上﨟じょうろうが歩いて行くのと変わりがなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(平家没落の後、官女は零落してこの海浜にさまよい、いやしきわざして世を送るも哀れなり。呉羽の局、綾の局、いずれも三十歳前後にて花のさかりを過ぎたる上﨟じょうろう、磯による藻屑もくずを籠に拾う。)
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
めがものお上﨟じょうろうとであわしゃる。
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
鎌倉時代の上﨟じょうろうにや、小挂こうちぎしゃんと着こなして、練衣ねりぎぬかずきを深くかぶりたる、人の大きさの立姿。こぼるる黒髪小袖のつま、色も香もある人形なり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠くの高欄こうらんをちらと行く侍女やら上﨟じょうろうの美しさも、都振りそッくりを、この伊吹の山城やまじろへ移し植えたとしか思えない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりももう一層粗いというのだから、いかに上古の上﨟じょうろうの生活が、柔弱ということの反対であったかもわかる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
当麻語部たぎまのかたりべおむななども、都の上﨟じょうろうの、もの疑いせぬ清い心に、知る限りの事を語りかけようとした。だが、たちまち違った氏の語部なるが故に、追い退けられたのであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一方を貴族の女のにし、一方を馬方の男の児にして、その間に、乳母うばであり母である上﨟じょうろうの婦人を配したところは、表面親子の情愛をあつかったものに違いないけれども
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
めがものお上﨟じょうろうに、かえるどの
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
おともだちの上﨟じょうろうたちが、ふと一人見着けると、にわかに天楽のとどめて、はらはらとたちかかって、上へ桂を繰り上げる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、えにふるえている二児の手を曳き、乳呑みを抱いて路頭の霜にうずくまったまま、起つ力もなげな上﨟じょうろうを励まして、ここへ連れて来たものだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素朴なる村の住民は、これを目して上﨟じょうろうと呼んでいた。上﨟はただ貴女の別名で、もと尊敬すべき婦人を意味したことは、辻君つじぎみ立君たちぎみのキミも同じである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なれども、このとうとい上﨟じょうろうのおみのうえもおしろがらくじょうするときはどうなるだろうか。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(殿、ふと気紛きまぐれて出て、思懸おもいがけのうねんごろ申したしるしじゃ、の、殿、望ましいは婦人おなごどもじゃ、何と上﨟じょうろうを奪ろうかの。)
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惣蔵はつかつかと起って行って、上﨟じょうろうたちの中にいるわが妻の側へ寄った。突然、そこで「きゃッ」と魂切たまぎのさけびがしたので、勝頼が、遠くから
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これなども飛鳥井姫あすかいひめという美しい上﨟じょうろうの着物が、遠くから飛んで来て引っ掛かったといういい伝えもあるのですが、土地の人たちは、またこんな風にもいっている。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此の時代の彼は既に武士ではなくなって、思いは日夜かの不仕合わせな上﨟じょうろう母子の身の上に馳せながら、なお内心に何故とも知れざる自責の念と慚愧ざんきの情とが往来していた。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
少し心安くなると、蛇の目の陣におそれをなし、山のの霧に落ちて行く——上﨟じょうろうのような優姿やさすがたに、野声のごえを放って
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
〔少納言信西入道〕美福門院の上﨟じょうろう紀伊ノ局の良人。才学兼備で、表面には余り出ないが、野望測り知れぬ人物。頼長の師ではあるが、頼長とは以前から合わない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いきな女よりも品のよい上﨟じょうろう型の人、裲襠うちかけを着せて、几帳きちょうのかげにでもすわらせて
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
オイランスイコもまた同じ意味で、虎杖は確かにスイコ中の上﨟じょうろうである。
三人奇異の思いをなすうち、が手を触れしということ無きに人形のかずきすらりと脱け落ちて、上﨟じょうろうかんばせあらわれぬ。啊呀あなやと顔を見合す処に、いと物凄き女の声あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
被衣かずきを脱ぐ二人の上﨟じょうろうめいたしなやかな手からあられがこぼれた。——住蓮も安楽も、そのにおわしい麗姿れいしに眼をそむけた。見ているには、あまりに美し過ぎるからである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此れは身分のある上﨟じょうろうが我が名を秘して目下の者へ申し送ったものゝようである。
愛宕あたご、清水をすぐ下に望む大廂おおびさし彼方かなたに、夕富士の暮れる頃になると、百間廊下のがんには見わたす限りのあかしが連なり、御所の上﨟じょうろうかとまごう風俗の美女たちが、琴を抱いて通り
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ、その三条の橋の下に、関白殿のお首が懸けられておりましたが、そこへ御一族のお子様がたや上﨟じょうろう様がたをお引き出しなされて、何の罪科つみとがもない者を一人々々お斬りなされたのじゃ。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
の古戦場をよぎつて、矢叫やさけびの音を風に聞き、浅茅あさじはらの月影に、いにしえの都を忍ぶたぐひの、心ある人は、此のおうなが六十年の昔をすいして、世にもまれなる、容色みめよき上﨟じょうろうとしても差支さしつかえはないと思ふ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何かの仔細で、たとえ夜をおかして来たにしても、供の者やくるまを待たせてあるのであろうと想像していたのに、裸足はだしで来たとは? ——しかも——内裏だいりの奥ふかくに住む上﨟じょうろうが。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)